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逮捕勾留による欠勤で試用期間中解雇は有効か#裁判例解説

「個人的事情で欠勤させていただきます」
弁護士を通じた従業員からの連絡に、人事担当者は眉をひそめた。入社してわずか4か月の新入社員が、理由も言わずに長期欠勤を続けている。
「事情を説明していただかないと、これ以上の欠勤は認められません。このままでは厳しい判断をせざるを得ません」
会社からの警告にも関わらず、弁護士は「個人的事情」としか答えない。実は彼は逮捕勾留されていたのだが、その事実を会社に伝えたのは解雇通知を受けた後のことだった…。
※東京地判令5・11・16(令5年(ワ)1414号)をもとに、構成しています
この裁判例から学べること
- 試用期間中は通常の解雇より広範囲な解雇事由が認められる
- 欠勤理由を説明しない対応は信頼関係を毀損する重大な問題
- 逮捕勾留でも不起訴なら解雇無効とはならない場合がある
試用期間中の従業員が逮捕勾留により長期欠勤となった場合、会社はどのような対応を取るべきでしょうか。また、従業員が欠勤理由を明かさない場合、解雇は認められるのでしょうか。
今回ご紹介する裁判例は、月額116万円という高給取りの管理職が、逮捕勾留による無断欠勤について「個人的事情」としか説明せず、会社から試用期間中に解雇された事案です。従業員は最終的に不起訴となったものの、裁判所は解雇を有効と判断しました。
この事例を通じて、試用期間中の解雇の有効性判断基準を中心に、試用期間中解雇の特殊性や労使間の信頼関係の重要性などを詳しく解説していきます。
目次
📋 事案の概要
今回は、東京地判令5・11・16(令5年(ワ)1414号)を取り上げます。 この裁判は、建築・土木工事会社の管理職が試用期間中に逮捕勾留により欠勤し、会社から解雇された事案です。
- 原告:アカウントリード職の男性従業員(月額賃金116万円)
- 被告:建築工事・土木工事等を営む株式会社
- 請求内容:地位確認、約45万円+令和5年1月から本判決確定の日まで、毎月25日限り約116万円(判決日時点で約1205万円)
- 結果:原告の請求をすべて棄却(解雇有効)
🔍 裁判の経緯
「7月に入社したばかりなのに、もう10月に逮捕されるなんて…。でも会社には絶対に知られたくない。個人的事情ということで何とか乗り切れないだろうか」
令和4年10月29日、原告は捜査機関に逮捕された。弁護士を通じて会社に連絡を取り、「個人的事情により有給休暇を取得したい」と伝えた。しかし、有給休暇を使い果たした後も勾留は続いた。
「振替休日も使わせてください。引き続き個人的事情で休まざるを得ません」
会社側の反応は厳しかった。
「11月10日までは認めるが、それ以降は事情を説明してもらわないと欠勤は認められない。このままでは厳しい判断をせざるを得ない」
人事担当者は弁護士に告げた。「試用期間中の信頼関係を保てるかどうかの判断のためにも、事情の説明が必要です」
しかし原告側の回答は変わらなかった。「来週末まで欠勤予定です。個人的事情ということで理解してください」
「それでは11日以降の欠勤は認められません」会社側の最終通告にもかかわらず、原告は6日間の無断欠勤を続けた。
そして令和4年11月18日正午過ぎ、ついに解雇通知がメールで送られてきた。皮肉にも、その数時間後に原告は釈放されることになる。
「欠勤の理由は逮捕勾留でした」
原告が真実を会社に伝えたのは、解雇通知から10日後のことだった。しかし時既に遅し。12月には不起訴処分となったものの、失った信頼関係は戻らなかった。
※東京地判令5・11・16(令5年(ワ)1414号)をもとに、構成しています
⚖️ 裁判所の判断
判決の要旨
裁判所は、試用期間中の解雇について「通常の解雇よりも広い範囲における解雇の事由が認められてしかるべき」としつつ、「客観的に合理的な理由があり社会通念上相当として是認され得る場合にのみ許される」と判示しました。
そして本件について、「原告の対応によって、原告と被告との間の労働契約の基礎となるべき信頼関係は毀損された」と認定し、解雇を有効と判断しました。
主な判断ポイント
欠勤それ自体の重大性
5日半の欠勤について、「労働者の労働契約における最も基本的かつ重要な義務である就労義務を放棄したもの」として重大な違反と評価しました。
説明義務違反による信頼関係の毀損
会社から事情説明を求められても「個人的事情」としか回答しなかった点について、「原告の就労意思すら不明」で「理由を明らかにしないで突然長期間の欠勤をする可能性がある無責任な人物と考えるのは当然」と判断しました。
逮捕勾留の事実の考慮
不起訴処分となったことを踏まえても、「不起訴処分後に起訴することは妨げられない」「犯罪の内容等によってはマスコミ報道等で取り上げられ被告の社会的評価が毀損されることもあり得る」として、本採用にはリスクが高いと評価しました。
👩⚖️ 弁護士コメント
試用期間中解雇の特殊性について
この判決で注目すべきは、試用期間中の解雇が通常の解雇とは異なる基準で判断される点です。試用期間は企業が従業員の適性を見極めるための期間であり、本採用後の解雇よりも緩やかな要件で解雇が認められます。
ただし、全く制約がないわけではなく、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」は必要です。
曖昧な説明では不十分
本件で最も重要なのは、原告が逮捕勾留という事実を会社に伝えなかった点です。確かにプライバシーに関わる微妙な問題ですが、長期欠勤をする以上、会社としては理由を知る必要があります。
特に試用期間中は信頼関係構築の重要な時期であり、「個人的事情」という曖昧な説明では不十分でした。
企業の対応策
企業側としては、このようなケースに備えて就業規則の整備が重要です。本件でも就業規則の複数の条文に該当するとして解雇理由が構成されており、明確な規定があったことが解雇の有効性につながりました。
また、事前の警告や説明要求を適切に行うことで、手続的な瑕疵を避けることができます。
📚 関連する法律知識
試用期間中の解雇について
試用期間中の解雇は、労働契約法16条の解雇権濫用法理の適用を受けますが、判断基準は通常の解雇より緩やかです。
最高裁判例(三菱樹脂事件)では、「解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当として是認され得る場合」に限って許されるとしています。
就業規則による解雇事由
就業規則に明記された解雇事由に該当することは、解雇の有効性を基礎づける重要な要素です。
本件では「正当な理由のない無断欠勤が3日以上」「社員としての本採用が不適当」「その他前各号に準ずる程度の事由」といった複数の条文に該当するとされました。
労働者の説明義務
労働者には原則として欠勤理由を説明する法的義務はありませんが、長期欠勤の場合や試用期間中においては、信頼関係維持の観点から一定の説明が求められる場合があります。
完全に理由を秘匿することは、かえって不利益な取扱いを受けるリスクを高めることになります。
🗨️ よくある質問
Q.逮捕されても不起訴になれば解雇は無効になりませんか?
不起訴処分となっても、逮捕勾留による長期欠勤や会社への対応が不適切であれば、解雇が有効とされる可能性があります。本件でも不起訴となったにもかかわらず解雇は有効と判断されました。
Q.試用期間中は自由に解雇できるのですか?
試用期間中でも無制限に解雇できるわけではありません。客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要で、通常の解雇より基準が緩やかになるというものです。
Q.会社に逮捕されたことを隠すのは違法ですか?
直ちに違法とはいえませんが、長期欠勤をする場合には会社との信頼関係を維持するためにも、適切な説明をすることが望ましいでしょう。完全に秘匿することはリスクを伴います。
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一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了