相続税の申告期限が過ぎたらどうなる?間に合わないときの対応を解説

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相続税の申告期限

相続は人生でそう何度も経験することではなく、「気がついたときには相続税の申告期限が過ぎてしまっていた場合」や、「相続税の申告期限までに申告・納税が間に合いそうにない場合」もあるかと思います。

相続税の申告期限が過ぎると、延滞税や無申告加算税などのペナルティが課されてしまい、期限内に申告するよりも税負担が増えてしまいます。

しかし、これらのペナルティはなるべく早く、自主的に期限後申告を行うことで負担を軽くすることができます。

すでに相続税の申告期限を過ぎてしまった人と、申告期限に間に合いそうにない方へ向け、税負担を抑えるために、すぐにとるべき対応を解説します。

相続税の申告期限は10か月

まずは相続税の申告期限を確認して、本当に申告期限を過ぎているのか、または期限までどのくらいの日数が残されているのか確認しましょう。

 相続税の申告期限は「相続開始から10か月」

相続税の申告・納付期限

相続税の申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10か月です。

相続の開始を知った日とは、被相続人が死亡したことを知った日をいいます。通常は「相続の開始を知った日=被相続人が死亡した日」となることが多いです。

たとえば、令和5年1月1日が相続の開始を知った日だとすると、その相続における相続税申告は令和5年1月2日から令和5年11月1日の間に行うことになります。

ただし、相続税の申告期限日が「土曜日・日曜日・祝日」の場合は税務署が閉まっているため、次の平日が申告期限になります。

相続税申告が必要ない場合とは

相続する財産のうち、課税価格の合計額が基礎控除を超えなければ相続税申告と納付は不要です。

相続税申告や相続税の納付は、課税価格の合計額が基礎控除を超えるときにのみ行います。

相続税の基礎控除

相続税の基礎控除額は、「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」で算出できます。たとえば法定相続人が3人の場合、基礎控除額は4,800万円となり、相続する財産の総額が4,800万円を下回るならば相続税申告と納税は不要です。

また、相続税申告を要件としない各種控除制度を適用して基礎控除額を下回った場合にも、相続税申告と納税をする必要はありません。

「自分は相続税申告が不要かもしれない」と思った方はぜひ、関連記事『基礎控除の範囲なら相続税の申告は不要|申告なしで使える控除制度も解説』を読んで、申告の要否を確認してみてください。

相続税の申告期限が過ぎたらどうなる?

相続税の申告・納税が必要なのにもかかわらず、申告期限までに申告しないでいると、以下のようなデメリットが生じてしまいます。

申告期限に間に合わないデメリット

  • 延滞税や無申告加算税が課される
  • 小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減が適用できない
  • ほかの相続人に納税義務が発生する可能性がある
  • 財産を差し押さえられるおそれがある

ひとつずつ解説していきます。

延滞税や無申告加算税が課される

相続税の申告期限が過ぎると、延滞税と無申告加算税などの課税対象となります。

延滞税は相続税を決められた期間内に納付せず、納付額に不足が生じた際に課されるペナルティです。

無申告加算税は相続税申告を期限内にしなかったことに対するペナルティです。

なお、相続税の支払いから逃れようとして「悪意を持って意図的に」相続税申告しなかった場合には、無申告加算税ではなく、より税率が重い重加算税が課されます。

これらのように、本来納めるべき税金とは別に納めるものを、附帯税といいます。

附帯税はそれぞれの税率を、本来納めるべき相続税額に乗じて計算されます。納付のタイミングは、期限後申告(申告期限後に行う相続税申告)の際に本来納めるべき相続税と一緒に納めます。

