離婚後も一緒に住むのはOK?離婚同居のメリット・デメリット
様々な事情により、離婚届を出した後に同居を続ける夫婦は存在します。また、法律上の夫婦であることをやめ、事実婚を選ぶ方もいます。
離婚後に同居を続けること自体に法的な問題はありませんが、夫婦の関係性によってはトラブルが起きてしまう可能性があるほか、ひとり親向けの手当が受給できない可能性があるなど、見過ごせないデメリットも存在します。
また、離婚後の同居が単なる同居人としての同居なのか、事実婚・内縁関係としての同居なのかによっても法的な扱いが異なる点に注意が必要です。
この記事では、離婚後も同居することのメリット・デメリットと注意点を解説します。
目次
離婚後も同居することはできる?
離婚後も同居できる!
夫婦が離婚後も同居し続けることは可能です。ルームシェアや同棲、事実婚などと同じく、法的な問題はありません。
どのような関係性で同居を続けるかは夫婦によります。子どもの父母としての協力関係や、ただ同じ家に住んでいる同居人などです。また、夫婦としての関係を継続しながら籍だけを抜いて、事実婚の関係を選ぶ夫婦もいます。
離婚後の同居、生活費はどうなる?
婚姻中は夫婦それぞれが収入に応じて生活費を負担しているかと思いますが、離婚後も相手に生活費を支払ってもらうことはできるのでしょうか。
婚姻中の夫婦は、法律上互いを扶助する義務を負います。
しかし、夫婦でなくなった場合、生活費を分担する義務はなくなります。したがって、離婚後に相手に対して生活費の支払いを強制することはできません。
もちろん、任意で生活費の負担をお願いするのは問題ありません。
離婚後の生活費をどのように分担するのかは、夫婦ごとに事情がありますので、ケースごとに話し合いによって決める必要があります。
婚姻中と同じように家計を同一にする方法や、家賃・光熱費などの固定費を折半し、それ以外は各々が自分の分を払う方法など、様々な分け方が考えられます。
離婚後の同居、養育費はどうなる?
未成熟の子どもがいる夫婦が離婚した場合は、非監護親から監護親へ、養育費を支払うのが普通です。
しかし、離婚後も同居を続ける場合は少し事情が違います。家計を共にして直接養っているのであれば、わざわざ養育費を渡す必要はないかもしれません。あるいは、同居によって浮いた分を差し引いて、少額の養育費を渡すことも考えられます。
離婚後であっても子どもを扶養する義務はなくなりませんので、相手が養育費を支払わない場合は、養育費請求調停・審判を起こして請求することができます。
離婚時に強制執行を認める旨の公正証書を作成していたのであれば、調停を経ずに強制執行を行うことも可能です。
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・離婚後の養育費の相場はいくら?支払われなかったらどうする?
離婚しても同居を続けるメリット・デメリット
離婚後も同居を続けるメリット
子どもへの影響が少ない
子どもの養育環境が変わらないという点は、非常に重要なメリットです。
引っ越しをしなければ、子どもに転校や転園をさせる必要がありません。
親にとっても、面会交流の手間をかけずに子どもと関わり続けることができるほか、両親が協力して子どもの面倒を見ることができるため、子育ての負担を軽減することもできます。
住む場所が見つかるまでの居場所ができる
離婚しても、すぐに住む場所が見つからない場合もあります。自分の職場や子どもの学業の関係で、遠くには引っ越せないという方は多いですし、新しい家の初期費用や引越し費用を用意できない方もいます。
そういった方は、離婚後もしばらくの間は同居を続けながら、余裕をもって住む場所を探すことができます。
生活費を抑えられる
別居すれば2人分の家賃や光熱費がかかるところ、同居を続けていれば今まで通り1軒分の費用を2人で折半することができるため、生活費を抑えることができます。
お金が貯まるまでは同居を続けるというのもひとつの選択肢です。
世間体が保てる
戸籍上は離婚していても、同居していれば外側からは普通の夫婦に見えるため、世間体が保てます。
子どもにとっても、友達に両親が離婚したことを知られづらいというメリットがあります。
関係がよくなることも
離婚したことによって、かえって関係性がよくなる夫婦もいるようです。
婚姻中の「夫婦でいなければならない」というプレッシャーや期待から解放され、「同居人」や「子どもの両親」のような関係性に変わることで、よきパートナーになれる可能性があります。
離婚後も同居を続けるデメリット
子どもへの影響
