共働きなのにワンオペ育児…家事しない夫と離婚できる?証拠集めと慰謝料請求

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家事育児をしない夫

「共働きなのに家事をしてくれない夫と離婚したい」
「ワンオペ育児に疲れた。夫は何もしないのに、なぜ私だけが負担を抱えるの?」

共働き家庭が増える中で、家事や育児の負担が妻に偏るワンオペ状態に耐えられず、離婚を考える女性は多くいます。
その一方で、家事をしないことが離婚理由になるのか、離婚して慰謝料を請求できるのか不安に感じる方も多いでしょう。

結論から言えば、相手の合意を得ることなく、家事をしないこと「だけ」を理由に離婚するのは難しいです。

ただし、民法では夫婦に協力義務が定められており、共働きにもかかわらず家事や育児を放棄して負担を相手に押しつける行為は、この義務に反すると判断される可能性があります。

本記事では、家事をしない夫と離婚を進めるための具体的なステップ、離婚を有利にする証拠の集め方、慰謝料が認められるケースなど、重要なポイントをわかりやすく解説します。

「家事しない夫」は離婚理由になる?

合意を得れば協議離婚できる

協議離婚は、夫婦が互いに離婚に合意し、条件を話し合って決める離婚方法です。

夫婦の合意があれば離婚できるため、「夫が家事をしないから離婚したい」という理由について夫が合意すれば、離婚することができます。

夫が合意すれば調停離婚もできる

夫婦の話し合いで解決できず、夫が「家事をしないことによる離婚は認めたくない」と、離婚に合意しなかった場合は、離婚調停に進むことになります。

離婚調停は、夫婦間の話し合いでは離婚に関して合意ができなかったときに、裁判所の調停委員会のもとで話し合いをおこなう離婚の方法です。

あくまで当事者間での話し合いを目的としているため、裁判所が離婚の成立や離婚の条件を一方的に決めてくれるわけではなく、離婚成立のためには当事者間での合意が必要です。

調停員に対して、夫がどれほど家事をしてくれないかをアピールすることが重要になるということを覚えておきましょう。

裁判離婚を検討する

協議や調停で話し合いがまとまらなかった場合は、離婚裁判で離婚を認めてもらうことになります。

離婚を裁判で争うためには、婚姻関係が破綻していることと、法定離婚事由があることの2つの条件を満たす必要があります。

法定離婚事由とは、民法で定められた離婚の理由です。以下の5つがあります。

法定離婚事由

  • 不貞行為
  • 悪意の遺棄
  • 3年以上の生死不明
  • 回復の見込みのない強度の精神病
  • その他婚姻を継続しがたい重大な事由

夫が家事をしないことを理由に離婚を目指すのであれば、家事をしないことが「悪意の遺棄」や「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当するかを考える必要があります。

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家事をしない夫と裁判離婚するには

法定離婚事由に該当するか確認

まずは現在の夫の対応が、法定離婚事由に該当するかどうかを確認しましょう。

悪意の遺棄

悪意の遺棄とは、民法に定められる夫婦の義務に正当な理由なく反して、婚姻生活を破綻させる行為のことです。

民法において、夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならないと定められており、夫婦は同居・協力・扶助の義務を負うことになります(民法752条)。

これらに正当な理由なく反した場合は、法定離婚事由となりえます。

たとえば、「一方的にパートナーを家から追い出す」「収入があるのに家に生活費を入れてくれない」などの行為が該当します。

夫が家事をしないことは、一見すると夫婦の義務に反しているように感じられます。

しかし、収入から生活費をきちんと渡しているといったような事実があれば、夫が家事をしないということだけで悪意の遺棄と認められる可能性は低いでしょう。

というのも、家事に協力しないという事実から、積極的に夫婦生活の破綻を意図していたり、認めていたりしていると判断することは難しいと思われるからです。

そのため、悪意の遺棄だけではなく、「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」もあわせて主張することが重要です。

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その他婚姻を継続しがたい重大な事由

まったく家事をしない夫と裁判離婚をしたいと考えている場合は、悪意の遺棄に加えてその他婚姻を継続しがたい重大な事由もあわせて主張することが重要になります。

「婚姻を継続しがたい重大な事由」の意味について、判例は、「夫婦としての共同生活の実体を欠くようになり、その回復がまったくない状態に至った場合」と判示しています(最判昭62.9.2)。

たとえば、夫が「家事は妻がやるべきものだ」という考えを妻に押し付け、家事を手伝ってほしいと伝えても協力どころか暴言を吐くなどした場合、婚姻を継続しがたい重大な事由とみなされる可能性が高いです。

離婚裁判で離婚を認めてもらうには、相手が家事をしないことによって、夫婦共同生活が破綻し、その回復がまったくできない状態にまで至っていることがわかる具体的な事実を主張・立証することがポイントです。

