配偶者と子供で投資信託を相続する際に知っておきたいこと
被相続人が投資信託を保有していた場合、相続人となる配偶者と子供は、投資信託を相続することになります。投資信託を相続する際には、相続税評価額の算出や遺産分割、名義変更について知っておくことが大切です。この記事では、配偶者と子供で投資信託を相続するときに知っておきたい基礎知識について、わかりやすく解説します。
『配偶者と子供による投資信託の相続』に関する基本事項
投資信託を相続するときの手続きの流れ
投資信託を相続する際は、以下の流れで相続手続きを進めます。
1.遺言書の有無を確認する
被相続人が遺言書を作成していた場合は、遺言書の内容に従って相続手続きを行います。遺言書がない場合は、遺産分割協議などを行って相続手続きを進めます。
2.相続人を確認する
相続人となるのは、被相続人の配偶者、子供、父母、兄弟姉妹などです。このとき相続人調査を行い、誰が相続人になるのかを確認する場合もあります。
3.証券会社や信託銀行に被相続人が亡くなったことを伝える
証券会社や信託銀行に、被相続人が亡くなったことを知らせます。これにより、被相続人の口座は凍結され、取引が停止されます。また、遺産分割のために残高証明書を発行してもらいましょう。
4.相続財産を確認する
相続財産調査を行い、不動産や預貯金など、投資信託以外にどのような財産があるのか、評価額はいくらなのかを確認します。
5.遺産分割協議を行う(遺言書がない場合)
遺言書がない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行い、どのように分割するかを決めます。遺産分割協議が成立しない場合は、家庭裁判所に調停や審判を申し立てます。
6.証券会社や信託銀行で相続人の口座を開設し、相続手続きを行う
取引をしていた証券会社や信託銀行で、投資信託の移管手続きを行います。相続にあたって、被相続人が保有していた投資信託を、相続人の口座へ移す必要があります。相続人が口座を持っていない場合は、新たに開設します。
7.必要に応じて相続税の申告・納税を行う
相続財産の評価額の合計が基礎控除額を超える場合は、相続税の申告が必要です。また、必要に応じて納税も行います。
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投資信託の名義変更手続きに必要な書類
投資信託の名義変更手続きには、以下の書類などが必要です。
遺言書がある場合
- 取引報告書など証券会社から送られてきた書類(口座情報の確認のため)
- 遺言書(公正証書遺言または自筆証書遺言)
- 被相続人の戸籍謄本(死亡までのもの)
- 検認済証明書(自筆証書遺言の場合)
- 印鑑登録証明書(相続人または受遺者、遺言執行者のもの)
- 相続手続き書類
遺産分割協議書がある場合
- 取引報告書など証券会社から送られてきた書類(口座情報の確認のため)
- 被相続人の戸籍謄本(死亡までのもの)
- 相続人全員分の印鑑登録証明書
- 遺産分割協議書
- 相続手続き書類
遺言書や遺産分割協議書がない場合
- 取引報告書など証券会社から送られてきた書類(口座情報の確認のため)
- 被相続人の戸籍謄本(死亡までのもの)
- 相続人全員分の印鑑登録証明書
- 相続手続き書類
証券会社や信託銀行によって必要書類が異なる場合もあるため、くわしくは問い合わせてみてください。
投資信託の相続税評価額を計算する方法
投資信託の相続税の評価方法は、投資信託の種類によって異なります。
日々決算型の証券、投資信託の受益証券
日々決算型の証券には、中期国債ファンドやMMF(マネー・マネージメント・ファンド)、MRF(マネー・リザーブ・ファンド)などがあります。日々決算型の投資信託の評価方法は、以下のとおりです。
評価額=1口あたりの基準価額×口数+未収分配金-未収分配金に対する源泉徴収所得税額-信託財産留保額および解約手数料
上場投資信託、不動産信託の受益証券
ETF(上場信託)やJ-REIT(不動産信託)の場合は、次のうち最も低い価額で評価できます。
- 相続開始日の終値
- 相続開始日を含む月の毎日の終値の平均
- 相続開始日の前月の毎日の終値の平均
- 相続開始日の前々月の毎日の終値の平均
その他の投資信託の受益証券
上記以外の投資信託の評価方法は、以下の方法で算定します。
評価額=相続開始日の1口あたりの基準価額×口数-相続開始日に解約請求などをした場合の源泉徴収所得税額-信託財産留保額および解約手数料
法定相続分による相続割合【配偶者と子供で相続する場合】
配偶者と子供の法定相続分は2分の1ずつです。子供が複数人いる場合は、遺産の2分の1を子供の人数で均等に分割します。
法定相続人 | 相続割合 |
---|---|
配偶者+子1人 | 配偶者:1/2 子:1/2 |
配偶者+子2人 | 配偶者:1/2 子:1人あたり1/4 |
配偶者+子3人 | 配偶者:1/2 子:1人あたり1/6 |
被相続人が亡くなって2億円の相続が発生し、配偶者と子供2人が相続人となった場合、配偶者の法定相続分は1億円、子供の法定相続分は5,000万円ずつになります。
法定相続分は、相続人の間で遺産分割協議を行う際に、法律上の分け方の目安となるものです。ただし、相続人全員が合意すれば、法定相続分とは異なる割合で遺産を分割することも可能です。
相続税における基礎控除の概要と計算方法
