労災で休職する際に抱きがちな不安・不満に対する回答【金銭面・仕事面】
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「休職中は給料が得られなくなるけど、今までのように生活を営んでいけるだろうか?」
「病気が治った後、つつがなく社会復帰できるだろうか?」
業務中に不慮の事故に遭い働けなくなった場合、今後の生活についてさまざまな不安・不満に襲われます。自分が原因ではないのに健康な体を失うことになり、やりきれない気持ちにもなるでしょう。
労災で休職を余儀なくされた方が感じる不安を解消できるように、今回は受け取ることができる給付金や制度の詳細などについて解説します。悩みの内容に応じて金銭面・仕事面に分けて解説しているので、当てはまるものを確認してみましょう。
目次
労災による休職で抱きがちな不安・不満【金銭面】
労災が原因で休職する際は、生活費の捻出方法が喫緊の課題です。労災による病気やケガが原因で休職を余儀なくされた時、労災保険から休業補償を受け取れる場合があります。
ここでは「休業補償はいくら受け取れるの?」「私は休業補償を受け取れるのだろうか?」といった、休職中に抱くであろう金銭面の不安や不満について回答を記しているので、是非参考にしてください。
休業補償の金額とは
休業補償として、休職1日につき給付基礎日額の60%を受け取ることができます。
給付基礎日額とは、労災発生日以前の3ヵ月間に算出した1日あたりの平均賃金です。
ただし、ボーナス等、3ヶ月を超えて支給される性質のものは平均賃金に含まれないことに注意しましょう。
また、休業特別支給金として、給付基礎日額の20%を受け取ることができます。つまり、労災で働けなくなっても、80%程度の賃金は保証されるのです。
休業補償を受け取ることのできる要件とは
労災が原因で休職を余儀なくされたのに、「あなたのケースでは労災が下りない」と会社からいわれる場合もあるでしょう。労災保険から休業補償を受け取るためには、一定の条件を満たす必要があります。
労災保険における休業補償を受けるには、以下の要件が必要です。
- 業務災害や通勤災害によって生じた病気やケガを治療していること
- 療養に専念するために労働できないこと
- 賃金を受けていないこと
つまり、労災による疾病を治療するために休業中であれば、労災保険から休業補償を受けられます。
労災保険給付は事業主に雇用さえていれば支給されるため、パートやアルバイトの人も休業補償を受けることが可能です。
ただし、労災保険による給付金は、賃金を受けない4日目以降にならないと支給されません。
休職から4日目以降は、特別支給金も含め平均賃金の80%が労災保険から支給されます。休職後3日以内に職場復帰した場合、休業補償はもらえません。
労災保険は従業員の迅速な職場復帰に寄与することが目的の一つです。このため、ダメージが軽度で簡単に職場復帰できる場合は給付金が支払われないのです。
とはいえ、休職初日から3日間は何の補償も受けられないわけではありません。業務災害の場合に限定されますが、休職初日から3日間は事業主から休業補償が支払われます。
通勤災害の場合の注意点
一方で、通勤災害には労働基準法上、事業主の補償義務が定められていないため、給付金を受け取れません。
使用者の管理下や支配下にあり、業務上の行為が原因といえる場合には業務災害が、通勤途中に負傷した場合には通勤災害が認められます。
詳しい要件を知りたい方は、以下の関連記事をご覧ください。
有給休暇を利用した場合は注意が必要
上記の要件を満たした休業中の状態でも、有給休暇を利用した日については賃金を得ることができるため、休業補償の対象とはなりません。
しかし、有給休暇を利用した日については、給付基礎日額の満額が支給されることになるので、実質的な給付額は増加します。
そのため、休業する期間が短い場合や、休業期間中に有給休暇を利用できる期間が経過する場合には、有給休暇を利用することも考えるべきでしょう。
休業補償はいつまで受けられるのか?
