岡野武志弁護士

第二東京弁護士会所属。刑事事件で逮捕されてしまっても前科をつけずに解決できる方法があります。

「刑事事件弁護士アトム」では、逮捕や前科を回避する方法、逮捕後すぐに釈放されるためにできることを詳しく解説しています。

被害者との示談で刑事処分を軽くしたい、前科をつけずに事件を解決したいという相談は、アトム法律事務所にお電話ください。

アトムは夜間土日も受け付けの相談窓口で刑事事件のお悩みにスピーディーに対応いたします。

警察に連行された――犯人と誤認され330万の賠償判決 #裁判例解説

更新日:
警察署に連行

ちょっとすみません

銀行のATMで現金を引き出し終えた瞬間、私服の男性が突然、私の右腕をつかんだ。

警察官だとも名乗らない。次の瞬間、背後から別の男が私の首に腕を回し、仰向けに引き倒された。10名近い銀行の利用客が驚愕の表情で見つめる中、私は恐怖で身体が震えた。

ようやく引き起こされた時に告げられたのは「重大事件が起こった」という言葉だけ。そのとき初めて、彼らが警察関係者だと知った。

その後は駐車場に連行され、質問攻め。所持品を調べられ、無断で写真撮影され、「いいから乗ってください」と警察署まで連れて行かれた――。

※大阪高判平15・7・4(平成14年(ネ)3898号)をもとに、構成しています

この裁判例から学べること

  • 警察官による強制的な連行は違法な身柄拘束に該当する
  • 職務質問でも暴力的な行為は許されない
  • 所持品検査や写真撮影も違法な身柄拘束に付随すれば違法となる
  • 警察署への任意同行は拒否できる

「警察に連行される」――多くの人にとって、これは恐怖の体験です。

しかし、警察官による職務質問や任意同行は、本来「任意」であり、強制されるものではありません

今回ご紹介する判例は、銀行のATMで現金を引き出していた大学教授が、誘拐事件の犯人と誤認され、突然引き倒されて駐車場に連行、最終的には警察署まで連れて行かれた事案です。教授は誘拐事件とは無関係でした

裁判所は、警察官らの一連の行為を「事実上の身柄拘束」として違法と認定し、国に対して330万円(慰謝料300万円+弁護士費用30万円)の損害賠償を命じました。

この判決は、「警察に連行される」ことの違法性の判断基準を明確に示した重要な判例です。職務質問と強制連行の境界線、任意同行を拒否できる場合、そして違法な連行に対する損害賠償請求について、詳しく見ていきましょう。

📋 事案の概要

今回は、大阪高判平15・7・4(平成14年(ネ)3898号)を取り上げます。

この裁判は、警察官が誘拐事件の犯人を誤認し、無関係の大学教授を銀行内で引き倒して駐車場に連行、最終的に警察署まで連れて行った国家賠償請求事案です。

  • 原告:大学教授の男性(当時40歳代、身長約170cm)
  • 被告:兵庫県(警察官らの使用者として)
  • 事故状況:平成12年4月24日午後、神奈川県で誘拐事件が発生し、兵庫県警が捜査中、銀行のATMで現金を引き出していた教授を犯人と誤認
  • 被害内容:銀行内で突然引き倒され、駐車場に連行、所持品の確認、無断で写真撮影され、警察署に連行された
  • 請求内容:原告が被告に対し、慰謝料等360万円及び遅延損害金の支払いを請求
  • 結果:第一審・控訴審ともに、警察官らの行為を違法と認定し、330万円の支払いを命じた

🔍 裁判の経緯

平成12年4月24日午後、神奈川県で誘拐事件が発生し、兵庫県警も捜査中でした。警察官らには「被疑者は40歳前後の男、身長170センチ、黒色ジャンパー様、白色マスク、黒色野球帽を着用」という指令が出ていました。

午後3時43分、私は銀行のATMで現金を引き出していました。大学教授として普通の日常です。

午後3時45分頃、出口に向かった瞬間、A巡査長がいきなり私の右腕をつかみ、警察官だとも名乗りません。逃げようともしていないのに、背後のB警部補が私の首に腕を回し、仰向けに引き倒しました

