労災による火傷には労災保険を利用しよう|補償内容や申請方法を解説 | アトム法律事務所弁護士法人

労災による火傷には労災保険を利用しよう|補償内容や申請方法を解説

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労災事故の火傷|労災保険の補償内容

飲食店や工場の勤務では、高温状態の機械を扱う作業もあると思います。その際、身体が機械等に触れてしまい、火傷をしてしまうことがあるでしょう。
さらに、薬品を扱う場合、皮膚に薬品が触れて化学やけどを負ってしまう可能性もあります。

このような場合には、労災による火傷であることから労災保険による補償を受けることができる可能性があるのです。

本記事では、労災による火傷について労災保険によりどのような補償を受けることができるのか、労災保険の申請方法、労災保険と損害賠償請求との関係について解説をします。

火傷が労災といえるために必要な要件と事例

どのような火傷であれば労災に該当するのか要件について解説します。また、どのような火傷の事例があるのかあわせて紹介します。

火傷が労災に該当するための要件

労災保険を利用するには、そもそも労災が発生し、労災により火傷を負ってしまったという認定を受けなければなりません。

労災が生じたといえるには「業務災害」または「通勤災害」の要件を満たす必要があります。

  • 業務災害
    事業主の管理下や支配下にあり、業務行為が原因で労働者が負傷した
  • 通勤災害
    通勤中に労働者が負傷した

そのため、業務中による火傷であれば常に労災保険を利用できるとは限りません。
また、業務中でなくても、通勤中に火傷を負った場合にも労災保険が利用できる可能性があるのです。

業務災害や通勤災害の要件を満たしていれば、軽い火傷であっても労災として扱われます。

業務災害や通勤災害の要件について詳しく知りたい方は、以下の関連記事をご覧ください。

労災に該当するのであれば、アルバイトやパートタイマーであっても労災保険による給付を受けることが可能です。
原則として、一人でも労働者を雇用している事業主は労災保険に加入しなくてはならないので、労災保険に加入していないために給付を受けられないということはありません。

事例(1)揚げ物用フライヤーから火が噴出して火傷した

被災した労働者は、レストランの厨房で、天ぷらなどの揚げ物を調理するためにガス式フライヤーを加熱しようとチャッカマンで点火しました。しかし、うまく火が点かず、点火作業をくり返すうちにガスが充満し、爆発的に着火して火が噴出したことで、両腕の肘から先を火傷したという事例です。

チャッカマンに不具合が生じていたにもかかわらず、無理に使い続けたことや、点火をくり返すことでガスが充満したことが事故の原因だと考えられます。

事例(2)タイヤ製造工場で高圧熱水が噴出して火傷を負った

タイヤ製造工場でタイヤを製造中、高圧熱水が漏れるトラブルが発生しました。被災した労働者2名は、タイヤに高圧熱水を注入して漏れた箇所を確認しようとしましたが、熱水が噴出し、タイヤが膨張して持ち上がって2人は跳ね飛ばされました。この事故で、一人は火傷を負い、もう一人は跳ね飛ばされて負傷しました。

高圧熱水を注入できないようにする安全装置が無効化されていたことや、異常時の確認作業を手順通りに行わなかったことが原因として考えられています。

事例(3)薬液を浴びて化学やけどを負った

オキシ塩化リンという薬剤を出荷容器に液送充填していたところ、液送が停止する異常が発生しました。そこで、労働者は窒素ガスの圧力を調整するためにバルブを触っていると、バルブが外れてオキシ塩化リンが噴出して、薬液を全身に浴びて化学やけどを負った事例です。

不純物を除去するフィルターが目詰まりを起こしていたり、異常が発生した時に作業を中断したり点検を怠ったこと、保護衣や保護具を着用していなかったことなどが原因と考えられます。

