離婚前に財産分与できる?税金の違いや前渡しとの関係について解説

離婚前でも財産分与の協議・合意は可能ですが、実際に財産を受け取れるのは離婚成立後です。
離婚成立前に財産を移転した場合は「夫婦間の贈与」とみなされ、贈与税が課される可能性があります。
この記事では、離婚前の財産分与における税金の違い、財産の前渡しが分与額に与える影響、判例を踏まえた清算方法を解説します。
離婚前に財産分与できる?
離婚前に財産分与することは可能?
結論から言えば、離婚前に財産分与について合意することは可能です。ただし、以下の点に注意が必要です。
離婚前の財産分与の注意点
- 実際に財産を受け取るのは通常、離婚日以降になる
- 離婚前の財産移転は「夫婦間の贈与」とみなされる可能性
- 「夫婦間の贈与」にあたる場合、贈与税が適用される
財産分与の金額は、夫婦の財産状況によって大きく異なります。
最高裁判所の司法統計(令和6年)によると、調停で財産分与の取り決めがあった8,258件のうち100万円以下が最多である一方、2,000万円を超えるケースも507件存在します。
法務省の委託調査(令和2年度)でも、協議離婚における対象財産の合計金額は100万円未満が約30%を占める一方、1,000万円以上のケースも約10%あり、金額の幅は広いといえます。
離婚前の財産分与の流れ
財産分与の流れは、離婚前と離婚後で異なります。
この記事では、離婚前に財産分与の話し合いを行い、離婚後に財産を移転する場合の流れを説明します。
- 財産分与の話し合いをする
- 離婚協議書・公正証書を作成する
- 離婚届を提出する
- 財産の移転・登記をする
まずは夫婦で財産をどのように分け合うか話し合います。
合意ができたら、離婚協議書や公正証書を作成しておくことが多いです。これは、財産を受け渡す時になって「言った言わない」のトラブルが起きてしまうのを防ぐために重要です。
夫婦間で話し合っても合意ができない場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立てて、裁判所の仲裁を受けて話し合うことができます。
財産分与やその他の離婚条件が固まったら、離婚届を提出して離婚を成立させます。
離婚成立後、財産の受け渡しを行います。不動産を渡す場合は登記を行う必要がありますが、財産分与を原因とする登記は離婚成立後でなければできません。
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離婚前に渡した財産は財産分与に含まれる?
何らかの理由で離婚前に配偶者に財産を渡していた場合、財産分与にどのような影響があるのでしょうか。
財産分与の前渡しとは?
財産分与の一部を離婚前に渡すことを、財産分与の前渡しといいます。
離婚前に夫婦間で財産を移転する場合の意図は、財産分与の前渡しであるとは限りませんが、それが財産分与の前渡しと捉えられるか否かで、財産分与における立ち位置が変わります。
前渡しであると認められた場合、先に渡した分は離婚時の財産分与から差し引かれます。
離婚の話よりも前に渡した財産は前渡しにあたる?
離婚の話が出るよりも前に贈与した財産があっても、財産分与の前渡しにはあたりません。
したがって、離婚が問題になる前に渡した財産を離婚時の財産分与から差し引くことはしません。
ただし、夫婦間で既に受け渡した財産を共有財産と扱うか特有財産と扱うかによって、離婚時の財産分与の額が変わる可能性があります。
別居前に財産を持ち出したら後で清算する?
夫婦の一方が、別居前(別居と同時)に共有の口座から多額の預貯金を引き出したり、共有財産を持ち出してしまうことがあります。
財産分与は別居時点で存在する共有財産を基準に行うとされていますが、これでは持ち出した方に一方的に有利になってしまいます。
そこで、別居前に持ち出された財産を財産分与の前渡しと捉え、財産分与で清算することができます。
裁判例においても、離婚係争中に一方が共有口座から引き出した預金について、引き出し額の2分の1相当を財産分与の前渡しと認定した事例があります。
妻による無断出金に「財産分与の前渡し」を認めた裁判例
東京地判令3・3・26(平成31年(ワ)6321号)
専業主婦の妻が、夫から家計管理を任されていた夫名義の口座から預金を引き出し、総額2755万円相当を自分名義の複数口座に預け入れていた。別居前から預け替えを行い、別居前後にわたって費消していたことが、夫の申し立てた離婚調停での財産開示によって発覚。「生活費のため」と主張する妻に対し、夫が不当利得の返還を求めて提訴した。
裁判所の判断
「財産分与の前渡しとして被告に支払われたものと見るのが相当」
東京地判令3・3・26(平成31年(ワ)6321号)
- 新車購入や日常的な生活費の引き出しは、夫の黙示の同意ありとして不当利得に当たらないと判断。
