婚氏続称の手続き・書き方・必要書類|子どもの苗字の変更手続きも解説!
離婚によって苗字を変えたくない方は、婚氏続称(こんしぞくしょう)という手続きを取ることで、離婚後も婚姻中の苗字を使い続けることができます。
婚氏続称のために必要な手続きは、婚氏続称届の提出です。
離婚届と同時に、または離婚届の提出から3か月以内に、役所に婚氏続称届を提出するだけでよく、複雑な手続きは必要ありません。
ただし、離婚に伴って子どもの苗字を変更したり、子どもの戸籍を移したりするには、別途手続きが必要です。
この記事の前半では、離婚後も婚姻中の苗字を使い続けるための制度や具体的な手続き方法を、後半では、離婚後に子どもの苗字を変えるための手続き方法を解説します。
婚氏続称制度とは
婚氏続称とは?
婚氏続称(こんしぞくしょう)とは、離婚する時に旧姓に戻る方の配偶者が、婚姻中の苗字を使い続けることができる制度です。
婚氏続称の手続きは、市区町村役場に「離婚の際に称していた氏を称する届(婚氏続称届)」を提出すれば完了します。
婚氏続称のメリット・デメリット
婚姻中の苗字を引き続き名乗ると、このようなメリットがあります。
- 子どもと同じ苗字を名乗れる
- 離婚したことが周囲に知られない
- 名義変更の手間がかからない
一方で、婚氏続称にはこのようなデメリットもあります。
- 簡単には旧姓に戻れなくなる
- 元夫との繋がりを感じてしまう
- 元夫が嫌がる場合もある
婚氏続称をすると戸籍の記載はどうなる?
離婚時に婚氏続称の手続きを行った方の戸籍には、「身分事項:離婚」と「身分事項:氏の変更」が記載されます。
したがって、将来再婚相手や子どもが戸籍謄本を取得すれば、元配偶者の苗字を名乗っていることが分かります。
婚氏続称届の書き方・出し方・必要書類
離婚後に苗字を変えたくない場合は、「離婚の際に称していた氏を称する届(婚氏続称届)」を提出する必要があります。
婚氏続称届を提出するタイミング
婚氏続称届を提出するタイミングは、離婚届の提出と同時、または離婚から3か月以内です。
離婚届よりも後に提出する場合は、それまでの間は一度旧姓に戻ることになってしまいますので、同時に提出することをおすすめします。
婚氏続称届はどこでもらえる?どこに出す?
婚氏続称届は、役所の窓口またはダウンロードで入手することができます。ダウンロードしたものを印刷する際は、A4の用紙を使用してください。
婚氏続称届の提出先は市区町村役場で、本籍地でなくとも、住所地または所在地(居所や一次滞在地)の役場でも提出できます。
婚氏続称の手続きに必要な書類
婚氏続称の手続きの際の持ち物は以下の通りです。なお、本人が記入した届を代理人が提出に行くことも可能で、委任状は不要です。
離婚届と同時に提出する場合
- 離婚届
- 本人確認書類
- 離婚の際に称していた氏を称する届
- 夫婦の戸籍謄本(本籍地以外の市区町村へ提出する場合)
離婚届とは別の日に提出する場合
- 離婚の際に称していた氏を称する届
- 自分の戸籍謄本(本籍地以外の市区町村へ提出する場合)
婚氏続称届の書き方|離婚届と同時に提出する場合
婚氏続称届の書き方は、離婚届と同時に提出する場合と、離婚届の後から提出する場合とで異なります。
①離婚の際に称していた氏を称する人の氏名
婚姻中の氏名を記入します。
②住所
現在の住所を記入します。既に別居しており、住民票を移してある場合は、住民登録をしている所の住所を記入します。
また、転居届・転入届を同時に提出する場合は、転居先の住所と世帯主を記入します。
③本籍
離婚前の本籍を記入します。離婚届には新しい本籍を記入しますが、そちらではなく婚姻中の本籍です。
筆頭者の欄には、婚姻中の戸籍の筆頭者を記入します。
④氏
婚氏続称届を離婚届と同時に提出する場合は、左右それぞれに同じ苗字(婚姻中の苗字)を記入します。
⑤離婚年月日
