宗教問題で離婚できる?離婚方法や慰謝料請求、親権獲得のポイント

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宗教問題で離婚できない?

結婚相手が宗教に熱心になって生活を顧みない、自分や子どもに信仰を強制してくる、といった夫婦間での宗教をめぐるトラブルは少なくありません。

  • 宗教の信仰が原因で夫婦喧嘩、義実家とのトラブルに発展した
  • 自分や子どもに宗教行事や集会への参加を強制してくる
  • 多額の寄付によって家計が圧迫されている

たとえ夫婦であっても、相手の信仰の自由を否定することはできません。

しかし、宗教活動によって夫婦生活を続けていくことが困難な場合には離婚が認められることがあります。

また、離婚の理由が相手の行き過ぎた信仰にある場合には、親権の獲得や慰謝料請求が認められることがあります。

今回は、宗教問題での離婚方法、慰謝料請求や親権者になるためのポイントを解説していきます。

宗教にのめり込んだ旦那との離婚はできない?

お互いに合意できれば宗教に入れ込む夫と離婚できる

どのような理由であっても、相手と合意をし、離婚届の提出をすれば協議離婚をすることができます。

裁判離婚は法定離婚原因がなければ離婚は認められませんが、協議離婚は相手との合意さえあれば離婚をすることができます。

しかし、相手が離婚をすることに同意してくれない場合には、勝手に離婚届を書いて提出しても離婚をすることができません。

協議離婚ができない場合、調停手続を通じて離婚をしていくことになりますが、相手と合意ができなければ調停離婚もすることはできません。

自分は宗教上の問題を理由に離婚を考えていたとしても、相手の方は良かれと思って、家族の幸せのためにその宗教を信仰しているかもしれません。

そのような相手に離婚をしたいと申し出ても、自分の信仰が家庭内に悪影響を与えているとは思っていないため、なかなか離婚に同意してくれないことがあります。

DVや浮気と違って信仰自体に違法性はないため、自分に離婚原因がないと感じる相手と離婚の合意をすることは容易ではありません。

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法定離婚原因があれば宗教に入れ込む夫と離婚できる

協議や調停で合意することができなくても、裁判をすることで離婚をすることができます。

夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。

一 配偶者に不貞な行為があったとき。

二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。

三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。

四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。

五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

民法第七百七十条

裁判離婚をするためには、法定離婚原因が認められなければなりません。

単に配偶者や義実家が宗教を信仰しているというだけでは、離婚原因は認められません。

信仰の自由は憲法上保障されている人権であるので、異なる宗教を信仰しているからといって離婚原因になるようなことはありません。

自分が宗教を信仰していることで義実家との関係が悪化したとしても、そのことだけで離婚原因が認められるわけでもありません。

しかし、宗教活動によって、夫婦生活を続けられなくなった場合には、「その他婚姻を継続し難い重大な事由」があったとして裁判離婚が認められます。

「その他婚姻を継続し難い重大な事由」とは、「夫婦としての共同生活の実体を欠くようになり、その回復が全くない状態に至った場合」を指します。

たとえば、宗教上の儀式の参加、教義に従うことを強制させられ、自分の信仰の自由を無視される、子どもの教育に悪影響が生じているなどの場合に離婚が認められることがあります。

また、寄付やお布施、法外に高額な壺や数珠などの購入でお金を浪費されている場合、夫婦生活を続けていくことが困難な経済状況にあるとして離婚が認められることがあります。

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宗教上の多額の寄付は悪意の遺棄での離婚が認められる

多額の寄付によって十分な生活費を渡されていない場合には、「悪意の遺棄」として離婚が認められます。

悪意の遺棄とは、互いに家事を協力し、家計を支えあう夫婦の義務を果たさないことです。

宗教団体に対して寄付や献金をすること自体は、信仰の自由によって認められており、違法ではありません。

しかし、多額のお布施をするために十分な生活費を渡さないような場合には扶助義務を果たしていないとして悪意の遺棄にあたり、離婚が認められることがあります。

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自分や実家の宗教が原因で離婚させられてしまう?

自分や実家が宗教を信仰しているという理由だけで強制的に離婚させられるわけではありません。

自分や実家が宗教を信仰していることを理由に離婚を強要された場合、自分たちの宗教活動を理由に裁判離婚が認められないか不安に思われるかもしれません。

しかし、信教の自由は憲法上保障されており、たとえ夫婦であっても配偶者の宗教活動の自由を否定することはできません。

裁判になっても、宗教を信仰しているということだけで離婚を認めるようなことはありません。

ただし、配偶者や子どもに入信するようしつこく布教する、多額の寄付が家計を圧迫しているなど結果的に夫婦関係を継続し難い事実があると離婚が認められるおそれがあります。