労災による火傷に対する労災保険の補償内容

労災が原因で火傷をした場合、いかなる補償を受けることができるのか、労災保険の補償内容について解説を行います。

火傷の治療費や休業補償が受けられる

労災によって生じた火傷の治療のため欠勤をして通院する場合、その治療費や休業損害については、労災保険から補償をされます。

治療費は労災保険のうち、療養(補償)給付の申請をすることが必要です。

労災指定医療機関であれば、医療機関に直接書類を提出することで、自己負担無く治療を受けることができます。
その他の医療機関であれば、一時的に立て替えをしなければなりませんが、労災保険から後に治療費全額の立替分の支払を受けることが可能です。

また、火傷を負ってしまったことで仕事を欠勤した場合、欠勤4日以降は労災保険から休業(補償)給付を受けることができます。
業務災害による欠勤であれば、欠勤日数が3日までは事業主から休業の補償を受けとることが可能です。

しかし、労災保険からは、給付基礎日額(一日あたりの平均給与額と考えてよいです)の80%までしか支給されず、全額の支給ではないことに注意が必要といえるでしょう。

火傷で後遺障害が残った場合の労災保険給付

火傷の治療を行ったが完治せずに後遺症が残ってしまうことがあります。後遺症の症状が後遺障害に該当すると労働基準監督署により認定を受けた場合は、労災保険から障害(補償)給付を受けることが可能となるのです。

火傷による後遺障害として考えられるのは、火傷の痕や手術の傷跡が残るという「外貌に対する醜状」などでしょう。

外貌醜状で想定される後遺障害等級

厚生労働省の「障害等級表」によると、火傷による外貌醜状障害は以下のような等級が認定されることになります。

等級障害の内容
7級12号外貌に著しい醜状を残すもの
9級16号外貌に相当程度の醜状を残すもの
12級14号外貌に醜状を残すもの
14級3号上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの
14級4号下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの

7級12号の「外貌に著しい醜状を残すもの」といえる火傷とは、以下のようなケースになります。

  1. 頭部にてのひら大以上の火傷の跡が残っている
  2. 顔面部に鶏卵大面以上の火傷の跡が残っている
  3. 頚部にてのひら大以上の火傷の跡が残っている

9級16号の「外貌に相当程度の醜状を残すもの」とは、顔面部の長さ5cm以上の線状痕で、人目につく程度以上のものをいいます。火傷の手術によって顔の傷ができてしまったというようなケースが考えられるでしょう。

12級14号の「外貌に醜状を残すもの」といえる火傷とは、以下のようなケースとなります。

  1. 頭部に鶏卵大面以上の火傷の跡が残っている
  2. 顔面部に10円銅貨大以上の火傷の跡が残っている
  3. 頚部に鶏卵大面以上の火傷の跡が残っている

14級3号の「上肢の露出面」とはひじ関節以下をいい、 14級4号の「下肢の露出面」とはひざ関節以下をいいます。

後遺障害等級に応じて、支給される障害(補償)給付の額が異なってきます。
後遺障害等級の認定は労働基準監督署が行います。労働基準監督署の判断結果に納得がいかない場合は、不服申し立てが可能です。

顔の傷など外貌醜状障害に男女差はなし

かつて、外貌醜状障害に関する後遺障害認定では、男性よりも女性の方が有利に扱われていました。以前は、同じような傷跡が残った場合でも、男性と女性で等級に差があったのです。

しかし、性別による区別は違憲であるという判決がなされたため、この区別は撤廃されました。
現在では、外貌醜状障害に関して性別による後遺障害等級の違いはありません。

火傷で労災保険を受給する方法

次に労災保険の受給方法について解説を行います。労災保険は、労働基準監督署に請求書を提出することで受給をすることができます。

労災保険は労働基準監督署への申請が必要

労災保険から補償を受けるためには、労働基準監督署に請求書を提出する必要があります。厚労省のHP「労災保険給付関係請求書等ダウンロード」に書式があり、ダウンロードすることでそのまま使用することができます。

提出する書類は、事業主の協力を得て記載・提出することが基本となりますが、事業主によっては、労災の事実を隠そうとする場合もあるでしょう。
そのような場合は、労災被害者が労働基準監督署に直接持参し、請求することも可能です。

