会社の相続と自社株の承継|相続税の評価方法と事業承継の手続き

会社の相続とは、亡くなった経営者が持っていた自社株や出資持分を引き継ぐことです。
会社という法人そのものは相続の対象にはならず、株式や出資持分を承継することで、経営権が次の世代へ移ります。
業績が良い会社では自社株の評価額が高くなり、相続税の負担も大きくなりやすいです。また、事前の準備が不十分だと、後継者が経営に必要な株式を十分に引き継げないおそれがあります。
この記事では、自社株の評価方法や相続税対策、子ども・兄弟など相続人が複数いる場合の株式の引き継ぎ方、事業承継の進め方をわかりやすく解説します。
目次
会社の相続とは
会社そのものは相続できない
「会社を相続する」という表現はよく使われますが、法律上、会社(法人)そのものを相続することはできません。
会社は法律上、人間とは独立した「法人」という別の存在です。
経営者が亡くなっても会社が消えるわけではなく、法人として存続し続けます。
では、実際に相続の対象となるのは何かというと、亡くなった方(被相続人)が持っていた「株式」や「出資持分」です。
日本の中小企業の多くは、株式の所有者と経営者が同一人物です。
議決権(会社の重要事項を決める権利)を持つ株式を引き継ぐことで、経営権も次の世代へと移ります。
個人事業主なら相続できる
会社が法人となっていない、いわゆる個人事業主である場合は事業用財産(機械・在庫等)が相続の対象となります。
個人の相続手続きと同様に、事業主が有していた財産について負債も含めて相続することとなるのです。
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自社株(出資持分)が相続財産になる
法人の形態によって、相続の対象となる財産は異なります。
株式会社の場合は「株式(自社株)」、特例有限会社の場合も同様に「株式」が相続財産となります。
2006年の会社法施行以降、有限会社の新設はできなくなっています。既存の有限会社は「特例有限会社」として、会社法上は株式会社として存続しています。
有限会社の株式を相続した場合の名義変更や代表者変更、相続税の流れは『有限会社の相続手続きは?社長死亡後の持分(株式)評価と相続税・事業承継まで解説』で詳しく解説しています。
株主は、保有する株式の内容に応じて株主総会の議決権を持ちます。
株主総会では会社の重要事項が決議されるため、事業承継では、後継者が経営に必要な議決権を確保できるよう株式を承継させることが重要です。
定款変更や合併などの重要事項には、原則として株主総会の特別決議が必要です。特別決議では、原則として出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が求められます。
そのため、後継者に経営権を集中させたい場合は、承継後に確保できる議決権の割合を確認する必要があります。無議決権株式などを発行している場合は、保有株式数と議決権の数が一致しない点にも注意しましょう。
合同会社では株式ではなく持分を相続する
合同会社の場合は注意が必要です。
社員(出資者)が亡くなると原則として退社扱いとなり、定款に「相続人が持分を承継する」旨の定めがない限り、持分そのものは相続されません。
定款に定めがない場合、相続人が受け取れるのは「出資の払戻請求権」となります。
| 法人形態 | 相続財産になるもの |
|---|---|
| 株式会社 | 株式(自社株) |
| 合同会社 | 出資持分 ※定款の定めが必要 |
| 特例有限会社 | 株式 |
オーナー社長が保有していた自社株を相続人が引き継ぐことで、経営の実権である議決権も移転します。
つまり「会社の相続」の本質は、自社株を通じた経営権の承継といえるでしょう。
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自社株の相続には特有のリスクがある
自社株の相続には、一般的な相続にはない注意点が3つあります。
- 相続税が高額になりやすい
- 経営権が分散するリスクがある
- 納税資金の準備が難しい
相続税が高額になりやすい
自社株の評価額は、会社の利益や純資産をもとに算出されます。
業績が良いほど評価額が上がる仕組みのため、会社が成長しているほど相続税の負担も重くなってしまうのです。
経営権が分散するリスクがある
遺言がないまま相続が発生すると、株式が複数の相続人に分割される可能性があります。
議決権が分散すると、経営判断が滞ったり、株主間でトラブルが生じたりするリスクが高まってしまうでしょう。
納税資金の準備が難しい
自社株は上場株式と異なり、市場で自由に売却できません。
相続財産の大部分が自社株である場合、手元の現金だけでは相続税を賄えないケースも少なくありません。
こうしたリスクを事前に把握し、適切な対策を講じることが重要です。
自社株(取引相場のない株式)はどう評価される?
