給食でのアレルギー事故事例と賠償責任を解説
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子どもに食物アレルギーがある場合、保護者の方は学校の給食で子どもが口にするものについて心配になるでしょう。
今回は学校の給食時におけるアレルギー事故の具体的事例やその法的問題、賠償責任について説明していきます。
目次
学校の給食時におこるアレルギー事故について
食物アレルギーによる事故は主に学校や保育園の給食時に起こります。
どのようなメカニズムで、どのような状況で発生するのでしょうか。
学校の給食時に発生するアレルギー事故
近年、食物アレルギーを有する子どもが増加傾向にあると言われています。食物アレルギーのある子どもの割合は、年齢とともに減少していき、乳児では5~10%、幼児では約5%、学童期以降が1.5%~3%と推測されています。
食物アレルギーとはどのようなものなのでしょうか。
まず、「アレルギー反応」とは免疫機能が一定の抗原に対して過剰反応を起こすことによって引き起こされます。
そして、食物アレルギーとは、ある特定の食べ物に含まれるアレルギーの原因となる物質に対して免疫機能が過剰反応を起こすことです。
アレルギーの原因となる物質のことを「アレルゲン」といいますが、その多くは「タンパク質」からなっています。
もともと、身体の免疫機能は体内に害悪のある物質を攻撃して排除するための機能です。
しかし、免疫機能や消化吸収機能について何らかの問題があると、体内に吸収された食べ物を人体に有害なものであるとみなして攻撃しようとしてしまいます。
アレルゲンが体内に入ると免疫細胞は血液中で免疫グロブリン(IgE抗体)を作り出します。この抗体は皮膚や、目・鼻・腸・気管支などの免疫に存在するマスト細胞と一緒にアレルゲンの侵入を阻止しようとします。
そして、アレルゲンが体内に入るとIgE抗体がアレルゲンを捕らえて、マスト細胞がヒスタミンやロイコトリエンなどの物質を放出します。
放出されたこれらの物質によって、かゆみや鼻詰まり、呼吸困難、炎症などのさまざまなアレルギー症状が引き起こされるのです。
学校給食におけるアレルギー事故の発生件数や発生状況
独立行政法人日本スポーツ振興センターの調査によると、平成17年度から平成20年度で学校の管理下における食に関する災害事例のうち、学校給食における食物アレルギーの件数は804件であったと報告されています。
報告された災害事例のうち、死亡事故の危険性があった重篤なアナフィラキシー事例も複数件ありました。
食物アレルギー事故の発生場所としては、学校内のほかにも宿泊を伴う学校イベント中に発生することも考えられます。
食物アレルギーの発生状況としては、給食配膳時の取り違いによる事故や調理時における除去食品のミスのほかに、はじめてアレルギー反応がおこるケースもあり得るでしょう。
給食時のアレルギー事故事例を紹介
それでは、学校給食で起きるアレルギー事故の具体的な事案を紹介していきましょう。
学校給食での誤配膳による事故
2012年東京都調布市の小学校で、給食後の食物アレルギーにより小学5年生の女子児童が死亡する事故が起こりました。
この児童には乳製品に対するアレルギーがありましたが、担任教諭は当該児童が食べられない食品を確認しないまま、乳製品が使用された食品を給食として配膳したのです。乳製品が使用された食材を食べた女子児童は体調が悪くなり、数分で症状が悪化したため、エピペンが注射されました。
しかし、その児童は心肺停止になり亡くなってしまいました。
死亡した原因はアレルギーによる「アナフィラキシーショック」でした。
「アナフィラキシーショック」とは、アレルゲンが体内に入ることで、いくつかの内臓や全身にアレルギー反応が起こり、過剰反応を引き起こすことをいいます。
アナフィラキシーショックを引き起こす可能性がある食材は、卵・牛乳・小麦・そば・ピーナッツ・エビ・カニなどです。
なお、食物アレルギーのほかにも蜂や蟻による虫刺さされや、薬物投与、ラテックスの使用によってアナフィラキシーショックは起こりえます。
エピペンはアナフィラキシーショックを緩和するアドレナリン自己注射製剤のことです。
食後に運動することによりアレルギー反応が発生した事例
中学校で、小麦を使用したフライを給食で食べた後の昼休みにサッカーをした中学3年生の男子生徒に腹痛や咳などのアレルギー反応があらわれたケースもあります。
このように起こるアレルギー反応のことを「食物依存性運動誘発アナフィラキシー」と呼ばれています。
