遺贈でかかる税金は?|相続税・不動産取得税・登録免許税を解説

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遺贈の税金
  • 遺贈を受けたけれど、どのような税金をいくら支払えばいいのか分からない
  • 遺贈をした場合、受け取った人に税金がいくらかかるか知っておきたい

このようなお悩みをもつ方に向け、この記事では、遺贈によって生じる税金についてわかりやすく解説します。

遺贈をしたいとお考えの方や、遺贈を受けた方に役立つ情報をまとめましたので、ぜひ参考になさってください。

遺贈とは?

遺贈の意味

遺贈とは、被相続人(故人)が遺言によって無償で自己の財産を他人に与える行為です。

遺贈の相手方は、法定相続人に限りません。法定相続人以外の人や法人も遺贈を受けることができます。遺贈の相手方を「受遺者」といいます。

これに対し、相続は法定相続人のみが対象です。

したがって、法定相続人以外に遺産を渡したいと考える場合、必ず遺言書を作成しておく必要があります。

例えば、被相続人に配偶者と子がいる場合、法定相続人は配偶者と子です。被相続人はお世話になった第三者Aに相続財産の一部を渡したいと考え、その旨の遺言書を作成しました。このとき、Aに財産を与える行為が遺贈、Aが受遺者に当たります。

遺贈の種類

遺贈は、大きく分けて①特定遺贈と、②包括遺贈の2種類があります。

①特定遺贈

特定遺贈は、財産を特定して遺贈する方法です。

例えば、「遺言者は、遺言者の有する次の土地を遺言者の孫〇〇(昭和△年△月△日生)に遺贈する」という場合は特定遺贈に当たります。

②包括遺贈

包括遺贈とは、相続財産の全部または一部を一定の割合で示して遺贈する方法です。

例えば、「遺言者は、遺言者の有する財産の全部を遺言者の甥〇〇(昭和△年△月△日生)に包括して遺贈する」「遺言者は、遺言者の有する財産のうち3分の1を遺言者の内縁の妻(昭和△年△月△日生)に包括して遺贈する」という場合は包括遺贈に当たります。

注意していただきたいのは、包括遺贈はマイナスの財産や義務も受遺者に引き継がれる点です。被相続人の方は、ご自身のお考えが正しく遺言書に反映されるよう、専門家に相談の上、遺言書の文言を慎重にご検討ください。

遺贈の場合に生じる税金

遺贈を受けた場合、受遺者は「相続税」「不動産取得税」「登録免許税」を負担する可能性があります。

以下では

、それぞれの税金の計算方法や注意点について解説します。

遺贈における相続税の計算方法は?

相続税の計算方法

遺贈を受けた場合、受遺者は相続税の支払義務を負う可能性があります。贈与税の支払義務ではありませんのでご注意ください。

相続税の計算方法は以下のとおりです。相続税の計算方法について、より詳しく知りたい方は『相続税はいくらから生じる?|基礎控除額も解説』をぜひご覧ください。

【相続税の計算方法】

STEP1 正味の遺産額(課税価格の合計額)を求める
STEP2 正味の遺産額から基礎控除額を引く
STEP3 相続人各人の法定相続分をかける
STEP4 法定相続分に応じた取得金額に相続税の税率をかけてから控除額を引く
STEP5 各相続人の算出税額を合計して相続税の総額を求める
STEP6 各相続人の実際の相続割合をかける
STEP7 2割加算や各種控除を適用して各相続人の納税額を算出する

ただし、受遺者が法定相続人でない場合は、相続税の計算上、注意しなければならない点があります。これは非常に重要な点ですので、次の項で詳しく解説します。

【重要】受遺者が相続人でない場合の注意点 

相続税の計算上、受遺者が法定相続人でない場合には以下の点に注意する必要があります。

  • 法定相続人でない受遺者は、基礎控除の「法定相続人」の数に含めない
  • 受遺者が配偶者、子ども、父母以外の場合、相続税が2割加算される
  • 未成年者控除や障害者控除は適用されない

各注意点について、次の【具体例】をもとに、相続税の計算順序に従ってご説明します。

【具体例】

正味の遺産額:1億円

相続割合:配偶者1/2 長男1/5 次男1/5 孫1/10

STEP1 正味の遺産額(課税価格の合計額)を求める

本件では、正味の遺産額は1億円です。

STEP2 正味の遺産額から基礎控除額を引く

相続税の基礎控除額は、相続税額を計算する上で控除できる非課税枠です。

計算式は「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」です。

ここでは、次の点に注意してください。

【注意点】

受遺者が法定相続人でない場合、基礎控除の「法定相続人」の数に含めない

本件の法定相続人は、配偶者、長男、二男の3人です。孫は法定相続人ではありません。

したがって、基礎控除額は、3,000万円+(600万円×3)=4,800万円です。

正味の遺産額から基礎控除額を差し引くと、1億円ー4,800万円=5,200万円です。

STEP3 相続人各人の法定相続分をかける

【法定相続分の一覧表】

法定相続人が複数の場合、法定相続分を人数分に分けます。

親族構成配偶者あり配偶者なし
子がいる場合配偶者 1/2
子   1/2
子ども 1
子がいない場合配偶者  2/3
直系尊属 1/3   
直系尊属 1
子も直系尊属もいない場合配偶者  3/4
兄弟姉妹 1/4
兄弟姉妹 1
配偶者のみの場合配偶者 1

