労災事故でしびれが残った時の後遺障害等級と障害(補償)給付の金額 | アトム法律事務所弁護士法人

労災事故でしびれが残った時の後遺障害等級と障害(補償)給付の金額

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労災事故でしびれ|後遺障害等級と給付額

労災事故によって強い衝撃を加えられると、治療が完了した後も手足の指にしびれが残ることがあります。治療が完了したのであれば、労災保険からの給付は期待できないと考える方もいるでしょう。

しかし、後遺障害等級の認定を受ければ、しびれの後遺症に対して給付金を受け取ることが可能です。

今回はしびれの後遺障害等級労災保険の支給額について解説します。さらに、しびれで損害賠償請求できるケースについても触れています。しびれに悩む方にとって適切な補償を受けるための知識が得られるので、ぜひご一読ください。

労災事故で生じたしびれの後遺障害等級

しびれで労災給付を受けるには後遺障害等級の認定が必須

労災によって生じた体のしびれが治療を行っても完治しない場合は、後遺症が生じることになります。
後遺症の症状が後遺障害であると認定されると、労災保険からは「障害(補償)給付」の支給がなされることになるのです。

障害(補償)給付は、後遺障害の程度や症状に応じて分類した後遺障害等級によって支給金額が変動します。
したがって、しびれによる障害(補償)給付を受けるためには、まず該当する後遺障害等級を把握する必要があるのです。

治療終了後も継続して痛みやしびれなどの感覚障害が見受けられる場合、神経系統の障害だと判断されます。

労災事故によりしびれなどが残った場合、認定される可能性のある後遺障害等級は第12級12号または第14級9号です。

しびれで認定が予想される後遺障害等級

後遺障害等級障害の程度
第12級12号局部にがん固な神経症状を残すもの
第14級9号局部に神経症状を残すもの

第12級12号と第14級9号の違いとしては、神経症状が「がん固」であるかどうかがポイントだといえるでしょう。
ここからは、第12級12号と第14級9号についてそれぞれ解説していきます。

なお、給付を受けるための前提である労災といえる要件について知りたい方は、以下の関連記事をご覧ください。

後遺障害等級第12級に該当するしびれ

しびれに加えて痛みも生じている場合、後遺障害等級の第12級に該当する可能性もあります。

第12級12号に該当する症状は「局部にがん固な神経症状を残すもの」です。
具体的には、仕事をすることは可能だが強度の疼痛によって活動が制限されると認められる時に適用されます。(疼痛とは、医学用語でいう「痛み」のことです。)

もっとも、「がん固」について明確な基準はなく、しびれを医学的に証明できる時に第12級に認定される可能性があるといえます。
医学的に証明できる時とは、以下のような場合をいいます。

  • MRI検査・CT検査などでしびれの原因となる損傷個所が確認できている
  • 損傷個所としびれが生じる部位との医学的な関連性が認められている
  • しびれがあると証明できる検査結果がある

しびれや痛みは目に見えるものではないので、症状を客観的に判断しづらくなっています。そのため、このような医学的に証明できる他覚的所見があることが等級認定の際に重要視されるのです。

後遺障害等級第14級に該当するしびれ

神経系統の障害の場合に該当する後遺障害等級は第14級9号です。障害の程度が「局部に神経症状を残すもの」だと判断できる時に、第14級9号が適用されます。

ただし、後遺障害等級の認定を受けるためには、しびれが広範囲に生じている必要があります。

また、第14級の場合は、第12級よりも他覚的所見が乏しくても認定される可能性はありますが、しびれの症状が医学的に説明できたり、推定可能でなければなりません。

しびれだけで重い後遺障害は認定されにくい

後遺障害等級は全部で14種類あり、数字が若くなるほど受け取ることができる給付金の額も高くなります。前述の通り、しびれだけでは最も低い等級の第14級しか適用されません。

このように、しびれの症状は、労災保険の後遺障害等級では重度の障害に認定されにくいのが現状です。

適切な後遺障害等級認定を受けるための注意点

しびれの後遺症による障害(補償)給付の金額は、後遺障害等級によって決定します。
しかし、後遺障害等級に該当すると労働基準監督署が認めなければ、一銭も給付金を受け取れません。

