部活における柔道事故で寝たきりになった場合の対処法 | アトム法律事務所弁護士法人

部活における柔道事故で寝たきりになった場合の対処法

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部活中の柔道事故で寝たきりになった

部活の柔道で寝たきりになった場合には、誰にどのような請求を行うことができるのでしょうか。

部活では、教員や指導者に事故を未然に防ぐ注意義務があります。注意義務を怠り、事故が発生した場合には、学校や指導者に対して損害賠償請求ができます。

この記事では、柔道事故を防ぐために求められる対策と責任、柔道事故の事例と裁判例、寝たきりになった場合の損害賠償額について解説します。

柔道事故に対する責任と対応

柔道事故は誰がどのような責任を負うのか

責任を請求する相手

学校の部活において柔道事故が生じた場合に責任を請求する相手は、国公立の学校と私立の学校で異なります。

国公立の学校であるなら、学校を設置した国や地方自治体に対して損害賠償請求を行うことが可能です。国家賠償法という法律にもとづいて請求を行います(国家賠償法1条)。

一方、私立の学校である場合は、学校法人や部活の指導者に対して損害賠償請求を行いましょう。私人に対する請求であるため、民法にもとづいて請求を行います(民法709条民法715条など)。

被害に遭うのは子どもである学生のため、家族が代わりに請求を行うことになるでしょう。

請求の根拠

国や学校法人などに請求を行うためには、柔道事故の発生について指導者の過失行為が原因であることを明らかにする必要があります。

指導者が部活で生徒に柔道をさせる場合には、事故を防ぐために対策を行うことが求められています。すなわち、指導者には柔道事故が生じないようにする注意義務があるのです。

そのため、指導者の注意義務違反により柔道事故が生じたのであれば、指導者に過失があったと認められるため、学校法人や指導者、国、地方自治体などに対して損害賠償の請求が可能です。

柔道事故における責任判断の方法

柔道事故における責任の根拠となる注意義務違反とは、「事故の発生について予見可能であり」、「予見可能な事故を防ぐために適切な対策を行っていなかった」場合に認められます。

柔道の部活における指導者の注意義務違反については、以下のような点から総合的に判断されます。

  • 危険性の高い練習内容だったか
  • 生徒に対して練習内容の危険性を周知徹底していたか
  • 危険性を踏まえて安全策を講じていたか
  • 生徒の判断能力

受け身の練習が十分でなければ、投げ技をかけられた際に、頭部や頸部を損傷する可能性が高くなります。
そのため、柔道を始めたばかりの生徒に、十分な受け身の練習をさせずに乱取りの練習をさせた場合は、指導者の注意義務違反を問える可能性が高いです。

損害賠償請求を行うには、指導者が注意義務に違反しているかの判断や、けがの程度に応じた損害賠償額の計算など、法律の知識が必要になります。損害賠償の請求を検討している場合は、弁護士に相談することをおすすめします。

柔道事故の対策について

部活動指導員の制度化

中学校・高等学校で行われている部活動の多くでは、競技経験のない教員が部活顧問を担当しています。外部の指導者が技術的な指導を行うケースもありますが、大会への引率はできません。このような状態では、部活中の事故に対する責任の所在があいまいになってしまいます。

競技経験や専門知識のない教員が部活顧問を担当することが、教員の負担になっていると社会問題になったことを受け、2017年に学校教育法施行規則が改正され部活動指導員が制度化されています。

部活動指導員の職務は、校長の監督を受け、技術的な指導から大会への引率、生徒の安全対策、事故が発生した場合の対応などです。

部活動の指導経験や専門的な知識がある人を部活動指導員として任用することになるため、従来の教員や外部コーチより高い法的責任があり、より安全な指導が期待できます。

災害共済給付制度

事故の程度が軽いものである場合は、損害について日本スポーツ振興センターの災害共済給付制度による給付金で賄うことができます。

災害共済給付制度とは、国と学校、保護者が経費を負担することで、学校の管理下で起こったけがに対して給付金を支払う仕組みです。

医療費(けがの療養に必要な費用が5,000円以上の場合)・障害見舞金・死亡見舞金が支給されます。障害見舞金は、けがによる障害の程度で区分され、支給額は88万円から4,000万円です。

災害共済給付制度について詳しく知りたい方は『日本スポーツ振興センターのホームページ』をご覧ください。

柔道における重大な事故の事例

柔道で起こりやすい重大なけがや事故は主に以下の3つです。

  • 頭部のけが
  • 頸部のけが
  • 熱中症

それぞれのけがが発生する状況について解説します。

頭部のけが

柔道における重大な頭部のけがは、急性硬膜下血腫です。脳挫傷や頭蓋骨骨折、急性硬膜外血腫、脳出血、くも膜下出血などは多くありません。事故が発生する状況は、大外刈や大内刈、背負投などで投げられ、後頭部を強打した場合が多いようです。

