別居合意書・婚姻費用の合意書テンプレート│解説付

別居合意所

離婚条件の調整のため、あるいは夫婦関係修復のため、別居する夫婦も多いものです。

別居の目的がどうであれ、別居中の生活費(婚姻費用)の不安や、どちらが子どもと同居するかなどの問題を解消するには、別居する前に、別居合意書(婚姻費用の合意書)を作成しておくべきでしょう。

別居合意書(婚姻費用の合意書)には、夫婦で合意した内容を記載します。

今回は、別居時に作成すべき合意書の書き方について、弁護士が監修した別居合意書(婚姻費用の合意書)のサンプルをご紹介しながら、解説します。

別居合意書(婚姻費用の合意書)のサンプル・文例

岡野タケシ弁護士
岡野タケシ
弁護士

こちらのサンプル中、甲はご自身、乙は配偶者、丙は夫婦間の子どもになります。

作成時の注意点

  • 作成方法は、手書き、パソコンを問いません。
  • 必ず、日付の記載、および夫婦それぞれの署名・捺印をしましょう。
  • 合意書が2枚以上になる場合は、割印をしてください。

なお、個別の事案に即して、適切な合意内容は異なるため、こちらのテンプレートで完全に対応できることを保証するものではありません。

法的に問題の無い合意書作成をご希望される場合は、弁護士などの専門家のサポートをお受けになられることをおすすめいたします。

別居合意書(婚姻費用の合意書)とは?役割は?

別居合意書とは?

別居合意書とは、夫婦が別居する際に作成する書面のことです。

別居合意書には、夫婦が別居に合意したこと、別居期間、別居中の住所・連絡方法、別居の経緯などを記載します。

婚姻費用の金額・支払方法、子どもの監護者、面会交流などについては、別途、婚姻費用等合意書などを作成することもありますが、ひとつの別居合意書にまとめて記載する例も多いでしょう。

別居合意書を作成するメリットは?

別居合意書を作成するメリットは、別居条件の合意内容について証拠を残せることです。

合意は口頭でも有効ですが、後日「言った、言わない」の水掛け論となることも多いため、書面で合意内容を明確にしておけると安心です。

また、一方的な別居は「悪意の遺棄」(民法770条1項2号)にあたり、離婚慰謝料を請求されるリスクがあります。

別居合意書を作成しておけば、そのような主張を排斥できるメリットもあるでしょう。

婚姻費用の合意書を公正証書にするメリットは?

婚姻費用の支払いについての合意を、強制執行認諾文言つきの公正証書でおこなう場合、婚姻費用の支払いがとどこおったときに、裁判をしなくても強制執行により財産を差し押さえて、お金を回収できるメリットがあります。

強制執行認諾文言とは、たとえば以下のようなものになります。

甲は、第〇条の債務の履行を遅滞したときは、直ちに強制執行に服する旨陳述した。

公正証書は、公証役場において、公証人に作成してもらう書面です。別居合意書を構成証書にする場合は、婚姻費用分担に関する契約公正証書といった名称になります。

別居合意書を案文として、公証役場に持参することで、公証人もよりスムーズに公正証書を作成してくれるでしょう。

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別居合意書(婚姻費用の合意書)に書くべき内容は?

別居合意書では、以下のような条項をもうけることになります。

  • 別居の合意
  • 監護者の定め(子どもと一緒に生活し世話する人)
  • 別居の経緯
  • 婚姻費用の分担の定め(別居中の生活費)
  • 面会交流
  • 別居中の共有財産の処分の禁止

別居の合意

まず、夫婦が別居に合意したことを記載します。

ただし、夫婦は互いに同居義務(民法752条)を負うので、一時的な別居であることを示すために、別居期間を定める必要があります。

別居期間の例文としては「当分の間別居する」と記載するほか、「〇年〇月〇日から〇年〇月〇日まで別居する」などと定めることも考えらえます。

別居中の連絡先等についての補足

テンプレートには記載していませんが、別居の合意とともに、別居中の住所、連絡のつく電話番号、メールなどについても可能であれば確認します。

甲と乙は、別居中の住所について、以下のとおりと定める。

甲:__県__市__町____
乙:__県__市__町____

別居中の連絡先については、会社には連絡しない、実家に連絡するなどの条件をつけることも考えられます。

甲と乙は、別居中の連絡先について、以下のとおりと定める。

甲:
電話番号〇〇〇-〇〇〇〇-〇〇〇〇
(会社には連絡しないこととする)

