内縁の妻に相続税の支払義務がある場合とは?
「内縁の妻に相続権はある?」
「内縁の妻に遺産を遺す方法を知りたい」
「事実婚の相手に相続税がかからないか心配」
内縁(事実婚)とは、婚姻届けを提出していないものの、婚姻の意思を持ち、夫婦同然の共同生活を営んでいる男女の関係をいいます。
この記事では、内縁の妻や事実婚の相手に遺産を残す方法や、相続税がかかる場合の注意点を解説します。
内縁の妻に相続権はある?
内縁の妻に相続権はない
内縁(事実婚)の妻に相続権はありません。
つまり、内縁の夫が亡くなった場合、内縁の妻は夫の相続財産を相続することはできないのです。相続することができないため、もちろん相続税を支払う義務も発生しません。
内縁の妻は相続人ではないので、遺産分割協議に参加することもできません。
一方、戸籍法に基づき正式な婚姻届を提出した配偶者は、常に相続人になります。
内縁の妻との間に生まれた子に相続権はある?
内縁の妻と夫との間に生まれた子は、原則として相続権はありません。
しかし、父親が認知をすれば、子は相続権を有するようになります。
内縁の夫と離婚した妻との間に実子がいる場合、実子と認知した子との相続割合は同じです。
内縁と事実婚の違い
一部では、当人たちの意思で婚姻届けを出さない状態を「事実婚」、何かしらの事情があって婚姻届けを出せない状態を「内縁関係」という区別の仕方もあるようですが、一般的には厳密な違いはなく同じ意味で使われています。
この記事では「内縁関係」をメインに解説していますが、すべて事実婚にも当てはまる内容ですので、事実婚の相続に関して不安を抱えていらっしゃる方もぜひご活用ください。
内縁の妻が遺産を取得する方法は?
前述のとおり、内縁の妻に相続権はありません。
しかし、以下5つの方法を活用すれば、内縁の妻が遺産を取得することができます。
①遺言書で遺贈する
遺贈とは、被相続人が遺言によって無償で自己の財産を他人に与える行為です。
遺贈の相手方は、法定相続人でなくても可能です。
したがって、内縁の妻に対し、自分の財産を遺贈するという内容の遺言書を作成しておけば、内縁の妻に遺産を遺すことができます。
【注意点】
●遺言を行うには、法律に規定された方式に従って、必ず遺言書を作成しなければなりません。
内縁の妻に確実に遺贈したいのであれば、公正証書遺言を作成しておくのがおすすめです。
公正証書遺言の作成には、法律の専門家である公証人が関与します。公正証書遺言の原本は、公証役場で保管されるため紛失の心配もありません。
●遺言書を作成する際、相続人の遺留分を侵害しないよう慎重に検討してください。
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人について、法律上保障されている最低限の取り分です。遺留分権利者は、被相続人の配偶者、子、直系尊属です。
例えば、内縁の夫と前妻との間に子がいるケースを考えてみましょう。
内縁の夫が、全ての財産を内縁の妻に遺贈するという内容の遺言書を作成して死亡した場合、子は遺留分を侵害されます。
そのため、子は、内縁の妻に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を求めてくるでしょう。これを遺留分減殺請求といいます。
このような事態を避けるため、専門家に相談して、相続人の有無を確認した上、その相続人の遺留分を侵害しない遺言内容にすることが大切です。
●遺贈には、「包括遺贈」と「特定遺贈」があります。
包括遺贈とは、全部または一定の割合を示して遺贈する方法です。
例えば、「遺言者は、遺言者の有する財産のうち3分の1を遺言者の内縁の妻に包括して遺贈する」という場合は包括遺贈に当たります。
包括遺贈は、債務も承継することになります。内縁の妻に予想外の負担を負わせることにならないようにご注意ください。
特定遺贈とは、財産を特定して遺贈する方法です。
例えば、「遺言者は、遺言者の有する次の土地を遺言者の内縁の妻に遺贈する」という場合は特定遺贈に当たります。
相続人以外の者が特定遺贈された場合、その者に不動産取得税がかかります。
内縁の妻に特定遺贈したいとお考えの方は、相続税以外の税金についても、税理士に相談しておくのが安心です。
