内縁の妻に相続税の支払義務がある場合とは?

内縁の妻には法律上の相続権がないため、通常は相続財産を受け取ることも相続税を支払うこともありません。
遺贈・生前贈与・死亡保険金(生命保険金)などによって財産を取得した場合、内縁の妻に相続税の支払義務が生じる場合があります。実際に相続税が発生し納付する義務が生じるかは、被相続人の正味の遺産額が基礎控除額を超えるかどうか判断します。
この記事では、内縁の妻に相続税の支払義務が生じるケースや、相続税を計算する際の注意点、遺産を遺すための具体的な方法まで、この記事1本で網羅的に解説しています。
※本記事の情報は2026年時点の税制をもとに作成しています。税法は改正される場合があるため、実際の申告にあたっては税理士などの専門家にご相談ください。
内縁の妻に相続権はある?
内縁の妻に相続権はない
内縁(事実婚)の妻に相続権はありません。
つまり、内縁の夫が亡くなった場合、内縁の妻は夫の相続財産を相続することはできないのです。相続することができないため、もちろん相続税を支払う義務も発生しません。
また内縁の妻は相続人ではないため、通常は遺産分割協議に参加することもできません(ただし、包括遺贈を受けた場合などは、遺産分割の当事者となることがあります)。
一方、戸籍法に基づき正式な婚姻届を提出した配偶者は、常に相続人になります。
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内縁の妻との間に生まれた子に相続権はある?
内縁の妻との間に生まれた子であっても、被相続人が認知している場合、その子は被相続人の法律上の子として相続人になります。
相続順位および法定相続分は、嫡出子(法律婚の夫婦間の子)と同等です。
内縁と事実婚の違い
一部では、当人たちの意思で婚姻届けを出さない状態を「事実婚」、何かしらの事情があって婚姻届けを出せない状態を「内縁関係」という区別の仕方もあるようですが、一般的には厳密な違いはなく同じ意味で使われています。
この記事では「内縁関係」をメインに解説していますが、すべて事実婚にも当てはまる内容ですので、事実婚の相続に関して不安を抱えていらっしゃる方もぜひご活用ください。
内縁の妻が遺産を取得する方法は?
前述のとおり、内縁の妻に相続権はありません。
しかし、以下5つの方法を活用すれば、内縁の妻が遺産を取得することができます。
①遺言書で遺贈する
遺贈とは、被相続人が遺言によって無償で自己の財産を他人に与える行為です。
遺贈の対象は法定相続人に限られないため、「内縁の妻に財産を遺贈する」旨の遺言書を作成しておけば、内縁の妻にも遺産を遺すことができます。
遺贈を行うときの注意点が3つあるので以下に記載します。
遺贈を行うときの注意①:遺言書は決められた方式で作成
遺贈によって財産を渡すためには、法律で定められた方式に従って正しく遺言書を作成する必要があります。内縁の妻へ確実に遺産を遺したいのであれば、「公正証書遺言」の作成をおすすめします。
公正証書遺言は公証人が作成するため、形式の不備によるリスクを最小限に抑えられます。さらに、原本は公証役場で安全に保管されるため、紛失や改ざんのリスクもありません。
遺贈を行うときの注意②:遺留分を侵害しないように注意
遺言書を作成する際は、法定相続人の遺留分を侵害しないよう注意が必要です。遺留分とは、配偶者・子・直系尊属に法律上保障された最低限の取り分のことです。
例えば、前妻との子がいる場合、全財産を内縁の妻に遺贈すると子の遺留分を侵害し、子から遺留分侵害額請求(金銭での支払い請求)を受けるおそれがあります。
このようなトラブルを避けるためにも、相続人の有無を確認したうえで、遺留分を侵害しない内容の遺言書を専門家に相談しながら作成することが大切です。
遺贈を行うときの注意③:包括遺贈と特定遺贈の違いに注意
遺贈には、割合を示して財産を渡す「包括遺贈」と、財産を特定して渡す「特定遺贈」があります。
包括遺贈は債務も一緒に承継するため、内縁の妻に予想外の負担がかからないよう注意が必要です。
一方、特定遺贈では、相続人以外の人が不動産を受け取ると不動産取得税がかかります。相続税以外の税負担も生じうるため、あわせて税理士に相談しておくと安心です。
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②生前贈与を行う
生前贈与を活用することで、生前に内縁の妻へ財産を渡すことができます。
贈与税には年間110万円の基礎控除があり、この範囲内であれば贈与税はかかりません。年110万円以内の贈与であれば申告も不要ですが、これを超える場合は、贈与を受けた内縁の妻自身が贈与税の申告・納税を行う必要があります。
ただし、内縁の妻に生前贈与を行う際は、以下の点に注意が必要です。
生前贈与を行う際の注意①:「定期贈与」に気をつける
あらかじめ贈与の総額や期間を決めて贈与を行うと、「定期贈与」とみなされ、遡って追徴課税が課される場合があります。
