学校事故の法的責任|民事上の損害賠償請求と法的根拠
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学校事故が発生した場合、その法的責任はどのようなものがあるのでしょうか。
学校事故の法的責任は大きく民事責任・行政責任・刑事責任の3つに分けられます。そのうち、学校事故による損害の補償を求めるための根拠となるのは民事責任における損害賠償請求です。
今回は、教員に不注意があって学校事故が起こった場合や、学校設備の欠陥が原因で事故が起こった場合について判例もあわせて解説していきます。
目次
学校事故と3つの法的責任について
学校事故が発生した場合の法的責任の基本的な考え方について説明します。
学校事故とはどんな事故のこと?
まず、「学校事故」とはどのような事故を指すのか整理しておきましょう。
学校事故は法律に定義がある言葉ではありませんが、一般的に「学校の教育活動にともなって起きた事故や学校施設の使用中に児童・生徒が巻き込まれて被害を被ったような事故」ということができます。
学校事故の主な原因として考えられるのは、教職員の不注意や、学校施設の不適切な管理体制などが考えられます。
学校事故で生じる3つの法的責任
学校事故に関する法的責任については、民事責任・行政責任・刑事責任の3つが考えられます。
民事責任とは、加害者から被害者に対する損害賠償責任です。
行政責任とは、国公立学校の教職員に非違行為がある場合に、その任命権者が当該教職員に対して行う懲戒処分があげられるでしょう。
刑事責任とは、学校事故によって児童や生徒が死亡したり、怪我を負ったりした場合、その事故の原因となった者に対して刑事罰を科すことをさします。
民事責任 | 被害者に対する損害賠償責任 |
行政責任 | 国公立学校の教職員に非違行為がある場合に行われる懲戒処分 |
刑事責任 | 事故の原因となった者に対して刑事罰を科すこと |
学校事故で被った損害の補償を受けとるためには、民事責任における損害賠償請求をしていく必要があります。
つづいては、損害賠償請求をしていく相手となる学校側と加害生徒が負う民事責任の法的根拠をそれぞれみていきましょう。
学校事故は、事故の態様によって法的構成が異なるので、まずは基本的な考え方をおさえておきたいと思います。
損害賠償請求にもとづいて請求できる内容については『学校事故の損害賠償|請求相手と請求内容は?示談についても解説』の記事をご覧ください。
学校事故で学校側が負う民事責任の根拠
学校事故で学校側が負う民事責任の根拠を考えるとき、国公立学校の場合と私立学校の場合に分ける必要があります。
国公立学校の場合
国公立学校の場合における民事責任としての損害賠償責任に関しては、「国家賠償法」が根拠となります。
国家賠償法1条1項
国家賠償法とは、国や公共団体の公権力の行使にあたる公務員がその職務を行うについて、故意または過失によって違法に他人に損害を加えたときは国または公共団体がその損害を賠償する責任を負うというものです。
したがって、国公立学校の教職員の不法行為によって児童・生徒に損害が生じた場合には国や公共団体に対して損害賠償請求していきます。公務員である教職員個人への損害賠償請求はできません。
営造物責任(国家賠償法2条1項)
営造物責任とは、公の営造物の設置または管理に瑕疵があったために他人に損害を与えたときは国または公共団体がその損害を賠償する責任を負うというものです。
「公の営造物の設置または管理に瑕疵がある」とは、広く公の目的に供せられる物的施設が通常あるべき安全性を欠いている状態をいいます。瑕疵があったかどうかは、当該営造物の構造・用法・場所的環境・利用状況などの諸般の事情を総合的に考慮して具体的個別的に判断されます。
したがって、国公立学校の施設の瑕疵によって児童・生徒に損害が生じた場合には国や公共団体に対して損害賠償請求していきます。
私立学校の場合
私立学校の場合における民事責任としての損害賠償責任に関しては、「民法」が根拠となります。
不法行為責任(民法709条)
不法行為責任とは、故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害したときはその損害を賠償する責任を負うというものです。
したがって、私立学校の教職員の不法行為によって児童・生徒に損害が生じた場合には教職員個人に対して損害賠償請求していきます。
ただし、事故の内容によっては、教職員個人だけでなく学校や校長・教務主任などに対して損害賠償請求できる可能性もあります。
ちなみに、不法行為には故意と過失があります。
- 故意:殴る蹴る等の体罰を与えたなど
- 過失:事故が起こらないための注意義務を怠った(安全配慮義務違反)
学校事故では過失による事故が多いので、本記事では教職員の不法行為は過失としての安全配慮義務違反を前提に解説を進めます。
代理監督者の責任(民法714条2項)
代理監督者の責任とは、責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負うというものです。
したがって、私立学校で児童・生徒が不法行為を行ったことにより、第三者である児童・生徒に損害が生じた場合には、親権者の代わりに監督義務者の立場となる教職員個人に対して損害賠償請求していきます。
使用者責任(民法715条1項、2項)
