ペアローンは離婚できない?解消方法は住宅ローンの一本化や借り換え
住宅を購入する際に、ペアローンを組んだ夫婦も多いかと思いますが、「ペアローンがあると離婚できない」と言われることもあるほど、離婚時にはペアローンがよく問題になります。
実際は、ペアローンがあっても絶対に離婚できないわけではありません。
しかし、ペアローンは夫婦がお互いの連帯保証人になるものなので、離婚後に相手が滞納した場合の返済リスクなどが生じます。
ペアローンに対処しないまま離婚してしまうと、最悪の場合、家に住み続けられなくなったり、相手の分のローンまで一括返済を求められたりする可能性もあります。
離婚後のトラブルを避けるために、ペアローンの対処法を知っておきましょう。この記事では、以下の項目について解説します。
- ペアローンのある離婚で生じる問題
- ペアローンを解消する方法
- ペアローンのある家に離婚後も住み続ける方法
- 離婚後にペアローンを滞納すると起きること
目次
ペアローンは離婚するとどうなる?
ペアローン(住宅ローンの形態)とは?
離婚をする時、住宅ローンが残っている場合、そのローンを誰が返済するのか、その住宅に誰が住み続けるのかなどが問題になるものです。
住宅ローンの話し合いを始める前に、ローンの名義人が誰なのか、契約形態はどうなっているのかを確認しましょう。
それによって、その後の対応は異なります。
住宅ローンの形態
- 単独債務
- 連帯債務型
- 連帯保証型
- ペアローン
単独債務
単独債務とは、夫婦の一方のみが単独でローンを借りる契約です。
連帯債務型
連帯債務型の住宅ローンの場合、一方が主債務者、もう一方は連帯債務者となり、2人は等しく責任を負っています。
関連記事
・住宅ローンの連帯債務者のまま離婚するとどうなる?外れる方法を解説
連帯保証型
連帯保証型とは、一方を主債務者、もう一方を連帯保証人とする契約です。配偶者ではなく保証会社が保証人になっている場合もあります。
関連記事
・離婚時に住宅ローンの連帯保証人から外れるには?方法や手続きを解説
ペアローン
ペアローンとは、夫婦それぞれが契約者としてローンを組む方法です。ペアローンの場合は、互いが連帯保証人になっています。
連帯債務型や連帯保証型は、1本のローン契約となるのに対し、ペアローンは契約が2本のローン契約となるものです。
ペアローンの場合、団体信用生命保険は、2名がそれぞれ加入でき、住宅ローン控除も2名がそれぞれ利用できます。
単独債務 | 連帯債務 | 連帯保証 | ペアローン | |
---|---|---|---|---|
収入審査 | 1人 | 夫婦 合算 | 夫婦 合算 | 夫婦 各自 |
契約者 | 1人 | 1人 | 1人 | 夫婦 |
連帯 | ✖ | 〇 | 〇 | 〇 |
団体信用生命保険 | 1人 | 原則 1人 | 1人 | 夫婦 |
住宅ローン控除 | 1人 | 夫婦 | 1人 | 夫婦 |
所有権 | 1人 | 夫婦 | 1人 | 夫婦 |
こちらの表は、2024年5月現在の情報を、簡略化して整理しています。最新の情報の詳細ついては、ご自身でご確認ください。
ペアローンは離婚してもそのまま!双方が払い続ける必要あり
離婚時には、住宅の財産分与も行います。
住宅の現在価値を何割ずつで分け合うか、どちらが家に住み続けるかなどは、夫婦で話し合って決めることになります。
財産分与でどちらか一方が家を受け取る場合、もう一方にはその価値に相当するお金や他の財産を渡すことで均衡を取ります。
離婚によってどちらかが家を出ることになっても、それは夫婦間の問題であり、金融機関との間のローンの契約内容が変化するわけではありません。
したがって、離婚時、ペアローンを解消するための対策を何もしなければ、離婚後も2人でペアローンを返済し続けることになります。
関連記事
・離婚したら住宅ローンはどうなる?折半すべき?財産分与の方法を解説
ペアローンがあると離婚できない?よくあるトラブル3つ
「ペアローンは離婚できない」は誤解?