したがって、後遺障害等級の認定を受けることが非常に重要です。こちらでは後遺障害等級認定を受ける上で気を付けることを紹介します。

医師の診断書を用意する

後遺障害等級の申請では、医師の診断書を提出しなくてはなりません。申請先の労働基準監督署は医師の診断書に基づき、後遺障害等級に当てはまるか確認します。医師に診断書の作成を依頼することに躊躇してしまう人もいるでしょう。

しかし、原則として、医師は患者から診断書の作成を依頼された場合は拒否してはいけないことになっています。(医師法第十九条の二項)
遠慮せずにお願いしてもらって構いません。

ただし、医師に対して「交付する義務があるんだ!」と法律による正当性を主張するようなことせず、謙虚にお願いベースで相談しましょう。

労災事故としびれとの間の因果関係を証明する

しびれが労災事故によって引き起こされたことを証明する必要があります。後遺障害があっても、その症状が労災事故によって生じたと認められなければ認定は下りません。

議論の争点となるのは、既往症の有無です。しびれの原因が持病によるものだと判断されてしまうと、後遺障害等級の認定は受けられません。事故としびれとの因果関係を立証するためには、医師の診断書が重要な意味を持ちます。

診断書に「持病の影響がないこと」「しびれは事故によって引き起こされたこと」などの内容が含まれていれば、労働基準監督署は因果関係を認める可能性が高いです。

診断書以外に集めるべき証拠

医師の診断書以外にも、後遺障害の症状が発生していることを証明できる証拠を集めましょう。

基本的には、症状が生じていることを証明できるCTやレントゲンなどの検査結果がわかる画像や、神経学的検査の検査結果などになります。
特に、画像検査の結果は客観性が強いため、有力な証拠となりやすいでしょう。

ただし、労災の発生から検査までの期間が長い場合には、労災以外の原因により検査結果が生じていると判断されてしまう恐れがあることに注意してください。
そのため、労災が発生してからなるべく早期に検査を行うことが望ましいといえます。

後遺障害等級第12級に該当すると主張したい場合は、以上のような証拠から神経症状が生じたといえることを明らかにする必要があります。

一方、後遺障害等級第14級に該当するかどうかについては、現にしびれが生じており、労災の内容や治療の経過から、通常しびれが生じるといえる場合には認定されることもあるのです。

申請期限を守り書類に不備がないようにする

給付の申請は、傷病が治った日(症状固定日)から数えて5年以内に行う必要があります。5年を過ぎると請求権が時効にかかり、それ以降は請求することはできません。

また、申請の際は医師の診断書の他にも「障害(補償)給付支給請求書」と「自己申立書(障害の状態を正確に伝えるための書類)」を提出する必要があります。

認定結果に不満がある場合は審査請求を行う

きちんと申請を行ったのに、後遺障害等級の認定を受けられなかったり、希望する等級の認定がなされないことがあります。等級認定の結果に不満がある時は、審査請求を行うことが可能です。

認定の結果が記載された通知を受領した日から数えて3ヵ月以内であれば、労働者災害補償保険審査官に対して審査請求を申し立てられます。審査請求で判定が覆らなかった場合は、再審査請求を行うことも可能です。

しびれの後遺障害が残った時の労災保険の給付金額

しびれが残った時、実際に受け取ることができる労災保険の給付金額について紹介します。障害(補償)給付は、給付基礎日額の〇〇日分という形で支給額が決定することが特徴です。

障害(補償)の額や損害賠償請求の要件については以下の通りです。

障害(補償)給付の内容と計算方法

まず、該当する後遺障害等級によって支給金額が異なる障害(補償)給付について紹介します。

障害(補償)給付は、年金と一時金払いの2つに分かれることが特徴です。障害の程度が重い第1級~第7級に該当する時は年金が支給され、それ以下の第8級~第14級に当てはまる場合は一時金が支給されます。

