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DV傷害事件の判決|「仕事をしていない」と叱責された夫が妻を足蹴り#裁判例解説
「私のコップの飲み物、また勝手に飲んだでしょう? あなたは仕事もしないで、家で何をしているの!」
妻の厳しい言葉が、夫の怒りに火をつけた。平成25年6月10日、些細なことから始まった夫婦喧嘩は、取り返しのつかない結果を招くことになる。
「コップの飲み物を飲んだかどうかで、なぜそこまで言われなければならないんだ…」
激昂した夫は、妻の左側頭部を足で蹴った。妻は「左外耳道裂傷、右肩擦過傷」の傷害を負い、全治約1週間の診断を受けた。
弁護人は情状酌量を求めたが、裁判官の判断は—。
※神戸地判平25・12・9(平成25年(わ)479号・549号)をもとに、構成しています
この裁判例から学べること
- DV事件における傷害罪の典型的な成立パターン
- 被害者の供述に変遷がある場合の信用性判断の方法
- 夫婦間暴力事件における証拠評価の難しさ
家庭内暴力(DV)は、些細な口論から始まることが少なくありません。しかし、一度暴力の線を越えてしまうと、刑事事件として処罰の対象となります。
今回ご紹介する神戸地裁の判決は、夫婦間の日常的な口論が暴力へとエスカレートし、傷害罪が成立した典型的なDV事件です。仕事をしていないことを妻に叱責された夫が、感情的になって妻を足蹴りし、傷害を負わせた事案を詳しく解説します。
この事例を通じて、DV事件における刑事責任の重さや、裁判所がどのような点を重視して量刑を決定するのか、また社会復帰に向けた保護観察の意義について理解を深めていきます。
目次
📋 事案の概要
今回は、神戸地判平25・12・9(平成25年(わ)479号・549号)を取り上げます。 この裁判は、夫婦間での暴力事件で、傷害罪の成否が争われた事案です。
- 被告人:当時の夫(被害者の元夫)
- 被害者:当時の妻(27歳、現在は離婚)
- 事故状況:平成25年6月10日午後3時頃、自宅での夫婦喧嘩がエスカレート
- 負傷内容:左外耳道裂傷、右肩擦過傷(全治約1週間)
- 請求内容:検察官が傷害罪で起訴
- 結果:傷害罪で有罪、懲役1年2月・執行猶予4年・保護観察付き
🔍 事件の経緯
「私のコップの飲み物、また勝手に飲んだでしょう?」
平成25年6月10日の午後、妻は夫に問い詰めた。しかし夫は「飲んでいない」と否定する。些細なことだったが、夫婦の間に緊張が走った。
「あなたは仕事もしないで、家で何をしているの!毎日毎日、何の役にも立たないじゃない!」
妻の言葉は次第に激しくなった。確かに夫は定職に就いておらず、妻の指摘は的を射ていた。しかし、プライドを傷つけられた夫の心に怒りが沸き上がる。
「そこまで言うか…」
感情を抑えきれなくなった夫は、とっさに妻の左側頭部を足で蹴った。妻は痛みで顔をしかめ、その場に座り込んだ。
「ひどい…なぜ暴力を振るうの?」
妻は涙を流しながら夫を見つめた。夫も我に返り、自分の行為の重大さに気づいたが、もう遅かった。
妻は病院で診察を受け、「左外耳道裂傷、右肩擦過傷」の診断を受けた。全治約1週間の傷害だった。この暴力事件は警察に通報され、夫は傷害罪で起訴されることになった。
「まさか自分が刑事事件の被告人になるなんて…」
法廷に立った夫は、自分の行為を深く後悔していた。しかし、一度犯してしまった暴力の代償は大きく、夫婦関係も修復不可能となっていた。
※神戸地判平25・12・9(平成25年(わ)479号・549号)をもとに、構成しています
⚖️ 裁判所の判断
判決の要旨
裁判所は、6月10日の傷害事件について「被告人がAの左側頭部を1回足で蹴るなどの暴行を加え、よって、同人に全治約1週間を要する左外耳道裂傷、右肩擦過傷の傷害を負わせた」として傷害罪の成立を認めた。
主な判断ポイント
暴行と傷害の因果関係
被告人が妻の左側頭部を足で蹴った暴行と、妻が負った左外耳道裂傷・右肩擦過傷との間に明確な因果関係が認められた。診断書により傷害の事実が客観的に立証されている。
犯行に至る経緯の評価
裁判所は「口げんかが高じたもので、暴力を正当化すべき事情はないが、被害者も辛辣な言動をしたことがうかがわれ、被告人の憤慨自体が理不尽とまではいえない」として、犯行の背景事情を一定程度考慮した。
量刑における考慮要素
被告人に粗暴犯の前科が複数あることを重視する一方で、「執拗に攻撃を重ねてはおらず、傷害結果も幸いにして重いものではない」「衝動的なもので、殊更にこの機会に被害者を虐待しようとする意図は認められない」として、実刑を回避し執行猶予を選択しました。
