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アルコール発覚免脱罪が適用、死亡ひき逃げに懲役5年#裁判例解説
「警察は来ているか?」
午前0時30分頃、被告人は震え声で友人に電話をかけた。わずか30分前、赤信号を無視して27歳の男性をはね、その場から逃走していた。
「いないよ」という友人の答えに、被告人は安堵のため息をついて電話を切った。
事故後、被告人は現場から立ち去り、約6時間半にわたって発覚を免れようとする行動を取り続けた。この間、友人に電話で周辺の状況を探ったり、事故車両を隠したり、インターネットでひき逃げの処罰について調べていた。
この事件は、平成26年に新設されたアルコール等影響発覚免脱罪が適用された重要な事例として、交通事故法制の発展に大きな意味を持つ判決となった…。
※札幌地判平28・9・28(平成28年(わ)13号)をもとに、構成しています
この裁判例から学べること
- アルコール等影響発覚免脱罪は「逃げ得」防止のため最高12年の重罰が科される
- 現場離脱の「目的」認定には事後の一連の行動パターンが重要な判断材料となる
- 血中アルコール濃度の時間経過による減少で免脱行為の成立範囲が限定される
- 積極的な証拠隠滅行為(車両隠匿・情報収集等)は悪質性を大幅に高める
飲酒運転による交通事故は、単なる過失では済まされない重大犯罪です。特に事故を起こした後、発覚を恐れて逃走する「ひき逃げ」行為は、被害者の救命機会を奪う極めて悪質な犯罪として厳しく処罰されます。
今回ご紹介する札幌地裁の判決は、深夜の交差点で赤信号を無視し、横断歩道を歩行中の男性をはねた後、約6時間半にわたって逃走を続けた事件です。被告人には懲役5年の実刑判決が言い渡されました。
この事例では、アルコール等影響発覚免脱罪の成立要件や、赤信号無視の立証方法、量刑の考慮要素など、飲酒運転事故に関する重要な法的論点が数多く示されています。
事件の詳細な経緯と裁判所の判断を通じて、飲酒運転の危険性と法的責任について理解を深めていきましょう。
目次
📋 事案の概要
今回は、札幌地判平28・9・28(平成28年(わ)13号)を取り上げます。この裁判は、飲酒運転により赤信号を無視して横断歩道上の歩行者をはねた後に逃走した重大事件です。
- 被告人:20代男性(交際相手を迎えに行く途中で事故を起こした)
- 事故状況:平成28年3月16日、北海道小樽市内の信号機のある交差点で、時速50~60キロで直進中に赤信号を見落とし、横断歩道を歩行中の男性(27歳)に衝突
- 負傷内容:被害者は右側頭部打撲等を負い、頭蓋内損傷により約5時間後に死亡
- 請求内容:過失運転致死アルコール等影響発覚免脱罪、救護義務違反、報告義務違反で起訴
- 結果:懲役5年の実刑判決(求刑は懲役7年)
🔍 事件の経緯
被告人は2016年3月15日夜、大学の卒業パーティーで大量の酒(ビール、チューハイ、ワインなど)を飲んだ後、午前0時ごろに交際相手からの迎え依頼を受け、飲酒状態で車を運転しました。被告人は以前にも飲酒運転を繰り返しており、今回も事故は起こらないと軽く考えていました。
運転中、携帯電話を操作していたため赤信号に気づかず交差点に進入し、青信号で横断歩道を渡っていた27歳の男性をはねました。事故後、現場にとどまらず逃走し、途中でタクシーにも衝突。その後、交際相手と合流し、車を隠すなどの行動を取りました。
さらに、インターネットで「ひき逃げ」の刑罰を調べたり、友人に状況を確認させるなどし、約13時間にわたり事故現場から離れていました。被害者は事故後入院しましたが、午前5時過ぎに死亡が確認されました。
※札幌地判平28・9・28(平成28年(わ)13号)をもとに、構成しています
⚖️ 裁判所の判断
判決の要旨
裁判所は、被告人の行為について「交通法規を軽視すること甚だしく、その運転態様は危険極まりない」「卑劣で悪質な犯行」と厳しく非難し、懲役5年の実刑判決を言い渡しました。
被告人は過失運転致死アルコール等影響発覚免脱罪、救護義務違反、報告義務違反で有罪となりました。
主な判断ポイント
赤信号無視の立証
目撃者の証言と被告人の通話記録の時刻が一致することから、被告人が交差点を通過した際の対面信号機は赤色表示であったと認定されました。
目撃者は「黒っぽい車の対面信号機は赤色表示だった」と具体的に証言し、その時刻が119番通報時刻や被告人の発信記録と符合していました。
アルコール等影響発覚免脱の目的認定
裁判所は、被告人が「アルコールの影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的」で現場を離れたと認定しました。
事故後に友人へ「警察は来ているか」と探りの電話をかけたり、車を隠したり、インターネットでひき逃げの処罰を調べるなどの行動が証拠隠滅の意図を示していると判断されました。
免脱行為の時間的限界
ウィドマーク計算法による血中アルコール濃度の推計から、事故から約6時間20分後にはアルコールが体内から消失していた可能性があるとして、午前6時30分以降の行為はアルコール等影響発覚免脱罪の実行行為に該当しないと判断されました。
