離婚の財産分与で通帳開示を拒否されたら?開示はどこまで?

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財産分与における通帳の開示は、原則として夫婦それぞれが持つすべての口座が対象です。ただし、婚姻前から持っていた預貯金や、婚姻後に相続・贈与で得た財産は「特有財産」として対象外になる場合があります。

開示の基準時は原則として別居時点です。残高だけでなく取引履歴の開示が求められることもあり、清算割合の確認などが必要な場合は、別居前後数年分の取引履歴が調査対象となることもあります。

相手が開示に応じない場合でも、弁護士会照会調査嘱託情報開示命令といった法的手段を通じて財産の状況を調べることが可能です。2026年4月1日施行の法改正で新設された情報開示命令では、正当な理由なく開示を拒否したり、虚偽の情報を開示したりした場合に10万円以下の過料が科されます。

この記事では、通帳開示の具体的な進め方や、開示を拒否した場合のリスクなど、知っておくべきポイントを解説します。

離婚時の財産分与とは?通帳開示の必要性

財産分与は、離婚に際し、夫婦が婚姻期間中に築いた夫婦共有財産を分配する制度です。

ここでは、財産分与の対象となる財産と通帳を確認する重要性、通帳開示の範囲を解説します。

財産分与の基本的な考え方

財産分与の対象財産は、婚姻期間中に共同で築いた財産(共有財産)です。

具体的には、預貯金、不動産、株式などです。婚姻中に貯めたへそくりも財産分与の対象になります。

独身時代から有していた個人の財産や、相続や贈与によって得た財産は基本的に財産分与の対象とはなりません。

財産分与の割合は、夫婦で合意できればその割合となります。合意に至らなければ、調停や訴訟で解決を目指すことになります。

実務では、財産分与の分与割合は、原則として2分の1とされています。一方が専業主婦(主夫)でも同様です。

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預貯金通帳の開示がなぜ重要なのか?

夫婦がお互いに預貯金通帳を開示することは、公平な財産分与の実現にとって欠かせません。

ただ、現実には、離婚を求められた相手方が通帳の開示を拒否するケースは少なくありません。

家事事件手続では、当事者が財産状況について誠実に説明・資料提出を行うことが求められると考えられています。相手が開示を拒否しても「仕方がない」と諦めるのではなく、弁護士を通じてしっかりと開示請求していくことが大切です。

なお、2026年4月1日以降に離婚した場合、財産分与を請求できる期間は離婚後5年以内に延長されました(民法第768条)。財産分与の請求は、この期間内に家庭裁判所へ申し立てる必要があります。

2026年3月31日以前に離婚した場合は、従来どおり離婚後2年以内となります。

通帳開示はどこまで?対象口座と期間

財産分与のために通帳開示を求める場合、対象となるのは普通預金や定期預金、積立預金、財形貯蓄など夫婦それぞれが本人名義で持っているすべての口座です。

独身時代から持っている口座でも、婚姻後にその口座へ給与が振り込まれるなどして残高が増えた場合、その増えた部分は共有財産として分与の対象となります。

基準時(別居時)の残高が財産分与の対象

財産分与の対象となる預貯金は、原則として別居時(または離婚時)に存在した金額です。

基本的には別居時点の残高証明書や、その時点の残高がわかる通帳のページの開示を求めることになります。

取引履歴の開示はどこまで遡れる?

別居直前に相手が多額の出金をしているなど、財産隠しや使い込みが強く疑われる場合は、その事実関係を調査するために取引履歴の開示を求める必要があります。

取引履歴をどこまで遡って確認できるかは、調査の目的や必要性によって変わります。たとえば、別居直前の不自然な出金を確認したい場合は、1年程度前までが一つの目安とされています。

一方で、財産がどのように形成されたかや隠匿の有無を確かめる必要があるときは、数年単位での遡及が認められることもあります。

ただし、具体的な根拠のないまま広く調べるような、いわゆる探索的な調査は認められません。財産隠しを疑う事情がない期間については、開示の必要性が否定されることもあります。

