部活中に起きた死亡事故の責任は誰が負う?2つの判例とともに解説
子どもが部活中に死亡してしまった場合、残された遺族は冷静ではいられないでしょう。
死亡事故がどのようにして起きたのか、指導に問題はなかったのか、など死亡事故が起きた原因を究明し、場合によっては然るべき相手に責任をとってもらいたいと考えるのが自然だと思います。
部活中の死亡事故の場合、学校の区分により責任を負う者や請求根拠が異なるため、本記事によりその概要を知って頂ければ幸いです。部活中の死亡事故における責任の所在と責任追及の方法について解説していきます。
目次
部活中の事故における責任の所在
部活動をしている中学生や高校生は少なくありません。
部活動といっても、実にさまざまな種類の部活動がありますが、中には多くの運動量が必要となる部活動や、過酷な練習が必要となる部活動もあります。
そのため、部活中に怪我を負ってしまうといったことも珍しくはありません。
このような場合、責任の所在はどこにあるのでしょうか。
責任の所在は注意義務違反の有無で決まる
真っ先に頭に浮かぶのは、部活動の顧問をしている教師ではないでしょうか。
顧問の教師が部活中に起きた事故について責任を負うのは、顧問教師に注意義務違反が認められる場合です。
ここでいう注意義務違反とは、事故が発生することを予見できたという「予見義務」と、その事故を回避できたという「回避義務」があったにもかかわらず、不注意によりこれらの義務に違反した場合をいいます。
顧問教師に注意義務違反があったかどうかは、さまざまな事情を考慮したうえで判断されるので、簡単に判断できることではありません。
部活中の事故に関していえば、部活動の内容における危険性の程度や日頃の顧問教師による指導状況、生徒側の判断能力などを考慮したうえで、顧問教師に注意義務違反があったかどうかが判断されることになります。
部活動で行われている練習が比較的危険性の高いものである場合には、顧問教師において、練習が十分に危険なものであるということを生徒に説明したうえで、危険を回避するための対策を徹底するなどの対応が求められるのです。
国公立か私立かで責任の所在が異なる
顧問教師に注意義務違反が認められた場合、事故に遭った生徒は損害賠償責任を請求することができます。
この場合、顧問教師個人に請求できるかどうかは、国公立学校か私立学校かで責任を負う主体が異なってくるので注意が必要です。
国公立学校の場合、顧問教師個人が損害賠償責任を負うことはなく、学校を設置した国や地方公共団体が同責任を負うことになります。
一方で、私立学校の場合には、顧問教師個人や学校が損害賠償責任を負うこととされているのです。
損害賠償責任 | |
---|---|
国公立学校 | 国や地方公共団体 |
私立学校 | 顧問教師個人や学校 |
このように、国公立と私立とで責任の所在が異なるのは、それぞれに適用される法律が異なることを理由としています。適用される法律については後ほど解説していますので、引き続きご覧ください。
部活動事故に関する判例
部活動の指導者は、生徒が安全に部活動を行えるように配慮しなければなりません。このような配慮のことを「安全配慮義務」といいます。
安全配慮義務は注意義務の一種として考えられていますが、具体的にどのような義務を負うかは個別に判断されることになります。
安全配慮義務違反が肯定されたケース
ボクシング部の高校1年生の部員が、上級者とマスボクシング中に、パンチを受けて死亡したという事例です。(マスボクシングとは、タイミングをはかってパンチを繰り出し、相手に当てることを予定していない練習方法です。)
裁判所は、ボクシングが危険性の高い競技であることを理由に、指導者は通常よりも高度の注意義務を負うものと認定しました。
具体的には、部員間に認められる技術の差から、パンチの当たる可能性がある練習をさせる場合には、技術が劣る者にヘッドギアを装着させるなどの指導を行うことが必要となります。
本件において、指導者が技術の劣る者にヘッドギアを装着させることなく、また、上級者に特段の注意をするということもなくマスボクシング練習をさせたことから、指導者の安全配慮義務が肯定されています。
安全配慮義務違反が否定されたケース
野球部に所属する中学1年生の部員が、野球大会の試合開始前の待機時間中に、他の部員とドングリを投げ合っていたところ、ドングリが眼球に当たったという事例です。
裁判所は、本件事故が発生したのが待機時間中であったことをあげて、指導者は待機中の部員の行動を把握すべき義務までを負うものではないと判断しました。
待機時間中に発生した事故は、野球部の部活動に伴う危険性が現実化したものではありません。
待機時間中に発生した事故について、指導者の安全配慮義務違反があったといえるためには、待機させることによって、何らかの事故が発生することを具体的に予見できたといえる事情があったことが必要になります。
本件において、指導者は待機時間中には被害者から離れて前の試合を観戦しており、また、待機時間中に同様の事故が発生したこともなく、待機場所には危険な構造物もなかったことから、指導者の安全配慮義務違反が否定されています。
部活中の死亡事故における損害賠償請求
部活中に部員が死亡した場合において、指導者に注意義務違反が認められる場合、その遺族は学校の区分に応じて国や地方公共団体または指導者や学校に対して損害賠償を請求することができます。
国家賠償法による損害賠償請求
国公立学校の場合、指導者に注意義務違反があったとしても、指導者個人に対して損害賠償責任を問うことができません。損害賠償責任を負うのは、学校を設置した国や地方公共団体ということになります。
部活中の死亡事故について、国や地方公共団体に損害賠償責任が認められるためには、指導者に故意または過失があり、そのことが原因となって部員が死亡したといえることが必要です。
指導者に注意義務違反があった場合、それは指導者に過失があったことを意味するため、国や地方公共団体は損害賠償責任を負うことになります。
また、部活で使用する学校の設備やその管理に瑕疵があった場合も同様です。(瑕疵とは、通常、有すべき安全性を欠いていることを意味します。)
学校の設備やその管理に瑕疵があったことが原因となって、部員が死亡した場合、国や地方公共団体は損害賠償責任を負うことになります。
民法による損害賠償請求
私立学校の場合、損害賠償責任を負うのは、指導者個人と学校です。
部活中の死亡事故について、指導者に損害賠償責任が認められるためには、指導者に故意または過失があり、そのことが原因となって部員が死亡したといえることが必要になります。
もっとも、指導者に注意義務違反があった場合、損害賠償責任を負うのは指導者個人だけではありません。指導者を雇用している学校には使用者責任があるので、原則として学校も損害賠償責任を負うことになります。
死亡事故における請求内容や相場額を知りたい方は『学校における死亡事故では誰に請求が可能なのか|相場額も紹介』の記事をご覧ください。
部活中の死亡事故は弁護士に相談
弁護士に今後の対応を相談しよう
指導者などに何らかの過失があったことで部活中の死亡事故が生じた場合、損害賠償請求することができます。
とはいえ、はじめてのことだと何から対応すればいいのかわからないことが多いでしょう。また、大切な家族を亡くし、大きな悲しみの中で学校とやり取りをするのは精神的にもお辛いと思います。
事故に関するお悩みは、法律の専門家である弁護士にご相談ください。今後の取るべき対応をお話しすることができます。
関連記事『学校事故に遭ったら弁護士に相談しよう』では、弁護士に相談・依頼することで実現できることなどについて解説していますので、あわせてご確認ください。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了