父の遺産が未分割のまま母が死亡した場合、相続税申告はどう対処する?

父の遺産分割が終わらないうちに母も亡くなった場合でも、父の遺産をそのまま子どもだけで相続することになるわけではありません。
父の遺産について「母が何をどれだけ相続するか」を決めたうえで、その財産を含めて母の相続(二次相続)についても考える必要があります。
また、相続税についても父の相続(一次相続)と母の相続(二次相続)をそれぞれ申告する必要があり、母が一次相続で相続税申告をする必要がある場合、その申告義務は子どもが引き継ぎます。
父の遺産が未分割でも相続税の申告期限は延長されないため、一次相続・二次相続それぞれの期限を確認しながら手続きを進めることが重要です。
この記事では、父の遺産が未分割のまま母が死亡した場合の遺産の扱いや相続税の申告期限、遺産分割の進め方、税負担を抑えるポイントをわかりやすく解説します。
目次
父の遺産が未分割のまま母が死亡した場合、数次相続となる
母の相続人が母の立場を引き継いで父の遺産分割を行う
父が亡くなったあと遺産分割が完了しないうちに相続人である母も亡くなった場合、いわゆる「数次相続(すうじそうぞく)」となります。
たとえば、父の相続人が母と子ども2人だった場合、本来は3人で父の遺産をどのように分けるか話し合います。
しかし、その話し合いが終わる前に母が亡くなっても、父から母への相続がなかったことにはなりません。母の相続人である子どもたちが母の立場を引き継ぎ、父の遺産分割を行います。
具体的には次のような流れになります。
- 父が死亡し、母と子どもが相続人になる父の遺産分割が終わらないうちに母も死亡する
- 子どもが、父(一次相続)の遺産分割と母(二次相続)の遺産分割をする
- 子どもは、自分が一次相続・二次相続で取得する財産にかかる相続税の申告と、母が一次相続で取得する財産にかかる相続税の申告をする(申告が必要な場合)
このように、一つ目の相続の遺産分割が終わる前に、その相続人が亡くなって次の相続が発生することを「数次相続」といいます。
数次相続・代襲相続・再転相続の違い
数次相続と似たような言葉や制度として、「代襲相続」や「再転相続」というものがあります。
それぞれの制度の違いは、以下の通りです。
- 数次相続:先行の相続について承認後、遺産分割が完了する前に相続人が死亡した場合
- 代襲相続:本来の相続人が被相続人より先に死亡している場合
- 再転相続:相続開始後、相続の承認・放棄を決める前に相続人が死亡した場合
本記事では、父の相続を承認した後、遺産分割が完了する前に母が亡くなったケースを想定し、数次相続の解説をしていきます。
なお、母が相続の承認・放棄をしないまま亡くなった場合は「再転相続」となります。再転相続については関連記事『数次相続・再転相続とは?相続税の申告義務・期限への影響や代襲相続との違い』にてご確認ください。
一次相続が未分割のまま二次相続が発生した場合の相続税と申告義務
母が父から取得する財産は二次相続の課税対象になる
父の遺産を分割する前に母が亡くなっても、父から母への相続がなかったことになるわけではありません。
その後の遺産分割で母が父から取得することになった財産は、一次相続では母が父から相続した財産として扱われ、さらに二次相続では母から子どもたちが相続する財産となります。
たとえば、母自身の預貯金や不動産が2,000万円あり、父の遺産から2,500万円を取得することになった場合、二次相続では原則として合計4,500万円が母から引き継ぐ財産となります。
一次相続における母の申告義務は子どもが引き継ぐ
先述のとおり、父の遺産を分割する前に母が亡くなっても、父から母への相続がなかったことにはなりません。
それにより相続税が発生するなら、相続税の申告が必要です。
この、本来であれば母自身が負うはずだった一次相続の申告義務は、母の相続人である子どもが引き継ぎます。
そのため子どもは、一次相続・二次相続それぞれにおいて以下の申告をしなければなりません。
- 一次相続(父の遺産を相続)
- 父から自分が相続した財産についての申告
- 母が父から相続した財産についての申告
- 二次相続(母の遺産を相続)
- 母から自分が相続した財産についての申告
なお、同じ一次相続についての申告であっても、自分が相続した財産についての申告と、母が相続した財産についての申告では期限が異なる場合があります。
詳しくは次で解説します。
一次相続・二次相続の相続税申告期限
一次相続・二次相続それぞれに10か月の申告期限がある
相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です(相続税法第27条)。
父の遺産分割が終わらないうちに母が亡くなった場合に必要となる申告の期限はそれぞれ以下の通りです。