両親の関係性が悪い場合は、家の中で険悪な空気が流れ、子どもが気まずい思いをしてしまう可能性があります。こういった環境は、子どもの成長に悪影響を与えると考えられます。
また、子どもの苗字についても複雑な状況になる可能性があります。婚姻時に苗字を変えた方(多くの場合母親)が親権者となり、子どもを母親の戸籍に移す場合、子どもの苗字も母親の旧姓に変える必要があるため、同じ家に住んでいながら父親とは苗字が異なる状況になってしまいます。
ただし、この問題は、母親が苗字を旧姓に戻さない手続きを行ったり、子どもの戸籍を移さない方法を使うことで、避けることも可能です。
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顔を合わせる必要がある
同じ家で暮らすのであれば、必然的に家の中で顔を合わせることになります。2人の関係性が良好なのであれば問題ないかもしれませんが、相手をよく思っていない場合は大きなストレスになるでしょう。
また、同じ家に住む以上、家事やお金に関する最低限の会話は避けられません。
「離婚後も同居するのはおかしい」と言う人がいる理由は、離婚するほど仲が悪くなったのに、同じ家で顔を合わせるということを不思議に感じるからなのではないでしょうか。
再婚しづらい
離婚した以上、新しい恋人を作ったり、再婚したりするのは互いの自由であり、不貞慰謝料を請求することもできません。とはいえ、同じ家に元配偶者が住んでいる状態では、再婚に踏み切るのは難しいでしょう。
追い出されるリスクがある
婚姻中の夫婦は、同居義務を負っています。これに反して勝手に家を出たり、相手を追い出したりすると、悪意の遺棄といって離婚原因や慰謝料請求原因になります。
一方、離婚後は法律上の同居義務がないため、いきなり追い出されたり、相手が勝手に家を出ていっても、同居を求めたり、慰謝料を請求することはできません。
このように、離婚後の同居は、住居の面で不安定な状態であるといえます。
手当・控除を受けられない
通常、ひとり親は児童扶養手当などの公的支援を受けることができます。
しかし、元配偶者と離婚後も同居している場合は、こういった手当の対象にならない可能性があります。
また、たとえ同居していても、配偶者控除や扶養控除が受けられないことが多いです。
このような理由で、同居しない方が得なケースも起こり得ます。
同居のまま離婚したら手当は受けられる?
手当や生活保護の不正受給は犯罪!
ひとり親家庭や低所得世帯を対象とした手当金や生活保護費は、世帯の収入が一定以下であることや、事実婚関係にある相手がいないことが受給条件となっている場合が多くあります。
こういった手当を受けるために、偽装離婚をして世帯の収入を低く見せようとするケースもあるようですが、嘘の情報を申告して手当や生活保護費を不正受給した場合、受給した手当の返還が求められるだけでなく、詐欺罪などの罪に問われる可能性があります。
ただし、同居状態で手当を受けることが必ずしも違法なわけではありません。離婚した人が受けられる手当には様々なものがありますが、受給の基準や対象はそれぞれ異なります。代表的な手当金の受給基準を紹介します。
児童扶養手当(旧母子手当)
18歳以下の子どもを持つひとり親家庭は、所得などの要件を満たせば児童扶養手当(旧母子手当)を受給することができます。
しかし、離婚後も両親が同居している場合、児童扶養手当を受け取れない可能性があります。
児童扶養手当を受給できる要件のひとつに「父または母の配偶者(事実婚を含む)と生計を同じくしていないこと」があります。
両親が離婚後も同居している場合、事実婚関係であるとみなされて児童扶養手当の支給が認められない場合があります。
また、児童扶養手当の受給開始後に事実婚状態であることが発覚した場合、不正受給であるとして返還を求められたり、罰金に処される可能性もあります。
高校無償化
年収が一定以下の世帯は、高校授業料の無償化(高等学校等就学支援金)を受けることができます。
高校無償化の基準として用いるのは「親権者の収入」です。婚姻中は両親が親権を持っているため2人の収入をもとに、離婚後は親権者ひとりの収入のみをもとに審査されます。
離婚後に両親が同居していても、2人の収入を合算することはないようですが、ご不安な方は通っている学校もしくは自治体の担当部局に確認してみることをおすすめします。
生活保護
生活保護の受給可否は、世帯の収入や資産、就労能力などによって判断されます。
離婚すれば世帯収入は下がるため、生活保護が受給できる可能性は高まるように見えます。しかし、元夫婦が同居し生計を共にしていれば、相手の収入も合算されてしまいます。