②生前贈与を行う
贈与税の非課税枠(年間110万円)を活用して生前贈与を行えば、内縁の妻に財産を遺すことができます。
非課税枠は1年ごとに新たに付与されます。したがって、毎年110万円以下の贈与を長期間行えば、まとまった金額の財産を内縁の妻に贈与できます。
年110万円以下の贈与であれば、贈与税の申告も不要です。
【注意点】
●贈与の総額や贈与期間を初めから決めて贈与する「定期贈与」とみなされると、贈与の総額に課税されるおそれがあります。
そのような事態を避けるため、贈与ごとに贈与契約書を作成しておくと良いでしょう。
●生前贈与の場合も、遺贈と同じように「遺留分」に配慮する必要があります。
内縁の妻に対する生前贈与の額が、相続人の遺留分を侵害するものである場合、内縁の妻は相続人から遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求される可能性があります。
生前贈与を行う場合、相続人の存在や生前贈与額に十分ご注意ください。
関連記事
・生前贈与はいくらまで非課税?|暦年課税、相続時精算課税、特例を解説
③生命保険金の受取人に指定する
生命保険金の受取人を内縁の妻にすれば、財産を遺すことができます。
生命保険金は受取人固有の財産であるため、相続人がいたとしても返還請求されるおそれはありません。
ただし、生命保険金の受取人は、原則として「配偶者及び2親等以内の血族」と規定されていることが一般的です。ここでいう「配偶者」に内縁の妻は含まれません。
もっとも、保険会社の定める条件をすべて満たせば、内縁の妻を受取人に指定できます。
内縁の妻を受取人に指定できる条件は各社によって異なりますが、大まかに言うと次の3つです。
●お互いに法律上の配偶者がいないこと
●内縁の妻と一定期間同居していること
●内縁の妻と一定期間生計を同一にしていること
これらの事実を証明するために、戸籍謄本や住民票の提出を求められます。
ここでのポイントは、住民票の続柄を「妻(未届)」「夫(未届)」に変更しておくことです。
この記載は、2人の関係が単なる同棲ではなく、実質的には法律婚の夫婦と変わらないものであることの有力な証拠になります。
【注意点】
●生命保険金は、受取人固有の財産であるため本来は相続財産には含まれません。
しかし、相続税法上、生命保険金も「みなし相続財産」として、相続税の課税対象とされています。
そのため、相続財産の総額にみなし相続財産を加えた金額が、基礎控除額(※)を超える場合、生命保険金を受け取った内縁の妻も相続税を支払う必要があります。
※相続税の基礎控除額の計算式
基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
●生命保険金は、契約内容によって課税される税金が異なります。詳しくは関連記事をご覧ください。
関連記事
・死亡保険金にかかる税金|相続税・所得税・贈与税について解説
④特別縁故者として財産分与を申し立てる
家庭裁判所は、内縁の妻を「特別縁故者」と認めれば、相続財産の全部または一部を取得できます。
特別縁故者とは、相続人がいない場合に遺産を取得することを認められている、被相続人と特別な関係にあった者です。
特別縁故者の制度は、内縁関係の相手側や事実上の養子の保護のために創設されました。
特別縁故者として相続財産の分与を受けようとする者は、被相続人が亡くなった際の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てを行います。
詳しい手続きについては、裁判所ホームページ内の「特別縁故者に対する相続財産分与」をご参照ください。
【注意点】
●特別縁故者の制度は、相続人がいない場合に限り利用できます。
●特別縁故者に当たるか、財産分与額はいくらか等の事項は、家庭裁判所の裁量で決まります。
⑤法律上の婚姻関係を結ぶ
戸籍法上、正式な婚姻届を提出した配偶者は、常に相続人になります。
したがって、正式に婚姻届を提出し法律上の婚姻関係を結べば、確実に配偶者に遺産を遺すことができます。
内縁の妻が相続税を支払う場合の注意点は?
内縁の妻が相続税を支払わなければならない場合とは?
