建設業における労災保険の給付内容や手続き|事業主や一人親方も対象 | 事故慰謝料解決ナビ

建設業における労災保険の給付内容や手続き|事業主や一人親方も対象

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労災事故|建設業の労災保険。給付内容・手続き

建設業では、建設現場において危険な作業をすることも多く、事故が発生する危険性が非常に高いといえるでしょう。
実際に事故が生じた場合には、労災による補償がなされるのかが気になるところです。

本記事では、建設業において生じた事故に関して、労災が生じるケースや、労災保険の具体的な補償内容を詳しく紹介しています。

建設業における労災の範囲と事例

労災が認められる範囲とは

労災には、業務災害と通勤災害の2種類があります。

  1. 業務災害
    労働者が業務上の災害によってケガを負ったり死亡した
  2. 通勤災害
    労働者が通勤途中にケガを負ったり死亡した

労働者が上記の労災に遭った場合には、労災保険による補償が行われます。
労働者を1人でも雇用している事業主は労災保険の加入が義務付けられているので、労働者は常に労災保険の対象となるのです。

労働者については雇用形態を問わないため、パートやアルバイトも労災保険の対象となります。

業務災害

業務災害と認められるには、以下の要件が必要となります。

  • 業務遂行性
    事業主の支配下や管理下にある状態で労災が発生した 
    工事現場の作業中や、現場で休憩中である場合などが該当
  • 業務起因性
    業務が原因で労災が発生した

業務災害の具体例について知りたい方は『業務災害にあってしまったら|複雑な労災保険制度を弁護士が解説』の記事で確認可能です。

通勤災害

通勤災害と認められるには、通勤途中に事故が生じることが必要です。
通勤途中と認められるのは、以下のような場合になります。

  • 住居と就業場所の往復
  • 就業場所から他の就業の場所への移動
  • 単身赴任先と家族の住む住居間の移動

上記に該当する移動であるだけでなく、就業に関する移動であり、合理的な経路及び方法の移動であることも必要です。

通勤途中と該当する移動の途中に、合理的な経路をそれたり、通勤とは関係のない行為を行った場合も通勤途中とはいえなくなります。
ただし、日常生活に必要な最小限度の行為を行うためであるなら、行為終了後に合理的な経路に戻ってからは通勤途中に該当します。

通勤災害の具体例について知りたい方は『通勤災害とは何か|寄り道で怪我しても労災?』の記事で確認可能です。

下請会社の労災も対象となる

建設業においては、工事現場における労災に備えて元請会社が工事現場ごとに労災保険の加入を行います。加入の対象となるのは、元請会社の労働者だけでなく、下請会社の労働者も含みます。

そのため、建設工事の現場において下請会社の労働者に生じた労災は、元請会社の労災保険により補償されます。

労働保険料についても元請会社が負担することになります。
もっとも、労災保険関係についてのみがこのような関係となるのであり、雇用保険に関してはそれぞれの会社で負担を行います。

建設業の労災事例(1)

塗装工事について依頼を受けた下請会社の労働者が、戸建て住宅の屋根を塗装している最中に屋根から地面へ落下し、ケガ負ったという事例です。

塗装作業中の事故であったため、業務災害に該当するという認定が行われ、労働者に労災給付がなされました。

また、元請会社や下請会社は作業中の落下事故を防止するために必要な事前の注意や指導等を怠っていた点に安全配慮義務違反があるとして、労働者の損害賠償請求も認められています。

建設業の労災事例(2)

塗装工事における足場の設置や解体工事を行っていた下請会社の従業員が、解体工事の最中に足場から転落してケガを負ったという事例です。

解体作業中の事故であったため、業務災害に該当するという認定が行われ、労働者に労災給付がなされました。

また、足場工事の請負会社や下請会社が、作業中の転落事故を防ぐために必要な指導や監督を怠っていたために安全配慮義務違反が認められ、労働者の損害賠償請求も認められています。

労災の内容と申請手続き

労災保険の給付内容

労災が認定された場合になされる給付内容は以下の通りです。

  • 療養補償給付・療養給付
    労災により生じた傷病を療養するために必要な費用の給付
  • 休業補償給付・休業給付
    労災による傷病の療養をするために仕事ができず、賃金を得られないという損害に対する給付
  • 障害補償給付・障害給付
    労災による傷病が完治せずに後遺障害が残った場合に給付される一時金や年金
  • 遺族補償給付・遺族給付
    労災により労働者が死亡した場合に、遺族が受け取ることができる一時金や年金
  • 葬祭料・葬祭給付
    労災により死亡した労働者の葬祭を行うために支給される
  • 傷病補償年金・傷病年金
    労災による傷病が療養開始後1年6ヶ月を経過しても完治しない場合に給付される
  • 介護補償給付・介護給付
    障害(補償)年金や傷病(補償)年金の受給者であり、症状が重く現に介護を受けている人に対する給付

