夫の逮捕・犯罪で離婚はできる?離婚の方法と注意点
夫の逮捕や犯罪行為が発覚し、離婚を考える方は少なくありません。特に「夫婦仲が悪かったところに逮捕が重なった」という状況では、逮捕が離婚のきっかけになることもあります。
夫の逮捕は家族にとって非常に大きな衝撃です。しかし、そのショックから感情的に離婚を急ぐと、将来の生活に予期せぬ影響を及ぼす可能性があります。
夫が逮捕された場合こそ、冷静な判断が重要です。本当に離婚が最適な選択なのか、また離婚を決断する場合にはどのような条件で進めるべきかを慎重に考える必要があります。
特に、軽微な犯罪の場合は、「逮捕された」という事実だけでは離婚が認められないケースもあります。一方で、重大犯罪やDVによる逮捕の場合は、離婚が認められやすくなることもあるでしょう。このような状況に直面したときは、冷静さを保ちながら、慎重に対応することが大切です。
この記事では、夫の逮捕や犯罪を理由に離婚を検討する際に知っておきたいポイントを解説します。具体的には、離婚が認められるケース、離婚手続きの進め方、そして注意点について詳しく解説します。
目次
夫が逮捕されたら離婚できる?
夫が逮捕されたらまず冷静に状況を把握しよう
逮捕=有罪ではない
夫の逮捕を理由に離婚できるか解説する前に、最初にお伝えしておきたいのは、「逮捕された」というだけでは、夫が犯罪を犯したと確定したわけではないという点です。
逮捕後の捜査の結果、「嫌疑なし」や「嫌疑不十分」と判断され、不起訴となり釈放されるケースもあります。
また、犯罪を認めた場合でも、早期に被害者と示談を成立させることで不起訴になるケースも少なくありません。このような場合を「起訴猶予」と呼びます。
不起訴となった場合、刑事責任を問われることはなく事件は終了し、前科も残りません。
逮捕後の流れを理解し、夫と話し合う機会を持つ
逮捕後は、基本的に「逮捕→勾留→起訴・不起訴の決定」という流れで手続が進みます。
勾留が決定した後は、家族も面会できるようになります。DVなど明らかな離婚事由がある場合でなければ、まずは夫と面会して直接事情を聞いてみると良いでしょう。
不起訴となり釈放された場合や、起訴後に保釈された場合は、夫とこれからのことをじっくり話し合う時間を持つことができます。
ただし、夫婦間で冷静に話し合うことが難しい場合には、弁護士に相談して間に入ってもらうとよいでしょう。弁護士を通じて逮捕の経緯を確認したり、夫の考えを聞いてもらうことで、落ち着いて話を進めることが可能になります。
夫の逮捕や犯罪行為で離婚できるケース
冷静に考えた上で、やはり夫と離婚したいと思う場合、気になるのは夫の逮捕や犯罪行為を理由に離婚ができるのかという点でしょう。この点については、どの離婚手続きを選ぶかによって結論が異なります。
離婚手続き | 夫の逮捕を理由に離婚できるか |
---|---|
協議離婚 | 夫が同意すれば離婚できる |
離婚調停 | 夫が同意すれば離婚できる |
離婚裁判 | 「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)に当たれば離婚できる |
まず、協議離婚や調停離婚の場合は、夫が離婚に同意すれば成立します。一方、裁判離婚では「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)に該当するかが重要なポイントとなります。
協議離婚・調停離婚の場合
夫の逮捕を理由に離婚したい場合、まずは夫婦の話し合いから始めるのが基本です。
そこで合意できなければ、家庭裁判所に離婚調停を申し立て、調停委員の関与のもと、離婚の話し合いを行うことになります。
離婚裁判の場合
調停不成立の場合は、最終手段として離婚裁判を申し立てることになります。
裁判では、民法770条1項に規定された法定離婚事由が認められるかどうかが焦点となります。この要件が満たされれば、相手が離婚に反対していても裁判所の判断で離婚が成立します。