床に倒され、恐怖で震えました。約13秒後に引き起こされた時「重大事件が起こった」と告げられ、初めて警察関係者だと分かりました。

ジャンパーとベルトをつかまれ、駐車場に連れて行かれる。その後、複数の警察官に囲まれ、名前と住所を聞かれて答えました

キャッシュカード、身分証明書、携帯電話の提示を求められ、嫌疑を晴らすために提示しました。C巡査長は携帯電話の発着信履歴を勝手に確認。すべて私の名義、すべて兵庫県内の電話でした。

この時点で、私が犯人でないことは明らか。実際、「犯人が今、被害者に電話している」との連絡が入り、私が犯人でないことが確実になりました。

ところが誰も「帰っていい」とは言わず、警察官らは私の同意なくデジタルカメラで顔を撮影していました。

これは問題じゃないか!

強く抗議すると、B警部補が私の右腕をつかんで捜査用車両まで連れて行き、「K署まで来てくれ」と言うのです。「なぜですか?」「いいから乗ってください」。事実上、強制的に乗せられました。

K署に行って初めて、誘拐事件の捜査で私が犯人と誤認されたと知りました。D署長が謝罪しましたが、許せるはずもなく私は抗議。

土下座して謝ってもらうぐらいでなければ許せない!

銀行で大勢の人の前で引き倒され、犯罪者扱いされた屈辱。私は深い精神的苦痛を受け、兵庫県を相手取り国家賠償請求訴訟を提起しました

※大阪高判平15・7・4(平成14年(ネ)3898号)をもとに、構成しています

⚖️ 裁判所の判断

判決の要旨

大阪高等裁判所は、警察官らの一連の行為について、次のように判断しました。

警察官らが腕をつかみ、首に手を回して引き倒した行為は、一時的であっても相手の意思の制圧する事実上の身柄拘束にあたり、本人が事件とは無関係で、犯人である可能性も低く、さらに逃走や抵抗もしていなかった状況を考えれば、到底許されない違法な行為である

高裁は、第一審の判断を支持し、兵庫県の控訴を棄却しました。慰謝料300万円、弁護士費用30万円、合計330万円の支払いを命じました。

主な判断ポイント

銀行内での引き倒し行為の違法性(事実上の身柄拘束)

裁判所は、警察官が教授を引き倒した行為を「事実上の身柄拘束」として違法と認定しました。

職務質問は警察官職務執行法2条1項により許されますが、同条3項によれば強要されることはないと規定されています。では、今回のケースはなぜ違法とまで認定されたのでしょうか。

第一に、教授は「逃走したり、抵抗したりすることは全くしなかった」という事実です。このような状況で、腕をつかみ、首に腕を回して引き倒す行為は、明らかに必要性・相当性を欠いています

第二に、指令の内容からも教授が犯人である可能性は低かった点です。白色マスクや黒色野球帽も着用していませんでした。

第三に、公共の場で大勢の人の前で引き倒した点です。これは過度に屈辱的で、人権を著しく侵害する行為です。

裁判所は、防犯カメラの映像を分析し、「B警部補の左手首が被控訴人の首に回っている」「約13秒間も倒したまま放置」という事実を認定し、警察側の「転倒を防ぐために支えた」という主張を明確に否定しました。

駐車場での質問・所持品検査の違法性

裁判所は、駐車場での質問や所持品検査についても違法と判断しました。

職務質問や所持品の提示要求は、違法な身柄拘束の直後かつ同じ場所で行われたものであり、恐怖心を取り除く配慮もなく、大勢の警察官に取り囲まれた状況では、実質的に無理やり強要されたのと同じであり、違法性がある

ここで裁判所が重視したのは、違法な身柄拘束に「時間的、場所的に接着して」行われた行為も違法となるという概念です。

たとえ個々の行為が一見適法に見えても、違法な身柄拘束の直後に、恐怖心が残っている状態で行われた場合、「強要されたのと同視できる」として違法になるのです。

裁判所は、教授が「嫌疑を晴らす目的もあって所持品を提示した」が、「これは恐怖感を抱いていた心理状態の下でなされたものであり、自由な意思に基づいたものとは言えない」と判断しました。

特に携帯電話については、確認の目的すら告げずに提示を求めたことが問題視されました。

兵庫県側は誘拐事件の重大性や緊急性を主張しましたが、裁判所は「それを考慮しても、違法性は否定できない」と退けました。

無断での写真撮影の違法性

裁判所は、教授の同意を得ずに容貌を撮影したことについても違法と判断しました。

何人も、その承諾なしに、みだりにその容貌を撮影されない自由を有し、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容貌を撮影することは許されない