「ペアローンがあると離婚できない」と言われることがありますが、これは誤解です。ペアローンがあるまま離婚すること自体には法律上・制度上の問題はありません。
しかし、ペアローンのある離婚は、トラブルが起きやすい状況であるというのは間違いなく、これが「離婚できない」と言われる理由でしょう。
(1)ペアローンは離婚しても名義変更できない
住宅ローンは、ローン契約を締結した者が、最後まで支払いを続けることが原則です。
金融機関は、基本的には、離婚したからというだけでローンの名義人(返済する人)の変更を認めてはくれません。
登記名義上、不動産を、別れた配偶者と共有しているという状況がつづいてしまいます。
名義変更の手続きを取れる場合もありますが、現実問題として、難しい側面があります。
(2)ペアローンがあると家を売却しづらい
ペアローンを組んでいるということは、不動産の名義も共有名義になっているということです。
これで困りごとが生じるのは、家を売りたくなったときです。
家を売却するには、不動産の名義人全員の同意が必要です(民法251条参照)。したがって、離婚後に家を売りたくなったら、元夫や元妻に連絡を取って、同意を得なければなりません。
このような困りごとが生じないようにするための対策として、理想は、離婚の際に不動産の名義書換をおこない、単独名義にしておくことです。しかし、ローンの返済中は、原則として不動産の名義を変更することができないというのが、現実です。
なお、不動産の名義人が亡くなった場合は、その人の持分は遺族に相続されます。そのため、元配偶者が死亡している場合、家を売るためには、元配偶者の相続人に連絡を取って、売却の同意を得る必要があります。
(3)ペアローンは滞納した時のリスクが高い
家を出る側がこうむる不都合|相手の債務も返済する責任がある
ペアローンの場合、夫婦がともに債務者であり、かつ相手方配偶者の連帯保証人でもあります。
そのため、自分の債務を返済し終わったとしても、相手方の連帯保証人として返済の責任を負うことがあります。
たとえば、以下のようなケースです。
ケース
- 夫婦が婚姻中、3000万円の不動産を購入。
- 購入の際、夫が2000万円、妻が1000万円のペアローンを組んだ。
- その後、協議離婚。離婚後は、夫が不動産に住み続けることに。
- 夫は、不動産について、妻の共有持ち分である3分の1を、妻から買い取ることにした。
- 妻は、夫からの買い取り金額で、自身のローンを完済した。
このケースにおいて、今後、夫がローンを滞納した場合、妻は、その物件に住んでいないときでも、連帯保証人として夫のローン残額を返済する責任が残ってしまいます。
家に住み続ける側がこうむる不都合|相手が滞納するリスクがある
ペアローンの支払いは、滞るリスクが高いといえます。
離婚後、収入が下がり、ローンの返済が苦しくなっても、相手方配偶者の収入をあてにすることはできず、2人で補って返済していくことはできません。
とくに、家を出る方にとっては、自分が住まない家に対してお金を支払い続けるということですから、滞納するデメリットは少なく、支払うメリットはほとんどありません。
このようなことなどから、支払いが滞るリスクが高いといえるのです。
ペアローン返済がとどこおった場合、みずからローン返済ができないときは、最悪のケースでは家が競売にかけられてしまい、住む家がなくなってしまいます。
自身が再婚した場合の不都合|新しいローンが組みづらい
離婚後、再婚をする際、新しいパートナーとの新居を購入するために新しくローンを組みたいと思うケースもあるでしょう。
しかし、元配偶者と組んだペアローンの残高が原因で、新しいローンが組めないというおそれもあります。
離婚時にペアローンを解消する方法は?
ペアローンは離婚時に解消しよう
ペアローンを組んだまま離婚してしまうと、最悪の場合は家を失ってしまう可能性があります。
そういった事態を防ぐために、離婚時にはペアローンを解消しておくことをおすすめします。
ペアローンをやめたいと思ったら、大きく分けて2つの方法があります。ローンの一本化と住宅の売却です。
(1)ペアローンを一本化する
ペアローンの一本化とは、2人がそれぞれ契約しているローンをどちらか一方にまとめることをいい、単独債務化とも呼ばれます。ペアローンを一本化することで、今後返済の責任を負うのは一方のみになります。
ペアローンの一本化の方法としては、免責的債務引受と、借り換えがあげられます。
免責的債務引受
免責的債務引受(めんせきてきさいむひきうけ)とは、一方の債務をもう一方が引き取ることです。この仕組みを使って、ペアローンを一本化することが可能です。
債務引受を行うには、金融機関の審査を受ける必要があります。しかし、債務引受を受け付けていない金融機関もあるほか、引き受ける人に高い信用力がなければ、なかなか認められません。
借り換え
ローンの借り換えは、別の金融機関で単独名義のローンを借り入れ、そのお金でペアローンを完済する方法です。
下の画像は、ローンを妻に一本化するという例です。
夫婦はもともと、A銀行でペアローンを借りていました。
離婚時に、妻がB銀行で2人分のローンを合算した額の単独ローンを新たに組み、A銀行のペアローンを全額返済します。
そうすると、離婚後は妻がB銀行にローンを返済し続けることになります。
ただし、病気などで団体信用保険に加入できない場合や、年収や物件の条件によっては、借り換えが厳しいケースもあります。
住宅ローン借り換えのメリットやデメリットについては、『離婚したら住宅ローンの借り換えはできる?離婚と住宅ローンの解説』で説明しています。
(2)住宅を売却してローンを返済する
もっともシンプルな方法は、家を売却して、売却代金をローン返済に充てることです。ローンを完済することで、ペアローンを解消することができます。
アンダーローン(現在の住宅の価格が住宅ローン残債を上回る状態)の場合は、家を売った代金でローンを完済することができるため問題ありません。
しかし、住宅ローンの残債が住宅の価値を上回るオーバーローンの状態だと、家を売ってもローンを返済しきれません。その場合は、貯金から差額を支払ってローンを完済したり、親族などに立て替えてもらうことになるでしょう。
家を手放したくない方は、リースバックというサービスを利用して、住んだまま家を売るという方法もあります。
関連記事
ペアローンのある家に離婚後も住み続ける方法は?