業務災害の場合は「補償給付」や「補償年金」が、通勤災害の場合は「給付」や「年金」が支給されます。

この他にも、社会復帰促進事業の一環として、休業(補償)給付、障害(補償)給付、遺族(補償)給付、傷病(補償)年金には、上乗せの特別給付がなされます。

労災保険の申請手続き

労災保険による給付を受けるためには、申請手続きが必要です。
労災の発生から給付までの流れは以下の通りになります。

  1. 労働者が管轄の労働基準監督署へ請求書を提出する
  2. 労働基準監督署が調査する
  3. 労働基準監督署から支給・不支給の決定通知が届く
  4. 厚生労働省より指定口座へ振り込まれる

給付内容ごとに定められている請求書を労働基準監督署に提出する必要があります。
ただし、労災指定病院で治療を受け、療養補償給付・療養給付を請求する場合には受診した病院への提出が必要です。

給付内容別の請求書書式は以下の通りになります。
勤務先の総務課に受けたい給付の内容を伝えれば書類を用意してくれるでしょう。
また、厚生労働省のホームページでダウンロードすることも可能です。

業務災害による場合の書式

請求書書式
療養補償給付様式第7号
柔整用 様式第7号(3)
はり・きゅう用 様式第7号(4)
休業補償給付様式第8号
障害補償給付様式第10号
傷病補償年金様式第16号の2
介護補償給付様式第16号2の2
遺族補償給付様式第12号
葬祭料様式第16号

通勤災害による場合の書式

請求書書式
療養給付様式第16号の5
柔整用 様式第16号の5(3)
はり・きゅう用 様式第16号の5(4)
休業給付様式第16号の6
障害給付様式第16号の7
傷病年金様式第16号の2
介護給付様式第16号2の2
遺族給付様式第16号の8
葬祭給付様式第16号の10

請求書には会社の証明が必要となるため、原則として会社の協力が必要です。
もっとも、会社の協力が得られない場合であっても申請手続き自体は可能なため、労働基準監督署に相談して、どのように手続きを行えばよいのかを確認しましょう。

労災申請手続きについて詳しく知りたい方は『労働災害の手続き・流れと適切な給付をもらうポイント』の記事をご覧ください。

事業主や一人親方も労災を受けられる

労災保険は労働者の保護を目的としているため、労働者とはいえない会社の事業主や、一人で仕事を行う個人事業主は対象とできないのです。

しかし、建設業では個人で仕事を行う、いわゆる一人親方と言われている人が仕事を行っていることも珍しくありません。

このような、通常は労災保険の対象とならない事業主や一人親方等についても労災保険の対象とすることが可能な制度があります。

特別加入制度を利用

特別加入制度とは、一般的には労働者に該当しない人について、一定の要件を満たす人を対象に労災保険への加入を認める制度です。

特別加入制度を利用することで、中小企業の事業主や一人親方は労災保険に加入することができます。

加入の方法

中小企業の事業主の加入について

建設業の事業主は、労働者数が300人以下である場合は特別加入制度を利用することが可能です。

労働保険事務組合が取扱窓口となっているため、窓口を通して「特別加入申請書」を提出してください。
各都道府県の労働局長による承認を受けることで加入することができます。

一人親方の加入について

建設事業を個人で行う人は一人親方に該当するため、特別加入制度を利用することが可能です。

特別加入団体に申し込みを行えば、特別加入団体が加入手続きを行ってくれます。

労災保険の給付では不十分な場合の対処法

労災保険では給付されないものがある

労災保険による給付では、発生した損害全てを補償できない場合があります。

特に、労災保険の給付では被害者に生じた精神的苦痛に対して支払われる慰謝料は給付されていません。
そのため、慰謝料を得たい場合には労災保険以外の方法により請求を行う必要があるのです。

事業主や元請会社への請求を行う方法

建設作業中に生じた労災事故であれば、事業主や元請会社へ請求を行うことが考えられます。
では、どのような根拠にもとづいて、どのような請求が可能なのでしょうか。

安全配慮義務違反にもとづく請求を行おう

建設業の事業主は、労働者の生命や身体等の安全を確保しつつ作業を行うことができるように作業環境を整えるという安全配慮義務を負っています。

そのため、事業主は労働者が危険な作業を行う際には、事前の指導や、作業時の監督などの危険防止措置を取らなくてはなりません。
このような措置をとっていなかったために事故が生じて労働者がケガをしたのであれば、事業主に安全配慮義務違反が認められます。

安全配慮義務違反が認められるのであれば、事業主に過失が認められるため、損害賠償請求が可能となるのです。

このような安全配慮義務は、直接の雇用関係を有していない元請会社との間でも認められる場合があります。
そのため、元請会社にも請求を行いたい場合には、事業主と同様の根拠にもとづいて行って下さい。