非上場株式の主な評価方式は3種類
上場株式は市場価格をもとに評価します。原則として、課税時期の最終価格と、課税時期の属する月・前月・前々月の各月の平均額のうち、最も低い価額を用います。
一方、中小企業などの非上場株式(自社株)には市場での取引価格がありません。
そのため、国税庁が定めた「財産評価基本通達」のルールに基づいて評価額を算出します。評価方式は会社の規模や株主の状況によって異なり、主に3種類があります。
| 評価方式 | 適用される主なケース | 特徴 |
|---|---|---|
| 類似業種比準方式 | 大会社・中会社※ | 収益力・業績が反映される |
| 純資産価額方式 | 小会社・資産保有型の会社 | 資産の実態が反映される |
| 配当還元方式 | 経営を支配しない少数株主 | 評価額が低くなりやすい |
※中会社の場合は、この方式と純資産価額方式を併用します
①類似業種比準方式(るいじぎょうしゅひじゅんほうしき)
同じ業種の上場企業の株価を参考に、対象会社の「配当金額」「利益金額」「純資産価額」の3要素を比較して評価する方式です。
主に大会社・中会社に適用され、会社の収益力が評価額に反映されます。
②純資産価額方式(じゅんしさんかがくほうしき)
会社の資産総額から負債(および含み益に対する法人税額等相当額)を差し引いた純資産をもとに、1株あたりの価値を算出する方式です。
主に小会社や、土地・株式を多く保有する会社に適用されます。
中会社も類似業種比準方式と併用して適用します。
③配当還元方式(はいとうかんげんほうしき)
会社の経営を支配していない一定の少数株主が取得した株式に適用される方式で、受け取れる配当金額をもとに評価します。同族株主でも、議決権割合が小さく役員ではない場合などは、この方式の対象となることがあります。
具体的には、直前期末以前2年間の年配当金額をもとに、還元利率(原則10%)などを用いて1株あたりの価額を計算します。
算出額が原則的評価方式による価額を上回る場合は、その価額が上限です。一般に、原則的評価方式より評価額が低くなりやすい特徴があります。
自社株の評価額が高くなりやすい会社の特徴
次のような会社は、自社株の評価額が高くなりやすい傾向があります。
- 利益が出続けている優良企業
- 不動産など多くの資産を保有している会社
- 長年にわたって内部留保を積み上げてきた会社
類似業種比準方式では、会社の利益金額が評価要素の一つとなります。
業績が好調なほど評価額が上がるため、経営をがんばってきた会社ほど相続税の負担も重くなりやすい構造です。
純資産価額方式では、会社が保有する資産の実態が評価に直接反映されます。
不動産や株式を多く持つ会社は、それだけ評価額も高くなりやすくなるのです。
また、利益を社内に蓄積し続けると、純資産が膨らみ、株価の上昇につながります。
社歴が長く堅実に経営してきた会社ほど、評価額が高くなりやすい点に注意が必要です。
このような会社では、自社株の評価額が億単位になることも珍しくありません。
非上場株式はすぐに現金化できない財産であるため、多額の相続税が発生した場合、納税資金の確保に苦労するケースがあります。
自社株の相続税を軽減する方法
自社株の相続では、相続税が多額になりやすいため、使える特例や控除を事前に把握しておくことが大切です。ここでは代表的なものをご紹介します。
事業承継税制|自社株の相続税を猶予・免除する制度
事業承継における最も重要な制度が「事業承継税制」です。
後継者が非上場株式を相続する際、一定の要件を満たせば相続税の納税を猶予(先送り)でき、最終的に免除を受けられる制度です。
事業承継税制には「一般措置」と「特例措置」の2種類があります。
特例措置は期間限定の制度で、要件が大幅に緩和されているため、多くのケースで活用が検討されます。
| 区分 | 特例措置 | 一般措置 |
|---|---|---|
| 対象株数 | 議決権株式の全株 | 発行済議決権株式総数の3分の2が上限 |
| 納税猶予割合 | 100% | 対象株式に対応する相続税額の80% |
