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初犯の傷害事件で有罪判決|電車内で女性に暴行#裁判例解説
「何しとんねん。」
電車に乗り込むなり、被告人の男が座席の女性に向かって吐き捨てた。女性は携帯電話で通話中だった。
「まだやってるんか。」
男は女性の携帯電話を払いのけ、覆い被さるように迫った。恐怖を感じた女性が両膝を曲げて身を守ろうとした瞬間、男の拳が女性の額を襲った。
電車内に響く悲鳴。乗客たちの視線が一斉に集まる中、一方的な暴力が続いた…。
弁護人は法廷で無罪を主張したが、果たして裁判所はどのような判断を下したのか。
※神戸地判平16・4・19(平成15年(わ)879号)をもとに、構成しています
この裁判例から学べること
- 目撃者の証言が事実認定において重要な役割を果たす
- 初犯でも重たい刑罰が科される可能性がある
公共交通機関でのマナートラブルは日常的に発生していますが、それが暴力に発展した場合、刑事責任を問われることになります。
特に電車内での携帯電話使用を巡るトラブルは、社会問題としても注目されています。
今回ご紹介する裁判例は、電車内で携帯電話を使用していた女性に対し、注意を超えて暴行を加えた男性が傷害罪で起訴された事案です。
被告人は一貫して犯行を否認しましたが、裁判所は懲役10か月、執行猶予3年の有罪判決を下しました。
この事例を通じて、日常的なトラブルがいかに重大な刑事事件に発展し得るか、また裁判所がどのような基準で事実認定や量刑判断を行うかについて理解を深めていきましょう。
目次
📋 事案の概要
今回は、神戸地判平16・4・19(平成15年(わ)879号)を取り上げます。
この裁判は、電車内で携帯電話を使用していた女性に暴行を加え傷害を負わせた事案です。
- 被告人:男性(年齢等詳細不明)
- 被害者:A(当時19歳の女性)
- 事件発生場所:普通電車内
- 発生日時:平成14年6月9日午後9時47分頃
- 傷害の程度:加療約1週間を要する頭部外傷
- 起訴内容:傷害罪(刑法204条)
- 判決結果:懲役10か月、執行猶予3年
🔍 事件の経緯
「あの日の夜、私はいつものように電車で帰宅していました。座席に座って友人と携帯電話で話していたんです。特に大きな声を出していたわけでもありません。」
被害者のAさん(当時19歳)は、進行中の普通電車の後から2両目に座り、携帯電話で通話していた。午後9時47分頃、停車した駅から乗り込んできた被告人の男性が突然Aさんの前に立ちはだかった。
「突然、『何しとんねん』と怒鳴られました。そして私の携帯電話を払いのけるように右手で私の右腕を払ったんです。驚いている私に向かって、今度は『まだやってるんか』と言いながら、覆い被さるように迫ってきました。」
恐怖を感じたAさんは、殴られると思い両膝を曲げて両足を上げ、身を守ろうとした。しかし被告人は両手でAさんの右足を引っ張り、さらにAさんの額などを両手の拳で数回殴打した。そして最後にAさんの右足を蹴るなどの暴行を加えた。
「痛みと恐怖で頭が真っ白になりました。周りの乗客の方々も驚いて見ていました。車掌さんが駆けつけてくれて、ようやく暴行が止まったんです。」
この一連の暴行により、Aさんは加療約1週間を要する頭部外傷を負った。目撃者や車掌も事件の一部始終を目撃していた。
被告人は逮捕後の取り調べでも、また法廷でも一貫して犯行を否認し、「暴行を加えたことはない」と主張し続けた。
※神戸地判平16・4・19(平成15年(わ)879号)をもとに、構成しています
⚖️ 裁判所の判断
判決の要旨
裁判所は、被害者A及び目撃者の供述を詳細に検討し、これらが「具体的、詳細であって、格別不自然、不合理な点はなく」、相互に合致していることを認定しました。
一方で、被告人の供述については「内容それ自体不自然である上、不合理な変遷等を繰り返しており、証拠上明らかに認められる事実と齟齬している点が多々ある」として信用性を否定し、傷害の事実を認定しました。
主な判断ポイント
事実認定における証言の信用性判断
裁判所は、被害者Aと目撃者の供述について、具体的で詳細であり、互いに面識のない両者があえて虚偽の供述をして被告人を陥れる理由がないことを重視しました。
また、車掌の供述とも事件直後の関係者の行動について合致していることから、これらの供述を十分信用できるものと判断しました。
被告人供述の信用性否定
被告人の捜査段階及び公判での供述については、内容が不自然であり、不合理な変遷を繰り返していること、証拠上明らかな事実と齟齬する点が多数あることを理由として、信用性を否定しました。
暴行の故意の認定
裁判所は、「被告人が両手でAの右足を引っ張り、さらに、Aの前額部等を両手拳で数回殴打し、また、Aの右足を蹴るなどの暴行を加えた」という暴行の態様から、被告人に暴行の故意があったことは十分推認できると判断しました。
可罰的違法性の認定
