熟年離婚で慰謝料はもらえる?結婚20年・25年後の慰謝料相場と請求のポイント

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熟年離婚の慰謝料相場は、不貞行為の場合で150万円〜500万円、DVやモラハラの場合で100万円〜350万円が目安です。婚姻期間が長いほど精神的苦痛が大きいと判断されやすく、50代以降での離婚では慰謝料が高額になる傾向があります。

厚生労働省の人口動態統計によると、同居期間20年以上の夫婦の離婚件数は令和2年(2020年)時点で38,981件に達しており、離婚全体の21.5%を占めています。結婚20年・25年以上の熟年離婚は決して珍しいケースではありません。

この記事では、熟年離婚の慰謝料について、認められるケースや相場、財産分与・年金分割との違いを、裁判例も交えてわかりやすく解説します。

そもそも離婚の慰謝料とは?

熟年離婚でも慰謝料は必ずもらえるとは限らない

まず大前提として、慰謝料は離婚すれば必ず発生するものではありません。

慰謝料は、精神的苦痛に対する損害賠償であり、相手に不法行為がある場合(=相手が有責配偶者にあたる場合)にのみ請求が認められます。

つまり、性格の不一致など双方に原因があって離婚する場合や、決定的な非がどちらにもない場合には、慰謝料は発生しません。

離婚慰謝料が認められるのはどんなケース?

次のような原因で離婚する場合は、離婚慰謝料が認められやすいです。

  • 不貞行為(肉体関係を伴う不倫・浮気)
  • 暴力(DV)
  • モラハラ
  • 悪意の遺棄(生活費を渡さない、一方的な別居など)
  • 性の不一致(セックスレス、著しい性的嗜好の不一致など)

一方、「性格の不一致」や「長年のすれ違い」といった理由での離婚では、慰謝料が認められにくいといえます。もっとも、認められないのは裁判を起こした場合のことで、当事者同士の合意があるならば慰謝料や解決金を受け取ることは妨げられません。

結婚20年・25年の熟年離婚|慰謝料の相場はどれくらい?

熟年離婚の慰謝料の相場

一般的な離婚で認められる慰謝料の相場は50万~300万円程度といわれていますが、熟年離婚の場合、婚姻年数が長いことなどが影響して慰謝料が高額になる傾向があります。

離婚慰謝料の金額を決定する際、裁判では以下のような事情を考慮して総合的に判断します。

  • 婚姻期間の長さ
  • 有責行為の内容と程度
  • 当事者の年齢、経済力、社会的地位
  • 未成年の子どもの有無や引き取り状況
  • 財産分与の有無や金額
  • 離婚後の生活状況や再婚の可能性
  • 精神的苦痛の程度や心身への影響

長期間にわたり夫婦関係が継続していた場合、離婚によって受ける精神的苦痛や生活基盤の喪失は大きいと判断されやすいです。すでに高齢となっており、離婚後に自力で十分な収入を得ることが難しい場合などがその例です。

ただし、高額の慰謝料を得るには、証拠や具体的事情が重要です。単に「結婚年数が長い」というだけで、慰謝料が自動的に上がるわけではありません。

熟年離婚で慰謝料が高額になるケースとは?

以下のようなケースは、離婚や離婚原因となった行為から受ける精神的苦痛が大きいと考えられ、慰謝料も高額になると考えられます。

  • 長期間にわたり不倫が継続していた
  • 不倫が発覚した後も不倫を辞めなかった
  • 不倫相手との間に子どもがいる
  • 長期間にわたりDVやモラハラが継続していた
  • 一方が専業主婦(主夫)であり、経済力の差が大きい
  • 高齢で、離婚後の再婚可能性や就業可能性が低い

