美容師が労災に遭った場合の対処法|事業主の労災利用方法も紹介 | アトム法律事務所弁護士法人

美容師が労災に遭った場合の対処法|事業主の労災利用方法も紹介

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美容師が労災事故|事業主の労災利用

美容師として働いていると、ハサミで自分の指を切ってしまったり、長時間同じ体制を維持することから腰痛になってしまうことがあります。

このような仕事を原因とした負傷は労災に該当するとして、労災保険の給付を受けられる可能性があるのです。

本記事では、美容師が労災保険給付を受けるために知っておくべきことや、注意点に関して解説しています。
スタッフとして働いている人だけでなく、美容室を経営している事業主の方も対象としているので、是非一度ご覧ください。

労災の要件と美容師による労災の具体例

労災といえるためには一定の要件が必要

労災といえるためには、「業務災害」または「通勤災害」のどちらかに該当する必要があります。

  1. 業務災害
    労働者が業務上の災害によってケガを負ったり死亡した
  2. 通勤災害
    労働者が通勤中にケガを負ったり死亡した

「業務災害」または「通勤災害」の要件に該当すれば、労災保険給付を受けることが可能です。

労災保険は従業員を1人でも雇っている場合には加入が義務付けられており、保険料は事業主が全額負担となっています。
そのため、美容室や美容サロンが労災保険に加入していないということは通常あり得ないということに注意してください。

また、従業員とはアルバイトやパートも含むため、正社員でなくても労災保険を利用することが可能です。

仕事中に発生する労災の要件|業務災害

業務中に発生した損害は、業務災害ということができます。
業務災害と認められるには、以下の要件が必要となります。

  • 業務遂行性
    事業主の支配下や管理下にある状態で労災が発生した 
  • 業務起因性
    業務が原因で労災が発生した

カットの練習中に怪我をした場合には、練習に業務遂行性があったのかが問題になることがあります。
練習することが上司や事業主からの指示によるのか、実質的に強制といえるのかという点などから判断することになるでしょう。

業務災害の具体例について知りたい方は『業務災害にあってしまったら|複雑な労災保険制度を弁護士が解説』の記事で確認可能です。

通勤中に発生する労災の要件|通勤災害

通勤中に損害が発生した場合には、通勤災害ということができます。
通勤中に該当する移動とは、以下の通りです。

  • 住居と就業場所の往復
  • 就業場所から他の就業の場所への移動
  • 単身赴任先と家族の住む住居間の移動

上記に該当する移動については、就業に関する移動であり、合理的な経路及び方法の移動であることも必要です。

通勤中といえる移動の途中に、合理的な経路をそれたり、通勤とは関係のない行為を行った場合は通勤中とはいえなくなります。
ただし、日常生活に必要な最小限度の行為を行うためであるなら、行為終了後に合理的な経路に戻ってからは通勤中に該当します。

通勤災害の具体例について知りたい方は『通勤災害とは何か|寄り道で怪我しても労災?誰にどんな請求ができる?』の記事で確認可能です。

美容師に生じやすい労災と問題点|手荒れ・腱鞘炎

美容師の職業病として考えられるのが、手荒れや腱鞘炎になります。
しかし、手荒れや腱鞘炎は日常生活の行為を原因とする可能性もあるため、業務との因果関係が認められず、業務起因性も認められないと判断される恐れがあるのです。

そのため、手荒れや腱鞘炎が労災によるものと主張したい場合には、業務行為を原因として生じたことを明確にする必要があります。
具体的に、どのような事実を明らかにするべきであるのかについてそれぞれ解説します。

手荒れが労災であるという主張

手荒れは、自宅で洗剤を使用して食器を洗うといった日常生活の行為によっても生じる恐れがあります。
そのため、手荒れが労災であると主張するには、勤務中に使用しているシャンプーやパーマ剤などが原因で手荒れが生じたということを明らかにしなくてはなりません。