使用者責任とは、ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負うというものです。
したがって、私立学校の教職員の不法行為によって児童・生徒に損害が生じた場合には教職員を雇用する学校や、教職員を指導する立場となる校長・教務主任などに対して損害賠償請求していきます。
債務不履行責任(民法415条)
債務不履行責任とは、債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができるというものです。
学校は、学校生活の中で生じる危険から児童・生徒の生命および健康などを保護すべき義務、その安全に配慮すべき義務を負っています。このような義務を一般的に「安全配慮義務」といいます。
学校は児童・生徒やその保護者との間に在学期間中の安全を守るという契約を結んでおり、その契約内容を守り抜かねばならない債務を負っています。しかし、債務を負っているにもかかわらず、安全配慮義務違反によって学校事故が起きれば、契約を守らなかったという債務不履行が発生し、損害を賠償する責任を負うのです。
したがって、私立学校の安全配慮義務違反という債務不履行によって児童・生徒に損害が生じた場合には、私立学校に対して損害賠償請求していきます。
土地工作物責任(民法717条)
土地工作物責任とは、土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負うというものです。
「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵」とは、土地に密着して構造した設備や土地に密着して人工的作業をなしたるによりて成立したものが通常あるべき安全性を欠いている状態をいいます。
国家賠償法2条の営造物責任とは異なり、土地工作物責任における土地の工作物としては「土地との密着性」が求められているのです。
また、瑕疵があったかどうかは、当該営造物の構造・用法・場所的環境・利用状況などの諸般の事情を総合的に考慮して具体的個別的に判断されます。
したがって、私立学校の施設の瑕疵によって児童・生徒に損害が生じた場合には私立学校に対して損害賠償請求していきます。
学校事故で加害生徒が負う民事責任の根拠
学校事故で加害生徒が負う民事責任の根拠を考えるとき、加害生徒に責任能力がある場合と責任能力がない場合に分ける必要があります。
責任能力のある加害生徒の場合
責任能力のある加害生徒の場合における民事責任としての損害賠償責任に関しては、「民法」が根拠となります。
不法行為責任(民法709条)
不法行為責任とは、故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害したときはその損害を賠償する責任を負うというものです。
したがって、責任能力のある加害生徒の不法行為によって他の児童・生徒に損害が生じた場合には加害生徒本人に対して損害賠償請求していきます。
ただし、事故の内容によっては、加害生徒本人だけでなく、親権者や教員・学校などに対して損害賠償請求できる可能性もあります。
責任能力があるかどうかは、加害生徒個人の知能・家庭環境・生活環境などの諸般の事情を総合的に考慮して具体的個別的に判断されます。
しかし、小学校卒業程度の年齢に達していれば責任能力があると認められるのが一般的なので、13歳以上なら責任能力者だと考えてよいでしょう。
責任能力のない加害生徒の場合
責任能力のない加害生徒が場合における民事責任としての損害賠償責任に関しては、「民法」が根拠となります。
監督義務者の責任(民法714条1項)
監督義務者の責任とは、責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負うというものです。
したがって、責任能力のない加害生徒の不法行為によって他の児童・生徒に損害が生じた場合には、加害生徒を監督する法定の義務を負う者である親権者に対して損害賠償請求していきます。責任能力のない加害生徒本人への損害賠償請求はできません。
父母が婚姻中であれば、両親が親権者となるのが通常です。父母が離婚していれば、一方が親権者と定められることになるでしょう。
監督義務者の不法行為責任(民法709条)
監督義務者の不法行為責任とは、故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害したときはその損害を賠償する責任を負うというものです。
責任能力のある加害生徒による不法行為で生じた損害賠償責任は加害生徒本人が負うべきものではあるものの、未成年者には損害賠償責任を果たせるような資力がありません。
そこで、資力のある親権者が監督義務者としての役割を果たしていなければ、監督義務者の不法行為が成立するという考え方があるのです。
したがって、責任能力のある加害生徒を監督しきれなかったという親権者の不法行為によって他の児童・生徒に損害が生じた場合には、親権者に対して損害賠償請求していきます。
教員の安全配慮義務違反と施設管理の瑕疵に関する判例
教員の過失についての判例を紹介
学校事故について教員の過失が認定された裁判例を解説していきます。
体育の授業中に同級生の行為が原因で重症を負った事案(高松高裁昭和56年10月27日判決)