弁護人は、仮に傷害の事実が認められるとしても可罰的違法性がない旨主張しましたが、裁判所は「本件の経緯や暴行の態様、Aの負った傷害の程度などからすれば」この主張を採用できないとして退けました。
👩⚖️ 弁護士コメント
事実認定における証人尋問の重要性
この事件では、被害者と目撃者の証言が事実認定の決め手となりました。刑事事件において、複数の証人の供述が一致し、かつ具体的で詳細な内容である場合、裁判所はこれを高く評価する傾向があります。
特に、証人同士に面識がなく、虚偽の証言をする動機が見当たらない場合は、その信用性は一層高まります。
被告人が犯行を否認する事件では、客観的証拠と証人の証言の整合性が重要になります。この事件でも、被告人の供述が証拠と齟齬し、不合理な変遷を繰り返していたことが信用性否定の大きな要因となりました。
公共交通機関でのトラブルと刑事責任
電車内での携帯電話使用を巡るトラブルは珍しくありませんが、注意や苦情を述べることと暴力を振るうことは全く異なります。マナー違反に対する注意であっても、それが暴行に発展すれば立派な犯罪行為となります。
特に密閉された電車内という空間では、被害者は逃げ場がなく、恐怖感も増大します。このような状況での暴行は、社会的にも許されるものではありません。
量刑判断における考慮要素
この事件では、被告人に前科がなく、長年犯罪とは無縁の生活を送ってきたこと(初犯)、酔余の犯行であったこと、傷害の程度が比較的軽微(加療約1週間)であったことが有利な情状として考慮されました。
一方で、犯行を否認し反省の態度が見られないこと、女性に対する執拗で悪質な暴行であること、被害者の処罰感情が厳しいことが不利な情状として評価されました。
最終的に懲役10か月、執行猶予3年という判決は、これらの事情を総合的に考慮した結果といえます。
📚 関連する法律知識
傷害罪の成立要件
傷害罪(刑法204条)は、「人の身体を傷害した者は、15年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する」と規定されています。
傷害罪が成立するためには、(1)暴行の事実、(2)傷害の結果、(3)暴行と傷害の因果関係、(4)故意の存在が必要です。
この事件では、拳で殴打し足蹴にするという暴行行為により、頭部外傷という傷害結果が生じ、両者に因果関係が認められ、また暴行の態様から故意も推認されるとして、傷害罪の成立が認定されました。
執行猶予制度
執行猶予とは、裁判で言い渡された刑の執行を一定期間猶予し、その間に再び罪を犯さなければ刑の執行を免れる制度のことです。わかりやすく言えば「今回は刑務所に送らずに様子を見る」という仕組みです。
執行猶予の期間は1年〜5年の範囲で、判決時に裁判所が定めます。執行猶予期間中に再犯をしなければ、その刑の執行は免除されますが、期間中に再犯すれば、猶予が取り消されて刑が執行される可能性があります。
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刑事事件における事実認定
刑事事件では「疑わしきは被告人の利益に」という原則があり、有罪とするためには合理的疑いを超える程度の立証が必要です。
この事件では、複数の証人の一致した証言により、合理的疑いを超える程度に事実が立証されたと判断されました。
🗨️ よくある質問
Q.電車内で携帯電話を使用している人に注意することは違法ですか?
適切な方法で注意すること自体は違法ではありません。しかし、相手の携帯電話を払いのけたり、物理的接触を伴う行為は暴行罪・傷害罪に発展する可能性があります。
暴行を加えてけがをさせてしまった場合は、けがの程度にかかわらず傷害罪に問われ、相手がけがを負わなかった場合には暴行罪に問われます。
また、大声で怒鳴りつけるなどの行為も威力業務妨害や侮辱罪等に問われる場合があります。トラブルになりそうな場合は、車掌や駅員に相談することをおすすめします。
Q.被告人が犯行を否認していても有罪になるのはなぜですか?
刑事裁判では、被告人の自白に頼らず、客観的証拠や証人の証言等により事実を認定します。この事件では、被害者と目撃者の具体的で一致した証言があり、これが十分信用できると判断されました。
一方、被告人の供述は不自然で証拠と矛盾する点が多く、信用性が否定されました。被告人が否認していても、他の証拠により犯罪事実が立証されれば有罪となります。
Q.執行猶予が付いた場合、前科になりますか?
執行猶予付きの有罪判決でも前科となります。ただし、執行猶予期間中に新たな犯罪を犯さなければ刑の執行はされません。
前科の記録は残りますが、日常生活への影響は実刑判決と比べて限定的です。なお、一定期間経過後は刑の消滅時効により、法律上は前科の効力がなくなる場合もあります。
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