延滞税の税率

延滞税は、相続税の納付期限(申告期限)の翌日から、延滞税を納税する日までの日数に対して課されます。

また、延滞税の税率は期限の翌日から2か月以内か、2か月を経過しているかで異なります。

延滞税の税率

2か月経過まで:年2.4%

2か月経過以降:年8.7%

※延滞税の税率は毎年変動します。上記は令和6年1月1日~令和6年12月31日の税率です。

もし申告期限が過ぎてしまい延滞税の納税が必要になった場合には、相続税の納付後に税務署から延滞税分の納付書が送られてきます。

相続税の延滞税について詳しく知りたい方は、関連記事『相続税の延滞税とは?計算方法・税率・延滞税を回避する方法を解説』をお読みください。

無申告加算税・重加算税の税率

無申告加算税の税率は以下のとおりです。

無申告加算税 税率

もし相続税の申告期限が過ぎてから「1か月以内」に期限後申告した場合、無申告加算税は課されません。

1か月を過ぎてしまっていても、税務署から指摘を受ける前に自主的に期限後申告を行えば、5%の税率で済みます。よって、申告期限を過ぎてしまった場合には、早急に期限後申告することが重要です。

なお、悪意を持って相続税申告しなかった場合に課される重加算税の税率は40%です。

小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減が適用できない

相続税の申告期限までに相続税申告を行わないと適用することができません。

小規模宅地等の特例は、相続した土地が一定の要件を満たしている場合、相続税評価額を大幅に下げられる制度です。

配偶者の税額軽減は、配偶者が相続する財産のうち、最低でも1.6億円を無税にする制度です。相続税の配偶者控除ともいわれます。

申告期限が過ぎた後に行う「期限後申告」では、これらの制度を適用することができません。

小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を適用したい場合は、後述する「相続税の申告期限に間に合わなさそうな場合の対応」を参考に、期限内に申告を済ませましょう。

関連記事

ほかの相続人に納税義務が発生する

相続税には相続人同士の「連帯納付義務」があります。

連帯納付義務とは、一人の相続人が相続税を払わなかった場合、ほかの相続人にも支払い義務が及ぶというものです。

まず、相続税を払わない納税者に督促状が送られます。その納税者が支払いに応じない場合、ほかの相続人にも督促状が届きます。

相続税の連帯納付義務は、借金の連帯保証人とは違い、契約や同意をしなくても同じ被相続人から財産を相続した時点で、自動的に発生してしまいます。

ほかの相続人に督促状が届く流れやタイミングなど、相続税の連帯納付義務について詳しく知りたい方は、関連記事『相続税の連帯納付義務|対象者や金額、回避法を徹底解説』をお読みください。

財産を差し押さえられるおそれがある

本来の納税者やほかの相続人が相続税を支払わない状態が続くと、本来の納税者の財産が差し押さえられる可能性があります。

もし本来の納税者に差し押さえるべき財産がない場合、ほかの相続人の財産が差し押さえられることもあります。

差し押さえられた財産は「公売」にかけられ、その売却代金が滞納税金に充てられます。

公売とは、税務署が主催する競売で、一般の人々が入札に参加できます。最高額で落札した人にその財産が売却され、得られた売却代金は滞納している相続税の支払いに充てられます。

相続税の申告期限が過ぎた場合の対応|期限後申告

相続税の申告期限までに申告を行わないと、前述したようなさまざまなデメリットを負うことになってしまいます。

そのため、申告期限を過ぎてしまったと気がついた時点で、なるべく早く期限後申告を行いましょう。

相続税の期限後申告の流れ

相続税の期限後申告の流れ

  1. 相続する財産の総額を計算する
  2. 相続人が複数いる場合は遺産分割を行う
  3. 相続税申告書を作成する
  4. 相続税の期限後申告と納税を行う
  5. 無申告加算税と延滞税を納付する

相続税の期限後申告の流れは、基本的に期限内におこなう相続税申告と変わりません。

異なるところといえば、相続税を納付する際に、延滞税と無申告加算税(無申告加算税は申告期限から1か月以上経過している場合)を追加で納める点くらいでしょう。

相続税申告は相続人が自ら行うことも可能ですが、評価が難しい財産を相続する場合や、相続税申告の準備に時間が充てられない場合には税理士への依頼をおすすめします。

ご自身で期限後申告できるか不安な方は一度、関連記事『相続税申告の手引き|申告の要否、申告の流れを税理士が解説』をお読みください。相続人が自分で申告できるかどうかの判断基準を詳しく解説しています。