新しくシャンプーやパーマ剤が導入してから手荒れがひどくなっているのであれば、その旨を主張するべきでしょう。
また、原因となっているシャンプーやパーマ剤に含まれている成分によって手荒れが生じていることを、医師により医学的に証明してもらうということも考えられます。

医学的な証明ができれば強力な証拠となりやすいので、病院で受診する際に医師に相談してみるべきです。

腱鞘炎が労災であるという主張

美容師は、カットの際に長時間にわたり腕を上げたまま作業を行うことになります。
そのため、指や手首に過度の負担が掛かり、腱鞘炎が発生することがあるのです。

しかし、腱鞘炎も日常生活における手指への負担によって生じることがあるため、労災が認められない恐れがあります。
腱鞘炎が労災であると主張するためには、厚生労働省が定めている認定基準に該当することを明らかにしましょう。

腱鞘炎は、「上肢障害」の一種であり、厚生労働省は上肢障害の労災認定基準を定めています。
上記の認定基準では、労災が認定されるには以下のような事実が必要とされています。

  1. 上肢等に負担のかかる作業を主とする業務に相当期間従事した後に発症した
    相当期間とは原則として6か月程度以上の従事が必要となります
  2. 発症前に過重な業務に就労していた
    発症直前3か月間に同種の労働者よりも業務量の多い日が存在したことをいいます
  3. 過剰な業務への就労と発症までの経過が医学上妥当なものと認められる
    医師から診断書を発行してもらいましょう

以上のように、腱鞘炎が労災であることを証明することは簡単ではありません。

労災保険給付を受けるための手続きとは

労災保険による給付の内容

労災認定を受けた場合は、以下のような給付を労災保険から受けることができます。

  • 療養補償給付・療養給付
    労災により生じた傷病を療養するために必要な費用の給付
  • 休業補償給付・休業給付
    労災による傷病の療養をするために仕事ができず、賃金を得られないという損害に対する給付
  • 障害補償給付・障害給付
    労災による傷病が完治せずに後遺障害が残った場合に給付される一時金や年金
  • 遺族補償給付・遺族給付
    労災により労働者が死亡した場合に、遺族が受け取ることができる一時金や年金
  • 葬祭料・葬祭給付
    労災により死亡した労働者の葬祭を行うために支給される
  • 傷病補償年金・傷病年金
    労災による傷病が療養開始後1年6ヶ月を経過しても完治しない場合に給付される
  • 介護補償給付・介護給付
    障害(補償)年金や傷病(補償)年金の受給者であり、症状が重く現に介護を受けている人に対する給付

業務災害の場合は「補償給付」や「補償年金」が、通勤災害の場合は「給付」や「年金」が支給されます。

この他にも、社会復帰促進事業の一環として、休業(補償)給付、障害(補償)給付、遺族(補償)給付、傷病(補償)年金には、上乗せの特別給付がなされます。

労災保険給付を受けるための手続き

労災保険給付を受けるためには、以下のような手続きが必要となります。

  1. 労働者が労働基準監督署へ請求書を提出する
  2. 労働基準監督署が調査する
  3. 労働基準監督署から支給・不支給の決定通知が届く
  4. 厚生労働省より指定口座へ振り込まれる

請求書の書式は給付内容ごとに異なるため、希望する給付内容ごとに請求書を用意する必要があります。
会社に頼むと用意してくれることがありますが、厚生労働省のホームページでダウンロードすることも可能です。

給付内容ごとの請求書書式は、以下のようになります。

業務災害による場合の書式

請求書書式
療養補償給付様式第7号
柔整用 様式第7号(3)
はり・きゅう用 様式第7号(4)
休業補償給付様式第8号
障害補償給付様式第10号
傷病補償年金様式第16号の2
介護補償給付様式第16号2の2
遺族補償給付様式第12号
葬祭料様式第16号