実際の裁判例でも、こうした事情が複合的に認められた場合に高額な慰謝料が命じられています。

不貞行為が原因の離婚で500万円の慰謝料が認められた事例

夫と妻は約33年間婚姻関係にあったが、妻が夫の不貞行為を問い詰めたところ、夫は暴行・傷害・暴言に及び、妻は別居を余儀なくされた。

不貞行為の悪質さ、DV事案としての側面、約33年間という婚姻期間の長さ、妻が専業主婦であり夫に経済的に依存していたことなどが考慮され、夫から妻へ、500万円の慰謝料の支払いが命じられた。

(仙台地裁平成13年3月22日判決)

財産分与1200万円のほか慰謝料1000万円が認められた事例

夫と妻は約55年間婚姻関係にあったが、夫はA女と長年不貞関係にあり、約17年前から妻と別居してA女と同居していた。

約17年の長きにわたる別居期間、婚姻破綻の原因はもっぱら夫の側にあること、別居後の婚姻費用の分担額が夫の収入に比べて極めて低額だったうえ、途中から支払われなくなっていたことなどを理由に、夫から妻へ、1200万円の財産分与に加えて1000万円の慰謝料の支払いが命じられた。

(東京高裁昭和63年6月7日判決)

熟年離婚の慰謝料請求が認められた裁判例

以下は、婚姻期間20年以上の熟年離婚において、慰謝料請求が認められた裁判例です。

不貞行為が継続し高圧的な言動も認められたケース(慰謝料400万円)

長期間の婚姻関係にあった夫婦において、夫が妻の妊娠中を含め1年以上にわたって不貞行為を継続しました。謝罪後も家事・育児への配慮に欠ける言動が繰り返されたとして、裁判所は妻への慰謝料400万円の支払いを命じました(大阪高判令3・8・27)。

一方的な別居により婚姻を破綻させたケース(慰謝料200万円)

同居15年以上ののち、夫が特段の理由なく一方的に別居を開始し、別居期間が8年を超えました。裁判所は、妻が意に反して離婚を強いられ精神的苦痛を受けたと認定し、婚姻を破綻させた夫に対し慰謝料200万円の支払いを命じました(福岡家裁久留米支部令2・9・24)。

夫の暴力により婚姻関係が破綻したケース(慰謝料100万円)

婚姻期間約32年の夫婦において、夫の暴力により婚姻関係が完全に破綻しました。妻が早期離婚を希望していたことや夫の経済的事情も斟酌され、慰謝料100万円が認められました(東京高判令2・7・22)。

離婚慰謝料と財産分与・年金分割の違いは?

財産分与と年金分割とは

熟年離婚を考える場合、慰謝料だけでなく財産分与年金分割をしっかりと受け取ることが非常に重要です。

財産分与とは、夫婦が協力して築いた財産を離婚時に公平に分け合う手続きです。婚姻中に手に入れた財産を、原則として2分の1ずつ受け取ります。夫婦共同の預貯金や不動産、車、株式、退職金など様々な財産が財産分与の対象となります。

年金分割とは、婚姻中に支払った厚生年金保険料を、多い方から少ない方へ分ける手続きです。離婚時に年金分割の手続きをすることで、将来受け取る年金を増やすことができます。

慰謝料は相手方に離婚の責任がある場合にしか請求できませんが、財産分与や年金分割は原則として有責配偶者からでも請求することが可能です。

多くの場合、婚姻期間が長ければ長いほど、財産分与や年金分割で受け取れる金額も大きくなるため、離婚時には漏れなく取り決めを行いましょう。

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熟年離婚で財産分与と年金分割が重要な理由

令和6年度司法統計年報を見てみると、結婚20年以上の熟年離婚の場合、財産分与額の相場は1000万〜2000万円程度となっています。

財産分与の支払額(婚姻期間25年以上)

また、厚生労働省の統計(令和6年度)によると、年金分割制度を利用した方の平均年金月額は、分割前の60,934円から分割後の94,509円へと月額33,575円アップしています。