ローンを一本化して住み続ける
ペアローンのある家を売却せずに離婚後も住み続けるには、どちらがどのようにローンを支払い続けるかを決めなければなりません。
ひとつの選択肢は、借り換えや引受でローンを一本化して、一方がローンを返済し続ける方法です。
ローンを一本化するといっても、家に住み続ける方が払う場合と、家を出る方が払う場合とがあります。
家に住む人がローンも支払うというのが自然ですが、家を出る方が養育費や慰謝料の代わりにローンを負担するケースもあります。
関連記事
・離婚時に住宅ローンと養育費を相殺して妻が家に住み続ける方法
離婚後も2人でローンを払い続ける
ペアローンを解消せず、離婚後も2人でローンを支払い続ける選択肢もあります。
ペアローンの一本化がなかなか認められづらいことを考えると、より現実的な方法といえるでしょう。
一本化する場合と同じく、家に住み続けない方が養育費や慰謝料の代わりとしてローンを支払うケースもあります。
しかし、相手がローンを払い続けることに納得してくれるとは限りませんし、後述するとおり滞納のリスクも高いため注意が必要です。
関連記事
・離婚後も住宅ローンのある家に妻が住む5つの方法とは?注意点も解説!
ペアローンを返せなくなったらどうなる?
離婚後に相手がペアローンを滞納したら?
離婚時にローンを一本化しなかった場合、離婚後も2人でペアローンを返済し続けることになります。
あなた自身はローンを完済していた場合でも、もし相手がペアローンを滞納したら、連帯保証人であるあなたが相手の分のローンも全額返済する必要があります。
しかし、当初2人分の収入から返済する予定であったローンを、1人で完済できる人は少ないでしょう。
ペアローンを返済できなくなってしまった場合には、以下のような展開が考えられます。
(1)家を任意売却する
任意売却とは、住宅ローンなどの債務を返済できなくなった場合に、債権者(金融機関)の同意を得て不動産を売却することです。
任意売却で得た代金をローンの返済に充て、完済するか支払い負担を減らすことができます。
ただし、任意売却はある程度の期間ローンを滞納してから行う手続きです。
買い手がつかないまま滞納状態が続けば、いずれ住宅は競売にかけられてしまうため、期間限定の方法であるといえます。
また、ローンを滞納することによって、信用情報に傷がついてしまうことは避けられないでしょう。
(2)家が競売にかけられる
ローンの滞納が続くと、最終的に家が競売にかけられてしまいます。
不動産の競売とは、債権者(金融機関)が裁判所に申し立てを行い、強制的にオークションにかけて不動産を売却してしまうことです。
競売には様々なデメリットがあります。
強制的に家を失ってしまう上に、市場価格よりも安い売値で売却されてしまいます。
家を売却した代金をローンの返済に充てても、多くの場合は債務が残ってしまいます。残債は、家を失った後も返し続けるしかありません。
また、家を競売にかけられてしまうと、家に調査員がやってきたり、インターネット上で競売情報が公開されてしまうため、競売にかけられたことが周囲にも知られてしまう可能性があります。
(3)双方が自己破産する
ペアローンが払えなくなってしまった場合、自己破産するという方法があります。
自己破産をすればローンの残債は帳消しになりますが、せっかく買った家を失うだけでなく、車などの高価な財産も処分されてしまう可能性があります。
また、ブラックリストに登録されてしまうため、以降5〜10年程度は新規でローンを組んだりクレジットカードを利用することができません。
なお、ローンが原因で自己破産する場合は、夫婦が2人とも自己破産する必要があります。
片方が自己破産すると、その人の分の返済義務は免除されますが、残りの人は連帯保証人として全額の返済義務を負うことになるからです。
ペアローンなど離婚のお悩みは弁護士相談!
ペアローンの残っている状態で離婚することになったら、離婚後ローンをどうするかが問題になります。
ペアローンで購入し不動産は、権利関係が複雑になり、処分(例:売却)や変更(例:リフォーム)などを容易にできなくなる問題があります。
また、不動産に住み続ける側も、家から出ていく側も、相手の連帯保証人となっている点で、元配偶者のローン完済まで、返済リスクを負い続けることになります。
離婚をご検討中の方は、まずは弁護士相談をしてみることで、今後進むべき道が見えてくることがあります。
弁護士相談の内容
- ペアローンの解消
- 財産分与
- 離婚の慰謝料
- 年金分割
etc.
離婚問題の解決のためには、信頼して話せる弁護士を見つけることも重要です。
無料相談などを活用して、弁護士との相性を確かめてみてください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了