| 適用期限 | 2027年9月30日までに「特例承継計画」の提出が必要 (相続・贈与の適用期限は2027年12月31日) | なし (恒久的な制度) |
| 雇用維持要件 | 弾力的に運用可能 (8割を下回った場合も、理由報告と認定支援機関の指導・助言により猶予継続が可能) | 原則として承継後5年間平均で雇用8割維持が必要 |
事業承継税制の活用には実績が積み上がっています。
中小企業庁によると、2018年度の特例措置創設以降、特例承継計画の提出件数は年平均約3,000件に増加し、2023年度には5,357件に達しました。
税制を活用した企業の96%が雇用確保要件を達成しており、特例措置期間の認定企業が雇用した従業員数の合計は約27万人にのぼります。
なお、特例措置を利用するには、2027年9月30日までに「特例承継計画」を都道府県知事に提出する必要があります。
特例措置の対象となる相続・贈与の期限は2027年12月31日です。
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猶予の取り消しのリスクに注意
事業承継税制で相続税の納税猶予を受けても、一定の要件を満たさなくなると猶予が取り消されることがあります。
主な例は、以下のとおりです。
- 後継者が代表者を退任する
- 対象となった株式を譲渡する
- 会社が資産管理会社に該当する
- 5年間平均の雇用が一定基準を下回る(一般措置)
代表者であることは、原則として経営承継期間等(相続税の申告期限の翌日から5年を経過する日まで)の要件です。
一方、対象株式の譲渡は期間経過後も影響します。経営承継期間中に譲渡すると猶予税額の全額、期間経過後に譲渡すると譲渡した部分に対応する猶予税額の納付が必要になる場合があります。
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自社株の評価額を下げる
相続の対象となる自社株の評価額を下げることで、相続税額を減らすことが可能です。
自社株の評価額を下げる方法としては、以下のようなものが考えられます。
- 先代経営者への退職金支給
先代経営者が亡くなった際に死亡退職金を支給して、会社の財産を減少させます。 - 遊休資産の売却
経営に使っていない資産を売却して、資産構成を見直す方法です。
売却しても評価額が下がるとは限らず、売却価格や税負担によって結果が変わります。
どのような対策が効果的であるのかは、専門家である税理士に相談しましょう。
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小規模宅地等の特例の利用
会社の事業に使っている土地には、「小規模宅地等の特例」を適用できる場合があります。
たとえば、被相続人が所有する土地を同族会社に貸していた場合、一定の要件を満たせば「特定同族会社事業用宅地等」として、400㎡まで80%減額できます。要件によっては「貸付事業用宅地等」となり、200㎡まで50%減額です。
対象となるのは、会社名義の土地ではなく、被相続人が所有して会社に貸していた土地です。適用要件は土地の利用状況などによって異なるため、個別に確認しましょう。
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配偶者の税額軽減の利用
配偶者が自社株を相続する場合は、「配偶者の税額軽減」を適用できることがあります。配偶者が取得した財産のうち、1億6,000万円または法定相続分相当額のいずれか多い金額までは、相続税がかかりません。
ただし、配偶者が後継者でない場合は、二次相続にも注意が必要です。一次相続の税負担を抑えられても、配偶者の死亡時に自社株が再び相続財産となり、子どもの税負担が増える場合があります。
なお、配偶者の税額軽減で納税額が0円になる場合でも、相続税の申告は必要です。原則として申告期限までに遺産分割を終える必要がありますが、未分割の場合でも一定の手続きにより後から適用を受けられることがあります。
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会社を相続する手続きの流れ
