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風営法違反(無許可営業)に関する判例|ダンスクラブ経営者に無罪判決#裁判例解説
「ダンスとお酒を提供するだけで、なぜ風俗営業になるんですか?」
被告人代理人の弁護士は法廷で主張した。スクリーンには、薄暗いクラブの映像が映し出されている。大音量の英国ロック音楽に合わせて約20人の客がフロアで体を揺らし、ステップを踏んでいる。
「私のクライアントが営んでいたのは、単に音楽に合わせて踊り、お酒を楽しむ健全なクラブです。これが性風俗秩序を乱すとでも言うのですか?」
検察官は「無許可での風俗営業は明らかな違法行為」と反論。果たして裁判官はこの営業をどう判断するのか…。
※大阪地判平26・4・25(平成24年(わ)1923号)をもとに、構成しています
この裁判例から学べること
- 風俗営業の判断には具体的な営業態様の詳細な検討が必要
- 性風俗秩序の乱れにつながる実質的おそれがあるかが判断基準
今回ご紹介する大阪地裁の判決は、この問題に対して画期的な判断を示したケースです。
大阪市内でクラブを経営していた男性が、風俗営業の許可を得ずに営業したとして起訴されましたが、裁判所は「性風俗秩序の乱れにつながるおそれが実質的に認められない」として無罪を言い渡しました。
この判決は、風俗営業法の解釈において、単に形式的要件を満たすだけでなく、実際の営業態様を詳細に検討する必要があることを明確にした重要な先例となっています。クラブ経営者や関係者に向けて判例を詳しく解説していきます。
目次
📋 事案の概要
今回は、大阪地判平26・4・25(平成24年(わ)1923号)を取り上げます。 この裁判は、大阪市内でクラブを経営していた男性が、風俗営業の許可を受けずにダンスフロアでの営業を行ったとして起訴された事案です。
- 被告人:クラブ経営者(56歳男性、無職)
- 営業内容:ダンスフロア等の設備を設け、客にダンスをさせ、酒類等を提供する営業
- 請求内容:風俗営業等規制法違反(無許可営業)による刑事処罰(求刑:懲役6月及び罰金100万円)
- 結果:無罪判決(検察側控訴も最高裁で無罪確定)
🔍 事件の経緯
「警察が店に来た時、私は本当に驚きました。ただ音楽をかけて、お客さんに踊ってもらい、お酒を出していただけなのに、なぜ風俗営業法違反なのかと…」
被告人の男性は、大阪市北区でクラブを経営していました。平成24年4月4日の夜、この店で英国ロック音楽イベントが開催されていました。
店内は薄暗く、大音量で音楽が流れる中、約20人の男女の客がフロアで音楽に合わせて体を動かしていました。DJブースには大型スピーカーが設置され、天井にはミラーボールが光っていました。客の中には椅子に座って音楽を聞いている人もいれば、フロアでステップを踏んだり、手を振ったりしている人もいました。
「私たちの弁護団は、これが本当に風俗営業に該当するのか、根本的な疑問を持ちました」と弁護人は振り返ります。
「お客さんは健全に音楽を楽しんでいただけで、わいせつな行為など一切ありませんでした。それに、憲法で保障された表現の自由や職業の自由を侵害する過度な規制ではないかと考えたのです」
検察側は、ダンスフロアの設備があり、客にダンスをさせながら酒類を提供していた事実を根拠に、形式的に風俗営業法に該当すると主張しました。
しかし弁護側は、具体的な営業態様を詳しく検討すれば、性風俗秩序を乱すおそれは全くないと反論。さらに風俗営業法の規定自体が憲法に違反する無効なものだとも主張しました。
※大阪地判平26・4・25(平成24年(わ)1923号)をもとに、構成しています
⚖️ 裁判所の判断
判決の要旨
裁判所は、風俗営業法の規制対象となる営業について「形式的に要件に該当するだけでなく、その具体的な営業態様から、歓楽的、享楽的な雰囲気を過度に醸成し、わいせつな行為の発生を招くなどの性風俗秩序の乱れにつながるおそれが、単に抽象的なものにとどまらず、現実的に起こり得るものとして実質的に認められる営業を指す」と判示しました。
主な判断ポイント
風俗営業法の規制目的の明確化
風俗営業法は「性風俗秩序の乱れにつながるおそれ」を防止することが主たる目的であり、単に騒音防止や粗暴事案防止が目的ではないと明確にしました。
具体的営業態様の詳細な検証
客のダンスの態様、演出内容、客の密集度、照明の暗さ、音量、営業所の構造設備、酒類提供の有無など、諸般の事情を総合的に判断する必要があるとしました。
憲法適合性の確認
風俗営業法の規定は、表現の自由や職業の自由を制約するものの、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な範囲内であり、憲法に違反しないと判断しました。
