離婚時の貯金はどう分ける?財産分与の計算式と損をしない注意点

離婚する際、夫婦で築いた貯金は原則として2分の1ずつ分けます。名義がどちらであっても、婚姻中に形成された預貯金は財産分与の対象になります。
ただし、結婚前から持っていた貯金や、親からの相続・贈与によって得たお金は、通常は分ける必要がありません。
どこまでが対象になるのかを正しく理解していないと、本来受け取れるはずの金額を見落とすおそれがあります。さらに、別居の時期や、相手による隠し口座・使い込みにも注意が必要です。
本記事では、貯金の財産分与について、計算の考え方、対象となる範囲、隠し財産を調べる方法、使い込みへの対応策までわかりやすく解説します。
目次
離婚時の貯金の分け方|基本ルールと計算式
離婚の際には、婚姻中に夫婦で築いた財産を公平に分ける手続きがあり、これを財産分与といいます。
法務省の『協議離婚に関する実態調査』によれば、財産分与の取り決めをした人のうち、預貯金を対象に含めた割合は65.3%でした。実際に多くの夫婦が離婚時に貯金を分けており、預貯金は代表的な対象財産といえます。
ここでは、具体的にどのように分けるのか、基本的な考え方と計算の流れを整理します。
原則は「夫婦の貯金総額を2分の1」
財産分与の割合は、原則として2分の1ずつです。
夫が外で働き、妻が専業主婦として家庭を守っていた場合でも、夫の収入は妻の支えがあってこそ得られたものと評価されます。
そのため、名義が夫の口座にある預金であっても、妻の口座にあるへそくりであっても、すべて合算した上で半分に分けます。
貯金の分け方の具体例と計算シミュレーション
実際にどのように計算し、お金が動くのか、具体的な例を見てみましょう。ここでは分かりやすく、財産が預貯金のみであるケースを想定します。
夫と妻の貯金の内訳
- 夫名義の預金残高は600万円
- 妻名義の預金残高は200万円
いずれも婚姻期間中に貯めたものとします。
まず、夫の貯金600万円と妻の貯金200万円を合計し、夫婦の総資産が800万円になることを確認します。
これを公平に分けるため、800万円を2で割り、1人あたりの取り分を400万円と算出します。
妻はすでに手元に200万円を持っていますが、本来受け取るべき400万円には200万円足りません。
そこで、夫から妻へ不足分の200万円を支払うことで、最終的に双方が400万円ずつを受け取る形になります。
このように、全ての口座を解約して物理的に半分にする必要はありません。
どちらかが多く持っている場合、その差額を清算金(解決金)として相手に支払う形で調整するのが一般的です。
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貯金の財産分与はいつの時点の残高?
貯金の財産分与で最もトラブルになりやすいのが、「いつの時点の残高を計算に使うか」という点です。これを基準時と呼びます。
離婚成立時ではなく別居開始時
実務上、財産分与の基準時は別居を開始した時とされています。
これは、別居をした時点で夫婦の協力関係(生計の同一性)は終了したとみなされるためです。したがって、別居時に存在していた貯金のみが財産分与の対象になります。
一方で、別居後にそれぞれが働いて貯めた貯金などは、個人の財産として扱われるため、財産分与の対象にはなりません。
これから別居を考えている場合は、別居をスタートする日の時点での、すべての通帳の記帳(残高証明)を行っておくことが非常に重要です。
財産分与の対象になる貯金・ならない貯金
夫婦の口座にあるお金すべてが分け合う対象になるわけではありません。
対象になる共有財産と、ならない特有財産を正しく区別する必要があります。
財産分与の対象となる共有財産
婚姻中に夫婦が協力して築いた財産は、名義がどちらであっても財産分与の対象となります。
具体的には、次のようなものが含まれます。
- 給与口座の預金
- 社内預金、財形貯蓄
- へそくり、タンス預金
- 満期保険金などの積立金
たとえへそくりであっても、婚姻中の家計のやりくりの中から蓄えたお金であれば共有財産と考えられます。
財産分与の対象外となる特有財産
財産分与の対象外となるのは、夫婦の協力によらずに取得した財産です。こうした財産は分ける必要がなく、そのまま持ち主のものとなります。
