婚姻費用と養育費の違いとは?金額の差や切り替えのタイミングを解説
一般的に、金額は養育費よりも婚姻費用の方が高額になります。
なぜなら、婚姻費用には子どもの生活費だけでなく配偶者の生活費も上乗せされているからです。
そのため、経済的な損得だけで言えば、離婚を急がず、別居期間(婚姻費用をもらえる期間)を長く取ったほうが、受け取れる総額は多くなるというのが実務上の鉄則です。
この記事では、2つの制度の決定的な違いと、離婚成立時に婚姻費用から養育費へ切り替わる際、金額の減少や無収入期間といったリスクを避けるための手続きを解説します。
目次
婚姻費用と養育費の決定的な違い
最大の違いは、配偶者の生活費が含まれるか否かです。
まずは以下の比較表で全体像を確認してください。
| 項目 | 婚姻費用 | 養育費 |
|---|---|---|
| 対象となる生活費 | 配偶者と子ども | 子どものみ |
| 金額 | 高い | 低くなる |
| 開始 | 別居時(請求時) | 離婚成立時 |
| 終了 | 離婚成立時 | 子どもの自立まで |
婚姻費用と養育費を同時に受け取ることはできません。離婚成立を境に明確に切り替わります。
対象者と範囲の違い
婚姻費用は、夫婦関係が継続している間に支払われるため、収入の高い側には相手の生活レベルを自分と同等に保つ義務があります。
したがって、子どもの生活費だけでなく配偶者の生活費も含まれ、金額が高くなる傾向があります。
これに対し、離婚後に支払われる養育費は、夫婦が他人になることで元配偶者を扶養する義務がなくなるため、対象は子どもの生活費に限定され、金額も婚姻費用より低くなるのが一般的です。
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受け取れる期間の違い
婚姻費用は、別居を開始して請求した時点から離婚が成立するまで支払われます。
一方、養育費は離婚成立後から、子どもが経済的・社会的に自立するまで支払われます。
一般には成人に達する頃までとされますが、大学進学などの事情があれば、子どもの卒業時期まで支払い期間を延ばす内容で合意するケースもあります。
婚姻費用が養育費より金額が高くなる理由
婚姻費用には配偶者の生活費も含まれるため、金額は一般的に養育費より高く設定されます。
配偶者の生活費が含まれる仕組み
法律上、婚姻中は夫婦が互いに同じ水準の生活を送れるように支える義務があります。
したがって、夫側の収入が高い場合、子どもの生活費に加えて妻自身の生活費も負担する必要があります。
これに対して、離婚が成立すると夫婦は法律上の他人となり、元配偶者を扶養する義務はなくなります。
そのため、離婚後に支払う養育費は子どもの生活費だけが対象となり、婚姻費用より金額が低くなります。
離婚を急ぐと損をする可能性がある
「早く離婚したい」と焦って離婚届を提出してしまうと、婚姻費用に含まれる配偶者自身の生活費分を、自ら放棄することになります。
経済的な利益を重視するのであれば、離婚が成立するまで婚姻費用を受け取り続けることが、生活の安定につながる重要な戦略となります。
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養育費への切り替えは必ず離婚前に合意すべき
役所に離婚届を出しても、婚姻費用から養育費への切り替えは自動では行われません。
最も避けるべきなのは、離婚届を出した後に養育費の話し合いを始めることです。
これでは、婚姻費用はストップし、養育費も決まっていない無収入の空白期間が生まれてしまいます。
離婚直後の無収入期間を防ぐための対策
離婚届を提出する前に、必ず養育費の金額と支払い開始時期を文書で合意しておくことが重要です。
例えば「離婚が成立した月までは婚姻費用を支払い、翌月からは養育費として〇万円を支払う」と事前に取り決めておけば、支払いが途切れることなく円滑に移行できます。
月の途中で離婚した場合の日割り計算
実務では日割り計算は行わず、月単位で区切る運用が一般的です。
離婚した月については、月末まで婚姻費用として扱う方法と、離婚が成立した日から養育費に切り替える方法の二つがあります。
どちらを適用するかは当事者同士の協議で決められますが、受け取る側にとっては、離婚した月の分を全額婚姻費用として扱うほうが金額的に有利になります。
なお、令和8年4月1日施行の民法改正により、離婚時に養育費の取り決めがない場合でも、子ども1人あたり月額2万円を相手方に請求できる「法定養育費」が導入されます。
この法定養育費には日割り計算が用いられ、施行日以降に離婚したケースが対象となります。
金額の決め方は裁判所の算定表が基準になる
婚姻費用と養育費の金額は、家庭裁判所の算定表を使って算出するのが最も確実です。
話し合いで自由に決めることも可能ですが、揉めた場合は裁判所が使う基準がベースになります。
自分の適正額を調べる手順
- 相手と自分の昨年の年収を把握する。
- 養育する子どもの人数と年齢を整理する。
- 裁判所の算定表に当てはめて金額を算出する。
まずは相場を知らなければ、相手から提示された金額が安いのか高いのか判断できません。
アトム法律事務所の婚姻費用・養育費計算機を使えば、簡単に相場を知ることができますので、ぜひご利用ください。
養育費の不払いに備えて公正証書を作成しておく
婚姻費用から養育費へ切り替える際、公正証書を作成せずに離婚してしまうと、後から相手が支払いを止めた場合でも、すぐに強制執行による回収ができません。
離婚前に必ず公正証書で取り決めを残しておきましょう。
婚姻費用から養育費への切り替え手順
- 話し合い(協議)
離婚前に、養育費の額と開始時期を決める。 - 公正証書化
決定事項を公文書にし、強制執行認諾文言を入れる。 - 離婚届提出
公正証書が完成してから届出を行う。
もし話し合いがまとまらなければ、家庭裁判所に調停を申し立てることを検討してください。
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婚姻費用と養育費に関するよくある質問
Q. 婚姻費用と養育費を両方同時に請求できる?
できません。婚姻費用にはすでに養育費が含まれています。
したがって、離婚成立前は、配偶者自身の生活費(婚姻費用)と子どもの生活費(養育費)を別々に二重請求することはできません。
離婚後は、配偶者の扶養義務が消滅するため、養育費のみが請求対象となります。
Q. 過去に遡って、もらっていなかった婚姻費用を請求できる?
原則としてできません。
婚姻費用は、請求した時点から支払い義務が生じるため、「別居して1年経つから、過去1年分も払ってほしい」という請求は、実務上ほとんど認められません。
なお、未払いの婚姻費用を離婚時の清算として扱い、相手から回収する方法については、『離婚で今までの生活費を取り戻す!未払い分を請求し回収する方法』で詳しく解説しています。
Q. 相手が無職でも請求できる?
働ける健康状態であれば、請求が認められる可能性は高くなります。
婚姻費用や養育費の算定では、相手が無職でも、収入がゼロと判断されるとは限りません。年齢、健康状態、これまでの就労状況、子どもの年齢や健康状態などを踏まえ、就労が可能とみなされる場合には、賃金センサスを使って平均的な収入を推計する運用が一般的です。
ただし、個別事情によって判断が分かれる場合もあるため、状況に応じて専門家に相談することをおすすめします。

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