病気やケガの治療が終わる時期がわからない時は、いつまで休業補償を受け取れるか気になるでしょう。
休業補償の受給期間には上限はありません。
そのため、通常は支給要件を満たしている限りはいつまでも給付を得ることが可能です。
しかし、休業補償が支給される要件を満たさなくなったり、他の労災保険給付に切り替わる場合には、休業補償が受けられなくなります。
支給要件を満たさなくなるケース
休業補償が支給されるための要件を満たさなくなれば、休業補償の支給がなされなくなります。
休業補償を受けるためには、労災によるケガや病気で仕事ができず、治療のために休業していることが必要です。
そのため、「ケガや病気が完治した」、「症状固定になったと医師が判断した」場合には、治療の必要性がなくなることから、支給要件を満たさなくなるといえます。
症状固定とは、これ以上は治療の効果が望めないと医師が判断した状態です。治療の効果が望めない以上、治療は不要となるため、支給要件を満たさなくなります。
ただし、症状固定となった場合に残っている後遺症の症状が、後遺障害に該当するという認定を得た場合には、障害(補償)給付が支給されることになります。障害等級が1~7級の場合は年金が、8~14級の場合は一時金が支給されるのです。
他の労災保険給付に切り替わるケース
1年6ヶ月を経過しても病気やケガが治癒しておらず、かつ傷病等級表の傷病等級に該当する障害が残っている場合、それ以降は傷病(補償)年金に切り替わることになるのです。
傷病等級の1、2級に該当し、介護が必要な場合には、介護(補償)給付を受けることも可能です。
通院しながら仕事をしても休業補償がもらえるのか
通院日だけ休みをもらい、通院日以外の期間は働いている方もいるでしょう。
休業補償がなされる要件を満たしていれば、通院日も休業補償を受け取ることが可能です。
中には午前中だけ出勤し午後に病院へ行ったり、午前中に通院して午後は出勤するスタイルを取る方もいるでしょう。
1日に出勤と通院が混同している時は、実労働に対する賃金の支払額によって扱いが異なります。
実際の労働時間について給付基礎日額の60%未満しか支払われていない場合、労働時間に応じて支払われる部分を除いた給付基礎日額の60%分が支給されるのです。
一方で実労働に対して100分の60を超える金額が支払われている時は、労働日扱いなので休業補償は支給されません。
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休業補償はどのような手続きにより受け取れるのか
労災保険から休業補償を受けるための流れは以下の通りになります。
- 労働者が労働基準監督署へ請求書を提出する
- 労働基準監督署が調査する
- 労働基準監督署から支給・不支給の決定通知が届く
- 厚生労働省より指定口座へ振り込まれる
請求書の書式は給付内容ごとに異なっており、休業補償を受けるために必要な請求書は以下の通りです。
請求書には療養のために休業が必要であることについて医師による証明が必要な箇所があるため、診断を行った医師に協力してもらいましょう。
業務災害によって休職している場合は休業補償給付、通勤災害によって休職している場合は休業給付を受けることができます。
また、休業する場合には病院で治療を受けることになるので、治療費に関しては療養補償給付または療養給付を受けることも可能です。
休業補償以外にも受け取れる労災給付もしっかりと受け取ることが金銭面の不安を解消するためには重要になります。
労災保険に関する手続きについて詳しく知りたい方は『労災事故の申請方法と手続きは?すべき対応と労災保険受け取りの流れ』の記事をご覧ください。
労災の休職で抱きがちな不安・不満【仕事面】
労働災害で休職中は、今後の生活についてさまざまな不安・不満に悩まされることでしょう。最初の内は給付金によって生活を営んでいけますが、給付金がなくなった後はどうなるのでしょうか。
「お金を稼ぐために働かないと…。」「会社に戻ったとして、以前のように働けるのだろうか?」上記のような疑問を抱くはずです。
ここでは、労災が原因の休職時に抱きがちな仕事に関する不安・不満について解説します。
休職期間が長すぎると解雇されてしまうのか
病気やケガの治療がなかなか終わらずに、休職期間が長引くケースもあるでしょう。休職期間が長期化すると、心配になるのは解雇されないかということです。
結論からいうと、業務災害の場合、仕事上の事故が原因で休業している期間およびその後の30日間は解雇されません。