会社の相続は、一般的な相続手続きと並行して進める必要があります。
大まかな流れは以下のとおりです。
- 相続人・相続財産の確認(死亡後すみやかに)
- 株式の評価(相続税の申告期限までに)
- 遺産分割協議
- 株主名簿の書き換え・登記変更
- 相続税の申告・納税(相続の開始を知った日の翌日から10か月以内)
具体的にみていきましょう。
(1)相続人・相続財産の確認
まず、戸籍調査によって法定相続人を確定させ、遺言書の有無を確認します。
自社株については、株主名簿や定款を確認して、被相続人の持株数・持株比率を把握しましょう。
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(2)株式の評価
税理士などの専門家に依頼して、自社株の相続税評価額を算出します。
評価方式の選択や計算には専門的な知識が必要です。
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(3)遺産分割協議
相続人全員で話し合い、誰が自社株を引き継ぐかを決めます。
経営権を守るうえでは、後継者に自社株を集中させることが重要なポイントです。
株式が分散すると、少数株主からの買取請求や株主代表訴訟といったリスクが生じ、経営の安定が損なわれるおそれがあります。
事業承継税制を利用する場合、相続開始の翌日から8か月以内に都道府県知事への認定申請が必要です。
そのため、遺産分割協議はできるだけ早期に完了させることが求められます。
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(4)株主名簿の書き換え・登記変更
遺産分割協議が成立したら、株主名簿の名義変更を行います。
被相続人が代表取締役だった場合は、役員変更の登記も必要です。
なお、事業承継税制の納税猶予を受けるには、相続開始の翌日から5か月を経過する日までに後継者が代表権を取得していることが要件の一つとなっています。
これは、都道府県知事への認定申請(相続開始後5か月経過後〜8か月以内)の前提となる要件であり、相続税の申告期限(10か月以内)よりも早い段階での対応が求められていることに注意しましょう。
(5)相続税の申告・納税
相続税の申告・納付期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。
事業承継税制を利用する場合も、この期限内に必要書類をそろえて申告する必要があります。
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会社相続のポイント
後継者に自社株を集中させる
会社の相続では、経営権の分散を避けるため、後継者に自社株を集中させることが基本です。他の相続人には、不動産や預貯金など別の財産を相続してもらう方法があります。
相続人が複数いる場合、自社株を分けて相続すると、議決権が分散して経営に影響することがあります。
中小企業庁が公表した資料によると、少数株主の存在で経営に困ることがあると回答した人のうち、「株式買取を請求された」が20%、「株主代表訴訟のリスクがある」が14%、「株主総会が混乱する」が11%でした(経済産業省「令和7年中小企業の親族内承継に関する検討会 中間とりまとめ 参考資料」)。
また、中小企業基盤整備機構の2011年「事業承継実態調査報告書」では、経営者の平均株式保有割合は66.4%で、50%超を保有する経営者は61.4%を占めています。
後継者が安定して経営できるよう、相続後の議決権割合を考慮して自社株の承継方法を決めましょう。
後継者以外の相続人への配慮も必要
後継者に自社株を集中させる場合は、他の相続人の取り分にも配慮が必要です。
配偶者・子(代襲相続人を含む)・直系尊属には、法律上保障された最低限の相続分である「遺留分」が認められています。
後継者以外の相続人から遺留分侵害額請求を受けると、後継者は金銭を支払う必要があります。
対策として、遺留分に配慮した遺言書を作成するほか、経営承継円滑化法による民法の特例を活用できます。
民法の特例には、次の2つがあります。