写真撮影が許容されるのは、最高裁判所昭和44年判決が示した要件(①現に犯罪が行われ若しくは行われた後間がない、②証拠保全の必要性・緊急性がある、③相当な方法で行われる)を満たす場合に限られます。

本件では、違法な身柄拘束に接着してなされ、教授が犯人である可能性は大きくなく、抵抗や逃走もなかったため、証拠保全の必要性・緊急性はなかったとして、違法と判断されました。

警察署への同行について

唯一、警察署への同行については違法性が認められませんでした。

積極的にK署に向かったわけではなかったとしても、乗車を拒んだとは認められず、K署において同行自体を抗議したとは窺えず、警察官らも、無理強いまでして同行を求める必要性もなかったことから、本人の意に反して連行したとみることはできない

ただし、これは非常に微妙なケースです。違法な身柄拘束の後の「同行」であり、事実上拒否できない状況だったとも考えられます

👩‍⚖️ 弁護士コメント

「警察に連行される」場合の違法性判断基準

この判決は、「警察に連行される」場合の違法性の判断基準を明確に示した重要な判例です。

任意と強制の境界線

警察官による職務質問は「任意」が原則ですが、本件では以下を「任意」の範囲を超えた「事実上の身柄拘束」と認定されました。

  • 突然、腕をつかむ
  • 首に腕を回して引き倒す
  • 複数の警察官が取り囲む
  • 駐車場に連れて行く

実務上、手をつかむ程度の有形力行使は、嫌疑の濃厚性や緊急性があれば適法とされることがあります。しかし、逃走も抵抗もしていない市民を引き倒す行為は明らかにその限度を逸脱しています。

このような暴力的な手段は、職務質問における必要性や相当性を著しく欠いており、事実上の身柄拘束として違法と判断されます。

「時間的・場所的接着性」理論の重要性

本判決が示した最も重要な理論は、違法な身柄拘束に「時間的、場所的に接着して」行われた行為も違法となるという点です。

警察官が「最初は違法だったが、その後は適法な職務質問をした」と主張しても、違法な行為の直後に、被害者の恐怖心が残っている状態で行われた質問や所持品検査は、「強要されたのと同視できる」として違法になるのです。

事件の重大性は免罪符にならない

警察側は「誘拐事件という重大事件の捜査中だった」「被害者救出の緊急性があった」と主張しましたが、裁判所はこれを認めませんでした。

犯罪の重大性は、捜査手法の必要性・相当性を判断する際の一要素ではありますが、それだけで違法な手段を正当化することはできません。特に本件では、そもそも教授が犯人である可能性が低かったことも考慮されました。

「警察に連行されそうになったら」の実践的アドバイス

その場での対応方法

警察官に囲まれると、その威圧感に負けて言いなりになってしまいがちですが、落ち着いて次のアクションを取りましょう。

  • 冷静に対応する
    感情的にならず、落ち着いて対応しましょう
  • 警察官であることの確認
    「警察手帳を見せてください」と求めることができます
  • 理由を尋ねる
    「何の容疑ですか?」「なぜ私なのですか?」
  • 任意であることの確認
    「任意ですか?拒否できますか?」
  • 暴力的な行為には明確に抗議
    「痛いです、やめてください」
  • 記録を残す
    可能であればスマートフォンで録音・録画をしましょう
  • 弁護士への連絡を求める
    「弁護士に連絡させてください」と要求することができます

警察署に連れて行かれてしまったら

「いいから乗って」と車に押し込まれ、警察署に到着してしまった場合でもできることはあります。

  • 黙秘権の行使
    「弁護士が来るまで話しません」と伝えることができます
  • 供述調書への署名拒否
    内容を十分確認するまでは、絶対に署名してはいけません

後日の対応

無事に解放された後も、受けた精神的・身体的苦痛をそのままにしてはいけません。記憶が鮮明なうちに、証拠となるものを整理しておきましょう。

  • 記録の整理
    日時、場所、警察官の人数、特徴、言われたこと、されたこと
  • 病院での診断
    暴力を受けた場合は、すぐに病院で診断書を取りましょう
  • 弁護士への相談
    できるだけ早く弁護士に相談しましょう

