慰謝料なしで離婚する場合とは?|注意点も解説
離婚を決意した際、「相手に慰謝料を請求したい」と考える方は多いと思います。
しかし、離婚慰謝料は、離婚すれば必ず請求できるわけではありません。
また、離婚慰謝料を請求できる場合であっても、戦略的にあえて請求しないケースもあります。
この記事では、「そもそも慰謝料が請求できない場合」と、「あえて慰謝料請求しない場合」についてわかりやすく解説します。慰謝料なしで離婚するときの注意点もご紹介します。
目次
離婚慰謝料とは|どういう場合に請求できる?
慰謝料とは?
慰謝料とは、精神的苦痛に対する損害賠償金を意味します。
離婚する場合、慰謝料請求できるのは、相手方が違法な行為により離婚原因をつくった有責配偶者に当たる場合に限られます。
以下では、「慰謝料請求できる場合」と「慰謝料請求できない場合」をそれぞれご紹介します。
慰謝料請求できる場合
以下は、離婚慰謝料が請求できる代表的な事情です。
- ①不貞行為(不倫、浮気)
- ②DVやモラハラ
- ③悪意の遺棄(勝手に家を出て生活費を一切支払わないなど)
- ④性交渉の拒否
- ⑤ギャンブルによる浪費
慰謝料請求できる場合について、より詳しく知りたい方は関連記事をぜひご覧ください。
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離婚慰謝料の請求ができない場合
以下の場合、そもそも慰謝料請求権が発生しないため、相手に離婚慰謝料を請求することはできません。
①性格の不一致
性格の不一致の場合、相手が不法行為をしたわけではありません。したがって、慰謝料は請求できません。
②婚姻関係破綻後の不貞行為
相手が不貞行為をしたとしても、不貞行為によって婚姻関係が破綻したわけではない場合、慰謝料請求はできません。
言い換えると、相手が不貞行為をする前から、婚姻関係が破綻していた場合は慰謝料は請求できないことになります。
不貞行為を理由に慰謝料請求する場合、よくあるのがこの「婚姻関係破綻後の不貞行為だから慰謝料請求はできない」という反論です。
この主張を否定するには、例えば、夫婦間で具体的な離婚の話をしたことはなかったという事情や、夫婦が別居して生活していたものの子どもの学校行事にはそろって参加していたなどの事情を具体的に主張立証する必要があります。
③夫婦双方に離婚原因がある場合
離婚する場合、離婚原因について双方に責任がある事案が大半といえるかもしれません。この場合、責任の大きさが同程度であれば慰謝料請求はできません。
例えば、相手が不貞行為に及んだものの、その原因が自身にもある場合は、離婚原因の責任が双方にあるといえ、慰謝料請求はできなくなります。
また、夫婦が共に不貞行為をしていた、いわゆるダブル不倫のケースも慰謝料請求はできません。
ただし、責任の程度に差があれば、慰謝料請求できる可能性はあります。
離婚原因が双方にある場合は、相手の責任の方が大きいことを基礎づける事実を具体的に主張立証することが重要です。
④不倫相手からすでに相当な慰謝料額以上の慰謝料を受け取った場合
配偶者と不倫相手との不貞行為は、共同不法行為に当たります。
したがって、不倫相手から相当な慰謝料額(200万円程度)以上の慰謝料を受け取っている場合、配偶者の離婚慰謝料を支払う義務は消滅します。
この場合、配偶者に不貞行為を理由とする慰謝料は請求できません。
⑤不法行為の証拠が不十分だった場合
裁判で慰謝料請求する場合、不法行為の証拠が不十分だと、慰謝料請求が認められません。
夫婦の話し合いや離婚調停の場合は、証拠が必ず必要というわけではありません。しかし、相手が慰謝料の支払を拒否している場合、やはり証拠が不十分だと交渉は難航するでしょう。
例えば、モラハラは目に見える証拠が残りにくいケースがほとんどです。
相手がモラハラを否定しており、客観的な証拠もない状況だと、離婚裁判はもちろん、夫婦の話し合いや離婚調停でも、慰謝料を請求するのは難しくなります。
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・モラハラで離婚の慰謝料は請求できる?請求できる条件や相場の解説
あえて慰謝料請求なしで離婚する場合
ここでは、慰謝料請求は可能であるものの、戦略的にあえて請求せず離婚するケースをご紹介します。
早期解決したい場合
早期の離婚を希望する場合、あえて慰謝料請求せず話をまとめるのも一つの方法です。
夫婦の話し合いで慰謝料を請求しても、相手がすんなりと支払に応じることはそれほど期待できないからです。
慰謝料にこだわって、離婚調停や離婚裁判まで提起したとしても、裁判所で認められる慰謝料額はご本人が考えているより低額である場合が多いのが実情です。
したがって、慰謝料の金額にもよりますが、早期解決したい場合は慰謝料は請求しないという選択肢も検討した方が良いでしょう。
「解決金」名目で合意する方法
慰謝料請求が可能な事案では、まずは慰謝料について話をして、相手の反応を見るところから始めると良いでしょう。
相手が不法行為を真向から否定しており、慰謝料にこだわると離婚問題が長期化しそうであれば、上記で述べたとおり、早期解決を優先して慰謝料請求しない選択もありえます。
しかし、相手が慰謝料の支払を拒否する理由として、「自分に非があることを認めたくない」というケースも少なくありません。
この場合、「慰謝料」ではなく、「解決金」という名目でお金を支払ってもらうという解決方法が考えられます。
「解決金」であれば、責任の所在が明確ではなくなるので、相手が支払に応じる可能性が高くなります。
