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死体遺棄事件の判例|外国人技能実習生の孤立出産#裁判例解説
病院の診察室で行われた検査の結果、医師から出産の事実について確認を求められた外国人技能実習生の女性。
当初は妊娠や出産について否定していましたが、医学的検査により出産の事実が明らかになると、医師に対して出産したことを説明しました。
「赤ちゃんの形をしたものを産みました。産んだ後に埋めました」
技能実習生として来日し、一人きりで出産した双子の死体を段ボール箱に隠していた彼女。妊娠により実習継続が困難になることを懸念し、周囲に相談できなかった状況が事件の背景にありました。
※福岡高判令4・1・19(令和3年(う)237号)をもとに、構成しています
この裁判例から学べること
- 死体遺棄罪における「遺棄」の判断基準と作為
- 不作為の区別 ・葬祭義務不履行による遺棄認定には相当期間の経過が必要
- 技能実習生の妊娠隠しという社会的背景の量刑への影響
- 死体の隠匿行為と葬祭準備の区別における判断ポイント
死体遺棄罪は、死者に対する一般的な宗教的感情を保護する重要な法律です。しかし、何が「遺棄」に該当するかの判断は、時として非常に複雑な問題となります。
今回ご紹介する事件は、技能実習生として来日した外国人女性が、誰にも相談できないまま一人で双子を出産し、死体を段ボール箱に入れて隠した事案です。この事件では、死体を隠匿する「作為」による遺棄と、葬祭義務を履行しない「不作為」による遺棄の両方が争点となりました。
裁判所は作為による遺棄は認めたものの、不作為による遺棄については否定し、死体遺棄罪の成立要件について重要な判断を示しました。技能実習制度の問題点も浮き彫りになったこの事件を通じて、死体遺棄罪の本質について理解を深めていきましょう。
目次
📋 事案の概要
今回は、福岡高判令4・1・19(令和3年(う)237号)を取り上げます。この裁判は、技能実習生として来日した外国人女性が、自宅で双子のえい児を死産した後、その死体を段ボール箱に入れて隠匿したとして死体遺棄罪に問われた事案です。
- 被告人:平成30年8月に来日した外国人技能実習生女性(農園で勤務)
- 事故状況:令和2年11月15日、自宅で双子のえい児を死産
- 請求内容:検察側は作為・不作為両方による死体遺棄罪で起訴
- 結果:高裁は作為による遺棄のみ認定し、懲役3月執行猶予2年
🔍 事件の経緯
被告人女性は7月頃に妊娠を知りましたが、技能実習生の間では妊娠により実習継続が困難になるとの認識が広まっていました。家族への仕送りを続けるため、技能実習を継続したい思いから、彼女は妊娠の事実を周囲に伝えませんでした。
運営会社の代表者が妊娠の可能性について何度か確認しても、被告人は否定し続けました。監理団体の職員からの問い合わせに対しても同様でした。
11月15日、自宅で一人で双子を出産しましたが、いずれも出産後間もなく死亡しました。
被告人は、えい児をタオルで包み、茶色の段ボール箱に収めました。箱の上には、付けた名前や生年月日、おわびの言葉などを記した手紙を置き、4片の接着テープで封をしました。さらにその箱を白色の段ボール箱に入れ、9片の接着テープで封をして、自室の棚の上に置きました。
翌日、監理団体職員の付き添いで病院を受診した際、医師から検査結果に基づく指摘を受けると、出産の事実について説明しました。医師の判断により警察に通報され、事件が明らかになりました。
※福岡高判令4・1・19(令和3年(う)237号)をもとに、構成しています
⚖️ 裁判所の判断
判決の要旨
高等裁判所は、被告人の行為を「作為による遺棄」と「不作為による遺棄」に分けて検討し、作為による遺棄のみを認定しました。
主な判断ポイント
(1)作為による遺棄の認定
死体を段ボール箱で二重に包み、計十数片の接着テープで封をして棚上に置いた行為は、他者が死体を発見することが困難な状況を作出し、死者に対する一般的な宗教的感情を害する「遺棄」に該当する。
(2)不作為による遺棄の否定
葬祭義務を負う者が葬祭を行わない不作為が「遺棄」に該当するのは、死体の存在を認識してから葬祭義務を履行すべき相当の期間内に葬祭を行わなかった場合に限られる。本件では1日と約9時間の経過では相当期間を超えたとはいえない。
(3)隠匿の意図の認定
被告人は葬祭の準備としてではなく、死産を隠すために段ボール箱に入れて隠匿したものであり、これは死体遺棄罪の保護法益である宗教的感情を害する行為である。
👩⚖️ 弁護士コメント
死体遺棄罪における「遺棄」の判断基準
この判決は、死体遺棄罪における「遺棄」概念について重要な指針を示しています。単に死体を箱に入れることが問題なのではなく、「他者が死体を発見することが困難な状況を作出する」ことが遺棄の核心であることが明確になりました。
産婦人科でも死産児を箱に入れる処置は行われますが、それは適切な葬祭への準備として行われるものです。本件では、死産を隠匿する意図で行われた点で性質が根本的に異なります。
不作為による遺棄の限界
特に注目すべきは、不作為による遺棄について「相当期間」という基準を明示した点です。墓埋法で24時間以内の埋葬が禁止されていることや、通常の葬祭手続きに要する期間を考慮すれば、1日程度では葬祭義務違反とは評価できないという合理的な判断です。
技能実習制度の構造的問題
量刑において、技能実習生の置かれた困難な状況が考慮された点も重要です。妊娠により帰国を余儀なくされるという制度の問題が、孤立出産という悲劇を生んだ背景として認識されています。
📚 関連する法律知識
死体遺棄罪の保護法益
死体遺棄罪(刑法190条)は、死者に対する一般的な宗教的感情や敬虔(けいけん)感情を保護する犯罪です。死体遺棄罪の刑罰は、3年以下の拘禁刑です。
単に死体を移動させることではなく、社会通念上適切でない方法で死体を取り扱うことが処罰対象となります。
墓埋法との関係
墓地、埋葬等に関する法律(墓埋法)は、死体の埋葬・火葬について24時間経過後でなければ行ってはならないと定めています(3条)。この規定は不審死の確認等を目的としており、死体遺棄罪の判断とは別の観点から設けられています。
葬祭義務の発生根拠
死体の葬祭義務は、主に親族関係や死亡地の自治体に発生します。本件では、被告人が母親として葬祭義務を負っていましたが、その不履行だけでは直ちに死体遺棄罪は成立しないことが明らかになりました。
🗨️ よくある質問
Q.死産児の適切な処理方法は?
妊娠12週以降の死産の場合、死産届の提出(7日以内)と火葬許可の取得が必要です。24時間経過後に火葬を行い、適切な方法で葬祭を執り行うことが求められます。
Q.不作為による死体遺棄はどのような場合に成立する?
葬祭義務を負う者が、死体の存在を認識してから相当期間内に葬祭を行わなかった場合に限られます。何が「相当期間」かは、具体的状況に応じて判断されますが、数日から数週間程度が一つの目安となるでしょう。
Q.技能実習生の妊娠は解雇理由になる?
法的には妊娠は解雇理由になりませんが、実態として技能実習を継続できなくなるケースが多いのが現状です。このような制度の問題点が本件のような悲劇を生む背景となっています。
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