年金の受給権は相続税の対象になる?年金の種類ごとに取り扱いを解説

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年金の受給権

被相続人の死亡により、遺族が取得した年金受給権についてお困りの方もいらっしゃるかと思います。

年金は大きく、公的年金、企業年金、個人年金保険の3つに分けられます。そして、被相続人の死亡により取得する年金受給権が相続税の課税対象となるかは、年金の種類ごとに異なります。

企業年金や個人年金は「みなし相続財産」として相続税の課税対象ですが、国民年金や厚生年金は相続税の課税対象ではありません。

この記事では、生前に被相続人に支給されていた年金の取り扱いだけでなく、被相続人の死亡により遺族に支給される遺族年金や寡婦年金などの取り扱いについても紹介します。

一目でわかる!年金の種類と相続税の課税関係

年金の種類と相続税の課税関係

以下で、それぞれの年金と相続税の課税関係について詳しく解説していきます。

まずは相続税がかかる年金受給権から紹介します。

相続税がかかる年金受給権

企業年金(退職年金、死亡退職金)

会社では、公的年金である厚生年金に加えて、退職金を年金形式で支払う企業年金制度(確定給付企業年金など)を設けていることがあります。

企業年金に関しては、企業年金制度がある会社に勤務していた人が在職中に亡くなったときや、退職して企業年金の受給中に亡くなったときには、遺族などが代わって死亡退職金や年金の受給権を受け取ることがあります。

被相続人が在職中に亡くなった場合

被相続人が在職中(企業年金の受給前)に亡くなった場合、亡くなった人に代わって遺族などに支払われる死亡退職金は、亡くなった人の「退職手当金等」として、「みなし相続財産」となります。

みなし相続財産とは、民法上の相続または遺贈により取得した財産(本来の相続財産)には該当しませんが、それと同様の財産的価値があるものとして、相続税の計算上は相続財産とみなされる財産のことです。

そのため、この死亡退職金は、相続税の課税対象になります。

なおこの場合、亡くなった人に代わって死亡退職金を受け取る人が相続人であるときには、相続税の計算で、死亡退職金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)を適用できます。非課税枠で相続税を軽減することができます。

被相続人が企業年金の受給中に亡くなった場合

企業年金の受給中に亡くなった場合は、残りの期間の企業年金は、遺族などが代わって受け取ることになります。

この企業年金の年金受給権は、相続または遺贈により取得したものとみなされ、相続財産となります。

そのため、この企業年金の年金受給権は、相続税の課税対象になります。

なお、この場合には、在職中に亡くなった場合と異なり、相続税の計算において死亡退職金の非課税枠を適用することができません。

個人年金(確定年金、有期年金、終身年金)

個人年金保険とは、契約時に定めた年齢まで保険料を積み立てて、契約時に定めた年齢に達すると、一生涯または一定期間、保険料に応じた年金が支給されるものです。

ここでは、契約者(保険料負担者)、被保険者、年金受取人が同一人である個人年金保険契約の場合の相続税の課税関係について説明します。

個人年金は、年金の受給期間によって、主に以下の3種類にわけられます。

確定年金
被保険者の生死にかかわらず、年金を決められた一定期間受け取れるもの。

有期年金
年金の受け取り期間が決まっていて、被保険者が年金受け取り期間中に死亡したらその時点で年金の支払を終了するもの。

終身年金
被保険者が生存している間はずっと年金を受け取れるもの。

通常は、有期年金や終身年金は、年金受給者が死亡したら相続人が引き続き受け取ることができませんが、有期年金や終身年金のなかには、被保険者の生死に関係なく、年金の受け取りが可能となる保証期間がついたものもあります。

個人年金に関しては、個人年金の被保険者が年金の受給前に亡くなったときや、個人年金の年金受取人が受給中に亡くなったときには、遺族などが代わって死亡保険金や年金の受給権を受け取ることがあります。

個人年金を受給する前に亡くなった場合

被保険者が個人年金の受給前に亡くなった場合、遺族などの年金受取人に、死亡保険金が支払われますが、この死亡保険金は、相続または遺贈により取得したものとみなされ、相続財産となります。

そのため、この死亡保険金は、相続税の課税対象になります。

なお、この場合、年金受取人が相続人であるときには、相続税の計算において、死亡保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)を適用することができ、相続税を軽減することができます。

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個人年金を受給中に亡くなった場合

個人年金のうち、以下の年金については、年金受取人が亡くなった場合でも、一定の支払保証期間は遺族などの後継年金受取人に年金が支給されます。

  • 確定年金
  • 保証期間付き有期年金
  • 保証期間付き終身年金

支払保証期間中に年金受取人が亡くなった場合に、遺族などの後継年金受取人が受け取ることになる残りの保証期間の年金受給権は、相続または遺贈により取得したものとみなされ、相続財産となります。

そのため、この年金受給権も、相続税の課税対象になります。

なお、この場合には、受給前に亡くなった場合と異なり、相続税の計算において死亡保険金の非課税枠を適用することができません。

【参考】被保険者や年金受取人が契約者ではない場合はどうなる?