実務では、不自然な出金が疑われる期間に範囲を絞って請求するケースが一般的です。

通帳開示を拒否された場合の対処法

財産分与を行う場合、まずは夫婦の話し合いにおいて、お互いの財産を正直に開示するのが基本です。

しかし、離婚を求められた相手方が当初から任意で通帳開示に応じるケースは、そう多くはないでしょう。

相手方が通帳開示を拒否した場合の対策としては、以下の方法があります。

相手方が通帳開示を拒否した場合の対策

  • ①弁護士に説得してもらう
  • ②調停委員会に説得してもらう
  • ③弁護士会照会制度を利用する
  • ④調査嘱託を申し立てる
  • ⑤情報開示命令を申し立てる
  • ⑥合理的な推計額を主張する

以下、それぞれの対応策について詳しく解説します。

①弁護士に説得してもらう

相手方が夫婦の話し合いで通帳開示に応じない場合でも、弁護士が関与することで態度が変わることがよくあります。

配偶者が弁護士に依頼するほど本気で離婚を考えていると分かれば、相手方も通帳開示に応じざるを得ないという気持ちになるケースが多いのです。

当事者同士では話が一歩も先に進まないような難しい事案でも、弁護士の関与で状況が好転することが期待できます。

②調停委員会に説得してもらう

夫婦の話し合いや、弁護士が関与した上での交渉でも合意に至らなければ、調停を申し立てる流れが一般的です。

離婚調停を申し立てれば、その中で財産分与についての話し合いをすることができます。

調停では、男女各1名ずつの調停委員と裁判官1名から構成される調停委員会が仲介役となります。

相手方が通帳開示に応じない場合、調停委員や裁判官が相手方を説得してくれます

公的な第三者が間に入れば、それまで開示を拒否していた相手方の態度が変わる可能性が高くなります。

当事者同士の話し合いでは埒が明かないとお困りの方は、弁護士に相談の上、離婚調停の利用を検討してみてください。

③弁護士会照会制度を利用する

弁護士会照会制度とは、弁護士法23条の2に基づき、弁護士が受任事件を処理するために、必要な証拠を収集するための制度です。

離婚事件の場合、金融機関に対し、相手方の預貯金等の有無及び残高、取引履歴を照会することができます

メリットとしては、離婚の手続きの段階を問わず弁護士会照会制度を利用できる点が挙げられます。

離婚調停前、調停中、離婚訴訟中など、いずれの段階であっても照会可能です。

デメリットとしては、個人情報保護を理由に照会を拒否される場合がある点です。

④調査嘱託を申し立てる

弁護士会照会を行っても相手方の財産が明らかにならなかった場合は、調査嘱託の申立てを検討しましょう。

調査嘱託とは、裁判所が、官庁や会社などの団体に対して、事実の調査を依頼し、回答を求める制度です。

離婚の場合、相手方名義の預貯金の有無や取引履歴について調査を求めることができます。

メリットとしては、裁判所という公的機関が関与するため、回答を得やすくなる点が挙げられます。

一方、法務省委託の調査報告書(令和4年3月)では、弁護士から「近年は口座名義人の同意がないと情報を開示できないとして、金融機関から回答を拒否されるケースが増えている」との声が報告されています。

裁判所が同意なしでも回答するよう嘱託の趣旨を説明しても、一切回答を拒否する金融機関グループがあるとも指摘されています。

また、調査嘱託は調停段階では採用されにくいという点もデメリットです。

離婚調停や離婚後の財産分与調停において申立ては可能ですが、実際に採用されるケースは少ないのが現状です。一方、離婚訴訟では申し立てられ、採用される場合が多いです。

相手方が通帳開示を断固として拒否している場合、調査嘱託は現実的に難しいという問題があります。

⑤情報開示命令を申し立てる

2026年4月1日施行の法改正により、家庭裁判所が当事者に対して財産情報の開示を命じる「情報開示命令」が新設されました(家事事件手続法第152条の2など)。財産分与の審判・調停事件だけでなく、婚姻費用や養育費の審判・調停事件でも活用できます。