相続税は、課税対象となる遺産の総額が基礎控除額を上回る場合に申告の義務が発生し、場合によっては相続税額が発生することもあります。相続税の基礎控除額の計算方法は、以下のとおりです。
【基礎控除額の計算方法】
基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
法定相続人 | 基礎控除額 |
---|---|
1人 | 3,600万円 |
2人 | 4,200万円 |
3人 | 4,800万円 |
4人 | 5,400万円 |
たとえば、法定相続人が配偶者と子供1人の場合は4,200万円、配偶者と子供2人の場合は4,800万円が基礎控除として遺産総額から差し引かれます。遺産の総額が基礎控除額を下回る場合は相続税は発生せず、申告の必要もありません。
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相続税の申告方法と申告期限
遺産の総額が基礎控除額を超える場合は、被相続人の住所地を管轄する税務署に申告します。申告期限は、相続の開始があったことを知った日(通常は被相続人が亡くなった日)の翌日から10か月以内です。
相続税の申告書は、税務署の窓口で入手できるほか、国税庁のホームページからもダウンロードできます。申告書の提出方法は、持参または郵送のほか、e-Tax(電子申告)でも可能です。
相続税の申告書作成は、自分で行うこともできますが、専門的な知識を要するため、税理士に依頼することをおすすめします。
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配偶者控除で配偶者分の相続税負担を軽減
相続税における配偶者控除(配偶者の税額軽減)とは、被相続人の配偶者が取得した財産のうち、1億6,000万円または法定相続分のいずれか多い金額までは相続税が課税されない制度です。配偶者控除の適用を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 被相続人と法律上の結婚関係にある
- 遺産分割が完了している
- 相続税の申告期限までに相続税の申告書を提出する
たとえば、被相続人が配偶者と子供2人を残して亡くなり、相続財産の合計が2億円の場合、配偶者の法定相続分は1億円です。このとき配偶者控除を適用することで、配偶者分の相続税は0円になります。
ただし、のちに配偶者が亡くなって配偶者の財産を子供が相続するときに、相続税負担が増える可能性があるため注意が必要です。そのため、相続税を節税するための最善策を検討する場合は、税理士に相談することをおすすめします。
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投資信託を相続する際の注意点
投資信託を相続する際は、以下のことに注意しましょう。
被相続人名義のままでは解約できない
被相続人が亡くなると、投資信託の口座は凍結されます。そのため、被相続人名義のままで解約はできません。解約をして現金化する場合も、相続人の口座へ移管する必要があります。
価格変動する可能性がある
株式や債券は日々価格が変動することから、相続開始時と移管時、売却時で価値が大きく変わることもあります。そのため、タイミングによっては価格が下がる可能性もあるということを理解しておきましょう。
コストがかかる
投資信託は運用を委託する金融商品になるため、運用中や売却時に手数料がかかります。そのため、投資信託を相続する際は、運用コストや売却コストも考慮しておくことも必要です。
『配偶者と子供による投資信託の相続』に関するよくある質問
投資信託を相続するにはどうすればいいですか?
被相続人が亡くなったことを金融機関に伝え、口座を凍結してもらいます。その後、遺言書の確認や遺産分割協議を行い、金融機関で相続手続きを行います。
投資信託を相続すると相続税はかかりますか?
投資信託を含む遺産の総額が基礎控除額を超えた場合は、相続税の申告義務が発生します。ただし、配偶者控除などの控除を適用することで、相続税がかからない場合もあります。
相続した投資信託はどのように運用すればよいですか?
相続した投資信託は、投資目的やリスク許容度などを考慮して、継続して運用するか、売却して現金化するかを検討します。継続運用する場合は、コストを意識しながら運用することが大切です。
投資信託を相続するときに注意すべきことはありますか?
投資信託を売却して現金化することを選択した場合、相続人の口座に移管した後でなければ売却できません。また、日々価格が変動するためタイミングによっては価格が下がる可能性があること、運用や売却に手数料がかかること、売却益に対して相続人に所得税が課税されることがある点も理解しておきましょう。
相続手続きは自分でできますか?
相続手続きは自分で行うこともできます。しかし、投資信託などの遺産を相続する場合は、専門家に依頼したほうがいいでしょう。専門家に依頼することで、相続税評価額を適切に算定したり、遺産分割や相続手続きをスムーズに進めることができます。
他にもおさえておきたい相続の基本
いざというときに備えて、相続対策や相続手続きについて理解しておくことは大切です。ほかの記事でも相続の基礎知識について詳しく解説しておりますので、ぜひお役立てください。
監修者情報
アトムグループ 協力税理士