- 除外合意
後継者へ生前贈与した自社株を、遺留分の計算の基礎となる財産から除外する合意 - 固定合意
遺留分の計算に用いる自社株の価額を、合意時の評価額に固定する合意
いずれも、遺留分を有する推定相続人全員と後継者の合意に加え、経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可が必要です。相続発生後には利用できないため、生前に手続きを進めます。
なお、兄弟姉妹には遺留分がありません。そのため、後継者以外の相続人が兄弟姉妹の場合は、遺留分によって自社株の承継に影響が生じることはありません。
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・遺留分をもらった場合の相続税は?計算方法と侵害額請求後の申告手続き
子どもが複数いる場合の自社株の分け方
子どもが複数いる場合、自社株を均等に分けると議決権が分散し、後継者が経営に必要な議決権を確保できないことがあります。
そのため、自社株は後継者に集中させ、他の子どもには不動産や預貯金など別の財産を相続してもらう方法が考えられます。
他に分けられる財産が少ない場合は、代償分割も選択肢です。後継者が自社株を相続し、他の子どもに自分の財産から代償金を支払います。生命保険を活用して、代償金の原資を準備しておく方法もあります。
なお、遺言で後継者に自社株を集中させても、他の子どもの遺留分を侵害すると、遺留分侵害額請求を受けることがあります。相続税や代償金などの資金負担も踏まえ、生前から承継方法を検討しておきましょう。
兄弟が相続人になる場合の注意点
兄弟姉妹が相続人になるのは、被相続人に子・孫などの直系卑属がおらず、父母・祖父母などの直系尊属もいない場合です(民法889条)。
子が亡くなっていても孫やひ孫がいる場合や、父母が亡くなっていても祖父母が存命の場合は、兄弟姉妹は相続人になりません。
兄弟姉妹には遺留分がありません。そのため、遺言書で自社株を後継者に相続させると定めても、兄弟姉妹から遺留分侵害額請求を受けることはありません。
子どもがいない経営者は、遺言書で自社株の承継先を決めておくと、株式の分散を防ぎやすくなります。
一方、遺言書がない場合は、兄弟姉妹を含む相続人で遺産分割協議を行います。自社株の承継先について合意できなければ、株式が分散したり、事業承継が進まなかったりするおそれがあります。
また、兄弟姉妹が相続した財産には、原則として相続税額の2割加算が適用されます(相続税法18条)。自社株は換金しにくい場合もあるため、相続税の納税資金もあわせて準備しておきましょう。
相続税の納税資金を確保しておく
自社株は現金化しにくいため、相続税の納税資金が不足するリスクがあります。
生命保険の活用や、役員報酬・配当として事前に資金を蓄えておくことも対策のひとつです。
相続発生後に納税資金が不足した場合の実務的な手段として、「自社株買い(金庫株)」があります。
後継者が相続した自社株を会社に買い取ってもらうことで現金を確保し、相続税に充てる方法です。
通常、非上場株を発行会社に売却するとみなし配当として総合課税の対象となり、所得状況によっては最大約55%程度の高税率が課される可能性があります。
しかし、相続税を納付する人が、相続で取得した自社株を一定期間内に発行会社へ譲渡した場合は、「相続により取得した非上場株式を発行会社に譲渡した場合の課税の特例」により、一律20.315%の譲渡所得課税に抑えることが可能です。
この特例は、相続の開始があった日の翌日から、相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までの間に譲渡するなどの要件があるため、相続発生後は早期に専門家へ相談することをおすすめします。
会社の相続における相続放棄は慎重に
相続人は、株式を相続したくない場合に「相続放棄」を選択できますが、すべての財産を手放すことになるため慎重な判断が必要です。
会社の業績不振の場合、会社の債務については、経営者であった被相続人が連帯保証人となっている可能性があるため、株式以外のマイナスの財産も相続してしまう恐れがあります。
