部活動の死亡事故事例から学校側の責任を判断するポイントを考える
更新日:
子どもが部活中に死亡してしまった場合、残された遺族は冷静ではいられないでしょう。
死亡事故がどのようにして起きたのか、指導に問題はなかったのか、など死亡事故が起きた原因を究明し、場合によっては然るべき相手に責任をとってもらいたいと考えるのは自然なことです。
部活中の死亡事故の場合、学校の区分により責任を負う者や請求根拠が異なるため、本記事によりその概要を知って頂ければ幸いです。部活中の死亡事故における責任の所在と責任追及の方法について解説していきます。
目次
部活中の死亡事故の現状
部活中に死亡事故が発生した件数や部活の種類
独立行政法人日本スポーツ振興センターによると、令和4年は死亡見舞金が41件給付されました。
とくに高校生になると部活動における死亡事故も増え、令和1年以降では陸上競技部、テニス部、相撲部、サッカー部、野球部、カヌー部、バスケットボール部など屋内外とわず死亡事故が起こってしまっているのです。
死亡原因としては、突然死(大血管系・心臓系・中枢神経系)、頭部外傷、熱中症、全身打撲などが報告されています。
なお、本情報は独立行政法人日本スポーツ振興センター 災害共済Webにて公開されている学校等事故事例検索データベース(https://www.jpnsport.go.jp/anzen/)より一部抜粋しています。
独立行政法人日本スポーツ振興センターとは?
学校の管理下における児童生徒等が災害にあったとき、災害共済給付(医療費、障害見舞金または死亡見舞金の支給)を行う機関です。
死亡事故においても、学校がこの災害共済に加入していれば一定の見舞金を受け取ることができます。
まだ受け取っていないという方は、関連記事『学校で起きた事故で怪我をした場合に利用できる保険は?』の解説も参考にお子様の通われていた学校に問い合わせてみてください。
部活中の死亡事故における責任の所在
部活動といっても、実にさまざまな種類の部活動がありますが、中には多くの運動量が必要となる部活動や、過酷な練習が必要となる部活動もあります。
部活中の死亡事故において責任の所在は「注意義務違反があったかどうか」で検討していきます。
責任の所在は注意義務違反の有無で決まる
顧問の教師が部活中に起きた事故について責任を負うのは、顧問教師に注意義務違反が認められる場合です。
教師の注意義務違反とは?
注意義務違反とは、事故が発生することを予見できたという「予見義務」と、死亡という結果を回避できたという「回避義務」があったにもかかわらず、不注意によりこれらの義務に違反したことをいいます。
教師の注意義務
- 予見義務
- 回避義務
部活中の事故に関していえば、部活動の内容における危険性の程度や日頃の顧問教師による指導状況、生徒側の判断能力などを考慮したうえで、顧問教師が負う注意義務が判断されるのです。
部活動で行われている練習が比較的危険性の高いものである場合には、顧問教師において、練習が十分に危険なものであるということを生徒に説明したうえで、危険を回避するための対策を徹底するなどの対応が求められるのです。
具体的には、生徒へ危険性を十分に指導すること、技量の差がある者同士の練習では双方に十分な注意喚起をすること、環境が運動に適した状況であることを確認すること、生徒の様子を観察して必要に応じて中断させることなどが考えられます。
逆に、教師が適切に義務を果たしたと判断されれば、たとえ死亡事故という痛ましい結果であっても学校側の責任を問うことは難しいといえます。
顧問教師に注意義務違反があったかどうかは、さまざまな事情を考慮したうえで判断されるので、簡単に判断できることではありません。学校事故の損害賠償請求にくわしい弁護士に問い合わせてみることをおすすめします。
国公立か私立かで損害賠償請求先が異なる
顧問教師に注意義務違反が認められた場合、事故に遭った生徒は損害賠償責任を請求することができます。
この場合、顧問教師個人に請求できるかどうかは、国公立学校か私立学校かで責任を負う主体が異なってくるので注意が必要です。
国公立学校の場合、顧問教師個人が損害賠償責任を負うことはなく、学校を設置した国や地方公共団体が同責任を負うことになります。
一方で、私立学校の場合には、顧問教師個人や学校が損害賠償責任を負うこととされているのです。
損害賠償責任 | |
---|---|
国公立学校 | 国や地方公共団体 |
私立学校 | 顧問教師個人や学校 |
