夫のソープ通いで離婚は認められる?慰謝料100万円獲得の実例 #裁判例解説

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ソープ通い

「またソープランドのカードが出てきた…」

あの日、妻は震える手で夫のカバンから見つけたサービスカードを握りしめていた。

一度発覚して、謝罪を受けて許したはずだった。二度と行かないと約束したのに。

「私、離婚できるんでしょうか?慰謝料は取れますか?」

弁護士は、過去の判例を見せながら冷静に答えた。

※東京地判平成17年6月24日(平成15年(タ)600号)をもとに、構成しています

この裁判例から学べること

  • ソープランド通いは法的に「不貞行為」として認定され、離婚理由になる
  • 「二度と行かない」約束を破った場合、悪質性が高いと評価される
  • ソープ通いによる信頼喪失は「婚姻を継続しがたい重大な事由」になる
  • 証拠はサービスカードなど間接的なものでも認められる可能性がある

夫のソープランド通いが発覚したとき、多くの妻は強い生理的嫌悪感と裏切られた怒りを感じます。
しかし同時に、「たかが風俗」と軽視され、離婚や慰謝料請求を諦めてしまう方も決して珍しくありません。

今回ご紹介する裁判例は、夫がソープランドに通っていたことが発覚し、妻が離婚と慰謝料を求めた事案です。

この事例を通じて、ソープ通いが法的にどう評価されるのか、どんな証拠が有効なのか、慰謝料はいくらもらえるのかなど、実践的な知識を学んでいきましょう。

📋 事案の概要

今回は、東京地判平成17年6月24日(平成15年(タ)600号)を取り上げます。

この裁判は、夫のソープランド通いが発覚し、夫婦関係が破綻した結果、妻が離婚と慰謝料を求めた事案です。

  • 当事者
    原告(妻):大手企業勤務。夫のソープ通いを知り、一度は許したが、再び発覚。信頼を完全に喪失し、別居
    被告(夫):大手企業勤務で残業が多い。ソープランドに通っていたことを認めた
  • 請求内容
    原告(妻):離婚、慰謝料500万円、子の親権者指定、財産分与、養育費
    被告(夫):離婚に同意、子の親権を争う、妻の不貞行為を主張して慰謝料請求

🔍 裁判の経緯

「夫がソープランドに通っているなんて信じられませんでした。」

夫のソープ通いを知った妻は、怒りと裏切られた気持ちで、すぐに子どもを連れて実家に帰った。

「でも、夫が謝ってきたんです。『もう二度と行かない』って。私も子どものことを考えて…信じることにしました」

妻は自宅に戻り、夫婦関係も一時は回復した。

妻は職場に復帰して保育園の送り迎えを含む平日の家事・育児のほぼ全てを担う一方、夫は残業が多く、毎晩深夜にタクシーで帰宅する生活を送っていた。

「夫のカバンの中から、またソープランドや風俗店のサービスカードが何枚も出てきたんです」

その時点で、妻の中で何かが完全に壊れた。

「もう無理でした。夫を信じることも、夫に触れられることも。気持ち悪くて、生理的に受け付けられなくなっていました」

妻は寝室を別にし、夫の食事を作ることも、洗濯をすることも一切やめた。会話もほとんどなくなり、必要な連絡はメールでやり取りするようになった。
完全な家庭内別居状態だった。

妻は夫に離婚を申し入れ、夫も離婚自体には同意したものの親権をめぐって対立。
協議・調停ともに不成立となったため、最終的に子どもを連れて家を出て新生活を始め、以降別居状態が続いた。

