給食での食中毒における被害者の救済方法について解説
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学校給食で食中毒が発生した場合、被害者は法的にどのように救済されるのでしょうか。利用できる保険や損害賠償責任について解説していきます。
目次
学校給食での食中毒事例
日本スポーツ振興センターによると、平成8年度~平成20年度には計34件の学校給食による食中毒が発生しました。最も多い病因物質はノロウイルス、次いでサルモネラ・エンテリティディスで、その他にもO157、ヒスタミン、カンピロバクター、セレウス菌、ウェルシュ菌、黄色ブドウ球菌による食中毒事例が起こっています。
学校給食での食中毒事例について、具体的なケースを解説していきます。
ノロウイルスによる食中毒事例
平成11年以降、ノロウイルスによる食中毒事例は平成20年まで毎年報告されています。平成14年には、発生した食中毒事例6件のすべてがノロウイルスによるものでした。
ノロウイルスによる食中毒は発生件数が比較的多く、平成8年から平成20年までの発生件数は34件にものぼります。ノロウイルスによる食中毒が発生する原因は以下のようなものがあげられます。
- 調理に従事する者が体調不良のまま調理作業を行っていた
- 調理作業を開始する前の手洗いやトイレの後の手洗いが不十分のまま調理をした
- 調理者の手指を介して設備・施設・調理器具・食品を二次汚染した
- 食品の加熱温度確認が不十分で加熱不足によってノロウイルス食中毒が発生した
ノロウイルスの潜伏期間は1~2日で、主な症状としては吐き気・嘔吐・下痢・腹痛・頭痛・発熱・筋痛などです。
一般的には2~3日で回復するものの、症状回復後であってもウイルスを排出し続けることがあり二次感染のリスクもあります。
大腸菌O157による食中毒事例
大腸菌O157による食中毒は発生件数こそ多くないものの、ひとたび発生すると死亡ケースを含む重い結果を引き起こすリスクがある食中毒です。
平成8年には7件発生し、発症した人は7,178人、小学生5人が亡くなりました。
大腸菌O157は菌が少量であっても発症する可能性が高く、感受性の高い乳幼児や児童、高齢者が感染した場合には重篤な症状が発生するリスクが高まります。
学校給食における大腸菌O157の発生原因としては、以下の理由があげられます。
- 食品の加熱が不足していた
- 長時間にわたり食品が室温で放置されていた
- 調理過程中に調理従事者を介して二次汚染が発生した 等
学校給食の集団食中毒の裁判例
学校給食によって集団食中毒が発生し、O157感染症にかかった児童が敗血症で死亡する事故がありました。この事故では、食材の加熱調理が適切でなかったことなどをあげ、学校給食の実施管理に従事する職員に過失があったものとして、学校設置者に対する損害賠償請求が認められたのです。(大阪地方裁判所堺支部 平成9年(ワ)第28号 損害賠償請求事件 平成11年9月10日)
サルモネラによる食中毒事例
調査報告の中で食中毒の発生件数が二番目に多いのがこのサルモネラによる食中毒です。
学校給食において発生したサルモネラ菌による食中毒事例の多くは「鶏卵」に関連したものです。
サルモネラによる食中毒事例の発生原因は、上記と同じように「加熱不足」、「調理過程中の二次汚染」が考えられます。
それに加えて、鶏卵の攪拌に使用した後のミキサーを洗浄・消毒が不十分なまま非加熱で提供する食材の混合に使用したことで、二次汚染が発生するケースも報告されています。
災害共済給付は給食の食中毒でも利用できる
学校給食で食中毒になった場合に利用できる「災害共済給付」について説明していきます。
災害共済給付制度とは何か
「災害共済給付制度」は日本スポーツ振興センターによる共済で、「学校の管理下」における児童・生徒の負傷・疾病・障害・死亡に対して災害共済給付を行うものです。
学校給食における食中毒の場合にも、災害共済給付の適用によって給付金を受給できます。
給食での食中毒は災害共済給付の対象となる
災害労災給付は「学校の管理下」で発生した負傷や疾病に対して適用される保険です。
給付金の対象となる災害について、政令では「学校給食に起因する中毒その他児童生徒等の疾病でその原因である事由が学校の管理下において生じたもののうち、文部科学省令で定めるもの学校給食に起因する中毒」と規定されています。(施行令第5条第1項第2号)
学校給食とは、学校給食法にもとづいて行われる給食です。
中毒とは、「サルモネラ菌属、ブドウ球菌、ボツリヌス菌、腸炎ビブリオなどによる細菌性中毒のほか、動植物性自然毒(有毒魚・有毒性きのこなど)その他の毒物による中毒を含む」と規定されています。
事故初期は「疑い」のみでも給付が受けられる
学校給食において食中毒が疑われるケースで、保健所の調査結果を待っていたのでは被害者の救済が遅れてしまい問題です。