👩⚖️ 弁護士コメント
アルコール等影響発覚免脱罪の重大性
本判決は、平成26年に新設されたアルコール等影響発覚免脱罪の適用事例として重要な意味を持ちます。
従来は飲酒運転で事故を起こしても逃走してアルコールが抜ければ軽い処罰で済む「逃げ得」が問題視されていました。この法律により、そうした悪質な行為に対して最高12年の懲役刑が科せられるようになりました。
本件では、被告人が積極的に証拠隠滅を図った悪質性が認定の決め手となりました。
単に現場を離れただけでなく、友人への探りの電話、車の隠匿、インターネットでの処罰内容の検索など、一連の行動が「発覚を免れる目的」の存在を明確に示していたのです。
量刑における考慮要素
懲役5年という刑期は、求刑7年に対してやや軽減されていますが、これは被告人に前科がなく、任意保険による賠償が見込まれることなどが考慮されたためです。しかし、常習的な飲酒運転(10回程度の前歴)や、緊急性のない理由での運転、事故後の悪質な行動などが重大な悪化要因として評価されました。
予防の重要性
飲酒運転は「しない」「させない」「許さない」の三原則が重要です。本件のように、軽い気持ちで始めた飲酒運転が人の命を奪い、自分の人生も破綻させる結果を招きます。
車を運転する可能性がある日は一滴も飲まない、飲酒した場合は絶対に運転しない、という強い意識が必要です。
📚 関連する法律知識
自動車運転処罰法について
自動車運転処罰法は、悪質・危険な運転による死傷事故に対する処罰を強化するため平成26年に施行されました。
従来の業務上過失致死傷罪では最高5年の懲役でしたが、危険運転致死罪では最高20年、過失運転致死罪でも最高7年の懲役が科せられます。
アルコール等影響発覚免脱罪(4条)は、飲酒運転等で人を死傷させた後、アルコール等の影響の発覚を免れる行為をした場合に最高12年の懲役を科すものです。
逃走、アルコール摂取、その他の行為により発覚を免れようとした場合に適用されます。
道路交通法の救護・報告義務
交通事故を起こした運転者には、負傷者の救護(72条1項前段)と警察への報告(同項後段)が義務付けられています。
救護義務違反
ひき逃げをした場合に適用される法律に、道路交通法があります。道路交通法72条1項に規定されている「救護義務違反」により、運転者は、交通事故を起こして人を死傷させてしまったとき、負傷者(被害者)を救護しなければなりません。
ひき逃げは、この義務に違反する行為であり、救護義務違反に該当すると「10年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金」が科せられます(道路交通法117条2項)。
報告義務違反
道路交通法72条1項には、「報告義務違反」も規定されています。事故を起こした者は、警察に交通事故の詳細を報告しなければなりません。
警察に事故を報告しなかった場合には、報告義務違反として「3か月以下の拘禁刑または5万円以下の罰金」の範囲で処罰される可能性があります(道路交通法119条1項17号)。
簡単にいうと、人との接触事故を起こしてしまった場合は、119番で救急車を呼び(救護義務)、110番で警察を呼ばなければならない(報告義務)ということです。
交通事故は過失によるものですが、事故後にその状況を認識していながら「逃げる」という行為には故意が認められます。特に、目の前の負傷者に適切な処置を行わずにその場を去る行為は悪質であり、重い刑罰が用意されています。
🗨️ よくある質問
Q. 飲酒運転の基準はどのように定められていますか?
飲酒運転には、「酒気帯び運転」と「酒酔い運転」の2種類があります。
酒気帯び運転とは、血液1ミリリットルにつき0.3mg以上または呼気1リットルにつき0.15mg以上のアルコール量が検出された状態のことをいいます。
酒酔い運転とは、アルコールによって車両等を正常に運転することができないおそれがある状態で運転した場合をいい、アルコールの数値に関係なく、「客観的に見て正常に運転できるかどうか」で決まります。
Q.事故後の逃走はどの程度の時間で発覚免脱罪が成立しなくなりますか?
本判決では約6時間20分後にアルコールが体内から消失する可能性があるとして、それ以降の行為は発覚免脱罪の実行行為に該当しないと判断されました。
ただし、これは個人の体重や飲酒量によって大きく異なるため、一律に時間を定めることはできません。重要なのは、時間の経過ではなく、事故後は直ちに救護と通報を行うことです。
Q. 飲酒運転の前科がない場合でも実刑判決が出るのでしょうか?
本件では前科のない被告人に懲役5年の実刑判決が言い渡されました。
死亡事故の場合、初犯であっても事案の悪質性(赤信号無視、ひき逃げ、証拠隠滅など)によっては実刑となる可能性が高いです。特にアルコール等影響発覚免脱罪は重罰規定であり、適用されれば相当重い刑罰が予想されます。
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