「夫は『ソープは浮気じゃない』と言いました。でも、私にとっては明らかな裏切りです。約束を破って、また行った。もう信頼関係なんて、取り戻せるはずがありません」

夫は逆に、妻が会社の同僚男性と親密な関係にあったと主張し、妻の不貞行為を理由に慰謝料を請求してきた。

「私は不貞なんてしていません。でも、夫のソープ通いは事実です。裁判所は、どう判断してくれるんでしょうか…」

※東京地判平成17年6月24日(平成15年(タ)600号)をもとに、構成しています

⚖️ 裁判所の判断

判決の要旨

裁判所は、夫婦関係は回復不可能なほど破綻しており、離婚を認めました。
そして、夫のソープランド通いを不貞行為と認定し、慰謝料100万円の支払いを命じました。

さらに、子どもの親権者については妻を指定し、財産分与として夫から妻へ400万円、養育費月3万円の支払いを命じました。

主な判断ポイント

1. ソープランド通いは「不貞行為」にあたる

裁判所は、夫のソープランド通いについて、「被告の行為は、原告との関係で、不法行為にあたるというべきである。」と明確に判断しました。

これは極めて重要な判断です。
夫側は「風俗は浮気ではない」と主張しがちですが、本件では裁判所が法的に不法行為、すなわち不貞行為と認定したのです。

裁判所が夫の不貞行為を認定したポイントは以下の点です。

  • ソープランドは性的サービスを提供する店であり、性交渉が行われる
  • たとえ「お金を払った性的関係」であっても、配偶者以外との性的関係は不貞行為
  • 回数は2回(少なくとも認定されたのは2回)だが、不貞行為として成立
  • サービスカードの存在から、複数回通っていた可能性が高いと推認される

2. 「二度と行かない」約束を破った悪質性

裁判所は、夫の行為の悪質性を判断するにあたり、約束を破ってソープランド通いを繰り返していた点を重視しました。

最初にソープ通いが発覚した際、妻は子どもを連れて実家に戻りましたが、夫が謝罪し「二度と行かない」と約束したため、妻は自宅に戻り、夫婦関係はいったん修復されました。

しかしその後、夫は約束に反して再びソープランドに通っており、裁判所は、妻が複数回にわたりソープランドや風俗店のサービスカードを発見していた事実を認定しています。

夫は「一定期間は行っていない」と主張しましたが、裁判所は、複数のサービスカードを所持していた事実などから、その主張を退け、約束後も継続的にソープランドに通っていた可能性が高いと判断しました。

3. 信頼喪失と「婚姻を継続しがたい重大な事由」

裁判所は、ソープランド通いによる信頼の喪失が、離婚原因となる「婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当すると認めました。

判決では、妻の気持ちが夫から離れていった主な原因について、「原告が主張する上記事情(夫のソープランド通い)によるという可能性が否定できず」と述べられています。

実際、妻はソープランド通いを知って以降、夫と寝室を分け、食事や洗濯などの身の回りの世話を一切しなくなり、会話もほとんどなく、連絡はメールのみとなっていました。

裁判所は、これらの事情を、妻が夫への信頼を完全に喪失し、強い生理的嫌悪感を抱いていたことを示す重要な事実として評価しました。

4. 慰謝料100万円の認定

慰謝料は、妻の請求額500万円に対して100万円が認められました。
減額された理由は、妻側にも男性との親密な交際があったことが考慮されたためです。

それでも、ソープ通いが不貞行為として認められ、100万円の慰謝料が認められたこと自体が重要です。

👩‍⚖️ 弁護士コメント

ソープ通いは法的に不貞行為と認められる

この判決で最も重要なのは、夫のソープランド通いが「不法行為」、すなわち不貞行為にあたると明確に認定された点です。

実際には、「風俗は浮気ではない」「お金を払っているだけ」「誰も傷つけていない」といった言い訳をされ、声を上げられずにしまう妻も多く見受けられます。
しかし、法律はこうした主張を認めていません。

民法上の不貞行為とは「配偶者のある者が、自由な意思に基づいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」です。

ソープランドでは性交渉が行われるため、それが金銭を伴うものであっても、明確に不貞行為にあたります。

二度と行かない約束を破った悪質性は重視される

本件で夫の行為が特に悪質と評価されたのは、一度発覚して謝罪し、「二度と行かない」と約束したにもかかわらず、それを破った点にあります。

最初にソープ通いが明らかになった際、妻は子どもを連れて実家に戻りましたが、夫の謝罪と約束を信じて自宅に戻りました。
しかし、その後もソープ通いは続いていました。

裁判所はこの約束違反を重く受け止め、夫の行為の悪質性を認定しています。

このように、夫が「もう行かない」と約束したにもかかわらず、再びソープ通いが発覚した場合、その悪質性は慰謝料額の増額事由となり得ます。

サービスカードなどの間接証拠でも立証は可能

本件では、以下の証拠で不貞行為が認定されました。

  • 自宅で発見したソープランドや風俗店のサービスカード(複数回、複数枚)
  • 夫自身が平成9年と平成13年にソープに行ったことを認めた事実

つまり、性行為の現場を押さえる必要はありません。
夫がソープに通っていたことを示す間接的な証拠でも、十分に立証できる可能性があるのです。

有効な証拠の例

  • ソープランドやピンサロなどのサービスカード、会員カード
  • 風俗店の領収書、クレジットカード明細
  • 風俗店とのLINEやメールのやり取り
  • 夫の自白(録音があれば最良)
  • GPSの位置情報(風俗店エリアへの訪問記録)
  • 性病検査の結果(夫に性病が発覚した場合)