年金は所定の金額を年6回に分けて、毎年受け取ることが可能です。対照的に、一時金は一括してすべての給付金が支給されます。

しびれにより認定が想定される後遺障害等級は第12級または第14級なので、一時金が支給される形になります。

後遺障害等級第12級と第14級の給付金額は以下の通りです。

後遺障害等級 給付金額
第12級給付基礎日額の156日分
第14級 給付基礎日額の56日分

給付基礎日額は、災害発生日前3ヵ月間に支払われた賃金総額を暦日数で除して算出します。

たとえば、災害発生日前3ヵ月間に支払われた賃金総額が108万円、暦日数が90日の場合、給付基礎日額は1万2,000円となります。
(計算式)108万円 ÷ 90日=1万2,000円

この給付基礎日額に、後遺障害等級に応じて決められた日数を乗じると、障害(補償)給付の金額を計算することができるのです。

第12級の給付金額の計算例

第12級の場合は、給付基礎日額の156日分となります。したがって、給付基礎日額が1万2,000円であれば187万2,000円の支給となるでしょう。
(計算式) 1万2,000円 × 156日=187万2,000円

第14級の給付金額の計算例

第14級の場合は、給付基礎日額の56日分となります。したがって、給付基礎日額が1万2,000円であれば67万2,000円の支給となるでしょう。
(計算式) 1万2,000円 × 56日=67万2,000円

治療費用や休業による損害についても労災給付あり

労災によって生じたしびれに対する治療費用は、「療養(補償)給付」として給付を受けることができます。
また、治療のために休業した場合の損害に対しても、「休業(補償)給付」として労災保険から給付を受けることが可能です。

療養(補償)給付や休業(補償)給付について詳しく知りたい方は、以下の関連記事をご覧ください。

労災保険の給付だけでは十分な補償が得られない?

労災事故が会社の不法行為が原因で引き起こされたのであれば、労災事故で生じた損害について損害賠償を請求できる余地もあります。損害賠償を受けることは、被害者のれっきとした権利です。

労災保険から慰謝料は給付されない

労災保険からは、障害(補償)給付・療養(補償)給付・休業(補償)給付など、さまざまな給付がもらえます。

しかし、労災保険から「慰謝料」が給付されることはありません
たとえば、後遺障害等級に認定された場合、第12級なら290万円、第14級なら110万円の慰謝料が適正な相場額として認められます。それでも、このような慰謝料は労災保険から給付されることがないのです。

慰謝料の支払いを受けるには、労災保険の給付申請とは別に、損害賠償請求を行う必要があります。もっとも、どんな労災事故でも損害賠償請求が可能なわけではありません。会社側に安全配慮義務違反などが認められるような場合に限り、損害賠償請求できる可能性があります。

損害賠償請求が行えるケースとは

労災事故が会社の法的な義務違反が原因で引き起こされたものならば、障害(補償)給付とは別途で損害賠償を請求可能です。
労災事故における損害賠償により、事故によって生じた精神的苦痛に対する慰謝料や治療費などが請求できます。

会社側に損害賠償を請求するには、会社の違法行為があったことを証明する必要があります。労災の認定が下りたからといって、損害賠償を請求できるとは限らないのです。

労災事故の場合、基本的には安全配慮義務違反を立証する必要があります。会社は労働者に対して、雇用契約にもとづいて労働者が安全・快適に働けるよう配慮するという安全配慮義務を負っています。

そのため、会社側が事故の起きるリスクを認識しており、かつ事故発生を避けるための措置を行っていない、または不十分だと認められるならば、安全配慮義務違反にもとづく損害賠償請求が可能です。

しびれで後遺障害申請と損害賠償請求するなら弁護士へ

弁護士への相談がおすすめな理由

しびれの症状に対応した後遺障害等級の認定を受けるには専門知識が欠かせません。弁護士に相談し、認定のために必要な証拠の収集や手続きの方法を確認すべきです。

労災認定後に会社へ慰謝料を請求する場合でも、弁護士に一連の請求を任せることができるため、労働者はリハビリや日常生活への復帰に集中できます。

関連記事『労働災害は弁護士に法律相談|無料相談窓口と労災に強い弁護士の探し方』でも解説している通り、弁護士に相談するメリットは多数あるのです。

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アトム法律事務所 岡野武志弁護士

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了