ここまで、契約者(保険料負担者)、被保険者、年金受取人がすべて同一人であることを前提に解説してきました。

では、この3者が別の人である場合はどうなるのでしょうか。

具体例とともに、3パターン紹介します。

①まず、受給前に被保険者が亡くなったケースで、契約者(保険料負担者)と年金受取人が同一人の場合です。

発生した死亡保険金は年金受取人の一時所得として所得税の課税対象になります。

【具体例】

契約者が妻、被保険者が夫、年金受取人が妻である保険契約では、夫が亡くなった場合、死亡保険金は妻の所得税の対象になります。

②次に、契約者(保険料負担者)、被保険者、年金受取人がすべて異なる人物の場合です。発生した死亡保険金は、年金受取人が契約者から贈与により取得したものとみなされて、年金受取人の贈与税の課税対象になります。

【具体例】

契約者が妻、被保険者が夫、年金受取人が子である契約では、死亡保険金は子の贈与税の対象になります。

③最後に、個人年金の受給中に契約者(保険料負担者)ではない年金受取人が、先に死亡してしまった場合です。

受取人がいなくなってしまった場合は、後継年金受取人に年金受給権が移ります。

残りの保証期間の後継年金受取人が契約者と異なる保険契約では、その年金受給権は契約者から贈与により取得したものとみなされて、年金受取人の贈与税の課税対象になります。

【具体例】

契約者が妻、年金受取人が夫、後継年金受取人が子である保険契約では、夫が亡くなった場合、年金受給権は子の贈与税の対象になります。

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相続税がかからない年金受給権

公的年金(国民年金、厚生年金)には2種類ある

国民年金や厚生年金などの公的年金の受給者が亡くなったときに、遺族が受け取る公的年金は2種類あります。

受給者が生前に受け取ることができなかった未支給年金と、遺族に支給される遺族年金の2種類です。

未支給年金

未支給年金には相続税は課税されませんが、所得税が課税されます。

公的年金については、2か月に1回、偶数月にまとめて前月分と前々月分の合計2か月分が、後払いで支給されることになっています。

そのため、公的年金の受給者が亡くなった場合には、受給者が生前に受け取ることができなかった未支給の年金が発生します。

【未支給年金の考え方】

①7月に年金受給者が死亡した場合
6月分と7月分が未支給年金

②8月14日に年金受給者が死亡した場合
6月分と7月分と8月分が未支給年金
※6、7,8月分は8月15日に支払われるため

③8月15日に年金受給者が死亡した場合
8月分が未支給年金
※6、7月分は8月15日に支払い済みで、8月分は10月15日に支払われる予定のため

この公的年金の未支給年金は、相続によって取得するものではなく、亡くなった年金受給者と生計を一にしていた一定の遺族が自己の固有の権利として請求するものです。

そのため、遺族が請求し、支給を受けた公的年金の未支給年金は、相続財産とはならず、相続税の課税対象にはなりません。

ただし、遺族が請求し支給を受けた公的年金の未支給年金は、その遺族の一時所得に該当しますので、所得税の課税対象となります。

なお、未支給年金は遺族が年金事務所や年金相談センターへ請求してはじめて支払われるシステムとなっています。

遺族年金

遺族年金には、相続税も所得税も課税されません。

国民年金や厚生年金などの公的年金を受給していた人が亡くなったときには、亡くなった年金受給者によって生計を維持されていた一定の遺族に遺族年金(遺族基礎年金、遺族厚生年金など)が支給されます。

遺族年金は受取人である遺族の固有の財産です。そのため、この遺族年金は、相続財産とはならず、相続税の課税対象にはなりません。

また、遺族年金は遺族の生活保障のための、国からの給付金です。

そのため、未支給年金とは異なり、原則として遺族年金は所得税の課税対象にもなりません。

寡婦年金

寡婦年金とは、一定の要件を満たした夫が死亡した際に、妻に支給される年金です。

寡婦年金は残された遺族の生活を保障するためのものなので、相続税などの租税を課せないと決められています。

寡婦年金の支給要件や支給金額などは『日本年金機構|寡婦年金』をご参考ください。

相続税の相続税の無料相談

年金受給権を取得したときなど相続税申告のご相談は税理士へ

このように年金受給権にかかる税金は、年金の種類により、相続税がかかる場合だけではなく、所得税や贈与税がかかる関係することもあり、区別するのが難しくなっています。

また、相続税を申告するにあたっては、相続税の税額計算をしなければなりませんが、その計算方法はとても複雑です。さらに、遺産が年金受給権などの場合には財産の価格の評価が必要となり、また相続税の非課税枠の適用のほかにも配偶者の税額軽減などの控除や税額加算の適用についての判断も必要になります。

そのため、被相続人が企業年金や個人年金に加入していた場合やこれらの年金を受給中に亡くなった場合は、相続税を正しく計算して、追徴課税などがないように相続税を適切に申告するためには、税理士にご相談されることをおすすめします。

税理士は、税金の申告など個別具体的な税務相談に応じることができる唯一の専門家です。税理士は、相続税の計算などの申告のサポートや代行にとどまらず、遺産分割や節税などについても有効なアドバイスを提供してくれます。

また、相続の手続きをどのように進めたらいいのかわからないとお困りの方や相続の手続きに不安がある方も、お気軽に税理士にお問い合わせください。

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