- 結婚前(独身時代)から持っていた貯金
- 親から相続した預金
- 親族から個人的に贈与されたお金
ただし、独身時代の貯金を結婚後の生活費口座に移し、その後も長期間にわたり入出金を繰り返している場合には、どこまでが特有財産か判別が難しくなることがあります。
混在している部分について特有財産だと主張するには、通帳などの資料をもとに具体的な計算と立証が求められます。
子ども名義の預貯金の判断基準
子ども名義の口座に入っている貯金は、財産分与の対象になる場合とならない場合があります。
夫婦の収入を原資として教育資金などの目的で貯金をしていた場合は、実質的には夫婦の財産であると考えられるため、財産分与に含めることができます。
もっとも、夫婦の意思で、子どものための貯金として残しておくことも可能です。
一方、親からのお小遣いや親戚からのお年玉は、子どもに贈与したものととらえることができ、親の財産とはいえません。
また、子どもがアルバイトで得たお金も、子どもの固有財産であるため、財産分与の対象とはなりません。
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隠された貯金を見つけるには?代表的な手口と調査
公平に財産分与を行うには、夫婦それぞれの財産を漏れなく把握することが前提となります。ところが、貯金を渡したくない配偶者が口座を隠すケースも少なくありません。
法務省の『財産分与を中心とした離婚に関する実態についての調査』では、「相手の財産内容を十分に把握できなかった」と答えた人が39.6%に上っています。一方で、弁護士に調査を依頼した人は6.3%、裁判所の手続きを利用した人は2.1%にとどまり、多くの人が財産の全体像をつかめないまま手続きを進めている実情がうかがえます。
貯金を隠されると、本来受け取れるはずの財産分与額が大きく減ってしまう可能性があるため、早期に対策を講じることが重要です。
よくある貯金の隠し場所とリスク
相手が「貯金はこれだけしかない」と通帳を出してきたとしても、以下のような場所に隠されている可能性があります。
チェックすべき隠し場所
- ネット銀行
通帳がなく、郵送物も届かないため発覚しにくい。 - 別口座への移動
生活費口座から、使途不明の出金をして別口座へ移す。 - 貸金庫
現金や貴金属に変えて物理的に隠す。 - 電子マネー・暗号資産
スマホの中だけで管理できる資産に変える。
このような場所に貯金をはじめとする財産を隠されてしまうと、財産分与で受け取れる額が少なくなり、損をしてしまいます。
隠された貯金を調査する2つの法的手段
「相手が貯金を隠しているらしいことは分かったが証拠が掴めない」という方も、諦めないでください。相手の財産を調査するための手続きがあります。
①弁護士会照会(23条照会)
弁護士会照会とは、弁護士が依頼を受けた事件について、弁護士会を通して金融機関や証券会社、不動産会社などの団体に必要事項を照会する制度です。弁護士会照会は、協議中、調停中、裁判中いつでも利用することができます。
弁護士会照会を受けた団体には、原則として答える義務があり、銀行に照会を行えば、相手方の口座の残高の変動や送金先などの取引履歴を開示してもらえる可能性があります。
弁護士会照会は、弁護士に離婚事件を依頼していないと使えない手続きです。弁護士会照会の利用を検討している方は、まずはお近くの弁護士に開示の見込みや手続きについて相談してみるとよいでしょう。
参考
②調査嘱託
調査嘱託とは、裁判所を通じて金融機関等に情報を開示させる方法で、主に離婚裁判の中で利用される手続きです。
調査嘱託を利用するためには、裁判所に対して調査嘱託の申し立てを行い、認められる必要があります。
裁判所からの調査嘱託を受けた嘱託先(金融機関等)は、正当な理由がない限りは回答義務を負うとされており、弁護士会照会で開示を拒否されたケースでも、裁判所の調査には応じてもらえる場合もあるようです。
調査嘱託を行うには、まず裁判所に調査の必要性を認めてもらう必要があります。どのように裁判所に主張していくかについては、弁護士にご相談されることをおすすめします。
貯金を使い込まれたら財産分与はどうなる?
