岡野武志弁護士

第二東京弁護士会所属。刑事事件で逮捕されてしまっても前科をつけずに解決できる方法があります。

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昭和の決闘事件~意思表示の到達で明暗が分かれた判決#裁判例解説

更新日:

ちょっと来い

パチンコ店の店主が、店前で声をかけた。呼び止められた男性は、時計眼鏡店の横に連れて行かれる。そこで告げられたのは、信じられない言葉だった。

明日の夜8時、山頂で決闘だ

翌日、男性は刺身包丁2丁を手に、友人を立会人として指定の場所へ向かった。しかし、そこに挑発者であるパチンコ店の店主の姿はなかった。真っ暗な山頂で、決闘の相手を待ち続ける男性の姿があった…。

※広島高判昭33・7・17(昭和32年(う)503号)をもとに、構成しています

この裁判例から学べること

  • 決闘応挑罪の成立には相手方に応挑の意思表示が到達することが必要
  • 単に決闘場所に赴いただけでは応挑罪は成立しない
  • 挑発者が現場に現れなければ意思表示の到達は認められない
  • 決闘挑発罪は挑発の事実があれば成立する
  • 刑法施行法により決闘罪の附加罰金刑は廃止されている

昭和32年、山口県のパチンコ店で起きた決闘事件。現代では想像しにくい「決闘」という犯罪が実際に裁判で争われた興味深いケースです。

この事件では、決闘を挑まれた男性が刺身包丁を持って指定の場所に向かったものの、挑発者が現場に現れなかったため、決闘応挑罪が成立するかどうかが争点となりました。

決闘挑発罪と決闘応挑罪は、明治時代に制定された「決闘罪ニ関スル件」で規定されている古い犯罪類型ですが、現在でも有効な法律です。この裁判例を通じて、犯罪の成立要件における「意思表示の到達」の重要性や、刑法解釈の変遷について理解を深めていきましょう。

📋 事案の概要

今回は、広島高判昭33・7・17(昭和32年(う)503号)を取り上げます。 この裁判は、パチンコ店でのトラブルをきっかけに発生した決闘事件です。

  • 被告人店主:パチンコ店の店主で経営者(決闘挑発者)
  • 被告人男性:決闘を挑まれた男性(決闘応挑者とされた)
  • 請求内容:決闘罪ニ関スル件違反による処罰
  • 結果:被告人店主は懲役8月、被告人男性は無罪

🔍 事件の経緯

まさか、あんなことで決闘を挑まれるなんて…

事件のきっかけは、昭和32年4月上旬、パチンコ店でのささいなトラブルだった。男性は他人からパチンコ玉をもらって遊び、さらに他人の出した玉を景品と交換していた。これをパチンコ店の従業員にとがめられたのだ。

ちょっと来い

菓子店前を通りかかった男性は、パチンコ店の店主に呼び止められた。時計眼鏡店の横に連れて行かれると、店主は思いもよらない言葉を口にした。

明日の夜8時、山頂で決闘だ

Kは最初、冗談かと思った。しかし、店主の真剣な表情を見て、これが本気だと悟った。

どうしよう…本当に行くべきなのか

翌日午後8時ごろ、男性は友人を立会人として、刺身包丁2丁を携えて指定の場所へ向かった。しかし、山頂で待っていても、店主の姿は現れなかった。

結局、来なかったじゃないか

後に判明したことだが、店主は警察の手配を察知して現場に現れなかったのだった。このような経緯で、決闘挑発罪と決闘応挑罪で両名が起訴されることになった。

※広島高判昭33・7・17(昭和32年(う)503号)をもとに、構成しています

⚖️ 裁判所の判断

判決の要旨

広島高等裁判所は、決闘を挑発した店主については有罪、決闘応挑者とされた男性については無罪の判決を下しました。

特に重要なのは、「決闘応挑罪が成立するには応挑の意思表示が挑発者の認識に到達することが必要」という判断です。

主な判断ポイント

(1)決闘挑発罪の成立要件

裁判所は、店主の決闘挑発行為について、パチンコ店でのトラブル後に男性を呼び出し、明確に決闘を申し込んだ事実を認定しました。弁護側は「単なる威嚇」と主張しましたが、裁判所は「いやしくも挑発の事実の認められる以上、特段の事情が認められない限り、それが単に威嚇の意味で行われたに過ぎないものとは考えられない」と判断しました。