- 長男の新居購入費用(約560万円)や使途不明金は、夫の合意なく生活費の範囲を超えるとして不当利得と認定(計829万円余)。
- ただし原資は夫婦共有財産であるため、829万円余の2分の1は財産分与の前渡しとして差し引き、返還額を414万6083円と認定。
離婚前に払いすぎた婚姻費用を財産分与で清算できる?
払いすぎた婚姻費用については、これを財産分与の前渡しとみて清算できるとした裁判例があります(奈良家審平21・4・17)。
もっとも、この判断は控訴審で見直されました。大阪高等裁判所は、義務者が自発的に、または合意に基づいて婚姻費用を支払っている場合には、支払額が著しく不相当といえる特別な事情がない限り、超過分を財産分与の前渡しと評価するのは適切ではないとしています(大阪高決平21・9・4)。
このため、払いすぎた婚姻費用が財産分与で調整されるケースは、例外的に限られます。
未払いの婚姻費用を財産分与に上乗せできる?
本来相手が払うべきであった婚姻費用が支払われないまま離婚することになった場合は、未払いの婚姻費用を財産分与と併せて請求できる可能性があります。
ただし、必ずしも全額が上乗せされるとは限りません。個々の事情に基づいて判断することになるでしょう。
離婚前の財産分与に税金はかかる?
離婚前の財産分与は夫婦間の贈与にあたる
どうしても離婚成立前に財産を受け渡したい場合は、離婚時の財産分与ではなく夫婦間の贈与という形で財産を渡すことができますが、配偶者間の贈与には贈与税が課されます。
それに対して、離婚時の財産分与は原則として非課税です。ただし、不動産の財産分与を行う場合は、分与した側に譲渡所得税が課される場合があります。
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離婚前の財産分与は配偶者控除を活用
離婚前の財産移転には、贈与税が課される可能性があります。
ただし、一定の条件を満たせば、最大で2,110万円までの贈与には贈与税が課されません。
まず、贈与額が年間で110万円以下であれば贈与税がかかりません。
また、おしどり贈与(贈与税の配偶者控除)という制度の適用条件にあてはまれば、2,000万円までの財産分与については、控除を受けることができます。
おしどり贈与の適用条件
- 贈与の時点で結婚から20年以上経っている
- これまでに、同じ贈与者でおしどり贈与の適用を受けていない
- 贈与を受けたのが居住用の不動産か、不動産を取得するための費用である
- 贈与を受けた金銭を、翌年の3月15日までに不動産の取得に充てる
- 贈与を受けた不動産・購入する不動産が国内にある
- その不動産に翌年の3月15日までに居住する見込みである
- 引き続きその不動産に居住する予定である
離婚前の財産分与で注意すべきポイント
離婚前の財産分与のポイント
- 実際に財産を受け取るのは離婚後である
- 離婚前の財産移転には贈与税が課される可能性がある
- 離婚前でも条件を満たせば贈与税の控除を受けられる
- 離婚前に渡した財産は、離婚時の財産分与で清算できる
離婚が成立するまでの間に財産を使い込まれてしまわないように、離婚前に財産を受け取っておきたいと考えている方もいるかと思います。
財産の使い込みは、仮処分や仮差押えを用いて防げる可能性がありますので、弁護士にご相談ください。
離婚前の財産分与は複雑な問題を含んでいます。財産分与で損をしないためには、事前に弁護士にご相談されることをおすすめします。
財産分与と離婚前の手続きに関するよくある質問
Q. 離婚前に財産分与のお金を受け取れる?
離婚前に財産を受け取ると、財産分与ではなく贈与とみなされ、贈与税が課される可能性があります。財産の受け取りは離婚成立後に行うのが一般的です。
Q. 離婚前に相手が財産を使い込んだらどうなる?
別居前後に相手が共有財産を持ち出した場合、その分を「財産分与の前渡し」として離婚時に清算できます。財産の保全には仮処分・仮差押えの手続きも有効です。
Q. 離婚前の財産分与に贈与税はかかる?
離婚前の財産移転には贈与税が課される可能性があります。ただし、婚姻20年以上でおしどり贈与(配偶者控除)の適用条件を満たせば、居住用不動産について最大2,000万円まで非課税となります(相続税法第21条の6)。
Q. 財産分与の請求期限はいつまで?
離婚後に財産分与を裁判所に申し立てられる期間は、原則として離婚成立から2年以内とされています(民法第768条第2項)。2026年4月1日以降に離婚した場合は法改正により、この期限は5年に延長されます。

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

弁護士
前渡しを受けた側としては、離婚時にもらえると思っていた財産分与の金額が、予想よりも減ってしまうという事態も考えられます。