学校における死亡事故では誰に請求が可能なのか|相場額も紹介
学校において死亡事故が発生した場合、誰にどのような請求が可能となるのでしょうか。
死亡事故においては請求できる金額が高額となりやすいため、この点をしっかりと理解しておく必要があります。
本記事では、学校における死亡事故が起きた場合の請求相手や、請求金額の相場を解説しています。
目次
学校における死亡事故の請求相手は誰なのか
学校で死亡事故が起きた場合の損害賠償請求相手としては、学校もしくは加害者が考えられるでしょう。ここからは学校事故の損害賠償請求相手について、死亡事故の事例、学校に請求できるケース、加害者に請求できるケースを検討します。
学校における死亡事故の事例
独立行政法人日本スポーツ振興センターによると、令和元年度における学校の管理下で生じた死亡事故は56件となっています。
これは、災害共済給付制度を利用したケースの集計であるため、実際の件数はもっと多い可能性があるでしょう。
学校における死亡事故には、以下のように様々な種類が考えられます。
- 部活の運動中に突然心肺停止がおきた
- 校舎の高いところから転落した
- 誤ってアレルギーのある給食を食べてしまった
教師の不十分な指導にあるのか、学校の設備を原因とするのか、他の生徒の行為を原因とするのかにより、死亡事故の原因によって請求相手が変わってくるでしょう。
関連記事では、具体的な死亡事故の事例を交えて解説をしています。ご家族の死亡事故と関連がある場合は、併せてお役立てください。
死亡事故について学校に請求できるケース
学校における死亡事故に関して学校に請求する根拠は、学校が公立なのか私立なのかにより異なります。
学校が公立の場合
学校が公立の場合は、国家賠償法にもとづいて請求を行うことになります。
国家賠償法では、公務員である教師の故意や過失により死亡事故が生じたのであれば、学校の設置者である国や地方公共団体に対する請求を行うことが可能です。
そのため、教師個人に対する請求を行うことはできません。
教師には生徒が怪我をしないように注意するという安全配慮義務があることから、この安全配慮義務に違反する場合には教師の過失が認められます。
また、学校の施設や設備が通常有する安全性を欠いていたために死亡事故が発生した場合にも、国家賠償法にもとづいて国や地方公共団体に損害賠償請求を行うことが可能です。
学校が私立の場合
学校が私立の場合は、民法にもとづいて請求を行うことになります。
民法では、教師の故意や過失により死亡事故が発生したのであれば、教師を雇用している学校も同様の責任を負うため、請求を行うことが可能です。
このような責任を使用者責任といいます。
教師に対しても請求を行うことが可能ですが、資力の関係から、学校に請求を行う方が確実でしょう。
教師に過失が認められるのかについては、安全配慮義務に違反するかどうかから判断を行います。
また、学校の施設や設備が通常有する安全性を欠いていたために死亡事故が発生した場合には、民法にもとづいて学校に対する損害賠償請求が可能です。
安全配慮義務の判断方法
学校の教師が負う安全配慮義務とは、学校における事故の発生が予見できる場合に、事故の発生を回避するために必要な対策を行うというものになります。
そのため、教師に安全配慮義務違反があったのかどうかについて、以下のような事実から判断してください。
- 事故が発生する恐れのある授業や部活において、危険性を事前に説明していたのか
- 事故防止ができるような監視を行うことができていたのか
- 事故が発生した際に救助の措置を適切に行えていたのか
学校事故により死者が出た場合は学校による調査が行われるため、調査の報告書が重要な証拠となるでしょう。
安全配慮義務違反に該当するかの判断は、さまざまな状況を考慮する必要があるため、専門家である弁護士に行ってもらうことが最も確実です。
関連記事では、安全配慮義務についてさらに深掘りした解説をしています。あわせてご確認ください。
死亡事故について加害者に請求できるケース
学校における死亡事故が、他の生徒の行為による場合には、加害者である生徒に対する請求が可能です。
この場合、生徒が支払いを行うことが困難であるため、保護者に対して請求を行うことになるでしょう。
民法では、「責任無能力者」といえるものが故意や過失によって損害を生じさせた場合、「責任無能力者」を監督する義務を負うものが代わりに責任を負うとされています。
生徒の保護者は監督義務者に該当し、生徒の年齢が12歳程度であれば、「責任無能力者」といえるでしょう。
そのため、監督義務者である保護者に対して請求を行うことが可能です。
また、生徒の年齢から「責任無能力者」とするのが困難である場合は、監督義務者である保護者の監督行為に過失があることを根拠として、保護者に直接請求を行うことになります。
学校の死亡事故で請求できる内容と相場額
死亡したことで被害者に生じる精神的苦痛に対する慰謝料を請求することが可能です。また、被害者の家族についても、被害者の慰謝料とは別に、固有の慰謝料を請求することができます。
ここからは学校で起こった死亡事故の慰謝料、慰謝料以外に請求できるもの、利用できる保険についてみていきましょう。