実際の離婚調停でも、「慰謝料」や「財産分与」と細かく項目分けせずに、全部まとめて「解決金」名目で合意するケースは多くあります。
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他に優先したい離婚条件がある場合
離婚する場合に考えておく必要のある離婚条件は、慰謝料の他に、親権、養育費、財産分与など多岐にわたります。
子どもがいる場合、「親権だけは何としても譲れない」と考える方は多いと思います。
その場合、相手方に対し、親権、養育費、財産分与、慰謝料をすべてこちらの言い分どおりに請求しても、合意に至る可能性は高くないでしょう。
そこで、親権を最優先したい場合は、「親権をこちらがもつことに同意してくれるのであれば、慰謝料なしで良い」と交渉することが考えられます。
そうすると、相手方が親権について譲歩する可能性が高まるでしょう。
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・有利な離婚条件で離婚する方法|相手が提示した条件への対処法も解説
相手に支払能力がない場合
相手に支払能力がない場合、慰謝料を得るために、時間とお金をかけて離婚調停や離婚裁判までしても、結局支払は受けられない可能性が高いです。
そのため、相手に支払能力がないとはっきりしている場合は、早期解決のために慰謝料なしで離婚する選択肢も検討した方が良いでしょう。
もっとも、相手が「支払能力がないから慰謝料は支払えない」と主張してきても、その言い分を鵜呑みにするのは適切ではありません。
給与明細や預貯金通帳などの客観的な証拠書類に基づいて、本当に相手に慰謝料を支払う能力がないのか確認する必要があります。
また、相手方からの提示条件としてよくあるのが、分割払いや減額の申し出です。
分割払いは不払いのリスクがあるため、できるだけ避けるのが無難です。
やむを得ず分割払いで合意するときは、初回の支払額をできるだけ高く設定し、残額の支払で2、3回で抑えるようにすると良いでしょう。
減額した場合、一括で支払が受けられるメリットがあるのはもちろんですが、減額しすぎると、精神的苦痛を慰謝するという本来の目的が達成されません。
難しい問題ですが、お互いによく話し合って、合意に至らない場合は早めに弁護士に相談してみましょう。
分割金の振込先を弁護士の預り金口座にすると、相手方に心理的プレッシャーがかかり、最後まで支払が受けやすくなる可能性があります。
相手からの慰謝料なしで離婚する場合の注意点
公正証書やを作成するときは慎重に
夫婦の話し合いで離婚する協議離婚の場合、相手方が慰謝料なしであることを明確化するため公正証書の作成を求めてくる可能性が高いです。
公正証書には、慰謝料、養育費、財産分与などの離婚条件を記載した上、この内容ですべて解決したということであれば清算条項を入れておくのが一般的です。
清算条項は、一般的に以下のような内容です。
【清算条項の文言例】
第〇条(清算条項) 甲と乙は、本件離婚に関し、以上をもってすべて解決したものとし、今後、財産分与、慰謝料等名目のいかんを問わず、互いに何らの財産上の請求をしない。また、甲と乙は、本公正証書に定めるほか、何らの債権債務のないことを相互に確認する。
このような清算条項を公正証書に入れると、離婚後に慰謝料を請求することはできなくなります。
そのため、慰謝料なしで離婚する場合、公正証書に清算条項を入れるかどうかは慎重に検討する必要があります。
「慰謝料なし」の意味が、「離婚時に請求しない」というものであり、離婚後に請求する可能性が少しでもあるのであれば、清算条項を入れることは避けなければなりません。
公正証書を作成しておくと、相手が養育費を支払わなかったときに強制執行できるなどのメリットがある反面、ご自分の将来の行動が大きく制約されるリスクもあります。
公正証書を作成する際は、事前に弁護士に相談することをおすすめします。
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・離婚の公正証書とは?作成の流れや内容は?メリットは強制執行?
離婚後に慰謝料請求は可能だが時効に注意
慰謝料なしで離婚したものの、離婚後にやはり慰謝料を請求したいと思う場合があるかもしれません。
その場合、離婚成立後3年以内であれば慰謝料を請求することは可能です。
離婚から3年経ってしまうと、慰謝料請求権は時効で消滅するので慰謝料請求はできません。
時効の問題をクリアしても、さらに注意点が2つあります。
1つ目は、財産分与の支払を受けた場合、その財産分与に慰謝料も含むものだったといえる場合は、あらためて慰謝料を請求することはできないという点です。
言い換えると、財産分与を受けた場合であっても、婚姻期間や夫婦の共有財産の金額などから考えて、慰謝料も含まれているというには不十分な場合、別個に慰謝料を請求できます(最判昭和46年7月23日参照)。
2つ目は、上述のとおり、公正証書などに清算条項が入っている場合は、離婚後に慰謝料請求はできないという点です。
以上のとおり、慰謝料なしで離婚した後で「やはり慰謝料請求したい」と思っても、場合によっては慰謝料請求できない可能性があります。
離婚後に後悔しないために、離婚条件について少しでも不安があれば、早い段階から弁護士に相談しておくのがおすすめです。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
モラハラを理由に慰謝料請求をしたいと思っている方は、できる限り録音をしておくことをおすすめします。
録音があれば、後で裁判官などの第三者にモラハラ被害を認定してもらいやすくなります。