贈与ごとの贈与契約書の作成もその都度の贈与であることを示す一つの手がかりになりますが、最終的な判断は個別の事情によるため、心配な場合は税理士に相談しましょう。
生前贈与を行う際の注意②:相続人の遺留分に配慮する
内縁の妻のような相続人以外への生前贈与は、原則として相続開始前1年間に行われたものが遺留分算定の基礎に含まれます。また、1年より前の贈与でも、贈与者と受贈者の双方が遺留分権利者に損害を加えることを知っていた場合は、対象となることがあります。
このようにして算定された遺留分を侵害する額の生前贈与を行うと、内縁の妻は他の相続人から遺留分侵害額請求(金銭での支払い請求)を受けるおそれがあります。
生前贈与を行う際の注意③:生前贈与加算の対象になりうる
内縁の妻が死亡保険金(生命保険金)の受取人になっている場合や、遺言で遺贈を受ける場合は、「生前贈与加算」の対象になることがあります。
これは、相続開始前の一定期間に行われた生前贈与が、相続税の課税価格に加算される制度です。たとえ年間110万円以内の贈与で贈与税がかからなかった場合でも、この加算の対象になり得るため注意が必要です。
なお、この加算対象期間は令和5年度税制改正により「相続開始前3年以内」から「相続開始前7年以内」へ段階的に延長されており、相続開始時期によって異なります。
| 相続開始日 | 加算対象期間 |
|---|---|
| 令和8年12月31日以前 | 相続開始前3年間 |
| 令和9年1月1日~令和12年12月31日 | 令和6年1月1日~相続開始日 |
| 令和13年1月1日以降 | 相続開始前7年間 |
※令和9年(2027年)1月2日以後の相続では、延長された期間(死亡前3年超〜7年以内)の贈与財産について、その合計額から100万円を控除できる措置が設けられています。
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③死亡保険金の受取人に指定する
死亡保険金(生命保険金)の受取人を内縁の妻にすれば、財産を遺すことができます。死亡保険金は受取人固有の財産であるため、相続人がいたとしても返還請求されるおそれはありません。
ただし、この時も2つの注意点があります。
死亡保険金を活用する際の注意①:受取人の条件を満たす必要がある
死亡保険金の受取人は、原則として「配偶者及び2親等以内の血族」と規定されていることが一般的です。そのため、内縁の妻(事実婚のパートナー)を受取人にできないケースが多いです。
しかし、保険会社の定める条件を満たせば、内縁の妻を受取人に指定することができます。細かい条件は各社で異なりますが、主に以下の3つのポイントが重視されます。
- お互いに法律上の配偶者がいないこと
- 内縁の妻と一定期間同居していること
- 内縁の妻と一定期間生計を同一にしていること
これらの事実を証明するため、戸籍謄本や住民票の提出を求められることが多いです。住民票の続柄を「妻(未届)」「夫(未届)」になっていると、単なる同棲ではなく、実質的には法律婚の夫婦と変わらないものであることの有力な証拠になります。
死亡保険金を活用する際の注意②:相続税の課税対象になる
保険料負担者及び被保険者が被相続人である死亡保険金は、相続税法上「みなし相続財産」として相続税の課税対象になります。したがって、死亡保険金を含む正味の遺産額が基礎控除額を超える場合、保険金を受け取った内縁の妻にも相続税の納付義務が生じることがあります。
基礎控除とは、「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」までは相続税がかからないという非課税枠のことです。
なお、保険料負担者・被保険者・受取人の組み合わせが異なると、相続税ではなく贈与税や所得税が課される場合もあります。詳しくは関連記事をご覧ください。
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④特別縁故者として財産分与を申し立てる
これは相続発生後、内縁の妻自身が主体となって行う手続きです。特別縁故者とは、相続人がいない場合に遺産を取得することを認められている、被相続人と特別な関係にあった者のことです。
家庭裁判所に「特別縁故者」として認められれば、内縁の妻は相続財産の全部または一部を取得できます。
特別縁故者として相続財産の分与を申し立てる際は、被相続人が亡くなった際の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てを行います。
詳しい手続きについては、裁判所ホームページ内の「特別縁故者に対する相続財産分与」をご参照ください。
ただし、特別縁故者の制度を利用できるのは相続人がいない場合に限られ、実際に特別縁故者に当たるかどうか、財産分与額がいくらになるかは家庭裁判所の裁量によって決まります。
⑤法律上の婚姻関係を結ぶ
戸籍法上、正式な婚姻届を提出した配偶者は、常に相続人になります。
したがって、正式に婚姻届を提出し法律上の婚姻関係を結べば、確実に配偶者に遺産を遺すことができます。
内縁の妻が相続税を支払う場合の注意点は?