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共働きと専業主婦の違い

共働き夫婦の場合は、「妻が家事をすべて担う」などと双方で合意がないかぎり、協力・扶助の義務が発生します。

合意がないのに「夫が家事をしてくれず困っている」という場合は、婚姻を継続しがたい重大な事由として認められる可能性があるでしょう。

一方、自分が専業主婦であるという場合は、少なくとも夫の勤務中には家事を引き受けるということについて合意があるとみなされるでしょう。

夫が生活費を全面的に負担しているのであれば、夫が家事をしないことは「婚姻を継続しがたい理由」には該当しない可能性が高いです。

もちろん、「家事は楽でいいなと夫から威圧的に言われた」などといった、モラハラなどほかの「婚姻を継続しがたい理由」に該当する状況があれば、離婚が認められる可能性はあります。

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家事をしない夫との離婚が認められた判例

家事育児への非協力を理由に離婚を求めた事案

東京高判平29・6・28(平成29年(ネ)525号)

妻は流産を2回経験したうえで長女と長男を出産したが、育児の辛さを訴えても夫は「お前は子どもの面倒を見ているだけだろ。家のことだけだろ。」と発言し、協力しなかった。
専業主婦の妻が看護学校へ通い始め、一時的な家事負担を求めても夫は応じず、妻は子どもを連れて別居。
その後、妻は流産や妊娠中の冷淡な対応、家事・育児への非協力を理由に離婚を申し立てた。


裁判所の判断

「婚姻関係は既に修復不能なまでに破綻している」

東京高判平29・6・28(平成29年(ネ)525号)
  • 一審判決を取り消し、妻の離婚請求を認容。
  • 別居期間3年5か月以上で復縁の具体的動きなし。
  • 一方的な有責性がなくても婚姻関係の修復不能性を認定。

本判決では、流産時の配慮不足、妊娠中・育児中の無理解や非協力、家事分担の拒否、配偶者を見下すような言動などが積み重なり、さらに別居期間が3年以上に及び、復縁の見込みがない状況が認定されました。

家事・育児への非協力が、単独で直ちに離婚原因となるわけではありません。
しかし、配偶者の心情を理解せず、協力を拒否し続けることで、夫婦間の信頼関係が失われ、婚姻関係の破綻につながることを裁判所は明確にしました。

家事をしない夫との離婚で慰謝料はもらえる?

家事をしないというだけだと慰謝料請求は難しい

家事をしないという理由だけで慰謝料を請求することは難しいでしょう。

離婚慰謝料は、離婚の原因を作った一方が、もう一方の精神的苦痛を補償するために支払うお金です。

離婚の慰謝料は、すべての場合で支払われるものではありません。請求が認められやすいケースとしては、不貞行為や悪意の遺棄、DV、モラハラ、性の不一致などが該当します。

そのため、夫がまったく家事をしなかったということが、妻の精神的苦痛になったと客観的にわからなければ、慰謝料をもらえないおそれが大きいです。

慰謝料をもらえるケース

家事をしないというだけで慰謝料をもらうことは難しいですが、夫に「悪意の遺棄」があったと認められれば、妻は慰謝料をもらうことができます。

もちろん夫が家事をしないだけでなく、夫からモラハラやDVなどを受けていたという場合でも、慰謝料を獲得できる可能性が高いです。

また、協議離婚や調停離婚を進めるなかで、夫婦の間で慰謝料について合意があった場合ももらうことができます。

慰謝料請求のための証拠

夫に「悪意の遺棄」や「婚姻を継続し難い重大な事由」があったと認められるには、夫がまったく家事をおこなっていなかったことを立証するための証拠が重要です。

有効となる可能性が高い証拠には、以下のようなものがあります。

家事をしていないことを示す証拠

  • 夫が協力してくれなかったことで散らかっている家の写真
  • 夫に家事の協力を頼んでも無視されたときの録音・音声
  • 夫が家事に協力してくれないことで精神科を受診した記録
  • 夫が家事に協力してくれなかったことが書いてある日記 など

もちろん、DVやモラハラなどを受けていたという場合も、録音や音声、医療機関への受診記録、日記などは重要な証拠になります。

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財産分与も考慮される可能性がある

もし夫が家事をまったくしていなかったことが立証された場合は、財産分与が有利になる可能性があります。

財産分与とは、夫婦が婚姻期間中に築いた財産を離婚時に公平に分配することです。基本的に、2分の1、つまり半分ずつ分配されます。

ただし、夫婦の収入額が同じ程度であり、一方のみが家事や育児を担っていた場合は、家事育児を負担していたほうが貢献度が高いとされ、有利な割合で分割されることがあります。

