【裁判例解説】離婚後、不倫相手に対する慰謝料150万円の支払いが認められた事例

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「離婚した後でも、慰謝料を請求する権利は残っているんです。」元妻の弁護士が、はっきりとした声で主張を繰り返す。

「でも、彼は奥さんと別れるって言ってたんです…」と動揺する不倫相手の女性。被告側の弁護士はわずかに眉をひそめ、「我々の依頼人は夫婦関係が既に破綻していたと聞いておりました。」と反論する。

裁判官は両者の言い分をじっくりと聞いた後、静かに判決を言い渡した。「被告は原告に対し、150万円の慰謝料を支払え。」その瞬間、元妻の顔には、わずかな安堵の表情が広がった。

※この場面描写は実際の裁判例を参考に、創作や脚色を加えています

この裁判例から学べること

  • 離婚後でも不倫相手に対する慰謝料請求ができる
  • 不貞行為の証拠として電子機器のメッセージが重要
  • 慰謝料金額は婚姻期間、子供の有無、当事者の態度等を考慮して決定
  • 夫婦関係が悪化していたとしても、不倫相手の責任が免除されるわけではない

夫の不貞行為によって離婚することになった場合、離婚後でも慰謝料請求できる可能性があります。しかも、元夫だけでなく不倫相手に対しても請求が可能なのです。

本記事では、離婚後に元妻が不倫相手に対して150万円の慰謝料支払いを勝ち取った実際の裁判例を紹介します。

不貞行為の証拠慰謝料金額の決定要因、そして「夫婦関係は既に破綻していた」という言い訳が通用しない理由まで、詳しく解説していきます。離婚を考えている方、不貞行為に悩む方必見の内容です。

🔍事案の概要

今回は、東京地方裁判所令和5年3月29日判決(令和4年(ワ)第4248号)を取り上げます。

この裁判は、調停離婚をした後、元妻が元旦那の不倫相手に対して、慰謝料385万円を請求した事案です。

裁判の結果、不倫相手には165万円(慰謝料150万円と弁護士費用15万円)の支払いが命じられました。

  • 原告:元妻
  • 被告:元夫の不倫相手
  • 請求内容:慰謝料385万円を請求
  • 判決結果:不倫相手に165万円(慰謝料150万円と弁護士費用15万円)の支払いを命じた

不貞慰謝料の相場は、通常50万円~200万円程度が多く、高額の離婚慰謝料の場合300万円になることもあります。本件は、ちょうど中間くらいの金額が認定されていることになります。

裁判の経緯

原告と元夫は平成19年に婚姻し、平成24年には長女が誕生しました。家計が厳しい状況が続く中でも、平成29年には海外旅行先でリゾート施設の会員権を夫婦の共有名義で購入するなど、協力しながら家庭生活を営んでいました。平成31年には、長女の小学校入学を機に家族で引っ越しをしています。

しかし、平成30年5月、夫から妻に対して「離婚してほしい」と持ちかけたといいます。その時、妻は、夫が浮気しているか問いただしましたが、夫はしらをきり、「自分は発達障害だから」「風呂なしアパートでも1人で生きていきたい」などと述べたといいます。妻はすぐには離婚に承諾せず、「少し時間が欲しい」と回答しています。

同年9月には長女の誕生日を祝うために家族での海外旅行を計画しており、夫の親族も参加する予定でしたが、夫は直前になってキャンセルしました。実は、その期間中、夫は浮気相手と大型テーマパークで4日間のデートを楽しんでいたのです。妻も夫の様子がおかしいと感じており、旅行から帰ってきた際に夫と不倫相手らしき女性とのやりとりを発見しました。

その後、夫は家を出て別居が始まり、夫から離婚調停が申し立てられました。最終的に妻は離婚調停に応じましたが、その際に慰謝料の取り決めはありませんでした。そのため、今回の慰謝料請求訴訟に至ったのです。

⚖️ 裁判所の判断

不貞行為の有無

裁判所は、次のような証拠をもとに不貞行為があったと判断しました。

  • タブレット端末のメールのやりとり
  • 不自然な旅行キャンセル

慰謝料金額の考慮要素

裁判所は、慰謝料を増額・減額する要素を以下のように考慮しました。

慰謝料の増額要素

  • 不貞行為が原因で婚姻関係が破綻したこと
  • 結婚生活が10年以上続いていたこと
  • 夫婦には子供が1人いること
  • 浮気相手が謝罪しない態度をとっていたこと。

慰謝料の減額要素

  • 夫婦間には家計に関する不満があり、夫婦関係が完全に円満ではなかったこと

判決のポイント

  • 浮気相手の責任
    裁判所は、浮気相手が夫が既婚者であることを知りながら関係を持ったことを「過失」として認定し、責任があると判断しました。
  • 夫の言い訳
    夫の「離婚する」という説明は浮気の常套句であり、信頼できるかどうか慎重に判断すべきとしました。

