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暴力行為等処罰法違反の判例|近隣住民への執拗な脅迫#裁判例解説
「死ね。」「殺すぞ。」
女性の激しい怒号が、閑静な住宅街に響き渡る。被害者の一人は、証拠として録音を開始した。
「出て来いこらー、ボケ、こらー、馬鹿親父。」
マイクロカセットテープには、近隣住民3名に対する執拗で凄まじい脅迫の言葉が克明に記録されていた。被告人は自宅前で、隣人が通りかかるたびに生命・身体への危害を示唆する言葉を浴びせ続けていたのである。
裁判所は、この一連の行為を常習脅迫罪と認定し、懲役1年6月・執行猶予4年の判決を下した…。
※大阪地判平20・11・11(平成19年(わ)5634号)もとに、構成しています
この裁判例から学べること
- 「死ね」「殺すぞ」等の発言は明確な脅迫行為に該当する
- 録音テープやノート記録は脅迫の重要な証拠となる
- 短期間で複数の被害者への脅迫は常習性が認められる
- 単なる近隣トラブルの域を超えれば刑事責任を問われる
- 被告人が女性でも脅迫罪の成立に影響しない
近隣住民との些細なトラブルが、いつの間にか深刻な刑事事件に発展してしまうケースが増えています。
今回ご紹介する裁判例は、大阪府内の住宅地で発生した近隣トラブルが、暴力行為等処罰法違反常習脅迫罪として刑事処罰の対象となった事案です。
被告人の女性が、隣人3名に対して「死ね」「殺すぞ」などの激しい言葉を浴びせ続けた結果、懲役1年6月・執行猶予4年の有罪判決を受けました。
この事例を通じて、どのような言動が常習脅迫罪に該当するのか、証拠の重要性、常習性が認められるケースなどを詳しく見ていきましょう。
目次
📋 事案の概要
今回は、大阪地判平20・11・11(平成19年(わ)5634号)を取り上げます。
この裁判は、大阪府内の住宅地で、女性被告人が近隣住民3名に対して短期間のうちに立て続けに脅迫行為を行ったとして、常習脅迫罪に問われた事案です。
- 被告人:58歳の女性(看護師)
- 被害者:隣人のA(58歳)、B(50歳)、C(67歳)
- 請求内容:暴力行為等処罰に関する法律違反(常習脅迫)
- 結果:懲役1年6月・執行猶予4年、未決勾留日数90日算入
🔍 事件の経緯
「もう我慢できない…この騒音と暴言、なんとかして止めさせたい」
隣人のAは、約5年前に引っ越してきて以来、被告人から断続的に受ける嫌がらせに悩まされていました。最初の1年は平穏でしたが、その後、被告人は壁を叩いたり、Aに向かって怒鳴るようになったのです。
「最初は言い返していたけれど、話し合いにならない。言っても無駄だった」
Aは当初反論していましたが、やがて諦めて黙るようになりました。しかし被告人の行為は収まらず、数日おきに暴言を浴びせ続けたのです。
困り果てたAは警察に相談しましたが、「証拠がない」と言われてしまいます。そこで平成19年7月30日以降、カセットレコーダーで録音し、ノートに被告人の言動を詳細に記録することにしました。
そして8月25日、ついに決定的な瞬間が訪れます。
「はよ死ね。殺すぞ」
午後4時頃、被告人の凄まじい怒号がA宅まで聞こえてきました。同日午後6時30分頃には、さらに激しい脅迫が始まったのです。
「なめとんかこら、おんどりゃ。出て来いこらー、ボケ、こらー、馬鹿親父。やきやりあげたるから来い、殺すぞ、ほんまに。」
この一部始終は、Aが用意したマイクロカセットテープに鮮明に録音されました。
3日後の8月28日、今度は別の隣人Bが標的となります。Bが軽四輪自動車で帰宅する際、被告人は路上で待ち構えていたかのように激しく怒鳴りました。
「出て来い、こら、ボケ、早よ死ねお前みたいなん。人の邪魔ばかりしやがって。馬鹿一族やろ、お前。クソ馬鹿息子、出て来いこら。」
Bは約35メートル離れた自宅駐車場まで、被告人の怒声を浴び続けました。
Bが言い返すと、被告人はさらに激昂して言い返しました。
「殺されたいんかこらー。ばかー、ばか息子、早よ死ねこらー。死んでまえ、お前みたいな人間」
9月2日、67歳のCが娘との待ち合わせのため外出した際にも、同様の脅迫が行われました。
「馬鹿だろうが、お前。人が人の嫌がらせやるように生きて生きていってんのか、馬鹿。嫌がらせばかりしやがって。アホはお前じゃが。死ねこらホンマに、出てきてみ、やりあげたるから、馬鹿野郎」
Cは恐怖を感じながら振り返ることもできず、早足でその場を立ち去りました。
※大阪地判平20・11・11(平成19年(わ)5634号)もとに、構成しています
⚖️ 裁判所の判断
判決の要旨