通勤災害による場合の書式

請求書書式
療養給付様式第16号の5
柔整用 様式第16号の5(3)
はり・きゅう用 様式第16号の5(4)
休業給付様式第16号の6
障害給付様式第16号の7
傷病年金様式第16号の2
介護給付様式第16号2の2
遺族給付様式第16号の8
葬祭給付様式第16号の10

請求書には事業主による証明が必要な部分もあるため、書類の作成については、会社への協力を求めましょう。
もっとも、事業主の証明がなくても手続き自体は可能です。自力で手続きを行う場合は、労働基準監督署に相談することをおすすめします。

労災申請手続きについて詳しく知りたい方は『労働災害の手続き・流れと適切な給付をもらうポイント』の記事をご覧ください。

事業主が労災保険給付を受けるための方法

労災保険は労働者の保護を目的としているため、労働者とはいえない事業主は労災保険の対象となりません。

しかし、美容室の経営を行うオーナーも、職場において美容師として働いているということは珍しくないでしょう。
そのため、事業主であるオーナーも従業員と同様に労災に遭う危険性があるといえるのです。

このような、通常は労災保険の対象とならない事業主についても労災保険の対象とすることが可能な制度があります。

特別加入制度を利用

特別加入制度とは、一般的には労働者に該当しない人について、一定の要件を満たす人を対象に労災保険への加入を認める制度です。

特別加入制度を利用することで、中小企業の事業主を労災保険の対象とすることができます。

加入の方法

美容室の経営を行う事業主は、労働者数が300人以下である場合は特別加入制度を利用することが可能です。

労働保険事務組合の窓口を通して「特別加入申請書」を提出してください。
各都道府県の労働局による承認がなされると、労災保険の対象となります。

なお、従業員のいない個人事業主は対象となりません。

労災保険給付以外の請求方法

労災保険給付は補償として不十分な場合がある

労災保険による給付を受けたとしても、労働者に生じた損害全てを補償してくれるとは限りません。労災保険では、法律上認められた範囲でしか補償を行ってくれないためです。

特に、労働者に生じた精神的苦痛に対する慰謝料については、労災保険給付により補償を受けることができません。

そのため、労災保険給付による補償では不十分な範囲については、損害賠償請求権によって支払いを求める必要があるのです。
他にも、自身が加入している医療保険が利用できないのかも確認すべきでしょう。

事業主にも請求を行う|請求の根拠を解説

職場において生じた労災であれば、事業主に対して損害賠償請求を行える可能性があります。

安全配慮義務違反にもとづく請求を行おう

事業主は、労働者の生命や身体等の安全を確保しつつ作業を行うことができるように作業環境を整えるという安全配慮義務を負っています。

そのため、美容室の事業主は、シャンプーやトリートメントを使用することで手荒れが起きないように成分に気を付けたり、仕事で使用する備品や機械の故障によって従業員がケガをしないよう適切なメンテナンスを行う義務があるのです。

事業主の安全配慮義務違反が原因で労災が発生した場合には事業主への損害賠償請求が可能となります。

安全配慮義務違反の詳細や具体例を知りたい方は『安全配慮義務違反で慰謝料を損害賠償請求できるか?会社を訴えられるケース』の記事をご覧ください。

第三者への請求を行う

労災事故の発生が第三者の故意や過失を原因とする場合には、第三者に対して損害賠償請求を行うことが可能です。

具体的には、通勤中に交通事故に遭ったり、仕事中にお客から暴行を受けたといったケースになります。
このような場合には、加害者に対する損害賠償請求が可能となるのです。