情報開示命令の最大の特徴は、正当な理由なく開示を拒否したり、虚偽の情報を開示したりした場合に、10万円以下の過料が科される点です。相手が開示を拒む場面での実効的な対応手段となります。

弁護士会照会や調査嘱託と比較した際の利点は、義務違反に直接的な制裁が伴う点にあります。調査嘱託は金融機関に対して行われるものであるため、任意回答を拒否されるケースもありました。一方、情報開示命令は当事者本人への命令であることから、開示義務の実効性が高い手段といえます。

ただし、審判・調停の手続き内で利用する制度であるため、家庭裁判所に調停や審判を申し立てていることが前提です。協議段階では利用できない点には注意が必要です。

⑥合理的な推計額を主張する

調査嘱託について相手方の同意が得られなかった場合でも、まだ諦める必要はありません。

この場合、相手方が隠していると考えられる預貯金の金額を推測して主張します。

その主張に合理的な理由があれば、裁判所に、その金額を財産分与の対象財産と認定してもらえる可能性があります。

実務でも、相手方が通帳開示を拒否し続けた事案で、他方当事者の主張する合理的な推計額を対象財産と認定したケースがあります。

裁判例(大阪高決令3・1・13)

夫が預金口座の取引履歴の開示に応じなかったため、裁判所は調査嘱託を実施しましたが、判明した情報は限られていました。

妻側は基準時における預金残高を推計して主張したところ、裁判所はその推計に「相応の合理性がある」として預金の存在を認めました。

このように、事案の事情にもよりますが、相手が取引履歴の開示を拒んだり不誠実な対応を続けたりしていても、弁護士を通じて合理的な推計に基づく主張を行い、裁判所の調査嘱託などの手続きを活用すれば、隠されている財産も財産分与の対象として認められる可能性があります。

適切な主張を行うには、証拠を精査して相手方の収入と支出の状況を正確に把握することが必要です。

相手方の財産隠しを分与割合で考慮する場合もある

相手方が夫婦共有財産を隠している可能性がある場合、その事情が財産分与の割合において考慮されることもあります。

例えば、東京高判平成7年4月27日は、夫がすでに明らかになっている財産以外にも、夫婦共有財産とみなすべき財産を所持している可能性が疑われること等を考慮し、財産分与の対象となる金額の約3割6分を夫に、その他を妻に分与するのが相当であると判断しました。

通常、財産分与は2分の1ずつ行われることを考えると、財産隠しをした疑いのある夫の取り分を少なくし、妻の取り分を多くした事例といえます。

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相手の財産を知るために別居前にしておくべきこと

弁護士会照会制度や調査嘱託の申立てを行うには、相手方の財産について、ある程度の情報が必要です。

特に預貯金を調査する場合は、金融機関の支店名の特定まで必要です。調査嘱託の場合も支店名の特定が必要です。加えて、通帳の写し取引明細書の写しなどの提出が求められることもあります。

「ただ何となく隠し口座があるようだ」という程度では、これらの手続きを利用することはできないのです。

離婚を考える場合、以下のような方法で、別居前に相手方の財産をできる限り把握しておきましょう。

  • 預貯金通帳やキャッシュカードの銀行名・支店名・口座番号を控える。
  • 口座開設時の案内や取引明細書などの郵便物から利用している金融機関を確認する。

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自分が通帳開示を求められた場合拒否してもよい?