学校での死亡事故における慰謝料の相場額
死亡慰謝料の相場額は、家族が請求できる慰謝料も含めて2000万円~2500万円程度になるでしょう。
家族の範囲については、法律上では父母、配偶者、子どもとなっているため、基本的に父母が請求可能です。
もっとも、祖父母や兄弟姉妹にも請求が認められる場合があります。
また、死亡する前に入院期間があった場合には、入院期間に応じて入通院慰謝料を請求することもできます。
学校の死亡事故で慰謝料以外に請求できるもの
慰謝料とは、被害者やその家族の精神的苦痛を金銭化したものです。
そのため、事故により発生した損害については慰謝料とは別に請求することができます。
学校における死亡事故において慰謝料以外に請求できる損害とは、以下の通りです。
- 葬儀代
被害者の葬儀に必要となった費用 - 死亡逸失利益
被害者が死亡したことで、将来得られたはずの収入が得られなくなったという損害 - 治療費
死亡前に治療を行った場合には、治療のために必要となった費用 - 入院雑費
入院中に必要となった日用雑貨や通信費などの雑費全般 - 入院付添費
入院生活に付添が必要であると医師が判断した場合に請求可能
死亡逸失利益の計算方法
学校における死亡事故により被害者である生徒が死亡した場合、被害者は基本的に仕事をしていませんが、将来仕事を始めることで収入を得られたといえるため、死亡逸失利益の請求が認められます。
生徒の死亡逸失利益について、以下の方法により計算を行います。
死亡逸失利益の計算方法
基礎収入×(1-生活控除率)×(労働能力喪失期間までの年数に対応するライプニッツ係数-就労開始年齢までの年数に対応するライプニッツ係数)
基礎収入の計算方法
生徒はまだ子どもであるため、基本的に死亡した時点では収入を得ていません。
そのため、基礎収入は賃金センサスを用いて判断を行います。
賃金センサスとは、厚生労働省が毎年実施している賃金構造基本統計調査の結果のことです。
労働者の賃金の実態を明らかにするための調査で、職種、性別、学歴、年齢などの項目ごとに労働者の平均的な賃金を計算しています。
生徒が男性であれば男子の学歴計、全年齢平均賃金を基礎収入としてください。
女性の場合は、性別を問わず、全労働者の学歴計、男女計の全年齢平均賃金を採用することが多いでしょう。
死亡した年の賃金センサスを適用してください。
年度 | 男 | 女 |
---|---|---|
2018 | 約558万円 | 約497万円 |
2019 | 約561万円 | 約500万円 |
2020 | 約545万円 | 約487万円 |
また、就職・内定が決まっている場合には、内定先の平均賃金で算定される可能性もあります。
生活控除率について
生徒が死亡した場合には、存命であれば生活のために支出することになる費用の支払いを免れるため、その分については控除しなければなりません。
生徒の生活控除率は、性別によって以下の控除率を基本とし、個別の事情を考慮して具体的な数字が決定されます。
性別 | 控除率 |
---|---|
男性 | 50% |
女性 | 30% |
女性について、基礎収入を賃金センサスの男女計、学歴計、全年齢平均賃金とする場合には、控除率は45%を基本とします。
労働能力喪失期間と就労開始年齢
労働能力喪失期間の終期は原則として67歳とされます。
そのため、被害者が死亡した時点の年齢から67歳までの年数が、労働能力喪失期間です。
就労開始年齢については18歳としてください。
ライプニッツ係数について
死亡逸失利益は将来得られるはずの利益のため、請求した場合には、本来よりも早い段階で利益が得られることになります。
そうすると、本来よりも早い段階で預金利息などの利益が生じますが、このような利益は本来得らえないため、控除する必要があるでしょう。
ライプニッツ係数は、このような中間利息といわれる利益を控除するための計算式です。
就労可能期間と、利息の利率により数値が異なります。
利率については、2020年4月1日以降の事故であれば年3%、2020年3月31日以前の事故であれば年5%として計算してください。
死亡した時点の年齢に応じたライプニッツ係数を以下の表に示します。
年齢 | 年3% | 年5% |
---|---|---|
0 | 14.97 | 7.54 |
1 | 15.42 | 7.92 |
2 | 15.89 | 8.32 |
3 | 16.36 | 8.73 |
4 | 16.85 | 9.17 |
5 | 17.36 | 9.63 |
6 | 17.88 | 10.11 |
7 | 18.42 | 10.62 |
8 | 18.97 | 11.15 |
9 | 19.54 | 11.71 |
10 | 20.13 | 12.29 |
11 | 20.73 | 12.91 |
12 | 21.35 | 13.55 |
13 | 21.99 | 14.23 |
14 | 22.65 | 14.94 |
15 | 23.33 | 15.69 |
16 | 24.03 | 16.47 |
17 | 24.75 | 17.30 |
学校の死亡事故において利用すべき保険制度