相続税の相続税の無料相談

相続税の申告期限に間に合わなさそうな場合の対応

相続税の申告期限はまだ過ぎていないけれど、申告期限内に相続税申告を行うのが難しい方に向けた解説です。

申告期限に間に合わない理由ごとに、適切な対応を解説します。

  • 財産評価が終わらず申告期限に間に合わない場合
  • 遺産分割が終わらず申告期限に間に合わない場合
  • 納税資金が足らず申告期限に間に合わない場合

財産評価が終わらず申告期限に間に合わない場合

財産評価が終わらず相続税申告が申告期限に間に合わない場合は、いったん概算で相続税評価額を算出して相続税を計算・申告し、あとから還付を受けましょう。

財産評価が申告期限までに終わらない場合の対応

相続税申告では本来納めるべき税額よりも多く納めてしまった場合に、多く納めた分の還付を請求することができます。これを「更正の請求」といいます。

更正の請求ができるのは原則、相続税の申告期限から5年間です。

そのため、申告期限内に概算で少し多めに申告・納付を行い、5年以内に正確な税額を計算・申告して差額分の還付を受けます。

なお、本来納めるべき税額よりも少なく申告・納付してしまうと、延滞税と過少申告加算税の課税対象となってしまうため注意してください。

相続税の還付の手続きについて詳しくは、関連記事『相続税還付の期限や手続きは?払い過ぎが疑われるケースも確認できる』をお読みください。

遺産分割が終わらず申告期限に間に合わない場合

相続人同士で遺産分割の話し合いが上手くまとまらず、相続税申告が申告期限に間に合わない場合は、未分割のまま相続税申告を行いましょう。

「未分割のまま」というのは、相続人の間で財産を共有している状況をいいます。

未分割のまま相続税申告書を作成し、期限内に相続税申告を行うことで、ひとまず延滞税や無申告加算税の課税を避けることができます。

なお、未分割の状態で相続税申告を行うと、前述した小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を適用することができないため、支払う相続税が多額になることがあります。

ただし、未分割で申告する際に相続税申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付すれば、期限後3年以内に遺産分割協議を終えた場合に限り、あとから特例を適用して適用前との差額の還付を受けられます。

還付があるとはいえ、期限内に一度は多額の相続税を支払わなければならないため、納税資金に不安がある場合は次に解説する方法をおすすめします。

関連記事

遺産未分割で相続税申告する方法とデメリット|遺産分割に期限はある?

納税資金が足らず納付が間に合わない場合

相続税の納付期限は、申告期限と同じく相続の開始を知った日の翌日から10か月です。相続税は納付期限までに原則、「現金一括納付」しなければなりません。

そのため納税資金が足らず、申告期限までに相続税が納められないケースもあるでしょう。納税資金が足らず、期限に間に合わない場合の対処法は以下の3つがあります。

納税資金が足らないときの対処法

  • 相続財産から支払う
  • クレジットカードで支払う
  • 延納、物納制度を利用する

相続財産から支払う

相続する財産の中に現金や預貯金がある場合には、それらを相続税支払いに充てることもできます。

また、相続した不動産や株式を売却・現金化して納税資金を確保する方法もあります。しかし、不動産の売却を納付期限である10か月以内に済ませるのは難しく、安く買いたたかれてしまうおそれもあるため注意が必要です。

クレジットカードで支払う

相続税はクレジットカードで支払うこともできます。

そのため、期限内にクレジットカードで支払えば引き落とし日まで、実質納税猶予を伸ばせることになります。

しかし、クレジットカードで相続税を支払う際には以下の点に注意してください。

クレジットカードで支払う際の注意点

  • カードの引き落とし日に残高不足になると、納付期限にさかのぼり延滞税が発生
  • 1回の納付上限額が1,000万円未満なため、1,000万円以上を納付する場合は複数回の手続きが必要
  • 納付税額に応じて決済手数料が発生(納付金額1万円ごとに83.6円、100万円の納付だと8,360円)

なお、クレジットカードのポイント還元で決済手数料を回収できる場合もあります。

クレジットカードで納付する予定の方は、ポイントの有無やどのくらいポイントがつくのかについて、事前にカード会社に確認することをおすすめします。

延納、物納制度を利用する

相続税には、相続税を分割して支払える「延納制度」と、現金ではなく不動産などの”物”で支払える「物納制度」があります。

延納制度の利用には担保が必要なほか、相続税の申告期限までに延納申請という手続きを行わなければなりません。また、分割払いする期間によって、利子税という追加の税金が発生してしまいます。