夫の逮捕や犯罪行為は、その事実が法定離婚事由のひとつである「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当する可能性があります。
〇「婚姻を継続し難い重大な事由」とは
婚姻共同生活が破綻し、その修復が著しく困難な状態にあることを意味します。詳しくは『婚姻を継続し難い重大な事由|離婚原因の具体例は?弁護士解説』で解説しています。
【ケース別】夫の逮捕や犯罪の内容による離婚の可否
次のような場合には「婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当し、離婚が認められる可能性があります。
- 性犯罪や重大犯罪の場合(例:不同意性交等罪など)
- 犯罪行為が家族の名誉や生活に重大な影響を与えた場合
- 服役による長期の別居
一方、逮捕後すぐ釈放されたり、罰金刑にとどまる場合は、離婚が認められない可能性もあります。
以下、具体的なケースごとに解説します。
逮捕後すぐ釈放された場合や軽微な刑罰の場合
逮捕後にすぐ釈放されたり、罰金刑など軽微な刑罰で済む場合は、「婚姻を継続し難い重大な事由」認められる可能性は低いでしょう。
このような状況では、逮捕や犯罪行為だけを理由に離婚を請求しても、裁判で認められない場合が多いです。
重大な犯罪や性犯罪など夫婦間の信頼を破壊する行為の場合
夫が重大犯罪を犯した場合や、夫婦間の信頼を著しく損なう行為に関与していた場合は、離婚が認められる可能性が高くなります。
性犯罪の場合
不同意性交等罪などの性犯罪は、たとえ不起訴になったとしても夫婦間の信頼関係が大きく破壊されたといえ、「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当する可能性があります。
また、このような性犯罪は夫婦間の貞操義務(浮気や不貞行為をしてはならない義務)にも反しているため、裁判で離婚理由として認められる可能性が高いでしょう。
さらに、妻に対して性行為を強要していた場合は、性的DVを理由とした離婚が認められる可能性もあります。
盗撮や痴漢など軽微な性犯罪の場合
同じ性犯罪でも、盗撮や痴漢の場合は、逮捕の事実のみを理由に離婚するのは難しいでしょう。
ただし、犯罪行為の態様が悪質であったり、何度も犯行を繰り返しているなどの事情が加われば、逮捕を理由に離婚できる可能性はあります。
殺人罪などの重大犯罪による逮捕の場合
殺人や重い刑罰が科される重大犯罪で逮捕され、有罪が確定した場合は、離婚が認められる可能性が高くなります。
重大な犯罪は夫婦生活の維持に深刻な影響を与え、家庭内の信頼関係や生活基盤を崩壊させます。加えて、事件が全国ニュースで報道されるような場合、妻や子どもへの風評被害も懸念されるため、法定離婚事由に該当すると判断されることが一般的です。
配偶者へのDVが理由で逮捕された場合
夫が妻へのDVで逮捕されたり服役した場合は、離婚が認められる可能性は非常に高いです。
DVは「婚姻を継続し難い重大な事由」の典型例であり、夫がDVで逮捕されて有罪判決を受けた場合は、客観的にDVが証明されたことになります。この場合、裁判で離婚請求が認められる可能性が非常に高くなります。
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服役による長期の別居
夫が刑事事件で有罪判決を受け、服役により長期間の別居が続く場合、「婚姻を継続しがたい重大な事由」として離婚が認められる可能性が高くなります。
夫が刑務所に服役すると、夫婦が共同生活を送ることが物理的に不可能となり、婚姻生活が実質的に破綻しているとみなされます。特に服役期間が長期にわたる場合は、婚姻関係の修復が困難と判断されやすいでしょう。
また、夫が家庭の支え手としての役割を果たせなくなることで、妻や子どもに経済的・精神的な負担が生じることが挙げられます。これにより家庭が崩壊し、婚姻の継続が難しい状態になることがあります。
夫に犯罪歴がある場合、離婚は可能か?
夫に犯罪歴があることが婚姻後に発覚した場合、そのことを理由に離婚できるのでしょうか?