最終判決

裁判所は、これらの事情を総合的に考慮した結果、浮気相手に対して慰謝料150万円の支払いを命じました。

👩‍⚖️弁護士解説

何が不貞行為の証拠になるか

本件では、タブレット端末のアプリに残されていたメールのやりとりが、不貞行為の証拠となっています。

妻と子供のほか夫の親族も参加する海外旅行を、なぜか夫だけが急遽キャンセルしたことは、明らかに不自然です。そのため、妻は、帰宅後に自宅にあったタブレットを確認し、夫が浮気相手とやりとりを発見して、その内容を写真に撮り証拠をおさえたのです。

そこには、浮気相手から夫に対して「4日間ありがとう!お誕生日お祝いしてくれてありがとう、〇〇さんをあんなに独り占めできて楽しかった」「愛しています★」といった、夫への好意や愛情を示す内容が含まれていました。これに対して夫も、「オレが幸せだったから、お礼を言うのはこっちだよ」「抱き着いてくれて嬉しかった」と返信しており、浮気相手への愛情を持っていることが伺えます。

ほかにも、二人のやりとりには、ラブホテルが多数存在する地名や、「おうち」に泊まる、「翌日遅番だ♪」、〇〇をする「デートしよう」など、二人が性交渉をしていることを連想させるキーワードが多数含まれていました。

これらのやりとりから、夫と浮気相手との関係は単なる友人関係ではなく、不貞行為にあたると判断されました。

「妻とは離婚する」という発言が通用しない理由

本件では、不倫相手の女性は、元夫が既婚者であると知っていました。しかし、元夫と元妻の関係が悪いと認識していたようです。

この点に関連して、裁判所は判決の中で、妻とは「離婚する」、夫婦関係は「破綻している」などといった説明を受けていたとしても、「そのような説明は、浮気をする者が一般的に用いる常套句」であるので、「その信ぴょう性を確認すべき」と述べています。

浮気相手の責任について

慰謝料請求は、不法行為に基づく損害賠償請求です。そのため、慰謝料を請求するには、損害発生に対して故意または過失が認められることが必要です。

不倫による慰謝料請求が認められるには、以下の要件を満たす必要があります。

  • 故意:不倫相手が、配偶者と不貞行為を行うことで、他方の配偶者に精神的損害を与えることを認識し、それを受け入れていた場合。
  • 過失:不倫相手が、不貞行為が相手の配偶者に精神的損害を与える可能性があることに不注意で気づかなかった場合。

不倫の場合、慰謝料請求をするには、不貞行為が他方の配偶者に精神的損害をあたえるということを認識・認容(故意)しているか、不注意で気づけなかった(過失)が認められる必要があります。

本件では、不倫相手の女性が夫の既婚状態や、離婚の方向性が確定していないことを認識していたため、裁判所は不貞行為によって妻が精神的な損害を受けることについて、不倫相手に少なくとも過失があったと判断しました。

📚 「不倫と慰謝料」の法律知識まとめ

不貞行為とは?

不貞行為とは、結婚している人が配偶者以外の人と肉体関係を持つことを指します。これは、離婚や慰謝料請求の大きな原因となる行為です。

不貞行為の慰謝料請求

不貞行為に基づく慰謝料請求は、民法709条(不法行為の規定)に基づいて行われます。不貞行為を行った配偶者だけでなく、その不倫相手に対しても損害賠償を請求できます。

慰謝料請求の要件

  • 不貞行為の存在:肉体関係を持った事実
  • 故意または過失:不倫相手が既婚者だと知りながら関係を持っていた場合、故意や過失ありと判断
  • 婚姻関係が破綻していないこと:不倫が起きた時点で夫婦の関係が破綻していないこと
  • 精神的苦痛の発生:不貞行為によって配偶者が精神的に苦痛を受けていること

慰謝料の算定基準

慰謝料の金額は、通常50万円~200万円程度が多く、以下のような要素を考慮して決定されます。

  • 不貞行為の期間と頻度
  • 婚姻期間・夫婦仲
  • 子供の有無・人数
  • 不貞行為を行った者の社会的地位や収入
  • 不貞行為後の態度(反省の有無など)

慰謝料請求の時効

不貞行為に基づく慰謝料請求の権利には消滅時効があります。慰謝料請求は、不貞行為を知ってから3年、または不貞行為が行われてから20年を経過すると請求できなくなります。

🗨️ よくある質問

Q1:不貞慰謝料の相場はどのくらいですか?

通常50万円~200万円程度が多く、高額の場合は300万円になることもあります。本件の150万円はちょうど中間くらいの金額です。

Q2:夫婦関係が既に破綻していた場合、慰謝料請求はできないのでしょうか?

夫婦関係が完全に破綻している場合は、その後に肉体関係があったとしても慰謝料を請求することはできません。

ただし、夫婦関係が悪化していても、完全に破綻していたかどうかは慎重に判断されます。本件でも、夫の「離婚する」という説明だけでは不倫相手の責任が免除されないと判断されています。

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岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了