離婚前に財産分与できる?税金の違いや前渡しとの関係について解説

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離婚前の財産分与

離婚時には、夫婦の共有財産を分け合う財産分与を行います。

離婚が成立する前に財産を受け取っておきたいと考える方もいるかもしれませんが、離婚前の財産分与は可能なのでしょうか。

この記事では、離婚前に財産分与はできるのか、課される税金に違いはあるのか、財産の前渡しが財産分与にどのような影響を与えるかについて解説します。

離婚前に財産分与できる?

離婚前に財産分与することは可能?

結論から言えば、離婚前に財産分与について合意することは可能です。ただし、以下の点に注意が必要です。

離婚前の財産分与の注意点

  • 実際に財産を受け取るのは通常、離婚日以降になる
  • 離婚前の財産移転は「夫婦間の贈与」とみなされる
  • 「夫婦間の贈与」にあたる場合、贈与税が適用される

離婚前の財産分与の流れ

財産分与の流れは、離婚前と離婚後で異なります。

この記事では、離婚前に財産分与の話し合いを行い、離婚後に財産を移転する場合の流れを説明します。

  1. 財産分与の話し合いをする
  2. 離婚協議書・公正証書を作成する
  3. 離婚届を提出する
  4. 財産の移転・登記をする

まずは夫婦で財産をどのように分け合うか話し合います。

合意ができたら、離婚協議書や公正証書を作成しておくことが多いです。これは、財産を受け渡す時になって「言った言わない」のトラブルが起きてしまうのを防ぐために重要です。

夫婦間で話し合っても合意ができない場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立てて、裁判所の仲裁を受けて話し合うことができます。

財産分与やその他の離婚条件が固まったら、離婚届を提出して離婚を成立させます。

離婚成立後、財産の受け渡しを行います。不動産を渡す場合は登記を行う必要がありますが、財産分与を原因とする所有権移転登記は、離婚日以降でなければできません

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離婚前に渡した財産は財産分与に含まれる?

何らかの理由で離婚前に配偶者に財産を渡していた場合、財産分与にどのような影響があるのでしょうか。

財産分与の前渡しとは?

財産分与の一部を離婚前に渡すことを、財産分与の前渡しといいます。

離婚前に夫婦間で財産を移転する場合の意図は、財産分与の前渡しであるとは限りませんが、それが財産分与の前渡しと捉えられるか否かで、財産分与における立ち位置が変わります。

前渡しであると認められた場合、先に渡した分は離婚時の財産分与から差し引かれます

岡野タケシ弁護士
岡野タケシ
弁護士

前渡しを受けた側としては、離婚時にもらえると思っていた財産分与の金額が、予想よりも減ってしまうという事態も考えられます。

離婚の話よりも前に渡した財産は前渡しにあたる?

離婚の話が出るよりも前に贈与した財産があっても、財産分与の前渡しにはあたりません

したがって、離婚が問題になる前に渡した財産を離婚時の財産分与から差し引くことはしません

ただし、夫婦間で既に受け渡した財産を共有財産と扱うか特有財産と扱うかによって、離婚時の財産分与の額が変わる可能性があります。

別居前に財産を持ち出したら後で清算する?

夫婦の一方が、別居前(別居と同時)に共有の口座から多額の預貯金を引き出したり、共有財産を持ち出してしまうことがあります。

財産分与は別居時点で存在する共有財産を基準に行うとされていますが、これでは持ち出した方に一方的に有利になってしまいます。

そこで、別居前に持ち出された財産を財産分与の前渡しと捉え、財産分与で清算することができます。

例として、2,000万円分の共有財産を保有する夫婦において、妻が別居直前に1,000万円分の預金を引き出したというケースについて考えてみます。

もし別居時を財産分与の基準時とするならば、別居時に残っている1,000万円を半分にして、夫が500万円、妻が500万円ずつ受け取ることになります。

しかし、妻は既に1,000万円の預金を持っているため、夫にとって著しく不公平です。

そこで、離婚時の財産分与で夫が手元に残った1,000万円をすべて受け取れば、双方が1,000万円ずつ受け取ったことになります。

岡野タケシ弁護士
岡野タケシ
弁護士

本来別居中に夫から妻へ支払うべきである婚姻費用と持ち出された財産とを相殺することもあります。

もちろん、持ち出した分をただちに返還するように、相手に請求することも可能です。

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離婚前に払いすぎた婚姻費用を財産分与で清算できる?