労災の火傷治療で健康保険は使えない

労災により火傷を負ってしまった場合、労災保険から補償を受けるべきというのは前述のとおりです。健康保険の適用は、労災事故においては使用することはできませんので、健康保険を使いながら治療を受けることは原則としてできません

病院で治療を受ける際に火傷を負った理由を説明の上、労災保険を利用したい旨を医師に伝えましょう。間違って健康保険を使ってしまった場合には切り替えの手続きが必要となってしまうので注意してください。

健康保険から労災保険への切り替えの方法について詳しく知りたい方は『労災に健康保険は使えない!労災への切り替え方法は?切り替えないとどうなる?』の記事で確認可能です。

事業主の協力を得られない場合

労災により火傷を負ってしまったにもかかわらず、事業主の協力を得られなかったり、事業主が労災を使わせないように圧力をかけてきた場合、どのようにしたらいいでしょうか。

この場合は労働基準監督署に直接行き、現状の相談をするべきです。
しかし、労働基準監督署から事業主に確認を取られるため、事業主にバレないように労災請求をすることは現実問題として困難であるといえます。

このような場合、弁護士などの専門家へ依頼をし、労災隠しのリスクや労災保険のデメリットの少なさを説明してもらい、事業主への説得を試みてもらうのがいいでしょう。

なお、仮に、事業主がいわゆる「労災隠し」をした場合、労働安全衛生法100条、同法120条5号に該当する行為として犯罪になります。

労災で火傷を負ったら損害賠償請求も行おう

事業主に事故の責任がある場合は、労災保険から支給を受けるとともに、事業主に対して損害賠償請求をすることが考えられます。
そこで、損害賠償請求について、労災保険との関係にも踏まえつつ解説を行います。

労災保険では補償が不十分な場合がある

労災保険による給付は法律で決まっていることから、損害の一部の補償しか受けることができない場合があるのです。

また、労災保険では、物損や慰謝料額については補償の対象外になっております。
そのため、損害の全額を回復したいと考えた場合、事業主に対する損害賠償請求をしなくてはなりません。

事業主の安全配慮義務違反を証明する必要

とはいえ、どのような場合も事業主に損害賠償請求ができるものではありません。損害賠償請求の法的構成の多くは、安全配慮義務違反にもとづく債務不履行責任の追及になります。

事業主は労働者の生命や身体に危険が生じないように労働環境を整えるという安全配慮義務を負っているため、安全配慮義務に違反したために労働者が火傷を負ってしまった場合には、債務不履行責任を負うことになるのです。

そのため、事業主に安全配慮義務違反があったのか、客観的な証拠の収集が必要となります。労働環境の実態がわかるような現場の写真、営業日誌、整備点検記録等は最低限用意したいところです。

場合によっては、証拠保全という裁判上の手続きが必要となるでしょう。

事業主への損害賠償請求には安全配慮義務違反の有無の検討が欠かせません。

労災による火傷で損害賠償請求を検討するなら弁護士相談

損害賠償請求を視野に入れるならまず弁護士に相談しよう

労災による火傷が生じた場合は、火傷の程度によっては後遺障害が生じたことを明らかにする必要があります。

しかし、後遺障害の証明は専門的な知識が必要となり、会社の協力があっても難しいことが珍しくありません。

また、損害賠償請求を行うのであれば、訴訟の可能性も考慮しつつ、事故現場の状況等を客観的に証拠化する必要性もあります。

弁護士は、事業主との示談交渉や訴訟など、労災事故の損害賠償問題の解決に向けてあなたの代わりに動いてくれます。

労災に関して弁護士に相談や依頼を行うメリットについては『労働災害は弁護士に法律相談|無料相談窓口と労災に強い弁護士の探し方』の記事をご覧ください。

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アトム法律事務所 岡野武志弁護士

岡野武志弁護士

監修者


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代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了