元請会社との間にも安全配慮義務が存在すると主張する際には、労働安全衛生法において建設業の元請会社が負っている義務の存在を根拠とすることが考えられます。

関連記事『安全配慮義務違反で慰謝料を損害賠償請求できるか?会社を訴えられるケース』では、安全配慮義務違反を判断する基準などを詳しく解説しています。慰謝料などの損害賠償請求を検討している方はあわせてお読みください。

第三者に対して請求できるケース

労災事故の発生が第三者の故意や過失を原因とする場合には、第三者に対して損害賠償請求を行うことが可能です。

具体的には、通勤途中に交通事故に遭った場合や、作業中に同僚から暴行を受けた場合などです。加害者である第三者に対する請求が可能となります。

また、交通事故の加害者が仕事で運転中であった場合については、加害者を雇用している会社に対しても使用者責任があるとして損害賠償請求を行うこともできます。

損害賠償請求権により請求できる内容

損害賠償請求権によって請求できる内容は以下の通りです。

  • 治療費
    治療のために必要となった費用
  • 入通院交通費
    入院や通院するために発生した交通費
  • 入通院付添費用
    入院中の生活や通院する際に付添が必要な場合に発生する費用
  • 入院雑費
    入院中の生活用品や通信費用などをいう
  • 休業損害
    ケガの治療のために働けないことで生じる損害
  • 逸失利益
    後遺障害が生じた、または、死亡したことで将来得られるはずの収入がられなくなったという損害
  • 葬儀費用
    被害者の葬儀を行うために必要な費用
  • 慰謝料
    被害者に生じた精神的苦痛を金銭化したもの
  • 物損に関する費用

具体的な請求金額について知りたい方は、下記の関連記事をご覧ください。

請求を行う際の注意点

二重取りにならないようにする

二重取りとならないために、すでに労災保険によって給付を受けている部分については、損害賠償請求が認められても支払いを受けることができません。

同一の内容であるため二重取りとなるのは、以下の通りです。

労災保険の給付内容損害賠償請求内容
療養(補償)給付治療費
葬祭料・葬祭給付葬儀費用
休業(補償)給付
傷病(補償)年金
休業損害
障害(補償)給付
遺族(補償)年金
逸失利益

ただし、上乗せの特別給付については、社会復帰促進という異なる目的のために給付されるものであるため、二重取りの対象とはなりません。

過失相殺による減額

事業主や元請会社に対しての損害賠償請求については、事故の発生に関して労働者の過失も原因となっている場合には、労働者の過失の程度に応じて請求額が減額となります。

このような減額を過失相殺といい、損害賠償請求を行う際には、過失相殺によりどの程度の減額とするのかが問題となることが多いでしょう。

しかし、過失相殺による減額の程度については明確な基準が存在しないため、簡単に決定することができません。
そのため、専門家である弁護士に相談するべきでしょう。

労災事故の損害賠償請求は弁護士に相談

建設業者の従業員が労災によってケガを負った場合には、労災保険や損害賠償請求により生じた損害を補てんすることになります。

これらの請求を適切に行うには、弁護士への相談を行うべきでしょう。
以下では、弁護士に相談することで生じる具体的なメリットを紹介します。

労災について弁護士に相談するメリット

十分な補償を受けられる

労災保険の利用や、事業主又は元請会社への損害賠償請求は決して簡単なものではありません。

特に、事業主が労災保険の利用について非協力的な場合には、十分な知識がない状態であるにもかかわらず、一人で申請手続きを行う必要があります。
また、事業主や元請会社への損害賠償請求も行うのであれば、自力で証拠を集めつつ、適切な法的主張を行わなくてはなりません。

弁護士に相談すれば、労災手続きや損害賠償請求を行うために必要な手続きや証拠の収集などについて、適切なアドバイスを行ってくれます。
労働者が満足できる十分な補償を得るためには、専門家である弁護士に相談して力を借りるべきでしょう。

弁護士が代わりに手続きを行ってくれる

弁護士に依頼することで、弁護士は代理人として労働者の代わりに手続きを行うことができます。
そのため、手続きの大部分を弁護士に任せることで、労働者は治療に専念することが可能です。

特に、事業主や元請会社に対する損害賠償請求を行うと、労働者自身が雇用主相手に交渉を行うことになり、精神的な疲労が非常に大きくなります。
また、交渉がうまくいかず裁判となった場合には、弁護士に裁判手続きを行ってもらわないと、手続きのミスが原因で十分な請求が認められない恐れもあるのです。

弁護士に依頼することで労働者の代わりに手続きや交渉を行ってもらい、精神的な負担や、手続きのミスによるリスクを減らすことが可能です。

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アトム法律事務所 岡野武志弁護士

岡野武志

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」「ネット削除依頼」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

英語:TOEIC925点