離婚したくない場合、これからは布教や寄付を自粛する、宗教を理由に家事や育児をおろそかにしないなど、夫婦関係の改善の余地が認められる事実を主張していきましょう。

宗教問題を理由に離婚が認められた事例

異なる宗教を信仰していたことを隠していたケース

夫と妻がお互い異なる宗教を信仰していることを隠していたことが原因で婚姻関係が破綻したとして離婚が認められたケースです(東京高判昭和58年9月20日)。

夫が、妻とは違う宗教を信仰しているにもかかわらず、それを隠して妻と結婚、その後、互いの信仰が異なることから夫婦関係が悪化しました。

夫婦双方が離婚を請求したこともあり、裁判所は婚姻関係が破綻しているとして離婚をすることを認めています。

宗教活動に熱心なあまり家族を顧みなくなったケース

宗教活動にのめり込んで、夫婦関係が悪化しても信仰を継続している場合、離婚が認められたケースです(大阪高判平成2年12月14日)。

結婚後に妻が宗教に入信、仏事等の祭祀への参加を拒否したことが原因で夫婦関係が悪化、7年以上の長期間の別居をするに至りました。

裁判所は、妻が夫婦関係を修復するために宗教活動を自粛しておらず、別居が長期間に及んでおり、家事や子どもの養育に相当支障がでるとして離婚を認めています。

信仰の自由は夫婦間でも互いに尊重しなければならないものの、いっしょに生活する以上節度をもって行うべきであることが示されたケースです。

また、別居期間が長期間に及んだという事実も離婚が認められる方向に働いたといえます。

宗教問題を理由に離婚が認められない事例

まだ夫婦関係を回復する余地がある場合

一方で、宗教活動が原因で別居に至ったとしても、いまだ夫婦関係を回復することができるとして離婚が認められないことがあります(名古屋地裁豊橋支部判決昭和62年3月27日)。

このケースでは、妻の宗教活動が原因で2年の別居、夫が離婚を求めました。

裁判所は、夫が妻の信仰に寛容になって夫婦関係の改善に努めれば婚姻生活を回復できたことを理由に離婚を認めませんでした。

信仰を理由に家事を怠ったわけではない場合

また、子どもに対しても宗教活動をしていたとして2年間別居をしていたケースでも夫婦としての義務を果たしていなかったわけではないとして離婚が認められないこともあります(名古屋高判平成3年11月27日)。

裁判所は、宗教活動を理由に家事をおろそかにしていたわけでもないこと、夫が妻の宗教活動に対していま少し寛容になれば別居することはなかったことから離婚を認めませんでした。

別居期間が長期間とはいえないことも離婚が認められない事情のひとつとして判断されました。

宗教問題で離婚が認められるポイント

  • 節度ある宗教活動といえるか
  • 宗教活動を理由に家事や育児をおろそかにしていないか
  • 夫婦関係の改善のために信仰を自粛している、配偶者の信仰にある程度寛容になるなど夫婦双方で協力する余地はあるか
  • 別居期間が長く既に婚姻関係が破綻していないか

このように夫婦の義務を果たしていないか、夫婦関係が改善する見込みがないか、別居期間の長短といった点が離婚が認められるかのポイントとなっています。

宗教を理由に離婚慰謝料請求できる?

宗教活動を理由とした離婚慰謝料は認められにくい

相手の宗教活動が原因となって夫婦関係が破綻、離婚に至った場合、精神的損害を受けたとして慰謝料請求が認められることがあります。

夫婦間で異なる宗教を信仰していたケースでは、夫が婚姻時に自身が宗教を信仰していることを隠していたことが一因となって夫婦関係が悪化したとして妻側の慰謝料請求を認めています。

ただ、相手はまったくの善意で布教、信仰活動をしていることもあり、慰謝料請求をする上で必要な相手方の故意・過失、違法性が認められないとして慰謝料請求が認められにくい傾向にあります。

たとえば、相手が宗教活動を自粛しなかった一方で、自分も相手の信仰に寛容でなく、夫婦双方に離婚の責任があるとして慰謝料請求が認められないこともあります。

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宗教が原因で離婚した場合の子どもの親権

親権を決定するうえで宗教活動の程度も考慮される

どちらを親権者とするのかを決定するうえで、配偶者の宗教活動の内容や程度も考慮されることもあります。

相手が宗教活動に熱心になるあまり、子どもにまで信仰や教義を強制しているような場合、自分が子どもの親権を得たいと感じることもあるでしょう。

しかし、親権者を決定するうえで離婚原因が夫婦どちらにあるかという点が考慮されるわけではありません。

あくまで、どちらを親権者とするのが子どもの利益になるかという点から判断されます。

信仰自体は違法ではないため、宗教が子どもの成長に悪影響を及ぼしているのでなければ、親権を得るうえでマイナス要素にはなりません。

宗教2世問題といった、子どもの意思を無視してまで信仰の強制が行われているような場合には、子の利益に反する事情として考慮されます。

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宗教の夫婦喧嘩での離婚は弁護士に相談

宗教問題を理由とした離婚は、単に特定の宗教に入信しているだけでなく、夫婦間の様々な事情を考慮したうえで判断されます。

宗教活動の態様や程度、家事や育児の協力、別居期間、回復の見込みといった事情を総合的に考慮して今後、夫婦関係を継続できるか検討されることになります。

また、信仰の自由が認められる以上、たとえ自分が信仰をしていなくとも相手の信仰を尊重しなければならず、慰謝料請求も認められにくい傾向にあります。

宗教トラブルを原因とする離婚問題は、特に判断が困難なケースが多いです。

自分が置かれている状況は離婚が認められるような状況にあるか、慰謝料を払ってもらえるのか、といったことにお悩みであれば是非弁護士にご相談ください。

宗教問題をはじめ多くの離婚事件を扱う、法律の専門家である弁護士であれば、離婚に関するお悩みにも適切なアドバイスができます。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了