このように、国公立と私立とで責任の所在が異なるのは、それぞれに適用される法律が異なることを理由としています。
国家賠償法による損害賠償請求
国公立学校の場合、指導者に注意義務違反があったとしても、指導者個人に対して損害賠償責任を問うことができません。損害賠償責任を負うのは、学校を設置した国や地方公共団体ということになります。
部活中の死亡事故について、国や地方公共団体に損害賠償責任が認められるためには、指導者に故意または過失があり、そのことが原因となって部員が死亡したといえることが必要です。
指導者に注意義務違反があった場合、それは指導者に過失があったことを意味するため、国や地方公共団体は損害賠償責任を負うことになります。
また、部活で使用する学校の設備やその管理に瑕疵があった場合も同様です。(瑕疵とは、通常、有すべき安全性を欠いていることを意味します。)
学校の設備やその管理に瑕疵があったことが原因となって、部員が死亡した場合、国や地方公共団体は損害賠償責任を負うことになります。
民法による損害賠償請求
私立学校の場合、損害賠償責任を負うのは、指導者個人と学校です。
部活中の死亡事故について、指導者に損害賠償責任が認められるためには、指導者に故意または過失があり、そのことが原因となって部員が死亡したといえることが必要になります。
もっとも、指導者に注意義務違反があった場合、損害賠償責任を負うのは指導者個人だけではありません。指導者を雇用している学校には使用者責任があるので、原則として学校も損害賠償責任を負うことになります。
部活動の死亡事故で損害賠償請求が認められた判例
部活動の指導者は、生徒が安全に部活動を行えるように配慮しなければなりません。このような配慮のことを「安全配慮義務」といいます。
部活中においては、生徒がケガをしないように安全に活動できるように対策をとっているか、何か問題が起きた時の対応は適切だったかなどが安全配慮義務と考えられることが多いです。
安全配慮義務は注意義務の一種であり、具体的にどのような義務を負うかは個別に判断されることになります。
ボクシング部でパンチを受けて死亡した判例と賠償請求のポイント
この事故は、ボクシング部の高校1年生の部員が、上級者とマスボクシング中に、パンチを受けて死亡したという事例です。(マスボクシングとは、タイミングをはかってパンチを繰り出し、相手に当てることを予定していない練習方法です。)
裁判所は指導者側の安全配慮義務違反を認め、スポーツ振興センターから支給された見舞金を控除したうえで、指導者側に約4,000万円の賠償を命じました。
遺族側の主張
遺族側は、指導者に複数の注意義務違反があったとして損害賠償請求の訴訟を起こしました。
遺族の主張
- 被害者の体調を考慮した練習内容ではなかった
- 相手との技量の差や練習環境を考慮して、ヘッドギアを装着させるべきであった
裁判所の判断
裁判所は、ボクシングが危険性の高い競技であることを理由に、指導者は通常よりも高度の注意義務を負うものと認定しました。
裁判所の判断
- 技術の差を考慮して、パンチが当たる可能性がある練習をさせる場合には、技術が劣る者にヘッドギアを装着させるなどの指導を行うことが必要
- 被害者が体調不良であることは練習を休んでいたことや参加同意書から明らかである
- 被害者は初心者で、上級者である相手との技量の差は歴然だった
- 上級者に対して、相手にパンチを当ててはならないという特別な注意をすべきであった
この部活中の死亡事故の判例は、札幌地方裁判所の判決(平成9年7月17日)より抜粋しています。
この判例のポイント
裁判所はボクシングというスポーツ自体が相手を死亡させたり、障害を負わせるなどのリスクを持つスポーツであるから、教育現場ではより一層の注意義務が必要であると言及しています。
また、スポーツにおいて初心者と上級者では技量に大きな差があり、なんらかの事故が起こることから、事故防止の高度な注意義務があったと指摘しました。
部活動の事故では上級生(上級者)と下級生(初心者)という技量の差を念頭に置いた注意義務が果たされていたのかは、極めて重要なポイントです。
野球部の練習中に熱中症で死亡した判例と賠償請求のポイント
この事故は、野球部の練習中に熱中症にかかり、その約1ヶ月後に死亡してしまった事例です。裁判所は遺族らの主張の一部を認め、監督側に約4,400万円の損害賠償を命じました。
この賠償額はスポーツ振興センターから支給された見舞金を控除した金額です。
遺族側の主張