前述したとおり、協議離婚と調停離婚の場合は、夫が同意すれば離婚できます。
裁判離婚の場合、妻が夫の犯罪歴を知ったことで婚姻関係の基礎となる夫婦間の信頼関係が大きく揺らぎ、婚姻関係の破綻にまで至ったといえれば離婚が認められるでしょう。
そのためには、夫に犯罪歴があるという事実だけでなく、その犯罪の重大性や悪質性、継続性、刑罰の重さなどがポイントになります。
特に殺人などの重大犯罪や、性犯罪の過去を隠していた場合は、妻が受ける精神的ショックは大きく、その分婚姻関係の破綻につながりやすいといえます。
夫が逮捕された際の具体的な離婚手続きの進め方
離婚手続きの進め方
夫の逮捕を理由に離婚する場合の流れも、一般的な離婚手続きの流れと同様です。下図をご覧ください。
離婚には様々な種類がありますが、基本的には「夫婦の話し合い→離婚調停→離婚裁判」の流れで進んでいきます。
以下の項では、夫の逮捕を理由とする協議離婚、調停離婚、裁判離婚の手続きについて、それぞれの進め方と注意点を解説します。
協議離婚の進め方
- 夫と面会して離婚の意思を確認する
- 離婚届を差し入れ、署名をもらう
- 署名済みの離婚届を宅下げし、役所に提出する
- 役所で受理されることで協議離婚が成立
夫の身柄拘束中は面会時に離婚届を差し入れする
夫の逮捕は、ご家族であれば勾留が決定したあとに面会することができます。このときに話し合いをしたり離婚の意思を伝えることができます。
ただし、面会時間は20分程度と限られているため、1度の面会で全て決めるのは難しい場合があります。
夫と面会して離婚の合意ができた場合は、面会時に離婚届を差し入れて署名をしてもらいます。その離婚届を宅下げして役所に提出し、受理されれば協議離婚が成立します。
宅下げとは留置場の中にいる人から物を受け取る手続きです。差し入れ当日に宅下げ可能な場合もありますが、後日になるケースもあります。
離婚を急ぎすぎないこと
夫の合意を得れば、夫が拘束されている間にも協議離婚をすることは可能ですが、離婚を急ぎすぎるのは注意が必要です。
逮捕されただけで有罪と決まったわけではないのは前述のとおりです。また、離婚するにしても、養育費などの重要な離婚条件についてじっくり話し合いお互いに納得した上で離婚するのが理想です。
夫から逮捕の詳しい事情や離婚に関する考えを十分聞きたい場合は、弁護士に接見(面会)に行ってもらう方法も考えられます。
私選弁護人であれば逮捕直後から、国選弁護人であれば勾留決定後から接見できます。
弁護士接見であれば時間に制限はありません。
調停離婚の進め方
離婚の同意が得られない場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立てます。
注意点としては、申立てのタイミングです。離婚調停は、基本的に当事者双方の出席が必要です。夫が逮捕・勾留されている間は調停に出席できないため、夫が釈放されてから離婚調停を申し立てましょう。
軽微な事件であれば、逮捕から72時間以内に釈放される可能性もあります。起訴された場合は、保釈請求が認められたり、執行猶予付き判決が出れば釈放されます。
一方、重大事件や前科多数で実刑判決が予想される場合、起訴後も勾留が続き、釈放は難しい状況となります。釈放が難しい場合は、調停を経ずに離婚裁判の提訴を検討することになります。次の項で、離婚裁判の詳しい提訴方法を解説します。
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裁判離婚の進め方
離婚を求める際、通常は離婚調停を経てから裁判を起こす必要があります(調停前置主義)。
調停前置主義とは、「離婚裁判を提起する前に離婚調停を申し立ててください」というルールです。
家庭内の問題は、まず夫婦の話し合いによる解決を目指すのが適しているという考え方に基づきます。
例外的に、調停が困難であると裁判官が判断する場合は調停を経ずに直接裁判を起こすことが認められます(家事事件手続法257条2項ただし書)。
夫が逮捕・勾留中、または服役中の場合、調停が困難なケースも多く、その場合には直接裁判離婚を進めることが可能です。
調停を経ずに裁判に進む場合、離婚理由や状況を記載した訴状を家庭裁判所に提出します。このとき、調停が不可能である事情を具体的に説明する書面を添付します。
では、裁判離婚するためには、具体的にどのような主張を行えば良いのでしょうか?この点について、次の項で詳しくご説明します。
夫の犯罪行為を理由に離婚請求する場合のポイント
夫の犯罪行為を理由に裁判離婚したい場合、「婚姻を継続し難い重大な事由」があると認められる必要があります。
具体的には、以下の事情を主張立証すると離婚が認められる可能性が高まるでしょう。
- 犯罪行為の内容や軽重
- 実刑による長期の別居
- 服役期間の長さと同居期間との比較
- 配偶者や家族への重大な影響
- 他の婚姻生活の破綻要因
【参考裁判例】福岡家裁平成28年1月29日判決
以下の裁判例は、夫が万引きをしたことにより窃盗罪で逮捕され、その後懲役3年の実刑判決が確定し服役した事例で、「婚姻を継続し難い重大な事由」があるとして妻の離婚請求を認容しました。
裁判所は、「①原告と被告は、婚姻の約3か月後には、被告の逮捕を契機として別居するに至ったこと、②被告が今後も服役することから、別居が相当期間継続することになること、③原告が、被告の犯罪行為による服役を受けて、離婚する意思を固めていることが認められ、これらの事情を総合すると、被告が離婚を争っていることを踏まえても、原告と被告との婚姻関係は、完全に破綻に至っているということができ、婚姻を継続し難い重大な事由(民法770条1項5号)があるものと認められるから、原告の離婚請求は理由がある。」として離婚を認めました。
夫が逮捕されたら離婚の慰謝料はもらえる?