離婚を考えている時に注意したいのが、貯金の使い込みです。
相手が「財産分与で貯金を相手に渡すくらいなら好きに使ってしまおう」と夫婦のお金を浪費してしまったり、別居中の生活費として多額の貯金を引き出してしまうケースが見られます。
ここでは、別居前・別居後に分けて、使い込まれたお金はどうなるのか、使い込みを防ぐ手段はあるのかについて解説します。
別居前の使い込みの影響
離婚を察知した配偶者が、別居前に貯金を引き出してしまった場合はどうなるのでしょうか。
財産分与の基準時は別居開始時となるのが原則です。
このことから考えると、使い込まれた後の残高が財産分与の基準になってしまいます。
しかし、貯金が引き出された直後であれば、そのままの形で相手の口座に貯金が残っているか、別の財産に形を変えて残っている可能性が高いため、それらを共有財産として財産分与に含められる可能性があります。
もっとも、貯金を使った目的が生活に必要な支出であったような場合は、使い込みと判断されないこともあります。
別居後の使い込みの影響
別居後に配偶者が貯金を使い込んだり別の口座に移してしまっても、必ずしも財産分与の額が減ってしまうわけではありません。
財産分与の基準時は別居開始時ですので、別居後に配偶者に貯金を使い込まれた場合には、使い込まれる前の残高を基準として財産分与を請求することができます。
仮差押えで貯金の使い込みを防ぐ!
財産分与の基準時は別居時であるとはいえ、貯金の大部分を使い込まれてしまったら、基準時での財産分与額すべてを支払うのは難しくなってしまうでしょう。
そういった事態を防ぐために、貯金の仮差押えという手続きを利用できる可能性があります。
貯金の仮差押えを裁判所に申し立てて認められると、相手は一時的に貯金を処分することができなくなります。
仮差押えは、認められたらその間に裁判を起こすのが前提の手続きです。しかし実際には、仮差押えが認められただけでも相手に強いプレッシャーがかかるため、それだけで問題が解決するケースも多いようです。
ただし、仮差押えが認められるには厳しい条件がある上、申立人が担保金を用意する必要もあります。
仮差押えの申し立ては非常に複雑な手続きです。ご不安な場合は、弁護士にご相談をおすすめします。
貯金の財産分与に関するよくある質問
Q. 結婚前の貯金も財産分与の対象になる?
結婚前から持っていた貯金は特有財産にあたり、財産分与の対象には含まれません。
ただし、結婚前からあった預金口座に、結婚後の給与が振り込まれ、その後も入出金を繰り返していると、もともとのお金と婚姻中に増えたお金が混ざり合ってしまいます。こうした状態になると、どこまでが特有財産で、どこからが共有財産なのかを区別するのは容易ではありません。
特有財産であることを証明できなければ共有財産とみなされる可能性があるため、通帳の古い記録や入金履歴を保管しておくことが重要です。
Q. 別居後に相手が貯金を引き出したらどうなる?
財産分与の対象となる財産を確定する基準時は別居を開始した時点とされています。したがって、別居後に相手が貯金を引き出したとしても、原則として別居時の残高を基準に分与を求めることが可能です。
もっとも、その後に資金が失われれば、実際の回収が難しくなるおそれがあります。早めに弁護士へ相談し、預貯金の仮差押えなどの保全処分の検討をおすすめします。
Q. 相手が貯金を隠している疑いがあるときの対処法は?
相手が財産の開示や資料提出に応じない場合には、実務上、弁護士会照会や裁判所の調査嘱託といった手続きを利用して調査する方法があります。
これらの手続きを行うには金融機関名や支店名を特定する必要があるため、別居前の段階で通帳の写しやATMの利用明細、保険料の控除証明書などを確保しておくことが重要です。通帳が手元にない資産であっても、客観的な資料や取引履歴を手がかりに調査を進めることで、存在が判明する可能性があります。
貯金の財産分与をスムーズに進める手順
最後に、実際に貯金の財産分与を行う際の流れを確認しておきましょう。
- 財産の洗い出し・特定
お互いの通帳、証書などをすべて開示し合います。別居時の残高証明書を取得するのが確実です。 - 特有財産の除外
結婚前の貯金など、分与対象から外すべきものがあれば、通帳などの証拠を示して除外を主張します。 - 総額の確定と計算
対象となる貯金(共有財産)の総額を出し、それを2分の1にします。 - 支払い方法の合意
差額をいつ、どのような方法(一括か分割か)で支払うかを取り決め、離婚協議書や公正証書に記載します。
貯金の財産分与は、計算自体はシンプルですが、対象範囲の特定や隠し財産の有無で揉めることが多々あります。
相手の提示額に納得がいかない場合や、複雑な財産状況である場合は、一度弁護士による無料相談などを活用し、適正な分与額を確認してみることをおすすめします。

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