この事案は、高校生が体育の自習を終え、後片付けをしていたときに被害生徒を複数人で体操マットでサンドウィッチ状にはさみ、上から踏みつけるなどしたためその生徒が頸髄損傷などの重症を負い1年3か月の入院が必要となったケースです。
本件は、担当の教員が不在の際に発生した学校事故です。
この高校では、これまでにも授業終了時に今回と同様の行為が数回にわたり発生していましたが、教員はこのことに気が付いていなかったのか、これまで特別に注意したり叱責したことはありませんでした。
しかし、事故当日には被害者の負傷事故が起きる前に他の生徒に対して同様の行為が行われており、これは教員の監視し得るところで公然と行われていたと認定されました。
そこで、同じ体育館で自ら授業を行っていた教員は、生徒らの加害行為を現認してこれを制止し、被害生徒の安全を保持すべき義務を有していたにもかかわらず、漫然とこれを怠ったと判断されています。
裁判所は、加害生徒のほかに教員の過失も認定して、国家賠償法に基づき県に対して1968万円の支払いを命じました。
体育の授業中の失明事故(京都地裁昭和53年9月1日判決)
この事案は、中学校の体育の授業で行っていたソフトボールの最中、生徒の1人が振り回していたバットが他の生徒の顔に当たり、そのために被害生徒が失明するという重症を負ったケースです。
このケースでは、体育の担当教員が他の用務の為に校庭を離れていた間に事故が発生しました。
担当教員は教育上、重要な会議への出席のために少し遅れていくつもりで体育委員の生徒に用具を渡しソフトボールを実施させていました。
裁判所は教育上、重要な問題に対応していたとはいえ格別の注意も与えず、危険に対する十分な配慮もせずに現場を離れたことは軽率であり、体育教員として生徒の安全を確保するという注意義務を怠った過失があると判断しています。
この裁判例では、ソフトボールをやるとなる場合、球技の好きな生徒はそれぞれ用具を持ち出して勝手に行動し、そのために事故が起こりやすいことが予測されると判断されています。
このように、教員に課される注意義務の程度が、児童・生徒の発達段階やどのような活動についてどのような影響を与えていたかということに応じて具体的に判断されていることは重要でしょう。
失明の関連記事
学校の施設管理に瑕疵に関する判例を紹介
学校の施設の欠陥などによって学校事故が発生したケースの裁判例を紹介していきましょう。
砲丸直撃の事故について運動場の瑕疵が認められた事案(大阪地裁昭和52年9月13日判決)
この事案は、高校のテニス部の練習中、球拾いのために砂場に入った部員に陸上部員が投じた砲丸が頭部に直撃し部員が負傷した学校事故です。
営造物の設置・管理の瑕疵については、その営造物について通常の使用がなされる場合を想定して周囲の状況も考慮して判断されます。
庭球コートと砂場の間には8.6mの間隔しかなく、テニスボールは反発力も強くしばしば頭上を越えたり横にそれたりして後方の砂場まで転がることがあったと認定されています。
そして、コートと砂場の間に球拾いの人員を配置したとしてもボールの逸脱を完全に防止できるものでもないとして、コートと砂場の間に「逸脱防止用の球止め」の設備を欠いていたことは、運動場の設備・管理に瑕疵があったと認定されたのです。
ただし、被害部員も後方へ飛び出す際に一瞬注意すれば砲丸投げの練習に気づき得たという落ち度を認めて、慰謝料については過失相殺により減額されています。
児童が溺死した学校事故についてプールの瑕疵が認められた事案(大阪控訴院大正4年)
この事案は小学校のプールの授業中に女子児童が溺死した事案です。
本件では農業用水から水を引いていたため底が見えないほど濁ったプールで水泳の授業が実施されていました。
プールについてはスタート台から徐々に深くなり最深部については小学生には危険であったとして、浅部と深部を明確にするための措置(区画ロープを張るなど)が必要であったと判示されています。
また、水泳プールは危険防止の観点から水底を見通せる程度に澄んだ水を使用すべきであるため、本件では通常プールが備えるべき安全性を欠いていたと判断されました。
本件では、プールの瑕疵と同時に教員にプール内の動静に注目して事故発生を防止すべき指導監督上の義務に反した過失があったことも認定されています。
学校事故の法的責任を追及したいなら弁護士に相談
学校事故の法的責任が誰にあるのか、どんな法的責任を負うのかを検討するなら、弁護士に相談することを進めします。弁護士相談を通して、まずは損害賠償請求の見通しを立てていきましょう。
弁護士相談をおすすめする理由
学校事故と一口にいっても、事故で生じる法的責任は事故の内容や状況によってさまざまです。そのため、今後どのような対応をとっていけばいいのか、被害の補償を誰に請求すればいいのかなどわからないことが多いでしょう。
- 学校側が事故の責任を認めない
- 事故後の学校の対応に納得できない
- 損害賠償請求したいがどうすればいいのかわからない など
学校事故に関して相談するなら弁護士をおすすめします。弁護士であれば学校事故の法的責任などについて法律家としての観点からアドバイスすることができます。
弁護士に依頼するメリットなどについて詳しくは、関連記事『学校事故は弁護士に相談・依頼!メリットと無料法律相談の窓口を紹介』をあわせてご覧ください。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了