内縁の妻が相続税を支払わなければならない場合とは?
内縁の妻が遺贈や死亡保険金(生命保険金)の受け取りによって財産を取得した場合、その財産を含む正味の遺産額(みなし相続財産を含む)が基礎控除額を超えていれば、相続税の支払義務が生じることがあります。
次の具体例で確認しましょう。
前提条件

- 内縁の夫には子が2人(長男、次男)いる
- 正味の遺産額は計9,000万円(内訳:預金3,000万円、不動産5,000万円、死亡保険金1,000万円)
- 死亡保険金は、保険料負担者と被保険者が内縁の夫、受取人が内縁の妻
- 死亡保険金以外は、長男と次男が法定相続分どおりに相続した
このケースでは、法定相続人が長男と二男の2人なので、基礎控除額は3,000万円+(600万円×2)=4,200万円となります。
この場合、正味の遺産額は9,000万円で基礎控除額を超えているため、死亡保険金を受け取った内縁の妻にも相続税の支払義務が生じます。
次に、内縁の妻が相続税を支払う場合の5つの注意点を見ていきましょう。
注意点①内縁の妻には死亡保険金の非課税枠が適用されない
内縁の妻には、死亡保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)が適用されません。
この制度を利用できるのは法律上の相続人に限られているため、受け取った保険金の全額が相続税の課税対象となります。
注意点②内縁の妻の相続税は2割加算される
内縁の妻は、相続税額が2割加算されます。
これは、被相続人の一親等の血族(代襲相続人となった孫を含む)や法律上の配偶者以外の人が財産を取得した場合、税額が2割増しになると相続税法で定められているためです。
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注意点③内縁の妻は「配偶者の税額軽減」が適用されない
配偶者の税額軽減とは、配偶者が相続した財産のうち、1億6,000万円か、配偶者の法定相続分に相当する金額のいずれか多い方までは、相続税がかからないという特例です。
しかし、この特例が適用されるのは戸籍上の婚姻関係にある配偶者に限られるため、婚姻届を提出していない内縁の妻には適用されません。
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注意点④内縁の妻は障害者控除が適用されない
障害者控除とは、遺産を受け取った法定相続人が、財産を取得した時点で障害者に該当する場合に利用できる税額軽減制度です。具体的には、満85歳に達するまでの年数1年につき10万円(特別障害者の場合は20万円)を相続税額から控除することができます。
内縁の妻は、法定相続人に含まれないので、たとえ障害の認定を受けていたとしても障害者控除の適用対象外となります。
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注意点⑤内縁の妻は小規模宅地等の特例が適用されない
小規模宅地等の特例とは、相続や遺贈で土地を取得した場合、一定の要件を満たせば、その土地の評価額を減額できる特例です。たとえば、特定居住用宅地等なら330㎡まで80%減額が受けられます。
この特例を適用できるのは、配偶者もしくは一定の要件を満たす親族に限られます。
内縁の妻は、「配偶者」にも「親族」にも当たらないため、小規模宅地等の特例の適用を受けることができません。
内縁の妻は遺族年金を受給できる?
内縁の妻も要件を満たせば遺族年金を受給できる
内縁の妻も、事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められ、かつ、被保険者によって生計を維持していたと認められれば、遺族年金を受給できます。
法律上の妻がいる場合の取り扱い
内縁の夫に法律上の妻がいる場合、遺族年金の受給権は原則、法律上の妻が有します。
しかし、長期間にわたり事実上の離婚状態にあると認められる場合は、内縁の妻が遺族年金を受給できる場合もあります。
事実上の離婚状態にあるかどうかは、別居の経緯、別居の期間等を総合考慮して判断されます。
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内縁の妻の相続税に関するお悩みは税理士へ
法律上、内縁の妻に相続権はありませんが、遺贈や生前贈与、生命保険金等を活用することで財産を遺すことができます。
ただし、内縁の妻は相続税の軽減措置が受けられないことが多く、事前に対策を立てておかなければ、思わぬ税負担を強いられるおそれがあります。
相続に精通した税理士であれば、相続税の具体的なシミュレーションをしたうえで、ご相談者様の意思を実現できる最適な方法をご提案いたします。
相続税の問題はとても複雑ですので、一人で悩まず、ぜひ一度お気軽にご相談ください。

監修者
高部孝之税理士事務所
税理士高部孝之
2019年税理士試験合格 2020年税理士登録
都内大手税理士法人にて約13年間勤務。資産税部門の責任者などを経て、2024年に独立し浅草にて資産税を強みとする税理士事務所を開業。
専門用語を用いず、平易な言葉で説明することを大切にしており、お客様が親しみやすく相談しやすい税理士を理想としています。
保有資格
税理士・FP技能士1級・相続診断士