これらの証拠は、見つけた時点で写真撮影やコピーをしておくことが重要です。
夫に気づかれて破棄される前に、確実に保全しましょう。

「気持ち悪い」という感情は、法的な離婚事由になる

夫のソープ通いを知った後、多くの妻は「もう触れられたくない」「生理的に受け付けない」「同じ布団で眠れない」と感じます。

このような生理的嫌悪感は、決して感情的なわがままではありません。
配偶者への信頼が完全に失われたことを示す、極めて重要なサインです。

本件でも、妻はソープ通いの発覚後、夫と寝室を分け、食事や洗濯をしなくなり、日常的な会話もほとんど行わなくなりました。

裁判所は、これら一連の行動を「妻が夫への信頼を完全に喪失していたことを示す事実」として重視し、婚姻関係はすでに修復困難な状態にあったとして、「婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当すると判断しました。

慰謝料の相場は100万円~300万円

ソープ通いを理由とする離婚慰謝料の相場は、一般的に100万円から300万円程度とされています。

本件で慰謝料が100万円と判断されたのは、妻側にも男性との親密な交際があったこと、ソープ通いとして確実に認定された回数が2回にとどまっていたことが影響しました。

一方で、ソープ通いの回数が多く常習的である場合や、数年にわたって継続している場合、家計を圧迫するほど多額の費用を費やしていた場合には、慰謝料が増額される可能性があります。

また、性病を妻に感染させた、ソープ通いが原因で妻が精神疾患を発症した、あるいは発覚後も開き直って謝罪や反省の態度を示さないといった事情も、悪質性を高める要素として評価されやすいです。

このように、慰謝料額は単に「ソープに行ったかどうか」だけで決まるものではなく、回数・期間・態様・夫婦関係への影響など、個別事情を総合的に考慮して判断されます。

離婚を有利に進めるための証拠収集

離婚をすでに決意している場合はもちろん、まだ迷っている段階であっても、できるだけ早く証拠収集を始めることが重要です。

まず、日常の中ですぐにできる証拠保全としては、ソープランドや風俗店のサービスカード、領収書などを写真に撮って保存しておくことが挙げられます。
あわせて、クレジットカードの明細を確認し、風俗店名や不審な請求がないかをチェックしましょう。

また、夫の外出時間や帰宅時間、様子などを日記のように継続的に記録しておくことも、行動の一貫性を示す補強資料として有効です。

一方で、有効ではあるものの注意が必要な方法もあります。
例えば、夫の同意なく車やカバンにGPSを取り付ける行為は、違法と判断されるリスクがあります。

夫のスマートフォンを無断で操作することはプライバシー侵害にあたる可能性がありますが、ロックを解除せず、たまたま目に入った情報をメモする程度であれば、問題とされにくい場合もあります。

夫がソープ通いを認めた場合には、性病検査を受け、その結果を提示するよう求めることも重要です。

夫が素直に応じれば、自身の健康不安を解消できますし、拒否した場合でも、その反応自体が不自然な態度として評価される余地があります。

万一、検査で性病が判明すれば、ソープ通いを裏付ける強い証拠となります。
このやり取りや夫の反応については、必ずメモや録音で記録しておきましょう。

📚 関連する法律知識

不貞行為とは何か

民法上の「不貞行為」とは、配偶者のある者が、自由な意思に基づいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶことをいいます(最高裁昭和48年11月15日判決)。

重要なポイント

  • 性的関係(性交渉)があれば不貞行為
    キスやハグだけでは通常、不貞行為とはならない
  • 本人の自由な意思に基づく必要がある
    強姦などは不貞行為にあたらない
  • 相手が特定の人物である必要はない
    ソープランドのような不特定多数でも成立
  • 金銭を伴うかどうかは関係ない
    お金を払っても不貞行為

したがって、ソープランドで性交渉を持つことは、明確に不貞行為にあたります。

ソープ以外の風俗は不貞行為になるのか

不貞行為にあたるかどうかは、店の種類そのものではなく、実際に性交渉があったかどうかが判断の基準になります。

ソープランドは、性交渉が行われることを前提としたサービスであるため、不貞行為に該当します。
また、デリヘル個室マッサージエステであっても、実際に本番行為(性交渉)があった場合は、不貞行為と認定される可能性が高くなります。

