オーバーローンは離婚でどうなる?財産分与と払えないリスクの対処

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オーバーローン

住宅ローンの残高が家の売却価格を上回るオーバーローン状態は、離婚を考える際に非常に深刻な問題となります。

家をどう分けるかという財産分与の問題だけでなく、離婚後にローンを払えない事態に陥るリスクや、連帯保証人の責任など、金銭的な不安が大きくのしかかります。

オーバーローンの家も財産分与の計算には含めますが、財産全体がマイナスになる場合は、その負債を夫婦で分け合うことは原則としてありません。

今回は、離婚後におけるオーバーローンの住宅の扱い方や、離婚するときのオーバーローンの対処法・注意点について解説します。

オーバーローンの家も財産分与の対象?ケース別解説

財産分与は、婚姻期間中に夫婦で築いた財産を清算する手続きです。

オーバーローンの場合、実務では、家の現在の価値(プラスの財産)と住宅ローンの残高(マイナスの財産)を預貯金や保険などほかの財産とすべて合算し、夫婦の財産額します。

財産全体がマイナス(債務超過)となる場合は、分与すべき財産がないと判断されます。
裁判所がマイナスの負債を夫婦で分け合うように命じることは、原則としてありません。

具体的な3つのパターンをシミュレーションしてみましょう。

財産がオーバーローンの家のみの場合

オーバーローンの家のみを財産として持っているケースでは、財産は0円とみなされます。

たとえば、家の評価額が1000万円、住宅ローンの残りが1500万円の場合は財産全体でマイナス500万円となります。

実務上、分与すべき財産がないと判断されるため、マイナス500万円を夫婦で折半することはありません。

ローンの返済義務は名義人が引き続き負います。

ほかの財産を合わせても、オーバーローンの残債を上回らない場合

オーバーローンになっている家だけでなく、預貯金や保険などほかに財産があり、それらを合計してもオーバーローンの金額が上回っているケースです。

家の評価額が1000万円、住宅ローンの残りが5000万円、ほかの財産が2000万円と仮定しましょう。

このとき、4000万円のオーバーローンは2000万円のほかの財産を合わせても完済できないため、財産分与の対象はマイナス2000万円となります。分与すべき財産はない、つまり0円として扱われます。

このように、オーバーローンの残債をほかの財産と相殺する通算説を実務では採用しています。

理論上、オーバーローンとなっている家を0円と評価し、ほかの財産である2000万円を分与する考え方(非通算説)もありますが、実務では例外的に取り扱われています。

オーバーローンの住宅についてどう財産分与するかは、裁判例でも事例によってまちまちで、一義的な結論は出ていません。

ほかの財産を合わせると、オーバーローンの残債を上回る場合

オーバーローンの家を財産として持ってはいるが、預貯金や保険などほかに財産があり、それらを合計すればオーバーローンの残債を上回るというケースです。

この場合、プラスの財産からマイナスの部分を取り除いた残りの金額が財産分与の対象となります。

例えば、オーバーローンで500万円のマイナスがあっても、他に1,000万円の預貯金があれば、家と預貯金を総合的にみて、夫婦の財産全体で清算(相殺)することが実務上は行われます。

オーバーローンの住宅ローンを払えないときは?

「離婚して収入が減り、ローンが払えない」「相手が払う約束だったのに払ってくれない」など、ローン返済が困難になるケースは少なくありません。

払えない状況が続くとどうなるか

ローンの支払いが滞ると、金融機関から電話や郵便で督促状が届きます。
滞納が数ヶ月続くと、ローン残高の一括返済を求められます。

一括返済の請求に応じず滞納が続くと、金融機関や保証会社が裁判所に申し立て、家は競売にかけられます。

競売になると、市場価格よりも大幅に安い金額で売却されることが多く、家を失った上に多額のローン残債だけが残る最悪の事態になりかねません。

任意売却で競売を回避する

競売を避けるための手段として任意売却があります。

任意売却とは、住宅ローンの返済が滞った場合に、借入先の金融機関の許可を取ったうえで家を売却する方法です。希望の売却価格に近い金額で売却ができる点がメリットになっています。