損害賠償請求の可能性

本判例では、慰謝料300万円+弁護士費用30万円=合計330万円の損害賠償が認められました。

損害賠償の金額は、事案ごとに異なりますが、主に以下の要素によって考慮されます。

賠償額に関係する主な要素

  • 暴力の程度が激しい
  • 拘束時間が長い
  • 多数の人の前で行われた
  • 怪我をした
  • 精神的な後遺症が残った
  • 社会的信用が傷ついた
  • 警察の対応が悪質

同じような経験をされた方は、泣き寝入りせずに、まずは弁護士に相談することをおすすめします。

📚 関連する法律知識

警察官職務執行法2条(職務質問)

警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者を停止させて質問することができます(1項)。

また、質問するため必要があるときは、その場に留めることもできます(2項)。

ただし、さらに重要なのが「刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り、身柄を拘束され、又はその意に反して警察署、派出所若しくは駐在所に連行され、若しくは答弁を強要されることはない」と規定している点です(3項)。

職務質問は任意であり、身柄拘束や強制連行、答弁の強要は許されません。

国家賠償法1条

国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる

警察官の違法な行為によって損害を受けた場合、国(または都道府県)に対して損害賠償を請求できます。

肖像権(憲法13条に基づく権利)

最高裁判所昭和44年12月24日大法廷判決は、以下の3要件を満たす場合に限り、警察官による無断撮影を認めています。

  1. 現に犯罪が行われ若しくは行われた後間がないと認められる場合
  2. 証拠保全の必要性・緊急性がある
  3. 撮影が一般的に許容される限度を超えない相当な方法で行われる

本件ではこれらの要件を満たしていなかったため、違法と判断されました。

職務質問に付随する所持品検査

判例上、職務質問に付随して所持品検査を行うことも、一定の要件の下で許されると解されています。

しかし、それは「捜索に至らず、強制にわたらない限りにおいて、所持品検査の必要性、緊急性、法益の権衡等を考慮して、具体的状況のもとで相当と認められる場合」に限られます。

本件では、そもそも適法な職務質問が行われておらず、また違法な身柄拘束に接着してなされたものであるため、所持品検査としても違法と判断されました。

🗨️ よくある質問

職務質問を受けた時、拒否することはできますか?

職務質問は任意の手続きであるため、拒否できます

警察官職務執行法2条3項は「身柄を拘束され、又はその意に反して警察署に連行されることはない」と明記しています。

ただし、警察官に「犯罪を犯したと疑うに足りる相当な理由」があれば、その場に留め置いて質問することはできます。

警察署への「任意同行」は拒否できますか?

「任意同行」という名前の通り、拒否できます

任意同行を求められた場合、「任意ですか?拒否できますか?」と明確に確認してください。

ただし、逮捕状がある、もしくは現行犯逮捕の場合、緊急逮捕の場合は拒否できません。これらの場合、警察官は「逮捕する」と明確に告げるはずです。

警察官に所持品検査を求められたら、応じなければなりませんか?

必ずしも応じる必要はありません。所持品検査も職務質問の一環であり、原則として任意です。

バッグの外から触って確認する程度は認められやすいですが、中身を見せるよう求められた場合は「令状はありますか?」と尋ねることができます。

携帯電話の履歴やメールの閲覧は特にプライバシー侵害度が高いため、明確に拒否することができます。

🔗 関連記事

📞 お問い合わせ

この記事を読んで、ご自身の状況に心当たりがある方、または法的アドバイスが必要な方は、お気軽にアトム法律事務所にご相談ください。

アトム法律事務所の弁護士相談のご予約窓口は、24時間365日つながります。警察が介入した刑事事件では、初回30分無料の弁護士相談を実施中です。

  • 警察から電話で呼び出しを受けた
  • 警察に呼ばれたが取り調べの対応が不安
  • 警察に家族が逮捕された など

くわしくはお電話でオペレーターにおたずねください。お電話お待ちしております。

0120-215-911刑事事件でお困りの方へ

無料相談予約
ご希望される方はこちら

24時間365日いつでも全国対応

※無料相談の対象は警察が介入した刑事事件加害者側のみです。
警察未介入のご相談は原則有料となります。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

詳しくはこちら

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了