物納制度は、延納制度によっても支払いが困難な場合のみ利用できます。

相続税の延納と物納について詳しく知りたい方は、関連記事『相続税の延納・物納|利用条件や利子税、担保、申請手続きを解説』をお読みください。

相続税が払えないときの対処法は、この記事で解説したもの以外にもたくさんあります。関連記事『相続税が払えないときの解決方法を7つ紹介!【税理士監修】』で詳しく解説しているため、あわせてお読みください。

相続税の申告期限についてよくある質問にお答え

相続税の申告期限は延長できる?

相続税の申告期限は原則、延長できません。

ただし、例外的に以下のようなやむを得ない理由がある場合は「それぞれの理由ごとに一定の日から2か月以内」の延長が可能です。

やむを得ない理由の例

  • 申告期限前1ヶ月以内に認知等により相続人に異動が生じ、新たに相続人となった相続人以外の相続人
  • 申告期限前1ヶ月以内に死亡退職金の支給額が確定した場合
  • 相続人である胎児が生まれた場合
  • 災害等で期限内の申告が困難な場合

遺産分割協議がまとまらない」「申告期限を知らなかった」といった理由は、やむを得ない理由とは認められませんので、注意してください。

最近だと、新型コロナウイルス感染拡大の影響で相続税の申告期限の延長が認められました。

感染拡大当初は、申告書に「新型コロナウイルスによる申告・納付期限延長申請」と記載するだけで延長が認められましたが、現在は「災害による申告、納付等の期限延長申請書」を別途提出する必要があります。

また、申告期限延長の申請は申告期限内に行わなければならず、申請しても必ず認められるわけではないため、なるべく早く税務署に相談することをおすすめします。

相続税の申告期限と納付期限は同じ?

相続税の申告期限と納付期限は同じです。

相続税の申告、納付ともに「相続開始を知った日の翌日から10か月」以内に行う必要があります。

なお、前述した相続税の申告期限の延長が認められた場合には、納付期限も同様に延長されます。

申告期限ぎりぎり/期限後でも税理士に依頼できる?

相続税の申告期限ぎりぎりの申告や、期限後申告であっても税理士に依頼することは可能です。

ただし、申告期限が近い相続税申告の依頼に関しては、多くの税理士事務所で追加報酬が発生します。

具体的には、申告期限まで3か月を切っている場合に税理士報酬が20~50%増加することが多いようです。

そのため、相続税申告を税理士に依頼する際には、申告期限まで6ヶ月以上の余裕をもって税理士選びを始めることが望ましいです。

相続税申告を税理士に依頼するときの報酬は、関連記事『相続税申告の税理士報酬の相場|「遺産総額の1%」が報酬って本当?』で詳しく解説しています。

相続税の相続税の無料相談

まとめ

相続税申告の期限を過ぎてしまうと、延滞税や無申告加算税の課税対象になってしまうだけではなく、財産を差し押さえられてしまうおそれもあります。

相続税申告は申告期限までに申告を行うことが非常に重要なので、もし期限が迫っている場合には、ひとまず概算で申告してあとから還付を受ける方法がおすすめです。

もしすでに申告期限が過ぎてしまっている場合には、少しでも早く期限後申告を行い、附帯税の負担を抑えましょう。

とはいえ、急ぐあまりに間違えた申告をしてしまっては元も子もありません。

最初から正しい申告を行い、金銭的、精神的な負担を最大限抑えるためにも、相続税申告に関して不安がある場合は、相続税に強い税理士に相談しましょう。

高部孝之税理士

監修者


高部孝之税理士事務所

税理士高部孝之

2019年税理士試験合格 2020年税理士登録
都内大手税理士法人にて約13年間勤務。資産税部門の責任者などを経て、2024年に独立し浅草にて資産税を強みとする税理士事務所を開業。
専門用語を用いず、平易な言葉で説明することを大切にしており、お客様が親しみやすく相談しやすい税理士を理想としています。

保有資格

税理士・FP技能士1級・相続診断士

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