内縁の妻が遺贈を受けた場合や、生命保険金を受け取った場合、相続税の支払義務が生じる可能性があります。
内縁の妻に相続税の支払義務が生じるのは、相続財産の総額(みなし相続財産を含む)が基礎控除額を超える場合です。
以下の具体例をご覧ください。
【具体例】
●内縁の夫には子が二人(長男と二男)
●相続財産は、預金3,000万円、不動産5,000万円、生命保険金1,000万円
●生命保険金の契約内容は、契約者及び被保険者が内縁の夫、受取人が内縁の妻
●生命保険金以外の相続財産は、長男と二男が法定相続分どおりに相続
上記ケースでは、相続財産の総額は9,000万円です。
そして、法定相続人は長男と二男の2人なので、基礎控除額は、3,000万円+(600万円×2)=4,200万円です。
この場合、相続財産の総額が基礎控除額を超えているため、生命保険金を受け取った内縁の妻にも相続税の支払義務が生じます。
内縁の妻が相続税を支払う場合、以下5つの注意点があります。
注意点①内縁の妻には生命保険金の非課税枠が適用されない
内縁の妻には、生命保険金の非課税枠が適用されません。
生命保険金は、「500万円×法定相続人の数」に達する金額まで非課税とされます。これが生命保険金の非課税枠です。
この非課税枠は、相続人に限って適用されます。
したがって、内縁の妻は、受け取った生命保険金全額に相続税が課税されます。
注意点②内縁の妻の相続税は2割加算される
内縁の妻は相続税額が2割加算されます。
その理由は、相続または遺贈によって財産を取得した者が、以下に掲げる者以外の場合、相続税額が2割加算されると法律で規定されているからです。
●被相続人の一親等の血族(代襲相続人となった孫を含む)
●被相続人の配偶者
注意点③内縁の妻は「配偶者の税額軽減」が適用されない
配偶者の税額軽減とは、「課税価格の合計額×法定相続分」または「1億6,000万円」のうちいずれか大きい金額までの財産については無税で相続できる特例です。
簡単に言うと、配偶者は、最低1憶6,000万円までの財産の相続について、相続税の支払義務が生じません。
しかし、内縁の妻には配偶者の税額軽減が適用されません。
関連記事
・配偶者の税額軽減は1.6億円以上!デメリットや適用要件も解説
・相続税の配偶者控除とは?適用の要件は?計算方法を具体例付きで解説
注意点④内縁の妻は障害者控除が適用されない
障害者控除とは、相続や遺贈によって財産を取得した障害者について、満85歳に達するまでの年数1年につき10万円(特別障害者は20万円)を控除できる税額軽減制度です。
障害控除を適用できるのは、法定相続人に限られます。
内縁の妻は、法定相続人に含まれませんので、障害者控除の適用対象外です。
関連記事
・相続税の障害者控除|障害等級などの要件・申告義務・計算方法は?
注意点⑤内縁の妻は小規模宅地等の特例が適用されない
小規模宅地等の特例とは、相続や遺贈で土地を取得した場合、一定の要件を満たせば、その土地の評価額を最大80%減額できる特例です。
この特例を適用できるのは、配偶者や一定の要件を満たす親族に限られます。
内縁の妻は、「配偶者」にも「親族」にも当たらないため、小規模宅地等の特例の適用を受けることができません。
内縁の妻は遺族年金を受給できる?
内縁の妻も要件を満たせば遺族年金を受給できる
内縁の妻も、事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められ、かつ、被保険者によって生計を維持していたと認められれば、遺族年金を受給できます。
法律上の妻がいる場合は総合判断
内縁の夫が離婚しておらず、法律上の妻が存在する場合、内縁の妻は遺族年金を受給できるのでしょうか。
裁判例では、原則として、法律上の妻が遺族年金の受給権を有するとされています。
しかし、婚姻関係が形骸化し、かつ、その状態が長期間継続している場合は、例外的に内縁の妻が遺族年金を受給できると考えられています。
簡単に言うと、法律上の婚姻関係が、事実上離婚状態にあると認められる場合は、内縁の妻が遺族年金を受給できるということです。
事実上の離婚状態にあるかどうかは、別居の経緯、別居の期間等を総合考慮して判断されます。
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内縁の妻の相続税に関するお悩みは税理士へ
内縁の妻に相続権はありません。
しかし、遺贈、生前贈与、生命保険金等を活用すれば、内縁の妻に遺産を遺すことができます。
その際必ず検討していただきたいのが、相続税の問題です。
内縁の妻は、相続税の軽減措置が受けられない場面が多いため、事前に対策を立てておかなければ、思わぬ負担を強いられるおそれがあります。
相続に強い税理士は、相続税のシミュレーションをもとに、ご相談者様の意思を実現できる最適な方法をご提案いたします。
相続税の問題はとても複雑です。お一人で悩まず、ぜひ一度税理士にお気軽にご相談ください。
監修者
高部孝之税理士事務所
税理士高部孝之
2019年税理士試験合格 2020年税理士登録
都内大手税理士法人にて約13年間勤務。資産税部門の責任者などを経て、2024年に独立し浅草にて資産税を強みとする税理士事務所を開業。
専門用語を用いず、平易な言葉で説明することを大切にしており、お客様が親しみやすく相談しやすい税理士を理想としています。
保有資格
税理士・FP技能士1級・相続診断士