ただし、解雇制限の適用を受けるのは、あくまでも休業している場合のみです。ケガや病気を治療中であっても、休職せず働いている間は解雇制限の対象外という取り扱いになるので注意してください。
また、労災で休職中でも、事業主が打切補償を労働者に支払った場合は、解雇しても問題ないとされています。打切補償とは、治療開始後3年が経過しても疾病等が治らない時、平均賃金の1,200日分を支払うことで解雇を可能とする制度です。
ちなみに、労災とは関係ありませんが、天災事変等やむを得ない事由によって事業継続がむずかしくなった時も解雇しても問題ありません。
そのため、業務災害による休職であるのか、通勤災害による休職であるのかにより解雇の可能性が大きく違ってくることになります。
もっとも、通勤災害により休職したからといって簡単に解雇することはできません。解雇するには、解雇が認められる正当な理由が必要となるのです。
労災による休職を原因とする解雇に関して詳しく知りたい方は『通勤災害にあった労働者は解雇になる?解雇の条件や対処方法を紹介』の記事をご覧ください。
退職後も休業補償を受け取ることができるのか
支給要件を満たすのであれば、退職後も給付金を受け取れます。退職した後に休業補償を申請する場合、気を付けなくてはならないのは時効のことです。
休業補償を受ける権利には、2年の消滅時効(指定の期間、権利を行使しなければその権利が消滅してしまうこと)があります。
賃金を受けない日の翌日から起算して2年が経過してしまうと、請求権が時効にかかり消滅してしまいます。その後は権利が消えているため給付金を申請できなくなるので、注意しましょう。
被災した会社ではもう働きたくないと感じ、退職を検討するケースもあるでしょう。また、障害が残ると、働きたくても同じ会社では働けなくなる場合もあるかもしれません。
休業補償を受け取っている間に退職した場合でも、継続して給付金を受け取ることが可能です。労働者災害補償保険法では、保険給付を受ける権利は退職によって変更することはないと規定されています。
仕事復帰の時期はどうやって決まるのか
労災で負った負傷や疾病を終えて仕事復帰の時期を決める際は、医師の見解をよく聞くようにしてください。ご自身では仕事に復帰できると思っていても、医学的見地からは難しい場合もあります。医師と相談のうえで仕事復帰の時期を決めましょう。
仕事に早く復帰したいという気持ちが先行していても、周囲の人のアドバイスを受けることが大切です。主治医・家族はもちろん、上司や産業医とも十分に話し合いましょう。
仕事への復帰支援制度も活用
療養明け直後は以前と同じような働き方が難しい場合があります。仕事への復帰時期を一人で決めてしまい、悪いことに再発してしまっては、誰にとっても不幸なことです。
「時短勤務」や「慣らし勤務」を採り入れたり、業務の内容を再検討するなど、復帰前の十分な打ち合わせが大切です。
とくにうつ病や適応障害といった精神疾患では、仕事復帰時期の慎重な見極めが大切です。厚労省は職場復帰支援の手引きとして、復帰支援制度をまとめています。
療養中のケアから主治医による職場復帰可能の判断、職場復帰の可否判断と職場復帰支援プランの作成、最終的な職場復帰の決定、職場復帰後のフォローアップまで一連の流れとされています。
労災での休職にも弁護士に相談したほうがいいケースがある
労災で休職することになっても労災保険があるので、一定程度の安心は得られます。ただし、労災発生の原因が自分以外にあるなら、弁護士に相談して損害賠償請求を検討した方がいいでしょう。
労災発生の原因が自分以外にあるとき
労災により休職となった場合には、労災保険から一定の補償を受けられます。
しかし、労災保険の休業補償は賃金の約8割程度にとどまるため、実際に働いて得られたはずの収入からは下がってしまうのが現状です。不足分は損害賠償請求することで手にできる可能性があります。
不足分の請求相手としては、交通事故の場合は事故相手、そのほか仕事中の怪我は原則会社などが請求相手にあたるでしょう。
もっとも会社への請求は、会社に落ち度(安全配慮義務違反)があって労災が発生した場合のみ認められうる点に注意が必要です。
もし、これまで労災発生の原因や会社の安全配慮義務違反について考えたことがなかったという方は、以下の関連記事を参考にしてください。
損害賠償請求するなら弁護士に相談
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了