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凶器準備集合罪「防衛目的」でも成立―京大学生運動#裁判例解説

「攻撃するつもりなんてなかった。相手の襲撃から身を守るために集まっただけだ!」
被告人の一人が法廷で訴えた。弁護人も続けた。
「防衛のための集合は、凶器準備集合罪に該当しないはずです」裁判官の前には、押収された鉄パイプ、角材、火炎瓶の証拠写真が並んでいる。約400名の学生が凶器を携えて集結した夜の記録だ。
「迎撃目的」であっても、凶器を準備して集合すれば犯罪となるのか―。
この判断が、時代の一つの答えを示すことになる―。
※京都地判昭46・3・11(昭和44年(わ)526号)をもとに、構成しています
<この裁判例から学べること>
- 「迎撃目的」「防衛目的」でも凶器準備集合罪は成立し、暴力行為後も集合状態が継続する限り同罪は成立し続ける
- 自ら加害目的がなくても、凶器準備集合の状況を認識して集合体に加われば処罰対象となる
- 角材・鉄パイプ・火炎瓶・石塊は「凶器」に該当し、同罪と暴力行為処罰法違反は併合罪として処断される
1960年代後半、全共闘系と日本共産党系の学生グループが激しく対立する中、京都大学で起きた学生グループの衝突事件が刑法における判断を示しました。
今回ご紹介する裁判例は、「相手の襲撃に備えて防衛するため」に集まった場合でも、凶器準備集合罪が成立するという判断したケースです。
また、自分自身は加害の目的を持っていなくても、そうした目的で集まっている集団に加われば処罰されるという、共犯の成立要件についても明確な基準を示しました。
この事例を通じて、刑法における「共同して害を加える目的」の意味、凶器の範囲、そして集合犯罪の特殊性について理解を深めていきましょう。時代背景は異なりますが、集団による犯罪行為の本質を考える上で、現代にも通じる重要な教訓が含まれています。
📋 事案の概要
今回は、京都地判昭46・3・11(昭和44年(わ)526号)京大教養部自治会代議員大会妨害事件を取り上げます。
この裁判は、京都大学で全共闘系学生約400名が角材、火炎瓶、石塊などを携えて集合し、日共系学生らと乱闘に及んだ凶器準備集合罪の事案です。
- 被告人:大学生8名
- 罪名:凶器準備集合罪、暴力行為等処罰法違反、銃刀法違反(1名のみ)
- 事件の背景:京都大学教養部の封鎖解除をめぐる代議員大会の開催に際し、全共闘系学生が日共系学生の集会を妨害しようとした
- 事件発生日時:昭和44年6月29日午後6時10分頃から6時37分頃
- 請求内容:検察官による公訴提起
- 結果:被告人全員に有罪判決。懲役4月(執行猶予2年)。銃刀法違反の1名には追加で罰金3000円※
※現在価値で約1.5万円相当
🔍 裁判の経緯
過去二度の代議員大会は、全共闘系の妨害で流会に終わっていた。全共闘系が大学を封鎖占拠する中、双方に負傷者を出すほど対立は深刻化していた。
日共系学生は、封鎖解除の議決を成立させるため、翌日の代議員大会の会場確保を決行。リーダーの号令のもと、数百名がヘルメット、鉄パイプ、角材を携え、本館建物付近に集結した。
一方、全共闘系の被告人たちは怒りに燃えていた。
「奴らは封鎖を解除して、また管理体制を復活させようとしている。学生の権利を守るために築いた封鎖を、実力で解除させるわけにはいかない」
「日共系が会場を押さえに来るのは分かっている。俺たちも準備しなければ」
被告人らを含む全共闘系学生約400名は、角材、鉄パイプ、火炎瓶、リンゴ箱に詰めた石塊を用意し、本部構内に殺到した。
被告人の中には、鉄棒とチェーン、さらにナイフを所持する者、角材を携帯する者、鉄パイプを携帯する者がいた。また、兇器は持たなかったが、集団が兇器を準備していることを知りながら加わった者もいた。
両派の間で激しい乱闘が繰り広げられた。角材や鉄パイプでの殴打、火炎瓶や石塊の投擲。キャンパスは一時、戦場と化した。
「私たちは攻撃するつもりはなかった。日共系の襲撃に備えて、防衛のために集まっただけだ」
逮捕された全共闘系の被告人たちは口々にこう主張した。しかし、検察は彼らを凶器準備集合罪と暴力行為等処罰法違反で起訴した。
※京都地判昭46・3・11(昭和44年(わ)526号)をもとに、構成しています
⚖️ 裁判所の判断
判決の要旨
裁判所は、被告人の大学生8人全員を有罪とし、それぞれに懲役4月(執行猶予2年)を言い渡しました(銃刀法違反の1名には追加で罰金)。
この判決で特に重要なのは、凶器準備集合罪における「共同して害を加える目的」の解釈、「凶器」の範囲、そして同罪と暴力行為処罰法違反の関係について、明確な判断を示した点です。
主な判断ポイント
「共同して害を加える目的」には防衛目的も含まれる
弁護人は「積極的に加害する目的が必要」と主張しましたが、裁判所はこれを退けました。
裁判所の判断は明確です。相手の襲撃に備えて迎撃する目的があれば、それだけで「共同して害を加える目的」が認められます。「攻撃」ではなく「防衛」のつもりでも、処罰されるのです。
さらに重要なのは、自分自身に加害の目的がなくても、集団が共同加害の目的で集まっていることを知りながら加わった者も処罰されるという点です。
本件では、直接兇器を携帯せず、加害意図もなかった被告人についても、そうした状況を認識しながら集団に加わった以上、凶器準備集合罪の成立が認められました。
角材、鉄パイプ、火炎瓶、石塊はいずれも「凶器」に該当
弁護人は「兇器はピストルや日本刀など、殺傷目的で作られたものに限定すべきで、火炎瓶や石塊は該当しない」と主張しました。