また、業績が良好であっても経営を引き継ぐ意思がなければ、換金性のない株式のために多額の相続税を負担することを避けたいでしょう。
相続放棄により負担を回避することが可能ですが、相続放棄を行うと株式や借金だけでなく、土地や建物といったすべての権利を引き継げなくなります。
そのため、相続人は慎重に有利・不利を検討しましょう。
相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に行う必要があります。被相続人の死亡だけでなく、自分が相続人になったことを知った時から数える期限です。判断に迷う場合は、早めに弁護士へ相談しましょう。
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事業承継と相続の違い|生前対策の重要性
事業承継と相続は別の概念
「事業承継」と「相続」は混同されがちですが、異なる概念です。
| 項目 | 事業承継 | 相続 |
|---|---|---|
| タイミング | 生前でも死後でも可能 | 死亡後に発生 |
| 目的 | 経営の継続・会社の存続 | 財産の引き継ぎ |
| 方法 | 贈与・売買・相続など | 法定相続・遺言など |
| 計画性 | 計画的に進められる | 急に発生することも |
理想は、生前から計画的に事業承継を進め、相続が発生したときに備えておくことです。
生前に行うべき5つの対策
経営者が突然亡くなった場合、遺族が自社株の評価・納税・経営権の引き継ぎを同時に進めなければならず、非常に混乱します。
特に以下の対策は、生前に行っておくことが強く推奨されます。
①遺言書の作成
後継者に自社株を集中させる意思を明確にしておくことで、遺産分割協議でのトラブルを防ぎます。
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②生前贈与による株式の移転
暦年贈与や相続時精算課税制度を使って少しずつ株式を後継者に移転することで、将来の相続における課税対象財産を減らすこと(または、株価が低いうちに移転しておくこと)ができます。
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③事業承継税制の活用準備
特例措置の「特例承継計画」提出期限は2027年9月30日、特例適用の期限(贈与・相続の実行期限)は2027年12月31日です。
なお、株式等の贈与・相続が先に発生した場合でも、その後に特例承継計画を作成・提出することは可能です。ただし、都道府県知事への認定申請時までに提出する必要があります。
この場合も、特例承継計画の提出期限である2027年9月30日までの提出が必要です。特例措置の対象となる贈与・相続の期限は2027年12月31日ですが、計画の提出期限は3か月早く到来します。贈与・相続後では提出期限に間に合わない場合もあるため、早めに提出しておくと安心です。
④持株会社(ホールディングス)の設立
自社株を持株会社に移転し、相続税評価額の引き下げや事業承継をスムーズにする方法もあります。
専門家への相談が前提となりますが、有効な手法のひとつです。
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⑤生命保険の活用
被相続人が保険料を負担していた死亡保険金は、「みなし相続財産」として相続税の対象になります。
ただし、相続人が受け取った死亡保険金には、「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があります。相続放棄をした人や相続人以外の人は対象外です。
保険料の負担者によっては、所得税や贈与税がかかる場合もあります。事業承継で生命保険を活用する際は、契約内容を事前に確認しておきましょう。
後継者を受取人にしておけば、相続税の納税資金を確保する方法として活用できます。
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後継者がいない場合はどうなる?