一方で、不貞行為と認められにくいものもあります。

キャバクラガールズバーは、通常、接客や会話を目的とするもので、性交渉がないため、不貞行為とは評価されにくい傾向があります。
ピンサロのぞき部屋ビデオボックスについても、性交渉がなければ、原則として不貞行為には当たりません。

離婚原因となる「婚姻を継続しがたい重大な事由」

民法770条1項5号は、「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」を法定の離婚原因として定めています。

ソープ通いのケースでは、行為の内容やその影響次第で、この「婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当すると判断される可能性が高まります。

まず重視されるのが、回数や頻度です。
一度きりではなく複数回にわたって通っている場合や、長期間にわたり継続している場合は、悪質性が強く評価されます。

次に問題となるのが、家計への影響です。
ソープ通いに多額の金銭を費やし、家計を圧迫している、生活に支障が出ているといった事情があれば、婚姻関係を破壊する行為として評価されやすくなります。

また、妻への影響も重要な判断要素です。
強い精神的苦痛を受けている、うつ病などの精神疾患を発症した、夫への信頼を完全に喪失したといった事実は、婚姻関係が回復不能な状態に陥っていることを示すものとされます。

夫の態度も判断に影響します。
反省の態度が見られない、「風俗は浮気じゃない」と主張するなどして妻の気持ちを軽視している場合には、関係修復の見込みがないと判断されやすくなります。

証拠の重要性と立証のポイント

不貞行為や婚姻破綻を主張するには、証拠が不可欠です。
ただし、性交渉の現場を直接押さえることは現実的に困難であるため、実務では間接証拠を積み重ねて立証していきます。

有効な証拠

  • 夫の自白
  • サービスカード・会員カード
  • 領収書・クレジットカード明細
  • LINEやメールのやり取り
  • GPSの位置情報
  • 性病検査の結果
  • 探偵の調査報告書

もっとも、立証には限界もあります。

一般的な風俗店の場合、「店に入った」という事実だけでは、性交渉があったと直ちに断定することはできず、「マッサージを受けただけ」と反論される余地があります。

キャバクラやガールズバーのように性交渉を伴わない業態では、不貞行為そのものの立証は困難であるのが実情です。

🗨️ よくある質問

Q. 夫が「ソープは浮気じゃない」と言い張ります。本当に離婚理由になりますか?

ソープランド通いは法的に不貞行為として認められ、離婚理由になります。

民法上の不貞行為とは「配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」であり、金銭を伴うかどうかは関係ありません。ソープランドでは性交渉が行われるため、明確に不貞行為に該当します。

さらに、不貞行為に該当しない場合でも、「婚姻を継続しがたい重大な事由」(民法770条1項5号)として離婚が認められる可能性があります。
特に、妻が強い生理的嫌悪感を抱き、夫への信頼を完全に喪失した場合、本判決のように離婚が認められます。

Q. ソープ通いの証拠がサービスカードだけですが、離婚や慰謝料請求はできますか?

サービスカードだけでも、離婚や慰謝料請求が認められる可能性があります。

本判決では、妻が提出した主な証拠は「自宅で発見したソープランドや風俗店のサービスカード(複数枚)」と「夫が一部認めた事実」でしたが、裁判所はこれを基に不貞行為を認定し、慰謝料100万円の支払いを命じました。

重要なのは、性行為の現場を押さえる必要はないということです。
ソープランドに通っていたことを示す間接的な証拠でも立証できる可能性があります。

証拠が不十分でも、弁護士に相談すれば、どのような証拠を追加で集めるべきか、どう主張すれば有利になるかなど、具体的なアドバイスを得られます。
一人で悩まず、まずは相談してみることをお勧めします。

Q. 夫に触れられるのが気持ち悪くて、性交渉を拒否しています。これは離婚理由になりますか?

夫への生理的嫌悪感と性交渉の拒否は、「婚姻を継続しがたい重大な事由」として離婚理由になり得ます。
特に、その原因が夫のソープ通いにある場合、離婚が認められる可能性は高いです。

本判決でも、妻は夫のソープ通い発覚後から寝室を別にし、夫の食事を作らず、会話もほとんどしなくなりました。
裁判所は、これらの事実を「妻が夫への信頼を完全に喪失した」証拠として重視し、「婚姻を継続しがたい重大な事由」があると認定しました。

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岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

詳しくはこちら

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了