| 相続 | 申告期限 |
|---|---|
| 一次相続(子ら自身の分) | 父の死亡を知った日の翌日から10か月以内 |
| 一次相続(母の申告義務を引き継いだ分) | 母の死亡を知った日の翌日から10か月以内* |
| 二次相続 | 母の死亡を知った日の翌日から10か月以内 |
*母が一次相続の申告期限前に未申告のまま死亡した場合
特に注意したいのが、同じ一次相続(父の相続)についての申告でも、子ども自身の申告と、母から引き継いだ申告では期限が異なる場合があることです。
子ども自身が父から財産を相続した分については、父の死亡を知った日の翌日から10か月以内に申告します。この期限は、その後に母が亡くなっても延長されません。
一方、母が父の相続税の申告期限前に、申告しないまま亡くなった場合、子どもが母から引き継いだ申告義務については、母の死亡を知った日の翌日から10か月以内が申告期限となります。
父と母が相次いで死亡した場合の申告期限の具体例
たとえば、父と母が次の日に亡くなったとします。
【具体例】
- 父:2026年1月15日死亡
- 母:2026年8月10日死亡
- 子どもはいずれも死亡当日に相続の開始を知ったものとする
この場合、それぞれの申告期限は次のとおりです。
- 【一次相続】で父から自分が相続した分の申告
2026年11月16日(10か月目の2026年11月15日が日曜日のため、翌日が申告期限) - 【一次相続】母から引き継いだ申告
2027年6月10日(2026年8月10日の翌日から10か月以内) - 【二次相続】母から自分が相続した分の申告
2027年6月10日(2026年8月10日の翌日から10か月以内)
このように、父の相続については、子ども自身の申告期限が2026年11月16日であるのに対し、母から引き継いだ申告義務の期限は2027年6月10日となります。
母が亡くなったからといって、子ども自身の一次相続の申告期限まで2027年6月10日に延びるわけではありません。
そのため、父と母が短期間に相次いで亡くなった場合は、どの立場で行う申告なのかを整理したうえで、それぞれの申告期限を確認することが重要です。
関連記事
相続税の申告期限はいつまで?10か月の計算方法と遅れた際のリスク
【注意】父の遺産が未分割でも期限までに相続税申告が必要
父の遺産分割が終わる前に母が亡くなると、さまざまな対応が重なり父の遺産分割が申告期限までに間に合わない可能性があります。
しかし、遺産分割が終わっていなくても、相続税の申告期限が延長されるわけではありません。
申告期限までに遺産分割がまとまらない場合は、いったん法定相続分に従って財産を取得したものとして相続税を計算し、期限までに申告・納税しましょう。
法定相続分については、関連記事『法定相続分とは?割合や計算方法、遺留分との違いなどをわかりやすく解説』をご覧ください。
特例を後から使うなら「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出する
未分割のままでは配偶者の税額軽減・小規模宅地等の特例は原則適用できません。
後から適用したい場合は、期限内申告の際に所定の「申告期限後3年以内の分割見込書」を申告書に添付しておく必要があります。
その後、3年以内に遺産分割を成立させたうえで、「分割が成立した日の翌日から4か月以内」に更正の請求をすれば、後から特例を適用できます。
一次相続が未分割の場合に二次相続の税負担を抑える方法
一次相続で配偶者の税額軽減を活用する
一次相続では、母が父の遺産を取得して「配偶者の税額軽減」を利用することで、相続税の負担を大きく抑えられる可能性があります。
配偶者の税額軽減を適用すると、配偶者が取得した遺産のうち「1億6,000万円」または「法定相続分相当額」のいずれか多い金額までは相続税がかかりません。
なお、この特例を使う場合は、相続税が0円になっても申告が必須です。また、原則として期限までに遺産分割が完了していることも必要です。
遺産分割が期限までに間に合わない場合は、先述の「申告期限後3年以内の分割見込書」を未分割申告の際に提出しておきましょう。
二次相続まで踏まえた活用が重要
配偶者の税額軽減は、節税効果の大きい特例です。
しかし、一次相続の税負担だけを考えて母に多くの財産を取得させると、二次相続の相続税が高くなる可能性があります。
母が父から取得した財産は母の相続財産となり、二次相続では子どもたちが相続することになるためです。
そのため、一次相続では配偶者の税額軽減を活用しつつ、二次相続で母の財産が増えすぎないよう、一次相続・二次相続の合計税額を考えて遺産分割することが重要です。
関連記事
母が父から取得する財産をゼロにできる場合もある
父の遺産が未分割のまま母が亡くなった場合、その後の遺産分割によって、母が父から取得する財産をゼロとすることができる場合もあります。