ただし、任意売却は、ある程度の期間ローンを滞納している場合に取りうる方法です。

滞納によって信用情報に傷がついてしまうほか、一定期間に売却ができなければ競売にかけられてしまうリスクがあります。

ローンの返済が困難で任意売却を検討する場合、金融機関へ早めに相談しましょう。

リースバックで住み続ける

リースバックとは、家を不動産会社や投資家に売却し、その売却先へ賃料を払ってそのまま住み続ける方法です。

売却によってローンを清算できるので、払えない状況を解消しつつ、引っ越しを避けたい場合の選択肢となります。

ただし、売却価格が相場より安くなる、家賃が周辺相場より高くなる可能性がある点には注意が必要です。

返済条件を金融機関と交渉する

滞納する前に、金融機関に返済スケジュールの一時的な見直しを交渉する方法もあります。

離婚による収入減など、事情を早期に相談することが大切です。

離婚後のオーバーローンの家の扱い方

ローンが払える場合、オーバーローンの家を離婚後どう扱うかは、夫婦の話し合いで決めることになります。

名義人の夫が家を出て妻と子が住み続ける

「離婚しても子どもを転校させたくない」といった理由から、離婚後も同じ家に住み続けたいという方もいらっしゃるでしょう。

離婚後にオーバーローンの家に住み続ける方法として、以下のようなものが挙げられます。

  • 妻に名義変更して、妻が住宅ローンを支払っていく
  • 妻が住宅ローンの借り換えをして、返済しながら住む
  • 住宅ローンの債務者は夫のままで、妻が夫に家賃を支払う
  • 離婚後も夫が住宅ローンを支払っていく
  • 住宅ローンを一括返済する

離婚するときに妻が夫名義の家にそのまま住み続ける方法についてより詳しく知りたい方は、『離婚後も住宅ローンのある家に妻が住む5つの方法とは?注意点も解説!』の記事をご覧ください。

妻が家を出て名義人の夫が住み続ける

名義人である夫がそのままオーバーローン状態の家に住み、返済を継続していくということが考えられます。

この場合、名義人が無事にローンを完済をすれば、その家が名義人にとってプラスの財産になるというメリットがあります。

なお、妻が連帯保証人の状態になっている場合は、連帯保証人を変更しておくようにしましょう。
夫がオーバーローンを払えない状況に陥り、ローンの支払いが滞ってしまった場合、妻に住宅ローンの返済の請求がやってくるリスクがあります。

夫婦がともに家を出て売却する

オーバーローンの状態でも、家を売却することは可能です。

この場合、残ったローンの支払い義務は、原則としてローンの名義人が負うことになります。
ペアローンなどを組んでいない限り、離婚したからといって元配偶者に残債の支払いを法的に請求することはできません。

家の売却を開始してからすべての代金を受け取るまでには、3〜6か月程度かかってしまうことが多く、その間はローンを返済し続ける必要があるほか、売却した代金を分与することができない点に注意しておきましょう。