これはアレルギーの原因となる食物を食べただけではアレルギー症状は起こらず、食後に運動をするという二次的要素が加わることによってアナフィラキシーショックが起こる類型です。
豆乳によるアレルギー事故
豆乳を飲んだことにより食物アレルギーが発生する可能性もあります。
豆腐などの大豆を加工した食品ではアレルギー反応がなかったにもかかわらず、豆乳を飲んだ時に発症したというケースも報告されていますので、必ずしも保護者が子どものアレルギーを把握できていないことも考えられる類型です。
症状としては皮膚のかゆみや腫れ、呼吸困難などがみられます。
給食時のアレルギー事故における法的責任と賠償
それでは、学校給食におけるアレルギー事故については誰がどのような法的責任を負うのでしょうか。解説していきます。
教員の過失があれば学校側に賠償責任
学校側がどのような根拠により損害賠償義務を負うのかについては、学校が公立か私立かで異なります。
公立の場合
学校給食におけるアレルギー事故について担任の教員に過失がある場合、学校を設置した国や地方公共団体が国家賠償法にもとづく損害賠償義務を負います。
そばアレルギーである児童が学校給食で出たそばを食べたことによって喘息発作を起こし、異物誤飲で死亡した事案について裁判例があります。(札幌地裁平成4年3月30日判決)
担任教諭には、そばアレルギー症の重篤さと給食でそばを食べさせないことの重要性、およびそばを食べさせることでの事故を予見し、結果を回避することは可能であったと裁判所は判断して教員の過失が認められました。
事故に対する予見可能性と結果回避可能性がある場合には、教員には注意義務違反があるため過失が認められるのです。
文部科学省の食物アレルギーに対するガイドラインを作成しています。児童・生徒の保護者から申告を受けた食物アレルギーについては学校側に注意義務が生じます。
他方、保護者も把握できていないアレルギーや、保護者は把握していても学校側には申告していないアレルギーについては、未然防止までの義務は負わせられず学校側の注意義務は軽減されるといえるでしょう。
私立の場合
私立の場合は、教員に過失がある場合、学校は教員を雇用しているために民法上の使用者責任を根拠として損害賠償義務を負います。
教員に対しても、不法行為にもとづく損害賠償請求が可能ですが、資力の関係から、学校に請求を行うべきでしょう。
過失の判断については、公立の場合と変わりはありません。
学校側がアレルギーについて把握しており、事故の発生を回避することが可能であったにもかかわらず、これを怠ったといえるのかについて判断してください。
損害賠償と慰謝料の相場
学校側に注意義務が認められた場合、公立学校については国や地方公共団体に対して、私立学校の場合には教員個人や学校設置管理者に対して損害賠償請求することになります。
損害賠償請求としては、治療費の実費のほかに慰謝料を請求することもできます。
慰謝料は精神的損害に対して支払われる賠償金です。
ただし、アレルギー事故の慰謝料については画一的に基準が決められているものではありません。アレルギー事故による症状の内容や程度、治療の期間等を総合的に考慮して決定されます。
1日程度の入通院加療により回復した場合には数万円~十数万円ほどが慰謝料の相場だと考えられるでしょう。
もっとも、長期の入院が必要となったり、後遺症が残った場合などでは高額の慰謝料を請求することが可能となります。
学校事故に関する慰謝料の内容や相場額について詳しく知りたい方は『学校事故の慰謝料相場と請求先!ケガ・後遺障害・死亡の計算方法とは?』の記事をご覧ください。
学校で起こった事故の悩みは弁護士に相談
損害賠償請求の見通しについてアドバイスがもらえる
学校で起こるアレルギー事故などを含む学校事故については、保護者の方が関知できない環境での事故であることがほとんどでしょう。
そのため、保護者からすると学校側の対応に問題はなかったのか、損害賠償請求を行うべきかの判断は困難です。
そのような場合には一度弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士ならば、学校側に法的責任に関する請求を行うべきなど、損害賠償請求の見通しについて法律の専門家の観点からアドバイス可能です。
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給食でのアレルギー事故でお子さまに重篤な後遺症が残ったり、亡くなられてしまった場合は、アトム法律事務所の無料相談をご活用ください。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了