2人の収入を合わせても生活保護の受給基準を満たすのであれば、世帯として生活保護を受けることができます。しかし、そうはいかない場合が多いでしょう。
離婚後も同居を続けるのであれば、生活保護を受けられる可能性は下がるといえます。
生活保護の不正受給は犯罪です。元配偶者と同居していることを隠して生活保護を受給できても、ケースワーカーの訪問があれば同居の実態はバレてしまいます。もし生活保護を受ける必要があるのであれば、別居した方がよいでしょう。
配偶者控除・扶養控除
配偶者控除や扶養控除は、離婚すると受けられなくなるのが原則です。
同居しており事実婚(内縁)の関係にあったとしても、法律上の夫婦でない限り配偶者控除を受けることはできません。
ただし、子どもの扶養控除は、親権者でなくとも子どもと生計を一つにしていれば受けることができます。
父親が子どもの扶養控除を受けていたら、母親は扶養控除を受けられない点には注意が必要です。
事実婚(内縁)関係として同居しているのであれば、社会保険の扶養に入ることは可能です。
世帯分離の手続きをする
離婚後も同居を続ける場合は、世帯分離の手続きを行いましょう。世帯分離の手続きは、市区町村役場で行えます。
世帯分離を行うと、社会保険料や税金の計算の際に、収入が合算されなくなります。
また、各種手当などを受けられるかどうかは、世帯全体の収入をもとに判断されます。世帯分離を行うことで、対象となる収入がひとり分になるため、受給が認められやすくなる場合があります。
ただし、役所の窓口で世帯分離の理由や状況を確認されることがあり、離婚後も家計を同一にしている場合は、世帯分離が認められない可能性もあります。
離婚後の同居の注意点
生活上のルール作り
同居中のトラブルを防ぐために、離婚時に生活費や家事、子育ての分担など同居生活のルールを作っておくことをおすすめします。離婚すると配偶者に対する法律上の責任がなくなるため、互いに気持ちよく生活するためには、婚姻中以上にルール作りが重要になります。
ルールが決まったら、後から言った言わないの争いになるのを防ぐため、離婚協議書を作成しておきましょう。
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親権で妥協しない
離婚する際には、未成年の子どもの親権者を、必ずどちらか一方に決めなければなりません。
「離婚後も子どもと同居できるから、親権にはこだわらない」という考えで安易に親権を渡してしまうのは危険です。
もし相手が子どもを連れて家を出て行ってしまったら、親権を持っていない方の親が子どもを取り戻すというのは、非常に難しくなってしまいます。
離婚後に同居を続ける場合でも、親権については納得できるまで話し合って決める必要があります。
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財産分与しない方がいいケース
離婚後も同居を続ける場合、財産分与に注意が必要です。
事実婚の状態にすることが目的の離婚なら、財産分与はしない方がよいでしょう。
通常、財産分与のために財産を移転しても贈与税は課されません。それは、財産分与の性質が、一方から財産を譲渡するというよりは、もともと2人の財産であったものを清算するという目的のものだからです。
しかし、事実婚の場合は、婚姻状態は継続されるため清算の必要性がありません。事実婚に移行する際に財産分与を行うと、贈与税の脱税の疑いがかけられてしまう可能性があります。
財産分与した方がいいケース
一方で、事実婚に移行するのが目的ではない通常の離婚の場合は、離婚時にしっかりと財産分与を行うことをおすすめします。
離婚後も自宅に住み続けることができるため、自宅の財産分与についてしっかりと取り決めをせずに離婚届を提出してしまうケースがあるようですが、そのままだと後悔することになるかもしれません。
離婚時に相手に自宅の名義を渡すのであれば、他の財産を受け取ってバランスを取ることができるため、忘れずに受け取っておかなければ損してしまいます。
財産分与の請求には離婚から2年間という期限があるため、同居している間に期限を過ぎ、請求できなくなってしまう可能性があります。離婚時に財産分与を済ませておいた方が確実です。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
児童扶養手当の要件でいうところの「事実婚」とは、「社会通念上、当事者間に夫婦としての共同生活と認められる事実関係が存在する」状態を指します。