学校において生じた死亡事故では、災害共済給付制度を利用することが可能な場合があります。
災害給付制度とは、加入契約を行っている学校の管理下で発生した事故により生徒が怪我をした場合に、給付金の支給を行うというものです。
加入契約に同意し、保険料を負担している保護者の子どもが対象となります。
「学校の管理下」とは、授業中、休憩時間中、部活動中、課外授業中、通学中などです。
災害給付制度を利用すると、医療費の一部や、死亡見舞金の支給を受けることができます。
災害給付制度により医療費や死亡見舞金は得られたものの、損害の補てんとしては不十分であるなら、不足部分について損害賠償請求を行いましょう。
災害保険給付制度の給付対象範囲や申請手続きの方法などについては『学校で起きた事故で怪我をした場合に利用できる保険は?』の記事をご覧ください。
学校の死亡事故における請求方法
学校で死亡事故が起こった場合、誰が、どのような流れで損害賠償請求をするのかみていきましょう。
死亡事故に関して誰が請求できるのか
死亡事故の場合は、被害者本人が損害賠償請求を行うことはできません。
基本的には、被害者を相続した遺族が代わりに請求を行うことになります。
基本的に相続人となるのは、民法で規定された法定相続人に該当する遺族です。
法定相続人となりえるのは、配偶者、子ども、直系尊属にあたる両親、兄弟姉妹になります。
そして、子ども、両親、兄弟姉妹の順で優先順位があり、優先順位が上の人が相続人となる場合には、下位の順位の人は相続人になれません。
以上を踏まえると、法律上は以下のように分配されます。
相続人 | 分配の割合 |
---|---|
両親 兄弟姉妹 | 両親のみ |
配偶者 子ども | 配偶者:2分の1 子ども:2分の1 |
配偶者 両親 | 配偶者:3分の2 両親:3分の1 |
配偶者 兄弟姉妹 | 配偶者:4分の3 兄弟姉妹:4分の1 |
子ども 両親 | 子どものみ |
子ども 兄弟姉妹 | 子どものみ |
※養父母も相続人となる。
被害者が子どもであるため、基本的には両親がそれぞれ2分の1ずつ相続を行い、損害賠償請求を行うことになるでしょう。
学校における死亡事故が起きた場合の請求方法
死亡事故の請求は原則示談交渉から開始
学校において死亡事故が起きた場合の損害賠償請求については、請求相手との示談交渉により解決することが多いでしょう。
相手方に対して請求額を提示し、話し合いを通じて具体的な金額を決めることになります。
ADR機関を利用した話し合い
当事者同士の話し合いで解決しない場合には、ADR機関を利用した話し合いを行うことを検討しましょう。
ADR機関とは、話し合いにおける仲介人を紹介しつつ、話し合いの場を設けてくれる機関をいいます。
学校問題に関して法律知識のある弁護士などがあっせん人として仲介を行い、和解案の提案を行ってくれるのです。
ただし、示談交渉と同様に当事者間の合意がなければ解決とはなりません。
話し合いで解決しない場合は訴訟提起
当事者間の合意が得られず、話し合いによる解決ができない場合には、裁判所に訴訟の提起を行いましょう。
裁判所に訴状を提出し、裁判を行うことになります。
裁判であれば、当事者の合意がなくても判決により強制的な解決を行うことが可能です。
しかし、訴訟手続きは非常に複雑であるため、専門家である弁護士に依頼を行うべきでしょう。
訴訟手続きについて詳しく知りたい方は『学校事故の訴訟|学校相手に裁判する時の流れ、裁判以外の解決方法』の記事をご覧ください。
学校の死亡事故について請求するなら弁護士に依頼
弁護士に依頼するメリット
死亡事故における損害賠償請求の金額は非常に高額になる傾向にあります。本来受けとるべき金額からかけ離れた低額なもので解決することのないよう、弁護士に正確な金額を算出してもらうべきです。
また、弁護士に依頼することで、相手方に対する請求を代理人として代わりに行ってくれます。
死亡事故が起きた場合に相手方へ請求を行う際には、家族が感情的になってしまい、話がうまく進まない恐れがあります。
そのため、弁護士に請求の対応を任せた方がスムーズに解決することが多いでしょう。
弁護士に相談・依頼することで得られるメリットについては、こちらの関連記事『学校事故に遭ったら弁護士に相談しよう|メリットや無料法律相談を紹介』でも詳しく解説しています。
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弁護士に依頼を行うメリットがあるとしても、「果たして自分の事案では弁護士に依頼する必要まであるのだろうか」という疑問を持つ方は多いでしょう。
死亡事故という重大かつ痛ましい事故ではご家族の心痛は計り知れず、後々になって「やはり弁護士に相談していればよかったかもしれない」と、心残りになる可能性があります。まずは弁護士に相談を行い、依頼するかどうかを判断するべきです。
アトム法律事務所では、無料の法律相談を行っています。
弁護士に依頼するべきかどうかについて確認したい方は、一度ご連絡ください。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了