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つきまといが迷惑防止条例で処罰された判例#裁判例解説
「余ったチケット買ってくれますか」
通行人が余ったチケットを買ってもらおうとダフ屋に声をかけると、ダフ屋は意外な提案をしてきた。
「俺が持っているチケットを買ってくれ。もっと良い席がある」
ダフ屋は逆に自分のチケットを売りつけようとし、場所を移動させ、追加料金まで要求してくる。
「迷惑だ…」通行人の心境が一変した瞬間、ダフ屋の運命も決まった。実は通行人は取締まり中の警察官だったのである。
※横浜地判平13・12・18(平成13年(わ)2443号)をもとに、構成しています
この裁判例から学べること
- 「つきまとい」の要件を満たせば犯罪となる
- 被害者側からの声かけでも、その後の行為で犯罪が成立し得る
- 常習性があると刑が重くなる可能性がある
- 反省の態度は量刑に大きく影響する
ダフ屋行為は、コンサートやスポーツイベントなどの健全性を害する違法行為として、過去は各都道府県の迷惑防止条例で厳しく規制されていました。
2019年6月14日からは、「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律」(通称「チケット不正転売禁止法」)で禁止されている行為です。
今回ご紹介する裁判例は、一見すると被害者側から「チケット買ってくれますか」と声をかけたにもかかわらず、最終的に被告人のダフ屋行為が認定された興味深いケースです。被告人は懲役6か月の実刑判決を受けることとなりました。
この事例を通じて、ダフ屋行為の構成要件である「つきまとい」の具体的な判断基準や、常習性の認定、量刑の考慮要素など、迷惑防止条例違反について理解を深めていきましょう。
目次
📋 事案の概要
今回は、横浜地判平13・12・18(平成13年(わ)2443号)を取り上げます。 この裁判は、コンサートホール前でのダフ屋行為が「つきまとい」に該当するかが争われた事案です。
- 被告:50代男性(ダフ屋行為の常習者)
- 事故状況:横浜市内のコンサートホール前での違法チケット販売行為
- 請求内容:迷惑防止条例違反による刑事処罰
- 結果:懲役6か月の実刑判決(未決勾留日数20日を算入)
🔍 事件の経緯
「今日もチケットを売って稼ごう」
ダフ屋である被告人は平成13年10月、横浜市内のコンサートホール前にいた。手には転売目的で入手したコンサートチケットが握られていた。これは彼にとって日常的な行為だった。
そのとき、ホール正面方向に歩いてくる通行人を見つけた。通行人にチケットを販売しようと思った矢先の出来事だった。
「チケット買ってくれますか」
なんと、通行人の方から声をかけてきたのだ。通行人は自分用のチケット1枚と、急に来られなくなった友人用のチケット1枚を持っており、友人の分を買ってもらえると思ったのだった。
「俺が持っているチケットを買ってくれ。もっと良い席がある」
しかし被告人は、通行人のチケットを買うのではなく、逆に自分のチケットを売りつけようとした。通行人の持つチケット2枚と被告人のチケット1枚を交換し、さらに1000円から2000円の追加料金を要求する交渉を始めた。
「こちらに移動しましょう」
被告人は通行人を促して場所を移動させた。通行人は困惑していた。友人のチケットを買ってもらえればよいと考えていたのに、新たな料金の支払いとチケットの交換という意図しない交渉を持ちかけられたからだ。
「迷惑だ…」
通行人の心境は一変していた。実は通行人は、この日ダフ屋取締まりに従事していた警察官だったのである。
※横浜地判平13・12・18(平成13年(わ)2443号)をもとに、構成しています
⚖️ 裁判所の判断
判決の要旨
裁判所は、被告人の行為が迷惑防止条例の「つきまとい」に該当するとして、懲役6か月の実刑判決を言い渡しました。被告人側は「つきまとったりしていない」として無罪を主張しましたが、裁判所はこれを退けました。
主な判断ポイント
「つきまとい」の認定
裁判所は、被告人が通行人の前に立ちふさがり、通行人を促して場所を移動させた行為について、「つきまとうとは、他人の行動に追随することをいい、人の前後、側方について歩き、又は止まって離れないことをいう」として、この要件を満たすと判断しました。
警察官の証言の信用性
現場にいた警察官の証言について、「警察官であり、当日判示場所付近でダフ屋の取締まりに従事し、被告人の動向を注視していたもので、その現認状況の正確性に疑いはない」として高く評価しました。