別居中に標準よりも高い額の婚姻費用を支払っていた場合、払いすぎた婚姻費用を財産分与の前渡しと評価し、財産分与の際に清算できるとした判例があります。

つまり、払いすぎた分を差し引いて財産分与を渡すということです。

ただしこの判例では、支払いすぎた額のすべてではなく、超過額の約半分のみの清算を認めています。

また、義務者が自発的に婚姻費用を支払っている以上、払いすぎた分が著しく相当性を欠くような場合でなければ、財産分与時の清算を認めないとした判例もあります。

したがって、払いすぎた婚姻費用の清算が認められるのは、極めて例外的なケースであるといえます。

岡野タケシ弁護士
岡野タケシ
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今のところ、過払いの婚姻費用と財産分与との関係についての統一の基準はありません。事案ごとに個別の判断が求められます。

未払いの婚姻費用を財産分与に上乗せできる?

本来相手が払うべきであった婚姻費用が支払われないまま離婚することになった場合は、未払いの婚姻費用を財産分与と併せて請求できる可能性があります。

ただし、必ずしも全額が上乗せされるとは限りません。個々の事情に基づいて判断することになるでしょう。

離婚前の財産分与に税金はかかる?

離婚前の財産分与は夫婦間の贈与にあたる

どうしても離婚成立前に財産を受け渡したい場合は、離婚時の財産分与ではなく夫婦間の贈与という形で財産を渡すことができますが、配偶者間の贈与には贈与税が課されます。

それに対して、離婚時の財産分与は原則として非課税です。ただし、不動産の財産分与を行う場合は、分与した側に譲渡所得税が課される場合があります。

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離婚前の財産分与は配偶者控除を活用!

離婚前の財産移転には、贈与税が課される可能性があります。

ただし、一定の条件を満たせば、最大で2,110万円までの贈与には贈与税が課されません

まず、贈与額が年間で110万円以下であれば贈与税がかかりません。

また、おしどり贈与(贈与税の配偶者控除)という制度の適用条件にあてはまれば、2,000万円までの財産分与については、控除を受けることができます。

おしどり贈与の適用条件

  • 贈与の時点で結婚から20年以上経っている
  • これまでに、同じ贈与者でおしどり贈与の適用を受けていない
  • 贈与を受けたのが居住用の不動産か、不動産を取得するための費用である
  • 贈与を受けた金銭を、翌年の3月15日までに不動産の取得に充てる
  • 贈与を受けた不動産・購入する不動産が国内にある
  • その不動産に翌年の3月15日までに居住する見込みである
  • 引き続きその不動産に居住する予定である

まとめ:離婚前の財産分与で注意すべきポイント

離婚前の財産分与のポイント

  • 実際に財産を受け取るのは離婚後である
  • 離婚前の財産移転には贈与税が課税される
  • 離婚前でも条件を満たせば贈与税の控除を受けられる
  • 離婚前に渡した財産は、離婚時の財産分与で清算できる

離婚が成立するまでの間に財産を使い込まれてしまわないように、離婚前に財産を受け取っておきたいと考えている方もいるかと思います。

財産の使い込みは、仮処分や仮差押えを用いて防げる可能性がありますので、弁護士にご相談ください。

離婚前の財産分与は複雑な問題を含んでいます。財産分与で損をしないためには、事前に弁護士にご相談されることをおすすめします。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

詳しくはこちら

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了