👩⚖️ 弁護士コメント
DV事件における傷害罪の特徴
この事例は、DV事件における傷害罪の典型的なパターンを示しています。夫婦間の口論から感情的になり、とっさに暴力を振るってしまうケースです。
「一回だけ」「軽く蹴っただけ」という加害者の言い分があっても、実際に傷害が生じれば刑事責任は免れません。DVは家庭内の問題ではなく、明確な犯罪行為であることを認識する必要があります。
量刑判断における複合的要素の検討
裁判所は量刑において、被告人の前科歴、犯行の態様、被害の程度、犯行に至る経緯、反省の態度、社会復帰の見込みなど、様々な要素を総合的に検討しています。
この事例では、被告人に粗暴犯の前科があることで実刑の可能性もありましたが、暴行が執拗でないこと、傷害が比較的軽微であること、衝動的犯行であることなどを考慮し、執行猶予が選択されました。
保護観察付き執行猶予の意義
注目すべきは、単純な執行猶予ではなく「保護観察付き執行猶予」が言い渡されている点です。これは被告人の社会復帰を支援しつつ、再犯防止を図る制度です。
特に「暴力を防止するための専門的処遇を受けさせる」との言及があり、DV加害者に対する専門的な治療やカウンセリングの重要性を示しています。
📚 関連する法律知識
DV防止法との関係
配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(DV防止法)は、配偶者暴力を「犯罪となる行為をも含む重大な人権侵害」と位置づけています。
同法に基づく保護命令制度もありますが、刑事処罰とは別個の制度として運用されています。DVが発生した場合、民事的救済と刑事処罰の両方を検討することが重要です。
傷害罪と暴行罪の違い
傷害罪(刑法204条)は「人の身体を傷害した者」を処罰する罪で、暴行罪(同208条)は「暴行を加えた者」を処罰する罪です。両者の最大の違いは、加えた暴行によって、傷害(けが)が生じているかどうかです。
傷害罪の法定刑は「15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金」、暴行罪は「2年以下の拘禁刑もしくはは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料」となっています。
傷害罪と暴行罪の違い
傷害罪 | 暴行罪 | |
---|---|---|
けが | あり | なし |
刑罰 | 15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 | 2年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金 または拘留もしくは科料 |
保護観察制度
保護観察は、社会内処遇の一種で、保護観察官と保護司による指導監督と補導援護を受けながら社会復帰を図る制度です。
DV事件では、アンガーマネジメントや認知行動療法など、暴力防止のための専門的プログラムが実施されることがあります。
🗨️ よくある質問
Q.夫婦喧嘩で一回だけ手を出してしまった場合でも、刑事事件になるのですか?
たとえ一回だけであっても、相手に傷害を負わせた場合は刑事事件になる可能性があります。
夫婦関係や親族関係であっても、暴力行為が正当化されることはありません。たとえ一回限りの行為でも、傷害が生じれば傷害罪が成立し、刑事責任を問われる可能性があります。
Q.DVで逮捕された場合、職場にバレてしまうのでしょうか?
逮捕されても、必ずしも職場に知られるとは限りません。しかし、勾留が長期化したり報道されたりする場合は、職場に影響が出る可能性があります。早期の釈放や示談成立に向けて、弁護士に相談することをお勧めします。
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Q.夫婦間暴力の場合、どのような証拠が重要になりますか?
診断書、傷害の写真、第三者の目撃証言、防犯カメラの映像、被害者の日記やメール、緊急通報の記録などが重要です。
特に、暴行の直後に作成された客観的記録は、時間の経過による記憶の変化を補う重要な証拠となります。
Q.被害者である配偶者が告訴を取り消せば、処罰されないのですか?
傷害罪は親告罪ではないため、被害者が告訴を取り消しても、検察官の判断で起訴される可能性があります。
ただし、被害者との示談成立は量刑上有利な事情として考慮されることが多く、執行猶予の可能性が高まります。
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