母の取得額をゼロにすれば、父から取得する財産が母の相続財産に加わらないため、二次相続の課税財産を抑えられます。
ただし、その分一次相続で子どもの税負担が重くなる可能性もあり、母の取得額をゼロにすることが必ずしも最も有利とは限りません。
一次相続・二次相続それぞれの基礎控除額や使える特例なども考慮し、どうすれば全体の税額を抑えられるのか考えることが重要です。
母の相続人が子ども1人だけの場合は注意する
二次相続における母親の相続人が子ども1人だけの場合、一次相続における母親の相続分を調整できない場合があります。
母親の相続分を調整するためには遺産分割協議が必要です。
しかし、母親の相続人が1人の場合は、話し合いができないので、遺産分割協議が行えないのです。
その結果、一次相続における父の遺産は、母と子どもが法定相続分(各2分の1)に従って共有した状態として処理され、その後母の持分も子どもが承継することになります。
相次相続控除を利用する
相次相続控除(そうじそうぞくこうじょ)とは、10年以内に2回相続が発生した場合、前回の相続で課された相続税の一部を、今回の相続税から差し引ける制度です。
この制度を利用すると、一次相続において母親が支払った相続税の金額に応じて、二次相続における相続税の負担を軽減することができます。
ただし、一次相続において母親が配偶者の税額軽減などにより相続税を納めていなかった場合には、この制度は適用されません。
また、二次相続で控除を受ける者が相続人であることが要件です。
関連記事
相次相続控除とは?要件と控除額の計算方法|10年以内に2回相続が発生した場合
父の遺産が未分割のまま母が死亡した場合の手続き
父の遺産が未分割のまま母が死亡した場合、子どもたちが行うべき手続きの流れは以下の通りです。
- 父・母の相続財産と申告期限を確認する
- 一次相続・二次相続の遺産分割協議を行う
- 間に合わなければ未分割のまま相続税を申告する
(1)父・母の相続財産と申告期限を確認する
まず、父・母それぞれの相続税の申告義務の有無を確認します。
相続財産の総額が基礎控除以下であれば申告不要ですが、二次相続では課税財産が増える可能性があるため慎重に見積もってください。
あわせて、父・母それぞれの財産・債務の全体像を把握します。
不動産の登記情報、預貯金残高、株式、負債などを調査し、相続財産目録を作成することが出発点です。
(2)一次相続・二次相続の遺産分割協議を行う
一次相続と二次相続の遺産分割協議を行って、具体的な相続分を決め、協議内容を遺産分割協議書として残しましょう。
のちの混乱を避けるため、一次相続と二次相続の遺産分割協議書を別々に作成することをおすすめします。
遺産分割協議書には、一次相続の相続人で二次相続の被相続人となるものの肩書(今回のケースでは母)を「相続人兼被相続人」と記載してください。
また、協議書の中には「被相続人(父)の相続開始後、遺産分割前に相続人(母)が死亡したため、子らが母の地位を承継し、本協議に参加した」といったように、数次相続が発生した経緯も明記しておくとより確実です。
(3)間に合わなければ未分割のまま相続税を申告する
遺産分割が完了していない場合は、法定相続分で按分した未分割申告を期限内に行います。
すでに解説した通り、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を遺産分割後に適用する予定がある場合は、「申告期限後3年以内の分割見込書」も合わせて提出しておきましょう。
父の遺産が未分割のまま母が亡くなったら早めに税理士へ相談
複数の期限が同時に迫る状況は、専門家なしでは対処が困難
一次相続と二次相続が重なった数次相続は、相続税申告の中でも特に複雑なケースの一つです。
次のようなリスクが同時に発生します。
- 申告期限の管理が二重になる
- 未分割申告の計算方法が複雑
- 分割見込み書の添付を忘れると特例が使えなくなる
- 二次相続の課税財産が膨らむリスクへの対処が必要
これらを正確に処理するには、相続税に精通した税理士のサポートが不可欠です。
税理士に相談するタイミングは「今すぐ」
「もう少し状況を整理してから相談しよう」と考えていると、申告期限が迫るにつれて選択肢が狭まります。
特に、父の死亡から母の死亡まで期間が短い場合は、一次相続の申告期限が数か月後に迫っている可能性があるでしょう。
税理士への相談は、状況が整理される前でも問題ありません。
「今どういう状況で、何をすべきか」を整理するところから相談することも可能です。
アトム相続税理士法人では相談予約を24時間いつでも受け付けています。相続税の申告に関して気になる点がある方はいつでもご連絡ください。
監修者情報
アトムグループ 協力税理士