後継者不在は多くの中小企業が直面する課題です。
帝国データバンクの「全国企業後継者不在率動向調査」によると、2025年における日本企業の後継者不在率は50.1%で、中小企業に限ると51.2%、小規模企業では57.3%にのぼります。
また、2025年に代表者交代が行われた企業のうち、同族承継による就任は32.3%と、内部昇格(36.1%)を下回っており、親族外への事業承継が主流になりつつあります。
後継者がいない場合でも、会社をどうするかを早期に判断することが、会社と遺族双方を守るうえで重要です。
M&A(会社の売却・譲渡)
第三者への株式譲渡(M&A)という方法があります。
後継者がいない場合でも、第三者に株式を譲渡することで、会社の存続や従業員の雇用維持を図れる場合があります。
経営者が生前に株式を売却し、売却代金を保有したまま亡くなった場合は、その現預金が相続財産となります。一方、相続人が自社株を相続した後に売却した場合は、株式の譲渡による所得に対して所得税などがかかる場合があります。
廃業・清算
事業の継続が難しい場合は、会社を解散・清算する方法もあります。
この場合、清算で残余財産が株主(相続人)に分配される場合、株主側で「みなし配当」等として所得税が課される可能性がある点に注意が必要です。
具体的な課税は分配の内訳等によって異なるため、専門家に確認をとりましょう。
役員や従業員への承継
従業員や役員が株式を買い取って会社を引き継ぐ方法も有力な選択肢です。
内部事情に精通した人材が承継するため継続性を保ちやすい一方、後継者候補の資金調達が課題となることがあります。
中小企業基盤整備機構の2011年「事業承継実態調査報告書」によると、役員・従業員への承継を考えている企業の20.1%が「後継者が株式を買い取ること」を課題として挙げています。
会社の相続についてよくある質問
Q.会社の相続で相続税はいくらかかる?
会社の相続では、自社株も相続税の計算対象になります。
非上場株式は財産評価基本通達に基づいて評価し、他の相続財産と合算して相続税を計算します。税額は自社株の評価額や遺産総額、適用できる控除・特例によって異なります。
Q.会社を相続したら社長も引き継げる?
社長(代表取締役)の地位そのものは相続できません。
自社株を相続しても、自動的に代表者になるわけではなく、会社法や定款に従った選任手続きが必要です。後継者が経営権を確保するには、承継する議決権の割合も重要になります。
Q.会社相続で兄弟に権利はある?
子・孫などの直系卑属も、父母・祖父母などの直系尊属もいない場合は、兄弟姉妹が相続人になります。
ただし、兄弟姉妹には遺留分がないため、遺言によって後継者に自社株を集中させても、兄弟姉妹から遺留分侵害額請求を受けることはありません。
Q.自社株の相続税が払えないときはどうする?
事業承継税制による納税猶予や延納・物納を利用できる場合があります。
また、相続した非上場株式を発行会社へ売却し、納税資金を確保する方法もあります。利用できる制度や税務上の扱いは条件によって異なるため、早めに税理士へ相談しましょう。
会社相続は専門家への相談が不可欠
会社(自社株)の相続は、一般的な相続と比べて専門的な知識と実務経験が求められます。
主な専門家の役割は以下のとおりです。
- 税理士
自社株の評価額の算出、相続税・贈与税の申告、事業承継税制の適用申請 - 弁護士
遺産分割協議のトラブル対応、遺留分問題、遺言書の作成、M&Aにおける契約書作成など - 司法書士
法務局での役員変更登記などの手続き、株主名簿の名義変更サポート - 中小企業診断士
事業承継計画の策定、後継者教育、承継後の経営戦略の立案
自社株が絡む相続では、評価額の算出方法の選択・特例の適用可否・遺産分割の方針など、判断すべき事項が多岐にわたります。
1人の専門家では対応しきれないケースも多いため、複数の専門家が連携した総合的なサポートを求めるべきでしょう。
まずは相続・事業承継に詳しい弁護士や税理士に相談し、早めに全体像を把握することが、会社と遺族を守るうえでの第一歩です。

監修者
高部孝之税理士事務所
税理士高部孝之
2019年税理士試験合格 2020年税理士登録
都内大手税理士法人にて約13年間勤務。資産税部門の責任者などを経て、2024年に独立し浅草にて資産税を強みとする税理士事務所を開業。
専門用語を用いず、平易な言葉で説明することを大切にしており、お客様が親しみやすく相談しやすい税理士を理想としています。
保有資格
税理士・FP技能士1級・相続診断士