裁判所は、被告人の一連の行為について「明らかに生命や身体に危害を加えることを内容とするもので、執拗かつ強烈な怒号をし続けるという態様であり、相手方を畏怖させるに十分なものといえる」と判断し、常習脅迫罪の成立を認めました。
主な判断ポイント
(1)脅迫行為の該当性
「殺すぞ」「死ね」「やりあげたる」等の発言は、明らかに生命・身体に危害を加えることを内容とするものであり、執拗かつ強烈な怒号をし続ける態様で、相手方を畏怖させるに十分な脅迫行為に該当する。
(2)証拠の信用性
被害者が録音したマイクロカセットテープとノートの記載は、詳細かつ具体的で相互に符合しており、高い信用性がある。被告人自身も録音された声が自分のものであることを曖昧ながら認めている。
(3)常習性の認定
短期間(約1週間)のうちに立て続けに複数の者に対して強烈な脅迫行為を繰り返していることから、脅迫行為の常習性が明らかに認められる。
(4)弁護側主張の排斥
被告人が女性であることや、被害者側も多少言い返していたことは、脅迫罪の成立を否定する事情とはならない。本件は単なる口喧嘩や近隣トラブルの域を超えている。
👩⚖️ 弁護士コメント
脅迫罪の成立要件について
脅迫罪が成立するためには、相手方の生命・身体・自由・名誉・財産に対し害悪を告知し、相手方を畏怖させることが必要です。
本件では「死ね」「殺すぞ」という明確な生命への害悪の告知があり、被害者らが実際に恐怖を感じていることから、脅迫罪の要件を満たしています。
重要なのは、実際に危害を加える能力や意思があるかどうかではなく、相手方が畏怖するかどうかという点です。本件のように執拗で激しい怒号であれば、凶器の使用や具体的な危害の方法が示されていなくても、十分に脅迫罪が成立します。
常習脅迫罪の特徴
通常の脅迫罪の法定刑は2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金ですが、常習として行った場合は暴力行為等処罰に関する法律により3月以上5年以下の拘禁刑となり、より重く処罰されます。本件のように短期間で複数回の脅迫を行えば、常習性が認められる可能性が高くなります。
証拠収集の重要性
本件では被害者が録音テープとノートという客観的証拠を収集していたことが、有罪認定の決め手となりました。近隣トラブルでは「言った」「言わない」の水掛け論になりがちですが、録音や記録があることで事実関係を明確に立証できます。
ただし、録音は相手の同意なく行うことができる一方、プライバシーとの関係で慎重に行う必要があります。
📚 関連する法律知識
脅迫罪(刑法第222条)
「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金に処する。」
脅迫罪は相手方を畏怖させることが成立要件であり、実際に害悪を加える必要はありません。電話、メール、手紙などの方法でも成立し得ます。
暴力行為等処罰に関する法律
集団的又は常習的に暴力的行為等を行う場合に、通常の刑法より重い刑罰を科す特別法です。常習脅迫の場合、法定刑は3月以上5年以下の拘禁刑となります。
近隣トラブルと刑事責任
騒音、境界線、駐車場の使用方法など、近隣住民間のトラブルは民事的解決が原則ですが、脅迫、暴行、器物損壊などの違法行為があれば刑事事件となります。
感情的になって発した言葉でも、態様によっては犯罪が成立することを認識しておく必要があります。
🗨️ よくある質問
Q.口喧嘩程度でも脅迫罪になるのですか?
単なる口喧嘩であれば脅迫罪にはなりませんが、相手の生命・身体への害悪を告知し、相手を畏怖させるような内容・態様であれば脅迫罪が成立します。本件のように「死ね」「殺すぞ」という明確な害悪の告知を執拗に行えば、口喧嘩の域を超えて犯罪となります。
Q.被告人が女性でも脅迫罪は成立するのですか?
脅迫罪の成立に性別は関係ありません。本件でも裁判所は「被告人が女性であることをふまえても変わらない」と明確に判示しています。重要なのは発言の内容と態様、そして相手方が畏怖したかどうかです。
Q.録音テープの証拠能力はどの程度認められますか?
録音テープは客観的証拠として高い証拠能力を有します。本件でも録音内容と被害者の証言、ノートの記載が相互に符合することで信用性が認められました。
ただし、編集や改ざんの可能性がないか、録音状況が適切かなどが検討されます。
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一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了