「相手方が通帳開示に応じないのであれば、自分も開示をしたくない」と感じる方もいるでしょう。

ここでは、通帳開示を拒否するとどうなるか、拒否し続けた場合の影響について解説します。

開示した方が離婚問題の解決がスムーズ

相手方が開示しないからといって自分も通帳開示を拒否するのは、決して得策とはいえません。

開示拒否は、ご自身にとって不利益をもたらす可能性があります

自分が離婚調停等を申し立てた側であるにもかかわらず、自己名義の財産を開示しない場合は、財産分与の可否や分与額が認定できないことを理由に、申立てが却下される可能性があるのです。

却下までいかなくとも、手続きの進行に非協力的な態度でいると、調停委員会に対する印象が悪くなるのを避けられないでしょう。

もちろん、当事者の印象のみで調停の結果が変わるわけではありません。

しかし、非協力的な当事者の主張が通るよう相手方を一生懸命説得しようという気持ちに調停委員会がなるかというと、やはりそれは難しいでしょう。

調停を有利な結果につなげたいのであれば、自分の財産は最初から正直に開示して、調停委員会の印象を良くしておくに越したことはありません。

調停の進行に協力的であれば、調停委員会が相手を説得してくれやすくなるため、離婚問題全体の解決がスムーズになります。

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通帳開示を拒否することによるリスク

通帳開示を拒否し続けると、最終的には、相手方の主張する推計額どおりの預貯金額があると認定されてしまう可能性があります。

この点について、裁判例でも厳しい判断が示されています。

財産分与が争われた事案では、家計の中核的な口座の取引履歴を一切開示しなかった元夫について、裁判所が調査嘱託を実施したものの、金融機関が元夫の同意がないことを理由に回答を拒否しました。

原審では、「取引履歴を開示するだけのことで推計の当否を容易に明らかにすることができるのに、これをしなかった」として、元妻が推計した高額な残高が存在すると認定しています(大阪家審令2・9・14)。

これを受けた抗告審において初めて通帳の写しを提出した元夫の行為を裁判所は「財産隠しと評されてもやむを得ない」と批判し、元夫が後出しした通帳上の残高と元妻の推計額の差額を別口座に保管しているものと認定しました(大阪高決令3・1・13)。

預貯金は存在しないと主張したにもかかわらず、元妻側の推計や調査嘱託・弁護士会照会などによって預貯金の存在が明らかになれば、財産分与で不利になるおそれがあります。それだけでなく、裁判所からの印象が悪化し、主張全体の信用性が下がってしまう可能性もあります。

とはいえ、さまざまな理由から通帳開示を拒否したいという方もいるでしょう。その場合は、まずは弁護士に相談するのが最善策です。自分の判断で開示を拒否し続けると、上記のとおり大きなリスクがあります。弁護士に相談のうえ、慎重な対応をとることがご自身の利益を守ることにつながります。

離婚の財産分与における通帳開示についてよくある質問

Q. 通帳開示はどこまでの口座が対象になる?

財産分与における通帳開示の対象は、夫婦それぞれが名義人となっているすべての口座です。婚姻前から保有する口座でも、婚姻後に給与などが入金されて残高が増えた分は共有財産として開示の対象となります(民法第762条)。

Q. 取引履歴はどのくらい前まで開示を求められる?

取引履歴の開示期間は、調査の目的と必要性に応じて判断されます。別居直前の不自然な出金の確認が目的であれば1年程度が目安ですが、財産形成の経緯や財産隠しの立証が必要な場合は、数年単位でさかのぼることが認められるケースもあります。根拠のない網羅的な調査は認められません。

Q. 情報開示命令とはどんな制度?

情報開示命令は、2026年4月1日施行の法改正で新設された制度です。家庭裁判所が当事者に財産情報の開示を命じるもので、財産分与・婚姻費用・養育費の審判・調停事件で活用できます。正当な理由なく開示しない場合や虚偽の情報を申告した場合には、10万円以下の過料が科されます(家事事件手続法第152条の2など)。

Q. 子ども名義の通帳は財産分与の対象になる?

子ども名義の口座でも、夫婦の収入から積み立てた資金が原資であれば共有財産として扱われる可能性があります。一方、お年玉や祖父母からの贈与のみが原資の場合は、特有財産として対象外となります(民法第762条第1項)。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了