頸部のけが

柔道における重大な頸部のけがは、頸髄損傷、頸椎脱臼・骨折です。頸髄や頸椎が損傷すると、運動障害や感覚障害、排他機能障害などが生じる可能性があり、脳に近い上位頸髄を損傷した場合には人工呼吸器が必要なほど重篤化する恐れもあります。

頸部のけがが発生するのは、投げられるのを避けようとして頭部から畳に突っ込んだ場合に多いようです。

熱中症

柔道の練習による発汗で体内の水分量が減少すると、血液の循環や体温調節ができなくなり熱中症になります。

高温多湿の環境で水分補給と十分な休息をせずに練習を続けた場合は、熱中症を発症しやすいです。

柔道事故の裁判例

柔道事故の裁判例を紹介します。

高次脳機能障害により後遺症が残ったケース

柔道の練習中に頭部を打ち、高次脳機能障害により後遺症が残ったケースでは、約8,000万円の損害賠償が命じられています。

指導者の注意義務違反が認められた理由は、入部から3週間の生徒であること、乱取り練習ができるほど十分な受け身の練習を行っていかかったこと、投げの練習を3日しか行っていなかったことなどです。

急性硬膜下血腫による意識障害で介護が必要になったケース

柔道の練習中に脳震盪を起こし、急性硬膜下血腫を発症したケースでは、指導者の注意義務違反が認められ、1億8,700万円の支払いが命じられています。

事故の被害者は柔道経験のない初心者であり、事故が発生したのは入部から1か月のことです。技能が未熟であり、相手との技能の差が大きいことは指導者が予見できたとして、指導者に過失があったとされています。

注意義務違反が認められなかったケース

柔道部での練習中において、他の柔道部員に投げられた際に加わった頭部への回転加速度により、架橋静脈が断裂、急性硬膜下血腫を発症した事故が発生しています。

医療機関を受診した際の頭部CT検査においては異常所見が認められず、当人も脳神経の症状を訴えていませんでした。

柔道部顧問には事故発生の予見可能性がなかったとして、指導上の注意義務違反が認められていません。

寝たきりになった場合に請求できる損害賠償額

柔道の事故で寝たきりになった場合には、治療費や後遺障害慰謝料などの請求が可能です。請求可能な損害賠償額を計算し、示談や訴訟を行います。

請求できる損害の内容

柔道事故により寝たきりになってしまった場合には、以下のような損害を請求することが可能です。

  • 治療費
    治療のために必要となった費用
  • 入通院慰謝料
    入院や通院の際に生じた交通費
  • 入通院付添費用
    入通院を行う際の付添人に生じる費用
  • 入院雑費
    入院中に生じる日用雑貨や通信費などの雑費全般
  • 将来介護費用
    将来において生じる介護のために必要な費用
  • 器具購入費
    介護のために必要となる車いすや介護用ベッドなどの購入費用
  • 後遺障害逸失利益
    寝たきりになったことで、将来仕事により得られたはずの収入が得られないという損害
  • 入通院慰謝料
    治療のために入院や通院を行ったことで生じる精神的苦痛に対する慰謝料
  • 後遺障害慰謝料
    寝たきりという後遺障害が生じたことによる精神的苦痛に対する慰謝料

損害賠償額を確定するためにすべきこと

日本スポーツ振興センターへ後遺障害等級認定申請を行う

柔道事故により後遺症が生じた場合には、後遺症の症状が後遺障害に該当するという認定を受けると、後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益を請求することが可能となります。

そのため、寝たきりという後遺症が後遺障害に該当することの認定申請を行ってください。調査や認定を行うのは、日本スポーツ振興センターです。

後遺障害等級認定に関して詳しく知りたい方は『学校の怪我で後遺症|慰謝料や逸失利益の計算と相場は?』の記事をご覧ください。

損害額は後遺障害等級が目安になる

後遺障害等級は、第1級から第14級まであり、障害の程度に応じて等級が認定されます。損害賠償額の目安となるのは、後遺障害等級です。

後遺障害の等級に応じて、後遺障害慰謝料と後遺症が逸失利益の金額が決まります。
そのため、後遺障害等級が希望よりも低く認定されていると、請求できる損害賠償額が低くなります。

弁護士への相談を行おう

具体的な損害額を確定するには、どのような損害について請求が可能であるのか、損害額の計算をどのように行うのかということを理解する必要があります。
そのため、法的知識が欠かせず、専門家である弁護士に相談するべきといえるでしょう。

弁護士に相談することで、具体的にどのような損害について、いくら請求できるのかを知ることが可能です。

また、弁護士に依頼を行えば、損害額の計算だけでなく、損害賠償手続きも代わりに行ってくれるので、請求のための負担が非常に軽くなります。
まずは法律相談を受け、損害額の目安や、依頼の必要性を確認しましょう。

アトム法律事務所の無料相談

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アトム法律事務所 岡野武志弁護士

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了