遺族側は、監督に複数の注意義務違反があったとして損害賠償請求の訴訟を起こしました。
遺族の主張
- 熱中症発生の危険性があるにもかかわらず、練習強度の高いメニューを組んだ
- 途中で中断した被害者にダッシュを再開させた
- 倒れこんだ被害者の体を冷却するなどの応急措置を怠った
裁判所の判断
裁判所の判断の概要をまとめます。
裁判所の判断
- 監督は熱中症の知識や熱中症予防の指針を理解していた
- グラウンドの温度や湿度から熱中症の危険性が低いとの判断は妥当ではない
- 練習メニューの選定は熱中症予防の注意義務違反とはいえない
- ダッシュ再開時の熱痙攣から熱中症を疑うべきところ、応急措置や病院への搬送措置を講ずるべき注意義務違反があった
- 監督が注意義務を果たしていれば、生徒が死亡することはなかった
この部活中の死亡事故の判例は、高松高等裁判所の判決(平成27年5月29日)より抜粋しています。
この判例のポイント
裁判所は、監督の注意義務違反について温度や湿度といったデータを元に判断しています。事故が起こったのは6月ですが、十分熱中症を疑える状況であったことを客観的資料から認めたのです。
また、監督の注意義務が果たされていれば死亡という最悪の結果を避けられたということも、監督の過失と死亡の因果関係を判断するうえで重要なポイントになります。
仮に監督が十分に義務を果たしても死亡が避けられなかったと判断された場合、監督に責任を問うことは難しかった恐れがあるでしょう。
部活中の死亡事故を弁護士に相談・依頼するメリット
部活中の死亡事故について弁護士に相談・依頼するメリットは多数あります。
弁護士相談のメリット
- 弁護士に今後の対応を相談できる
- 損害賠償請求額の算定をしてもらえる
- 損害賠償請求の交渉も一任できる
弁護士に今後の対応を相談できる
指導者などに何らかの過失があったことで部活中の死亡事故が生じた場合、損害賠償請求できます。
大切な家族を亡くし、大きな悲しみの中で学校とやり取りをするのは精神的にもお辛いことです。
部活中の事故に関して損害賠償請求を検討しているなら法律の専門家である弁護士にご相談ください。今後の取るべき対応をお話しすることができます。
関連記事『学校事故は弁護士に相談・依頼!メリットと無料法律相談の窓口を紹介』では、弁護士に相談・依頼することで実現できることなどについて解説していますので、あわせてご確認ください。
損害賠償請求額の算定をしてもらえる
部活に起因して子どもが死亡した場合には、本人が感じた死という苦痛への慰謝料と、遺族への慰謝料として「死亡慰謝料」を請求できます。
死亡慰謝料の相場額は、遺族に対する慰謝料も含めて2,000万円~2,500万円程が相場になります。
慰謝料を請求しうる遺族とは父母を基本とし、場合によっては祖父母や兄弟姉妹にも請求が認められる場合があるものです。
なお、部活中に倒れてから死亡するまでに治療を受けたという場合には、治療期間をベースに算定する入通院慰謝料も別途請求できます。
損害賠償請求の交渉も一任できる
死亡事故の損害賠償請求について、学校側が請求額の全てをスムーズに認めてくれるとは限りません。
争点にはいろいろありますが、金額で折り合いがつかないことも多いです。とくに死亡事故では「死亡逸失利益」でもめる可能性が十分あります。
死亡逸失利益とは、子どもが将来仕事で得たはずの収入が失われたことへの補償です。国の統計による平均年収を基本にして算定したり、想定されていた子の進路から想定年収を算定する方法もあります。
金額が数千万になることも珍しくありません。高額になりやすいことから、請求の相手方と争いになりやすい項目でもあるのです。
また、学校側がなかなか非を認めなかったりして、遺族の心情を逆なでしたり、心労が増したりと、交渉で精神をすり減らされてしまうことが多いです。
死亡事故における請求内容や相場額を知りたい方は『学校における死亡事故事例と問える責任は?損害賠償請求の相場額も紹介』の記事をご覧ください。
部活中の死亡事故はアトムの無料相談を活用してください
部活中の死亡事故に関して弁護士相談を検討されている方は、アトム法律事務所の無料相談をご利用ください。
まずは、無料相談の予約をお取りいただいています。下記フォームからお問い合わせください。予約の受付は24時間365日対応しているので、いつでも気軽にご利用いただけます。
無料法律相談ご希望される方はこちら
アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了