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元交際相手のキャッシュカードで無断ATM窃盗事件#裁判例解説

「キャッシュカード、まだ返してもらってないんです」
元交際相手の男性Aの証言に、被告人の女性は首を横に振った。
「承諾があったと思っていました。まさか勝手に使ったなんて…」
弁護人は丁寧に反論するが、検察側は冷静に事実を積み上げていく。同棲解消後も週1、2回は会っていた二人の関係。そんな中で起きた18万5000円の引き出し。果たして承諾はあったのか?
高等裁判所の判断が、キャッシュカードを使った現金引き出しの刑事責任を明確にした瞬間だった…。
※仙台高判平28・7・14(平成28年(う)5号)をもとに、構成しています
この裁判例から学べること
- 元交際相手のカード返還要求を無視した使用は窃盗罪に該当する
- キャッシュカード使用の承諾は客観的状況から慎重に判断される
- 同棲解消後の関係悪化は承諾を否定する重要な事情となる
他人のキャッシュカードを使って現金を引き出す行為は、どのような場合に窃盗罪となるのでしょうか。家族や恋人同士では、お互いのカードを使って現金を引き出すことも珍しくありません。しかし、その承諾の有無をめぐって刑事事件に発展することもあります。
今回ご紹介する裁判例は、元交際相手のキャッシュカードを使用した現金引き出しが窃盗罪に問われた事案です。被告人は「承諾があった」と主張しましたが、裁判所は18万5000円の引き出しを窃盗罪と認定し、懲役1年執行猶予3年の判決を下しました。
この事例を通じて、キャッシュカードの不正使用に関する刑事責任の境界線や、承諾の立証について理解を深めていきましょう。
目次
📋 事案の概要
今回は、仙台高判平28・7・14(平成28年(う)5号)を取り上げます。 この裁判は、元交際相手のキャッシュカードを使用して現金を引き出した行為が窃盗罪に問われた事案です。
- 被告人:元交際相手Aのキャッシュカードを使用した女性(離婚歴あり)
- 被害者:元交際相手A
- 請求内容:窃盗罪による刑事処罰
- 結果:懲役1年執行猶予3年(高等裁判所が原判決を破棄して新たに判決)
🔍 事件の経緯
「あの人と付き合い始めたのは平成24年9月頃でした。翌年2月頃からは一緒に住むようになって、5月には離婚届も出したんです」
被告人の女性は当時の状況を振り返る。同棲を始めた頃、男性Aは被告人に農協のキャッシュカードと信用金庫のキャッシュカードを預け、暗証番号も教えていた。「預金を引き出す時は、少なくとも事後報告をしてほしい」とAから伝えられていた。
しかし、5月26日に二人の関係は急変する。「険悪になったんです。それで私は元夫のところに戻っていきました」
被告人は続ける。「信用金庫のカードは返したんですが、農協のカードは返していませんでした。でも、週1、2回は会っていたんです」
そんな中、6月16日から7月10日までの間に、5回にわたって農協のキャッシュカードが使用され、合計18万5000円が引き出された。
Aは「カードを返してほしいと言っていました。それ以降は預金の引き出しを承諾していませんでした」と証言する。
一方、被告人は「自分の借金返済のためにカードで現金を引き出すことをAが許容していると思っていた」と主張した。
しかし、「報告を求められていたと思うが、今回は報告しなかった」「信用金庫のカードを返した後、農協のカードも返さなければならないと考えていた」とも供述していた。
11月6日頃、Aは父らを伴って被告人方を訪れ、引き出しの事実を追及。二人の交際は完全に終了した。
※仙台高判平成28年7月14日(平成28年(う)第5号)をもとに、構成しています
⚖️ 裁判所の判断
判決の要旨
高等裁判所は、まず原判決の判示内容に問題があると指摘しました。
「預かり保管中のキャッシュカードを使用して現金を引き出した」という記載だけでは、その行為が正当な権限に基づかないものであることが明らかでないとして、原判決を破棄しました。
その上で、「預かり保管中に返還を求められたキャッシュカードを不正に使用して現金を窃取しようと考え」と事実を認定し直し、窃盗罪を適用しました。
主な判断ポイント
承諾の有無の判断
裁判所は、同棲解消という客観的状況を重視し、「そのような状況で被告人による預金の引き出しを真摯に承諾することは通常考えられない」として、Aの証言の信用性を認めました。
被告人の供述の信用性
被告人が「承諾があったと思っていた」と主張したことについて、同棲解消の客観的状況に照らして「不自然不合理」と判断し、報告義務を怠った点も考慮して信用性を否定しました。
判決書の記載方法
キャッシュカードを使った現金引き出しの場合、外形的には正当な引き出しと区別がつかないため、「正当な権限に基づかない」旨を明示する必要があると判示しました。
👩⚖️ 弁護士コメント
承諾の立証の重要性
この事案で注目すべきは、裁判所が承諾の有無を判断する際に、当事者の関係性の変化を重視した点です。
同棲という親密な関係から、関係悪化による別居という客観的状況の変化が、承諾の有無を推認する重要な要素となりました。
恋人同士でカードを預け合うことは珍しくありませんが、関係が悪化した際には速やかに返還を求め、相手が応じない場合は早期に適切な対応を取ることが重要です。
刑事事件化のリスク
民事的な金銭トラブルと思われがちですが、相手の明確な返還要求を無視してカードを使用し続けた場合、刑事事件に発展する可能性があります。特に、借金返済などの個人的な理由での使用は、承諾の推認を困難にします。
被害額が18万5000円と比較的少額であっても、執行猶予付きとはいえ懲役刑が科されており、刑事責任の重さを示しています。
📚 関連する法律知識
窃盗罪の構成要件
窃盗罪(刑法235条)が成立するためには、他人の財物を窃取する行為が必要です。キャッシュカードを使ったATMでの現金引き出しの場合、金融機関の意思に反して現金の占有を移転させることが「窃取」に該当します。
関連記事
・窃盗罪の刑罰は懲役何年?裁判で実刑判決?刑事事件の流れ・量刑を解説
承諾の効力
財産犯では、被害者の承諾があれば違法性が阻却されることがあります。
しかし、その承諾は真摯で有効なものである必要があり、客観的状況から承諾の存在を推認できない場合は、承諾の抗弁は認められません。
🗨️ よくある質問
Q.家族や恋人のカードを使って現金を引き出すことは常に違法ですか?
必ずしも違法ではありません。口座名義人の真摯な承諾があり、その承諾が客観的状況から推認できる場合は、適法な行為となります。
ただし、関係が悪化した際などは承諾の存在が争われる可能性があります。
Q.承諾があったかどうかはどのように判断されますか?
当事者の関係性、承諾の経緯、その後の客観的状況の変化などを総合的に考慮して判断されます。
本件では、同棲解消という客観的状況の変化が承諾の否定に大きく影響しました。
Q.民事的な解決と刑事処罰の関係はどうなりますか?
被害弁償をしても刑事責任は免れません。ただし、量刑上の有利な事情として考慮されます。本件でも被害全額の弁償が執行猶予の理由の一つとされました。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了