乙:
実家__県__市__町____
電話番号〇〇〇-〇〇〇〇-〇〇〇〇
(乙に直接連絡してはいけない)

そのほか、夫婦関係の修復のための別居の場合などでは、夫婦関係が破綻していないことを示すために、夫婦関係の調整のために別居することを明記してもよいでしょう。

夫婦関係が破綻している場合、その間、相手方配偶者が夫婦以外の第三者と性的関係をもったとしても、その行為は「不貞」にはあたらず、慰謝料請求の対象外となってしまうからです。

監護者の定め(子どもと一緒に生活しお世話する人)

監護者とは、夫婦間の子どもと一緒に生活をして、お世話をする人のことです。

別居後は夫婦が協力し合い子どものお世話をすることは、たいていの場合は難しいものです。

そのため、子どもがいる夫婦の場合、別居にともない、監護者を定めておくべきでしょう。

子どもが二名以上いる場合、夫婦の一方のみを監護者と定めることができるほか、監護者を分けることも可能です。

後者の場合の例文としては、以下のようなものになります。

第〇条の別居期間中、甲乙間の長男〇〇〇〇(〇〇年〇〇月〇〇日生。)の監護者を甲とし、甲乙間の長女〇〇〇〇(〇〇年〇〇月〇〇生。)の監護者を乙とする。

別居時の監護者は、子どものお世話をした実績を積めるので、離婚する場合は、その子の親権者になりやすい傾向はあるでしょう。

別居の経緯

別居の経緯について記載することで、別居について夫婦のどちらに非が有るのかを明確にすることができます。

相手方配偶者に別居の原因がある場合、反省をうながす効果や、離婚の話し合いを有利に進められる可能性を高めることが期待できます。

たとえば、別居開始の理由が、甲の不貞行為である場合はその旨を明記します。

甲及び乙は、別居を開始する理由が、〇〇年〇〇月〇〇日から〇〇年〇〇月〇〇日ころ、甲が▢▢▢▢と不貞関係にあったことであることを相互に確認した。

婚姻費用の分担の定め(別居中の生活費)

別居合意書の中でも、とくに重要な項目が婚姻費用の分担です。

婚姻費用とは、婚姻中の夫婦の生活費のことです。衣食住の費用、医療費、子の出産費用、子の教育費、当該家族の社会的地位にふさわしい相当の交際費などが、婚姻費用に含まれます。

婚姻費用は、夫婦に子どもがいない場合、収入の少ない側から、収入が多い側に対して請求できます。

子供がいる場合は、子どもの人数・年齢、夫婦それぞれの収入に応じて、婚姻費用を請求できるかどうかが分かれるでしょう。

裁判所のホームページには、子どもの人数・年齢、婚姻費用を請求する側とされる側の収入に応じた金額相場が分かる「養育費・婚姻費用算定表」が公開されているので、気になる場合は確認してみてください。