(2)決闘応挑罪の成立要件

決闘応挑罪については、「応挑の意思表示が挑発者の認識に到達することを必要とする」という最高裁判例を引用し、単に決闘場所に赴いただけでは不十分であると判断しました。

男性が刺身包丁を携えて指定場所に赴いたことは応挑の意思の表れと認められるものの、店主が現場に現れなかったため、その意思表示が相手方に到達しなかったと認定しました。

(3)刑法施行法による罰金刑の廃止

原審が店主に対して懲役刑と罰金刑を併科したことについて、刑法施行法第19条第2項により決闘罪の附加罰金刑は廃止されているため、罰金刑の併科は法令適用の誤りであると判断しました。

👩‍⚖️ 弁護士コメント

意思表示の到達理論の重要性

この判決は、犯罪の成立要件における「意思表示の到達」の重要性を明確に示しています。決闘応挑罪は、単に応挑の行為をするだけでは成立せず、その意思が相手方に伝わることが必要です。

これは契約法の意思表示理論と共通する考え方で、刑法においても意思の疎通が重要視されることを示しています。

現代的意義

決闘罪は現代では稀な犯罪類型ですが、この判決の論理は現代の刑法解釈にも応用できます。たとえば、脅迫罪における「害悪の告知」や、威力業務妨害罪における「威力の行使」など、相手方の認識を前提とする犯罪の成立要件を考える際の参考になります。

立証の困難性

決闘事件では、当事者の主観的意図や認識が重要な争点となります。この事件でも、店主の発言が「真意」か「威嚇」かが争われました。裁判所は客観的な状況証拠を総合的に判断して真意と認定しましたが、このような主観的要素の立証は常に困難を伴います。

📚 関連する法律知識

決闘罪の法律

明治22年に制定された「決闘罪ニ関スル件」は、現在でも有効な法律です。

決闘挑発罪(第1条)と決闘応挑罪(第1条)、決闘立会等罪(第4条1項)などを規定しています。

決闘挑発罪及び決闘応挑罪の刑罰は、6か月以上2年以下の拘禁刑です。

最高裁判例との関係

この判決は、昭和26年最高裁判決(昭和24年(れ)第1511号)を引用して、決闘応挑罪の成立要件を明確化しました。

最高裁は「応挑の意思表示が挑発者の認識に到達することが必要」という判断基準を示しており、この広島高裁判決はその具体的適用例となっています。

刑法施行法による変更

刑法施行法第19条により、決闘罪の附加罰金刑は廃止されました。これは刑罰体系の整理の一環として行われたもので、現在では拘禁刑のみが科せられます。

🗨️ 決闘罪に関するよくある質問

現代でも決闘罪で処罰される可能性はありますか?

決闘罪は現在でも有効な法律です。ただし、現代社会では決闘という行為自体が極めて稀であり、実際に適用される例はほとんどありません。むしろ、暴行罪や傷害罪などの一般的な刑法犯として処理されることが多いでしょう。

決闘を挑まれた場合、どのように対応すべきですか?

決闘の申し込みを受けても、応じる必要は全くありません。

むしろ、決闘挑発罪として警察に通報することが適切です。また、身の危険を感じる場合は、速やかに安全な場所に避難し、必要に応じて警察の保護を求めるべきです。

この事件で男性が無罪になったのはなぜですか?

男性は決闘の場所に赴きましたが、挑発者である店主が現場に現れなかったため、応挑の意思表示が店主に到達しなかったからです。決闘応挑罪の成立には、単に決闘場所に赴くだけでは不十分で、挑発者に応挑の意思が伝わることが必要とされています。

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岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了