自宅がオーバーローンかどうか確認する方法

「自分の家がオーバーローンの状態かどうかわからない」という方もいらっしゃると思います。

オーバーローンは住宅ローンの残債が住宅の評価額を上回っている状態であるため、住宅ローンの残債と、住宅の評価額を確認しましょう。

住宅ローンの残りを確認する

まずは、住宅ローンの残りがどれくらいかを確認しましょう。

住宅ローンの残債は、毎年10月ごろに金融機関から郵送される残高証明書を調べることで確認できます。

また、住宅ローンを契約するときに発行される返済予定表でも、簡単に住宅ローンの残高を確認することができます。

もし紛失してしまったという場合は、金融機関で再発行してもらう必要があります。

なかにはインターネットで残りのローンを確認できる金融機関もあるため、調べてみることをおすすめします。

不動産会社に家の売却価格を査定してもらう

自分の住宅ローンの残り金額がわかったら、今住んでいる家がどれくらいの価格で売れそうか、不動産会社に査定してもらいましょう。

正しい相場を知るためにも、なるべく複数の業者に見積もってもらうことをおすすめします。

家の売却価格を査定してもらったら、住宅ローンの残りからその売却価格を引くことで、自分の家がオーバーローンの状態かどうかを判断することができます。

オーバーローンで離婚するときのポイント

オーバーローンの家の扱いは、離婚後も長期にわたって影響します。後悔しないために、注意すべきポイントを確認しておきましょう。

住宅ローンは名義人が返済する必要がある

住宅ローンの残債を返済する義務があるのは、住宅ローン契約時の名義人です。

離婚によって妻が家に住み続けることになっても、夫が名義人のままの場合は、ペアローンなどを組んでいない限り、返済責任は夫にあることに留意しましょう。

妻が連帯保証人の場合は変更しておく

妻が連帯保証人の状態になっている場合は、必ず連帯保証人から外れる手続きをしましょう。

離婚しても、連帯保証人の義務は自動的には消えません。

夫が自己破産などでローン返済が不可能になったとき、元配偶者である妻に住宅ローン返済の請求が来ることになります。

連帯保証人から外れる方法について詳しく知りたいという方は、『離婚後の住宅ローン…連帯保証人は困る?4つの対処法とは?手続きを解説!』の記事をご覧ください。

ペアローンを組んでいる場合は一本化しておく

ペアローンとは、夫婦それぞれが契約者としてローンを組む方法で、互いが連帯保証人になっているケースがほとんどです。

一方がローンを滞納すれば、もう一方が全額を負担することになります。離婚時にペアローンは一本化しておきましょう。

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ペアローンは離婚できない?住宅ローンの一本化など対応方法を解説

離婚条件を公正証書に残しておく

ローンの残債の負担割合、家を売却する場合の手順、どちらかが住み続ける場合の条件など、お金に関する取り決めは、必ず離婚協議書を作成し、可能であれば公正証書として残してください

公正証書とは、公証役場にて公証人に依頼して作成してもらう公文書のことをいいます。

たとえば、妻と子どもは家に住み続け、離婚後も夫が住宅ローンを支払っていくと、夫婦で約束したとしても、突然ローンの支払いを踏み倒されてしまうかもしれません。

そういったとき、公正証書に強制執行認諾文言があり、「夫は妻に住宅ローンを支払う」などといった記載があれば、裁判所の判決をもらわなくても、強制執行(裁判所の命令で、債務者の財産を差し押さえ、債権者に代わって強制的に回収する手続き)ができます。

そのため、強制執行認諾文言付きの公正証書として残しておくことが重要です。

関連記事

離婚の公正証書とは?作成の流れや内容は?メリットは強制執行?

離婚時のオーバーローンについてよくある質問

オーバーローンのマイナス分も財産分与する?

法的には負債の折半義務はありません。しかし、夫婦間の話し合いによって、家を売却した際に残る負債を双方が合意の上で分担する、と決めることは可能です。

例えば、名義人が残債をすべて負う代わりに、もう一方は慰謝料や養育費の面で譲歩するといった柔軟な解決が図られることもあります。

オーバーローンの車は財産分与でどうなる?

住宅と考え方は同じです。 車の価値とローン残債も、預貯金など他の財産とすべて合算して計算します。

夫婦の話し合いによって、実質的にローンの負担を分け合うと決めることは可能です。
例えば、ローンを支払う方(名義人)に対し、もう一方がその負担分として別の財産(お金など)を渡すことで、公平を図るといった方法がとられます。

夫にローンがあっても養育費はもらえる?

養育費を受け取ることができます。

夫名義の家がオーバーローンである場合、夫が負債を抱えていることになりますが、それと養育費の支払い義務は別問題です。
ローンの負担額は、基本的に養育費を算出するうえで考慮されません。

ただし、夫がローンを払っている家にそのまま妻と子どもが住み続ける場合は、養育費を計算するときに、ローンの支払額を考慮する可能性があります。

オーバーローンで困ったら弁護士に相談!

離婚に関するオーバーローンの問題で困ったことがあれば、弁護士への相談を検討してみるのも一つの手です。

弁護士に相談すれば、夫婦でローンに関する話し合いがもつれてしまったときも、法的な観点からアドバイスをもらえます。とくにローンの権利関係といった問題は複雑になることが多いので、話がこじれてしまうこともあるでしょう。

無料相談を受け付けている弁護士事務所もありますので、まずは弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了