しかし裁判所は、用法次第で凶器になり得る器具も含まれると判断しました。
本件では、約400名が角材、鉄パイプ、火炎瓶、石塊を携帯して集合したうえで、実際に殴打や投擲に使用していました。この状況を考慮すると、「社会通念上、人に危険感を懐かせるに足りる器具」として、いずれも兇器に該当するとされました。
凶器準備集合罪と暴力行為処罰法違反は併合罪
弁護人は「暴力行為に及んだ後は、凶器準備集合罪は暴力行為処罰法違反に吸収される」と主張しました。
しかし裁判所は、凶器準備集合罪には公共の危険を防ぐという性格があることから、集合状態が継続する限り、暴力行為の有無にかかわらず同罪は成立し続けると判断しました。
結果として、凶器準備集合罪と暴力行為処罰法違反は、併合罪として処断されることになりました。
👩⚖️ 弁護士コメント
「防衛のための集合」という弁解は通用しない
この判決が示した最も重要な点は、「相手から攻撃されるかもしれないから、防衛のために集まった」という弁解では、凶器準備集合罪の成立を免れないということです。
現代においても、暴力団の抗争や、グループ間のトラブルなどで「相手が攻めてくるから、守るために集まった」と主張されるケースがありますが、この判例法理により、そうした主張は認められません。
「参加しただけ」でも処罰される
また、直接凶器を持たず、自分自身は暴力を振るうつもりがなくても、そうした状況を知りながら集団に加われば処罰されるという判断も重要です。
現代のSNS時代では、「とりあえず現場に行ってみる」という軽い気持ちで、危険な集団行動に参加してしまうケースも考えられます。しかし、この判例によれば、現場の状況を認識しながら集団に加わった時点で、犯罪が成立する可能性があるのです。
執行猶予が付された背景
本件では、被告人全員に執行猶予が付されました。これは、学生運動という時代背景、初犯であること、若年であることなどが考慮されたものと思われます。
しかし、凶器を準備して集合し、実際に暴力行為に及んだという事実は重大であり、現代であれば、より厳しい処罰がなされる可能性が高いでしょう。
「凶器」の範囲は広く解釈される
この判決により、本来は武器ではないものでも、使用方法や状況によっては「凶器」と認定されることが明確になりました。建築資材である角材や鉄パイプ、さらには石塊までもが凶器とされたのです。
現代でも、デモやトラブルの際に「護身用」として棒状のものを持参することがありますが、集団で携帯し、相手に危害を加える可能性がある状況では、凶器と認定されるリスクがあることを認識すべきです。
📚 関連する法律知識
凶器準備集合罪(刑法208条の2第1項)
「二人以上の者が他人の生命、身体又は財産に対し共同して害を加える目的で集合した場合において、凶器を準備して又はその準備があることを知って集合した者は、二年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金に処する」
刑法208条の2第1項
この罪は、実際に暴力行為に及ばなくても、凶器を準備して集合しただけで成立する予備的・危険犯的な性格を持つ犯罪です。
公共の平穏を保護法益としており、集団による暴力の予防を目的としています。
暴力行為等処罰法違反
本件では、凶器準備集合罪に加えて、暴力行為等処罰法1条違反(集団的暴行罪)も成立しています。
同法1条は、「団体若しくは多衆の威力を示し、団体若しくは多衆を仮装して威力を示し又は凶器を示し若しくは数人共同して」暴行・脅迫・器物損壊等を行った場合の加重処罰を定めています。
本件では、この二つの罪が併合罪として処断されました。
銃砲刀剣類所持等取締法違反
被告人の一人については、刃体の長さ約13.8センチの登山用ナイフを正当な理由なく携帯していたとして、銃刀法違反も成立しています。
刃体の長さが6センチメートルを超える刃物を、正当な理由なく携帯することは禁止されています。「護身用」という理由は、正当な理由とは認められません。
🗨️ よくある質問
Q.相手が先に攻撃してくる可能性がある場合、防衛のために武器を持って集まることは正当防衛にならないのですか?
なりません。
正当防衛が成立するのは、「急迫不正の侵害」に対して、「やむを得ずにした行為」である場合に限られます。
まだ攻撃が始まっていない段階で、事前に武器を準備して集合する行為は、「急迫性」の要件を満たさず、正当防衛とは認められません。
また、計画的に武器を準備している時点で、「やむを得ずにした行為」とも言えません。
Q.自分は武器を持っていなくても、武器を持った集団に加わっただけで処罰されるのですか?
はい、処罰される可能性があります。
この判決が示したように、集団が共同加害の目的で凶器を準備して集合している状況を認識しながら、その集団に加わった場合、自分自身が凶器を携帯していなくても、また自分自身は加害の意図がなくても、凶器準備集合罪が成立します。
「参加しただけ」「見ているだけ」という弁解は通用しません。
Q.この判例は古い時代の学生運動に関するものですが、現代でも同じ法理が適用されますか?
はい、同じ法理が適用されます。
時代背景は異なりますが、凶器準備集合罪の解釈に関する本判決の法理は、現在でも有効です。
暴力団の抗争、グループ間のトラブル、あるいは過激な抗議活動など、現代においても集団で凶器を準備して集合する事例は存在し、本判決の法理が適用されます。
むしろ現代では、より厳格に適用される傾向にあります。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