「共働きなのにワンオペで家事や育児をしていた」という場合は、財産分与の際に2分の1よりも大きな割合で財産を受け取れる可能性があるので覚えておきましょう。

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ワンオペ離婚を有利に進める証拠と準備

単に「夫が何もしない」と主張するだけでは、調停委員や裁判官に深刻さが伝わらないことがあります。

ここでは、ワンオペの負担を客観的に証明するための具体的な方法を紹介します。

何もしない夫を可視化する証拠の集め方

家事・育児の放棄は「行動していないこと」の証明であるため、証拠化が難しい側面があります。

以下のような工夫で、できるだけ多くの証拠を集めましょう。

家事育児分担表の作成

日々の家事タスクをリスト化し、夫と妻どちらが行ったかを記録することで、家事・育児の負担の偏りを客観的に可視化できます。

夫の欄が空白であることが続けば、協力義務違反の実態を示す証拠となり得ます。

タイムスケジュールの記録

起床から就寝までの行動を時系列で記録できるバーチカル手帳や時系列メモなどを活用し、夫婦それぞれが何をしていたかを具体的に残しておくと有効です。

たとえば、「夫がスマホを見ている間に、妻が家事をこなしていた」といった状況を時刻入りで記録しておくことで、家事・育児に対する非協力の実態を客観的に示すことができます。

LINE等のメッセージ履歴

家事や育児の協力を求めた際のやり取りや、返信を無視された履歴も有力な証拠になります。

例えば、「子どもが熱を出したから早く帰って」という連絡に対して「無理」とだけ返すようなメッセージは、夫婦間の協力関係が十分に機能していないことを示す材料になります。

メールやLINEの履歴は、家事・育児を含む生活面での無協力を裏付ける証拠として、調停や訴訟で用いられることがあります。

別居という選択肢

改善を求めても夫が変わらない場合、別居を検討することも一つの手段です。

別居期間が長くなれば、法的に「夫婦関係が破綻している」とみなされやすくなり、離婚が認められる可能性が高まります。

また、別居中であっても、収入の高い側に対して婚姻費用(生活費)を請求できます。

ただし、無断で家を出ると、民法752条の同居義務違反と指摘されるリスクもあるため、置き手紙を残すなど、別居の事実や理由を記録しておく必要があります。

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家事育児しない夫との離婚に関するよくある質問

Q. 家事育児しない夫と離婚できる?

家事をしないことだけを理由に、裁判で離婚を認めてもらうのは難しいのが現実です。

しかし、家事や育児を放棄する状態が長期間続き、その結果として夫婦関係が深刻に破綻している場合や、DV・モラハラなど別の離婚事由を立証できる場合には、離婚が認められる可能性があります。

まずは、話し合いによる協議離婚の成立を目指しましょう。

Q. 「俺の方が稼いでいる」は家事をしない理由になる?

法的には収入差で家事義務に差は生じません。

民法752条は夫婦相互の協力義務を定めています。
収入が多いことは、家事をしない正当な理由にはなりません。

Q. 「ゴミ出しはやっている」と言い張る夫と離婚するには?

民法752条は夫婦相互の協力義務を定めており、家事分担もこの義務に含まれます。

一方が家事を全く担わない、あるいは著しく非協力的な状態が長期間続き、その結果として婚姻関係が深刻に破綻していると認められる場合には、「婚姻を継続し難い重大な事由」として離婚原因となり得ます。

ただし、家事分担の偏りだけで直ちに離婚が認められるわけではありません。家事非協力の程度や継続期間、さらにモラハラなど他の要素と合わせ、総合的に判断されます。

主張を裏付けるためには、家事分担表、日記、写真、証言などを用いて、家事負担が一方に過度に偏っている状況を客観的に示すことが重要です。

Q. 専業主婦の場合、家事をしない夫との離婚は不利?

共働きに比べると、役割分担として妻が家事を担う合意があるとみなされやすく、ハードルは上がります。

しかし、病気などの事情があるのに夫が一切協力しない場合などは、離婚事由になり得ます。

家事をしない夫との離婚は弁護士に相談!

家事をしないこと「だけ」を理由に離婚するのは難しいと思われますが、夫に「悪意の遺棄」や「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」があったと認められれば、離婚することができます。

家事をしない夫と離婚を考えているという方は、弁護士に相談することをおすすめします。

弁護士に相談すれば、現在のご家庭の状況や夫婦の関係といった話を通して、裁判離婚ができるかどうかを法的に判断してくれます。

また、離婚の話し合いがうまくいかなかったとしても、依頼者の代理人として交渉や調停、裁判などで強い味方になってくれます。

無料相談を受け付けている弁護士事務所もありますので、まずは弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

詳しくはこちら

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了