そこで、食中毒の症状が集団的に発生した場合には、診察担当医師が中毒につながりうる病名を診断し、「学校給食に起因する疑いがある」と認められれば保健所の調査結果を待たずに給付を受けることができます。
仮に、保健所の調査の結果、学校給食との起因性が否定された場合には、それ以降の月分の医療費については給付されないという取り扱いになっています。
災害共済給付の補償にも限界はある
災害共済給付からは、食中毒の治療にかかった医療費や、後遺症が残った時の補償、死亡時の見舞金の給付が受けられます。しかし、給付金額には一定の基準が設けられているので、その基準額を超えた補償は受けとれません。
支払費目 | 給付額 |
---|---|
医療費※ | 治療費の40% |
障害見舞金 | 88万円~4,000万円 |
死亡見舞金 | 3,000万円 |
※初診から治癒までにかかった医療費が総額5,000円以上であること(3割負担で1,500円以上)
比較的軽傷で済んだ場合には、災害共済給付から受けとる給付で十分なこともあります。しかし、重い障害が残ってしまったり、死亡に至ってしまった場合には、被害者が負った損害は非常に高額となるため、災害共済給付だけでは不十分な場合があるのです。
たとえば、後遺障害が残った場合や、死亡してしまった場合に請求できる「逸失利益」を算定すると、逸失利益だけで障害見舞金や死亡見舞金を上回るケースも起こりえます。
損害額が災害共済給付の給付額を超えるとき、学校側への損害賠償請求も視野に入れる必要があります。ただし、学校側への損害賠償請求が認められるのは、学校側に何らかの食中毒発生の責任があると判断された場合です。
学校給食による食中毒の損害賠償責任
災害共済給付制度の給付金のみで被害者の損害がすべて救済されるわけではありません。たとえば慰謝料などの精神的苦痛に対する賠償については別途請求できる可能性があります。
学校給食における食中毒で児童・生徒が被害を負った場合、法律上の一定の要件を満たせば学校側に対して損害賠償請求できますので、以下で解説していきます。
債務不履行による賠償責任
債務不履行とは、債務者が債務の本旨に従った履行をしない場合に、これによって生じた損害を債務者が賠償しなければならないという責任です。(民法第415条1項)
学校は生徒・児童に対して契約上の義務として「安全配慮義務」を負っています。
安全配慮義務とは、学校教育法等にもとづいて特別な社会的接触関係にあることで、学校側が生徒・児童の生命や健康に対して信義則上負う注意義務です。
調理従事者の不備や施設管理に瑕疵がある場合には、安全配慮義務に違反したとして学校に対して債務不履行にもとづく損害賠償請求できる可能性があります。
安全配慮義務違反の関連記事
不法行為による損害賠償責任
不法行為とは、故意または過失によって他人の権利や法律上保護された利益を侵害した場合に、行為者にその損害を賠償する責任が生じるというものです。(民法第709条)
不法行為責任でも学校側の注意義務違反として過失の有無が大きな問題となるでしょう。
この過失については、学校給食でO157による食中毒により女子小学生が亡くなった事案の中で判断を示した裁判例があります。(大阪地方裁判所堺支部 平成9年(ワ)第28号 損害賠償請求事件 平成11年9月10日)
この裁判では、学校給食の安全性の瑕疵によって食中毒事故が起きた場合には、「給食提供者の過失が強く推認される」と判示しました。
学校側の過失が強く推認される理由としては、以下のような点があげられています。
- 学校給食は学校教育の一環として食べない自由がなく献立の選択もできない
- 全面的に学校側に調理がゆだねられている
- 給食が直接、体内に摂取されるため、ただちに生命・身体に影響を与える可能性がある 等
つまり、学校給食で食中毒が発生した場合、基本的には学校側に過失があると考えられるので、過失がなかったということは学校側が証明しなければなりません。
学校事故の解決は弁護士に依頼しよう
学校事故で相手方に損害賠償を請求する場合には、学校側の注意義務違反を主張・立証していかなければなりません。
学校給食による食中毒の場合、調理従事者の衛生管理状態や、食材の管理方法や調理方法、施設管理の仕方などの点について適切に証拠を収集していく必要があります。
証拠は時間が経つほど収集が困難になりますので、給食の食中毒が起こった場合にはすぐに弁護士に相談することをおすすめします。
こちらの関連記事『学校事故に遭ったら弁護士に相談しよう』では、弁護士に相談するメリットについて詳しく解説していますので、弁護士相談を検討している方は併せてお役立てください。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了