また、交通事故の加害者がタクシーやトラックの運転手など仕事で運転をしていた場合には、加害者を雇用している使用者に対しても損害賠償請求を行える可能性があります。

加害者よりも使用者の方が資力を有している可能性が高いことを考えると、使用者への請求が可能であるなら、使用者への請求を行うべきでしょう。

事業主や第三者へ請求できる内容

労災に遭った労働者が事業主や第三者に行える損害賠償請求権の内容、以下のようになります。

  • 治療費
    治療のために必要となった費用
  • 入通院交通費
    入院や通院するために発生した交通費
  • 入通院付添費用
    入院中の生活や通院する際に付添が必要な場合に発生する費用
  • 入院雑費
    入院中の生活用品や通信費用などをいう
  • 休業損害
    ケガの治療のために働けないことで生じる損害
  • 逸失利益
    後遺障害が生じた、または、死亡したことで将来得られるはずの収入がられなくなったという損害
  • 葬儀費用
    被害者の葬儀を行うために必要な費用
  • 慰謝料
    被害者に生じた精神的苦痛を金銭化したもの
  • 物損に関する費用

具体的な請求金額について知りたい方は、下記の関連記事をご覧ください。

事業主や第三者に請求する際の注意点

労災保険給付との二重取りはできない

すでに労災保険から給付を受けている場合は、二重取りとならないように、損害賠償請求で請求できる範囲が制限されます。

具体的には、労災保険から給付を受けている給付内容と一致している請求内容については、制限の対象となるのです。
同一の内容であるため二重取りとなるのは、以下の通りになります。

労災保険の給付内容損害賠償請求内容
療養(補償)給付治療費
葬祭料・葬祭給付葬儀費用
休業(補償)給付
傷病(補償)年金
休業損害
障害(補償)給付
遺族(補償)年金
逸失利益

ただし、上乗せの特別給付については、社会復帰促進という異なる目的のために給付されるものであるため、二重取りの対象とはなりません。

労働者の過失があると減額になる

労災の発生について労働者に過失がある場合には、損害賠償請求おける請求額が減額となります。
このような過失にもとづく減額を過失相殺といい、どの程度の減額を行うのかについては、基本的に当事者間の話し合いにより決められます。

しかし、どの程度の減額を行うのべきなのかについては法律上の明確な基準が存在しないため、適切な判断が困難です。
当事者間における話し合いがうまくいかない場合は、専門家である弁護士に相談しましょう。

事業主への損害賠償請求は弁護士に任せよう

労災により損害が生じたのであれば、労災保険給付や損害賠償請求によりその損害を補てんすることになります。

先に説明した通り、事業主に安全配慮義務違反があるときには労災保険の給付だけでは不十分な恐れがあり、損害賠償請求も視野に入れるべきです。

実際に損害賠償請求をするときは、専門家である弁護士への相談を行うべきでしょう。
なぜ弁護士に相談するべきなのか、おすすめの相談方法を紹介します。

弁護士がいれば損害賠償請求はこう変わる

十分な補償を受けられる

労災に関する損害賠償請求を行うにしても、法律の基礎知識が不十分であれば、適切な請求を行えず、本来得られる補償を受けられない恐れがあります。

弁護士に相談すれば、適切な補償を受けるために必要な手続きに関してアドバイスを受けることが可能です。
手続きの方法に不安のあるかたは弁護士に相談して協力を得るべきでしょう。

依頼を行うことで弁護士が代わりに手続きを行ってくれる

必要な手続きについて理解したとしても、実際に行うことは簡単ではありません。
特に、労災の被害に遭っている労働者にとって、仕事への復帰や家事との両立は重圧です。

弁護士に依頼すれば、弁護士が代理人として代わりに必要な手続きを行ってくれます。
そのため、労働者の負担は大いに軽減されるでしょう。

弁護士に相談するなら無料の法律相談をうけよう

弁護士に相談するならば、まずは無料の法律相談を受けることをおすすめします。

労災で大きな後遺障害が残ったり、ご家族を亡くされたりして、会社などに対する損害賠償請求を検討している場合は、アトム法律事務所の無料相談をご活用ください。

無料の法律相談であれば、相談費用の心配をせずに弁護士に相談することが可能です。
また、実際に依頼した場合の弁護士費用についても、相談時に聞いておくと良いでしょう。

法律相談の予約受付は24時間体制で行っているので、一度気軽にご連絡ください。

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アトム法律事務所 岡野武志弁護士

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了