被告人の供述の信用性
被告人自身の捜査段階での供述について、「ダフ屋行為を内容とする本件条例違反の同種前科を多数有し、どういう行為が同条例違反になるかを十分理解していたと考えられるにもかかわらず、通行人の前に立ちふさがったなどという不利益な供述をしていた」として、その信用性を認めました。
常習性の認定
被告人に常習性があることについて、「証拠上明らかである」として認定しました。
👩⚖️ 弁護士コメント
「つきまとい」の判断基準について
この裁判例は、迷惑防止条例における「つきまとい」の具体的な判断基準を示した重要な事例です。
被害者側から「チケット買ってくれますか」と声をかけた場合でも、その後の行為によって「つきまとい」が成立し得ることを明確にしました。
特に重要なのは、「立ちふさがる」行為と「場所を移動させる」行為が「つきまとい」の要件を満たすと判断された点です。これは、単に声をかけるだけでなく、相手の行動を制約するような行為があった場合に犯罪が成立することを示しています。
常習性の影響について
被告人は同種前科を多数有していたことから、常習性が認定されました。常習性が認定されると、単発の犯行と比べて刑が重くなる可能性があります。この事例でも、検察側の求刑は懲役8か月でしたが、実際の判決は懲役6か月となりました。
量刑の考慮要素
裁判所は量刑にあたり、被告人の反省の態度が乏しいことを指摘しました。「当公判廷において、不合理な弁解をして反省の情が乏しい」として、これが量刑を重くする要因となったことがうかがえます。一方で、「被告人が老齢の域に入りつつあること」を酌量事情として考慮したことも明記されています。
📚 関連する法律知識
迷惑防止条例とは
迷惑防止条例は、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等を防止するため、各都道府県が制定している条例です。ダフ屋行為、痴漢行為、つきまとい行為などが規制対象となっています。
チケット不正転売禁止法とは
チケット不正転売禁止法(特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律)は、2019年6月14日から施行された法律です。
この法律は、コンサートやスポーツイベントなどのチケット(特定興行入場券)の不正転売を禁止し、適正な流通を確保することを目的としています。
チケット不正転売禁止法に違反した場合、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金、またはその両方が科されます。
ダフ屋行為の構成要件
ダフ屋行為が成立するためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 乗車券、入場券等の不特定多数の者に対する販売
- 公共の場所または公共の乗物における行為
- 転売の目的
- つきまとい、すなわち他人の行動に追随し、人の前後、側方について歩き、又は止まって離れないこと
常習性の認定
同種の犯行を繰り返している場合、常習性が認定されることがあります。常習性が認定されると、より重い刑が科される可能性があります。
🗨️ よくある質問
Q.被害者側から声をかけた場合でも犯罪になるのですか?
被害者側から声をかけた場合でも、その後の行為によって「つきまとい」が成立すれば犯罪となり得ます。この事例では、
被害者から「チケット買ってくれますか」と声をかけたにもかかわらず、被告人の行為がダフ屋行為として認定されました。
Q.どのような行為が「つきまとい」に該当するのですか?
裁判所は「つきまとうとは、他人の行動に追随することをいい、人の前後、側方について歩き、又は止まって離れないことをいう」と判断しています。
立ちふさがる、場所を移動させる、しつこく声をかけるなどの行為が該当する可能性があります。
Q.常習性があると刑はどの程度重くなりますか?
常習性が認定されると、初犯の犯行と比べて刑が重くなる可能性があります。
ただし、具体的な量刑は個別の事情を総合的に考慮して決定されます。この事例では、老齢という酌量事情もあり、求刑懲役8か月に対して判決は懲役6か月となりました。
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学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了