本件では、法定相続人は配偶者、長男、二男の3人ですので、計算は以下のとおりになります。孫は法定相続人ではないので、ここでは考慮しません。

配偶者:5,200万円×1/2=2,600万円

長男:5,200万円×1/2×1/2=1,300万円

二男:5,200万円×1/2×1/2=1,300万円

STEP4 法定相続分に応じた取得金額に相続税の税率をかけてから控除額を引く

【相続税の速算表】

法定相続分に応じた取得金額税率控除額
1,000万円以下10%
3,000万円以下15%50万円
5,000万円以下20%200万円
1億円以下30%700万円
2億円以下40%1,700万円
3億円以下45%2,700万円
6億円以下50%4,200万円
6億円超55%7,200万円

配偶者:2,600万円×15%ー50万円=340万円

長男:1,300万円×15%ー50万円=145万円

二男:1,300万円×15%ー50万円=145万円

STEP5 各相続人の算出税額を合計して相続税の総額を求める

相続税の総額は、340万円(配偶者)+145万円(長男)+145万円(二男)=630万円です。

STEP6 各相続人の実際の相続割合をかける

本件では、相続割合は、「配偶者1/2 長男1/5 長女1/5 孫1/10」です。この割合に応じて、STEP5で求めた相続税の総額を配分します。

配偶者:630万円×1/2=315万円

長男:630万円×1/5=126万円

二男:630万円×1/5=126万円

孫:630万円×1/10=63万円

STEP7 2割加算や各種控除を適用して各相続人の納税額を算出する

最後に、必要に応じて、2割加算や各種控除を適用します。

ここでは、次の点に注意してください。

【注意点】

一親等の血族(代襲相続人となった孫を含む)及び配偶者以外の者が相続や遺贈で財産を取得した場合、相続税が2割加算される。

具体的には、遺贈を受けた人が孫、兄弟姉妹、第三者などの場合に相続税が2割加算されます。

本件では、法定相続人ではない孫が遺贈により財産を取得しています。したがって、孫の納付税額は、63万円×1.2=75万6,000円です。

受遺者が法定相続人ではない場合、もう1つ注意点があります。

【注意点】

法定相続人以外の者には、未成年者控除や障害者控除は適用されない

相続財産を取得した法定相続人が未成年の場合、未成年者控除が適用され、納付税額が軽減されます。相続財産を取得した法定相続人が障害者の場合は、障害者控除により納付税額が軽減されます。

しかし、孫や第三者など法定相続人でない者には、これらの控除は適用されません。

したがって、本件で、孫が未成年や障害者であったとしても、未成年控除や障害者控除は適用されません。

よって、孫の納付税額は、75万6,000円です。

なお、配偶者は、配偶者の税額軽減(※)が適用されるため、納付税額は0円です。

長男と二男の納付税額は、それぞれ126万円です。

※配偶者の税額軽減

配偶者が相続した「1億6,000万円」または「法定相続分」のうち多い金額までの所得財産については、相続税がかかりません。

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遺贈で不動産を取得した場合の手続き・税金は?

遺贈を原因とする登記手続き

相続の場合、相続人が1人で所有権移転登記手続きをすることが可能です。しかし、遺贈の場合は、以下のとおり、必ず共同で申請しなければなりません。

①遺言執行者がいない場合

受遺者は、法定相続人全員と共同で登記申請手続きを行う必要があります。法定相続人全員の印鑑証明書を添付しなければなりません。

②遺言執行者がいる場合

遺言書で遺言執行者が指定されている場合または家庭裁判所で遺言執行者が選任されている場合、受遺者が遺言執行者と共同で登記申請を行います。

遺贈は不動産取得税がかかる可能性がある

特定遺贈により法定相続人以外の人が不動産を取得した場合、不動産取得税がかかります。

一方、包括遺贈により法定相続人以外の人が不動産を取得した場合や相続の場合、不動産取得税はかかりません。

不動産取得税の計算式は以下のとおりです。

不動産取得税額=固定資産評価額×税率

固定資産税評価額は、毎年度初めに市町村から送付される固定資産税納税通知書に記載されています。

税率は、原則4%です。もっとも、令和6年3月31日までは、土地と住宅の税率が3%に軽減されています。

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遺贈の場合は登録免許税が高い

不動産の登記名義を変更する際、登録免許税がかかります。計算式は以下のとおりです。

登録免許税=固定資産評価額×税率

遺贈の場合、税率は2%です。一方、相続の場合、税率は0.4%です。

例えば、固定資産税評価額が1,000万円の不動産を相続または遺贈により引き継いだ場合、以下のような違いが生じます。

  • 相続の場合:登録免許税4万円
  • 遺贈の場合:登録免許税20万円
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遺贈のご相談は税理士へ

ここまでご説明したとおり、遺贈により相続税・不動産取得税・登録免許税の負担が生じる可能性があります。受遺者が法定相続人以外の場合、税金の負担が想像以上に重くなるおそれもあります。

遺贈をしたいとお考えの方は、税金面で受遺者に過度な負担が生じないか事前によく検討することをおすすめします。

遺贈を行うためには必ず遺言書が必要です。遺言書を作成する際、税理士をはじめとする専門家にぜひご相談ください。税理士は、ご相談者様のご希望を実現しつつ、受遺者の方が税金の問題で困らないようバランスのとれた遺言内容をご提案いたします。

遺贈を受けたものの、税金がいくらかかるか分からないとお悩みの方もお気軽に税理士にお問い合わせください。

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