本件営業の具体的評価
本件では客同士が体を触れ合わせるダンスはなく、単に音楽に合わせて体を動かしていただけで、わいせつな行為をあおる演出もなかったため、性風俗秩序の乱れにつながる実質的おそれは認められないとしました。
👩⚖️ 弁護士コメント
画期的な判断基準の確立
この判決は、風俗営業法の適用において形式的判断から実質的判断への転換を明確にした点で極めて重要です。従来、ダンスフロアがあり酒類を提供していれば機械的に風俗営業と判断される傾向がありましたが、この判決は具体的な営業態様を詳細に検討する必要があることを示しました。
特に「性風俗秩序の乱れにつながるおそれが実質的に認められるか」という判断基準を明確にしたことで、健全なクラブ営業と風俗営業との線引きが明確になりました。これにより、音楽文化の発展と法規制のバランスが図られたといえるでしょう。
最高裁まで無罪が確定した意義
この判決が特に重要なのは、地裁、高裁、最高裁の三審すべてで無罪が維持されたことです。これにより、風俗営業法の解釈における「実質的営業態様の検討」という判断基準が最高裁レベルで確立されたことになります。
単にダンスフロアがあり酒類を提供しているだけでは風俗営業に該当せず、「性風俗秩序の乱れにつながる実質的おそれ」の具体的検証が必要ということです。
実務への影響
この判決により、クラブ経営者は営業態様を工夫することで風俗営業許可なしでの営業が可能になる道筋が示されました。具体的には、客同士の接触を避ける、わいせつな演出を行わない、適度な照明を確保するなどの配慮により、健全な音楽・ダンス文化を提供できる可能性があります。
ただし、個別具体的な判断が必要であり、営業内容によっては依然として許可が必要な場合もあります。事前に専門家に相談することを強くおすすめします。
📚 関連する法律知識
風俗営業法とは
風営法違反のうち代表的なものを挙げるとすると、無許可営業、客引き、名義貸しなどがあります。
無許可で風俗営業を行った場合、2年以下の拘禁刑もしくは200万円以下の罰金、またはその併科という重い刑罰が科せられます。また、営業の停止命令違反や虚偽申請なども処罰の対象となります。
客引きの刑罰は、6か月以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、またはその併科です(風営法22条1項1号、同2号、同52条1号)。
名義貸しの刑罰は、2年以下の拘禁刑もしくは200万円以下の罰金、またはその併科です(風営法11条、同49条3号)。
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・風営法違反の弁護士相談│風営法違反は罰金?弁護士の活動は?
深夜営業との関係
風俗営業の許可を受けた場合、深夜(午前0時から午前6時まで)の営業は原則として禁止されます。
一方、風俗営業に該当しない一般の飲食店営業であれば、深夜においても酒類提供が可能です(ただし、深夜における酒類提供飲食店営業の届出が必要)。
🗨️ よくある質問
Q.この判決により、すべてのクラブが風俗営業許可なしで営業できるようになったのですか?
いいえ、そうではありません。この判決は個別具体的な営業態様を詳細に検討した結果の判断です。
客同士の接触があるダンス、わいせつな演出、過度に暗い照明などがある場合は、依然として風俗営業に該当する可能性があります。営業内容によって判断が分かれる可能性もあるため、注意してください。
Q.控訴審や上告審ではどのような判断がなされたのでしょうか?
この事件は検察側が控訴しましたが、大阪高裁でも一審の無罪判決が維持されました(平成27年1月21日)。さらに最高裁でも無罪が確定しています(平成28年6月7日)。
つまり、最終的に被告人の無罪が確定した事案です。この判決により、風俗営業法の解釈において実質的な営業態様の検討が重要であるという判断基準が確立されました。
Q.風俗営業許可を取得せずに健全なクラブ営業を行うための注意点は?
最も重要なのは「性風俗秩序の乱れにつながる実質的おそれ」を排除することです。
具体的には、客同士の身体接触を避ける、露出度の高い服装を促さない、適度な照明を確保する、わいせつな演出を避ける、過度な密集状態を作らないなどの配慮が必要です。
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学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了