さて、別居合意書で婚姻費用について記載すべき事項としては、請求期間、金額、請求期間、支払期日、支払方法、振込手数料の負担者などです。

婚姻費用の支払いを求められる期間としては、通常、請求した時から、婚姻の解消(離婚や配偶者の死亡)や別居状態の解消までになります。

婚姻費用の請求期間

  • 請求したときから
  • 婚姻や別居状態の解消まで

現状、別居により当然婚姻費用が発生するという運用が大勢を占めるわけではないので、別居が決まったら早期に婚姻費用の請求を検討すべきです。

婚姻費用の金額については、婚姻費用の算定表などをもとに話し合い、夫婦で決めます。

ただ、合意後であっても、金額決定の基礎となった事情が変更した場合には、再び協議ができるので、そのための条項も入れておくとよいでしょう。

岡野タケシ弁護士
岡野タケシ
弁護士

婚姻費用の変更の協議をするのは、夫婦の収入の増減や、特別の出費などがある場合などです。

また、婚姻費用の支払いがとどこおった場合の違約金条項を入れる場合もあります。

岡野タケシ弁護士
岡野タケシ
弁護士

遅延損害金について、実務では、法定利率の年3%か、あるいは契約慣習上の年14.6%と定める例が多い印象です。

ほかにも、住宅ローンの支払いなどについて、夫が支払っている場合、「夫は完済に至るまで支払う」などの合意をしておくことも考えられます。

面会交流

面会交流とは、子どもと同居していない親が、子どもと会う、連絡を取るなどの方法で、自分の子どもと交流することです。

子どもを虐待していたなどの事情がない限り、面会交流についても、条項をもうけることになるでしょう。

たしかに、子どもと同居する側(監護者)は、相手方配偶者の面会交流を認めがたい心情もあるかもしれません。

しかし、面会交流を認めることで、婚姻費用を支払うモチベーション維持につながるといった側面もあるともいわれています。

別居中の共有財産の処分の禁止

共有財産とは、婚姻中に夫婦で築いた財産のことをいい、離婚する際、公平に分け合うことができる財産です。

離婚時に、共有財産を公平に分け合う制度を財産分与といいますが、別居中に無断で共有財産を消費されてしまえば、財産分与は絵に描いた餅になるリスクがあります。

そのため、夫婦の共有財産が何かを明確に特定し、同意なく処分しないことを約束させる条項をもうける必要があるでしょう。

婚姻中に夫婦で協力して貯めたお金、夫が稼いだお金で購入した物、加入した保険などはは共有財産となります。

テンプレートには自宅不動産の記載例を載せていますが、その他の夫婦共有財産については、以下のような記載例が考えられます。

〇〇銀行〇〇支店 
口座番号〇〇〇〇〇〇〇〇
令和〇年〇月〇日現在の残高 150万8000円

自動車登録番号 練馬000■00-00
種別
車名
型式
車体番号      

〇〇〇〇保険 証券番号000-0000

電気洗濯機 〇〇社製 製造番号〇〇〇〇

座卓テーブル 1台 桜材の木目模様(〇〇製)

銘柄等  A株式会社普通株券
株数   〇〇株
名義人  ▢▢▢▢
記号番号 〇〇〇〇

多岐にわたる場合などは、別紙(物件目録)を作成するか、特定するための最小限の記載にとどめるなどの対応も考えられます。

このほか、特有財産(夫婦の一方の所有にかかる財産)であっても、居宅に残置して別居する場合、無断で廃棄されないよう、残置物の処分を禁止する合意をすることもあります。

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その他

夫婦関係の修復のための別居期間を設ける場合、その間の誓約事項や違反した場合の制裁などについての条項をもうけることがあります。

誓約事項としては、不貞行為をしない、過度な飲酒をしない、ギャンブルを控える、無断で借金をしないなどの合意が考えられます。

甲は、別居期間中、従来の生活を反省し、競馬、麻雀等の賭け事及び粗暴な行動をやめ、飲酒を慎み、生活の基礎を築き上げて円満な夫婦生活が営めるよう努める。

誓約事項に違反した場合の制裁については、違約金を支払うこと、離婚協議に応じること、希望する離婚条件に応じることなどを記載する例も多いでしょう。

別居中の婚姻費用・離婚のお悩みは弁護士に相談?

別居中の婚姻費用、別居の条件などについては、別居する前に、合意書を作成しておくことが非常に重要です。

そうすれば、別居中の婚姻費用や、子どもの権利などで、別居中に揉める場面を最小限にとどめることができ、今後の生活について落ち着いて考える時間をとれるようになります。

ただし、離婚を見据えた別居の場合は、別居するまでに準備しておくべきものもあります。

別居前に準備すること(一例)

  • 婚姻期間中に夫婦で貯めた財産がどれくらいあるか分かる資料
  • 配偶者の収入がどれくらいかあるか分かる資料
  • 配偶者の有責行為(不貞、DV、モラハラなど)の証拠
    etc.

しかしこれらは、あくまで一般論です。

離婚を有利に進めるためには、まずはご自身のケースにおいて必要な準備は何か、具体的に把握しておく必要があります。

そのような時に頼りになるのが、離婚をあつかう弁護士の無料相談です。

離婚をするにしても、しないにしても、十分な情報がなければ決断できません。

離婚や別居をご検討中の方は、弁護士の無料相談を活用するなどして、情報収集から始めてみてるのはいかがでしょうか。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

詳しくはこちら

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了