夫の逮捕を理由に慰謝料請求できる?
夫が逮捕されたことをきっかけに離婚に至った場合、慰謝料の請求はできるのでしょうか。
実は、夫が逮捕されたからといって当然に慰謝料請求できるわけではありません。
被疑事実の内容、刑罰の軽重、配偶者や家族に与えた影響等が総合考慮されて慰謝料の有無や金額が決められます。
夫の犯罪行為を理由に離婚慰謝料が認められた裁判例
ここでは、主として夫の犯罪行為を理由に離婚慰謝料が認められた裁判例を2つご紹介します。
事案① 慰謝料100万円が認められたケース
東京家裁平成23年(家ホ)312号
被告(夫)は携帯サイトで知り合った女性に対し、メールの返信がないことを非難し、その女性が送った裸体写真を「職場に送ってもいいか」などと記載した内容のメールを送信。
強要未遂容疑で逮捕され、自宅が捜索された。結果として女性と300万円で示談が成立し、起訴猶予処分となった。
- 婚姻後の同居期間:29年
- 子ども:成人1名
- 慰謝料請求額:500万円
裁判では、夫の行為が妻に大きな精神的苦痛を与えたとして、最終的に100万円の慰謝料が認められました。
事案② 慰謝料50万円が認められたケース
東京家裁平成23年(家ホ)796号
被告(夫)は、女性の身体を触ったとして、迷惑行為防止条例違反で逮捕され、略式命令により罰金刑に処された。
釈放後、被告は自宅に帰らず実家で生活するようになり、以後、別居生活が続いている。
- 婚姻後の同居期間:9年
- 子ども:16歳
- 慰謝料請求額:500万
夫の迷惑行為が家庭生活に悪影響を与えたこと、別居状態に至った経緯が考慮され、50万円の慰謝料が認められました。
離婚後に元夫が逮捕された場合について
ここまでは婚姻中に夫が逮捕された場合の離婚について解説しましたが、ここでは離婚後に元夫が逮捕された場合の重要なポイントについて解説します。
養育費の支払いは公正証書の有無がポイント
元夫が逮捕され、服役することになった場合、服役期間中は養育費の支払いが実質的に困難になる可能性が高いです。
ただし、離婚時に養育費の取り決めを公正証書として作成し、「強制執行認諾文言」を含めておくと、元夫の給与や財産を裁判を経ずに差し押さえることが可能です。
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親権者を変更できる可能性がある
離婚時に親権者を元夫としていた場合でも、元夫が逮捕されたことを理由に、親権者を変更できる可能性があります。
親権者の変更は、子どもの利益を最優先に考えるため、変更が認められるにはやむを得ない事情が必要です。
たとえば、親権者である元夫が逮捕され、その結果、子どもの福祉や生育環境に悪影響を及ぼすと判断された場合、親権者の変更が認められる場合があります。
夫の逮捕を理由に離婚したい場合は弁護士へ
夫が逮捕された場合、まずは弁護士に相談して冷静に今後の対応を考えることが大切です。
アトム法律事務所の弁護士は刑事事件の解決実績も豊富であるため、刑事事件の今後の見通しを踏まえた離婚のアドバイスをすることが可能です。
離婚をする場合は、慰謝料、養育費、財産分与などの離婚条件についてもしっかりと取り決めておくことが将来の生活に大きく影響します。弁護士が関与すれば、ストレスのかかる夫との交渉もすべて任せることができます。
夫の逮捕を理由に離婚を考えている方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。一人で抱え込まず、専門家とともに最善の方法を見つけましょう。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
留置場での差し入れには細かいルールが定められています。差し入れできる時間などを事前に警察署の留置係に問い合わせてください。