このように、慰謝料が認められなくても、財産分与や年金分割で経済的な安定を確保できるケースは少なくありません。そのため、熟年離婚の際は、慰謝料だけでなく財産分与や年金分割の交渉に目を向ける必要があります。

多くの財産がある場合の財産分与の交渉は非常に複雑です。熟年離婚の財産分与は、一度弁護士に相談されることをおすすめします。

熟年離婚の慰謝料請求と時効の注意点

熟年離婚の慰謝料請求と時効

離婚に関連する慰謝料には大きく2種類あり、それぞれ時効の起算点が異なります。

不貞行為そのものに対する慰謝料は、不貞の事実を知った時から3年で時効となります(民法724条)。継続的な不貞であっても、知った時点から時効は進行します。

一方、離婚そのものによる精神的苦痛に対する慰謝料は、離婚成立時から3年が原則です。

なお、不貞相手(第三者)に対して離婚慰謝料を請求できるのは、夫婦を離婚に追い込んだといえる特段の事情がある場合に限られるとされています。通常は、不貞を知った時から3年以内に不貞慰謝料を請求することになります。

過去の不貞行為と慰謝料請求の時効

配偶者に対する慰謝料請求には特則があり、婚姻中は時効が進行せず、離婚後も6か月を経過するまで完成しません(民法159条)。このため、離婚成立から6か月以内であれば、通常の3年の時効が過ぎている場合でも請求できる可能性があります。

不貞行為の発覚から3年以降に離婚した場合

ただし、不法行為から20年が経過した場合は、被害者の認識に関係なく請求権が消滅します(民法724条2号)。したがって、20年以上前の不貞行為については、この期間の経過により請求が認められない場合があります。

また、過去の不貞行為を理由とする場合には、それが婚姻関係の破綻原因であることの立証が必要です。日記や写真、メールなどの客観的な証拠をもとに、不貞行為と婚姻破綻との因果関係を示すことが重要になります。

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熟年離婚の慰謝料についてよくある質問

Q. 熟年離婚でも慰謝料をもらえないことがある?

熟年離婚であっても、慰謝料は相手に不貞行為やDVなどの有責行為がある場合のみ請求できます(民法第709条)。性格の不一致など双方に原因がある場合は、慰謝料は発生しません。

Q. 結婚20年・25年での離婚は慰謝料が高くなる?

結婚20年・25年以上の離婚では、婚姻期間の長さが精神的苦痛の大きさとして評価され、慰謝料が高額になる傾向があります。有責行為が長期間継続していた場合はさらに金額が上がる可能性があります。

Q. 50代の離婚で慰謝料の相場はいくら?

50代での離婚では、不貞行為が原因の場合で150万円〜500万円、DVが原因の場合で100万円〜350万円が目安です。離婚後の就業・再婚可能性の低さも考慮され、高額になるケースがあります。

Q. 慰謝料と財産分与は同時に請求できる?

慰謝料と財産分与は性質が異なります。財産分与や年金分割は有責配偶者に対しても請求できるため、慰謝料が認められない場合でも、財産分与・年金分割で経済的な安定を確保できるケースがあります。

まとめ|熟年離婚は「慰謝料」だけでなく「生活再建の総合設計」が大切

結婚20年、25年と連れ添ってきた夫婦の離婚は、精神的にも経済的にも大きな決断です。

慰謝料を請求できるかは、相手に法的責任があるかどうか(不貞やDVなどの証拠があるか)によりますが、長年の精神的・経済的負担が慰謝料判断に影響する余地もあります。

とはいえ、50代以降で離婚した方が慰謝料だけで生活していくのは難しいのが現実。熟年離婚では以下のような視点が欠かせません。

  • 財産分与・年金分割など、慰謝料以外の金銭を受け取る
  • 慎重に離婚後の生活設計を立てる
  • 弁護士など専門家によるアドバイスを受ける

熟年離婚後の人生を安心して生きていけるように、冷静に準備を進めましょう。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了