離婚年月日は、離婚の方法によって異なります。
- 協議離婚:離婚届の提出日
- 調停、和解、認諾:調停や和解が成立した日、または認諾が成立した日を記入します。
- 審判、判決:審判・判決の告知を受けた日ではなく、確定日を記入します。
⑥離婚の際に称していた氏を称した後の本籍
離婚後の新しい本籍を記入します。離婚届の「婚姻前の氏にもどる者の本籍」に記入したものと同じです。
⑦その他
特別な事情がなければ記入の必要はありません。
⑧届出人署名
本人が自筆で署名する必要があります。
現在名乗っている氏名を記入します。押印はしてもしなくても構いません。
婚氏続称届の書き方|離婚届の後から提出する場合
①離婚の際に称していた氏を称する人の氏名
離婚届の後から提出する場合は、現在の氏名、つまり旧姓を記入します。
②住所
現在の住所を記入します。
③本籍
現在の本籍を記入します。
④氏
左側には現在名乗っている苗字(旧姓)を、右側には婚姻中の苗字を記入します。
⑤離婚年月日
離婚年月日は、離婚の方法によって異なります。
- 協議離婚:離婚届の提出日
- 調停、和解、認諾:調停や和解が成立した日、または認諾が成立した日を記入します。
- 審判、判決:審判・判決の告知を受けた日ではなく、確定日を記入します。
⑥離婚の際に称していた氏を称した後の本籍
現在、離婚時に新しく作った戸籍に1人で入っている場合は、③の本籍と記入すべき内容が同じため、省略可能です。
⑦その他
特別な事情がなければ記入の必要はありません。
⑧届出人署名
現在名乗っている氏名(旧姓)を記入します。押印はしてもしなくても構いません。本人が自筆で署名する必要があります。
離婚から3か月を過ぎてしまったら?
3か月経過後に婚姻中の苗字に戻したくなった場合は、家庭裁判所に「氏の変更許可申立」をする必要があります。
申し立てをしたからといって必ず変更が認められる訳ではなく、3か月が経過した後から氏名を変更するには、「やむを得ない事由」が必要です。旧姓に戻ってから時間が経つほど、苗字の変更は認められづらくなります。
婚氏続称の2つの注意点
離婚届の提出時に新しい戸籍を作っておく
婚氏続称の手続きを行うためには、自分だけの新しい戸籍を作っておく必要があります。新しい戸籍を作るための手続きは、離婚届を記入する際に「新しい戸籍をつくる」にチェックを入れるだけです。
▼離婚届
離婚届の提出時に新しい戸籍を作り忘れていた場合でも、後から分籍届を提出すれば元の戸籍を抜けることができます。
簡単には旧姓に戻れなくなる
一度婚氏続称を選ぶと、簡単には旧姓に戻れなくなってしまいます。
旧姓に戻りたくなった場合は、家庭裁判所に「氏の変更許可申立」をして、許可を得る必要があります。
また、再婚をしたタイミングや、再度離婚をしたタイミングでも、最初の苗字に戻ることはできません。
子の氏の変更許可申立書の書き方・出し方・必要書類
子どもの苗字と戸籍は離婚後もそのまま
離婚をして母親が親権を得た場合でも、何もしなければ子どもは元の戸籍(多くの場合は父親の戸籍)に残り、父親の苗字を名乗り続けます。
そのままでも母親が親権を行うに際して大きな問題はありませんが、母親と苗字が異なることや、父親の戸籍に残り続けることを避けたいと考える方もいます。
離婚後に手続きを行えば、子どもの苗字を母親のものに変え、戸籍を移すことが可能です。
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子どもを自分の戸籍に入れる手続きは?
離婚後に子どもを自分と同じ戸籍に入れるためには、まず子どもの苗字を自分と同じ苗字に変更する必要があります。
母親が婚氏続称の手続きを行った場合でも、子の氏の変更許可申立の手続きは必須です。
婚氏続称を選んだ場合、子どもと自分の苗字は同じままなので、子の氏の変更許可も必要ないように思えます。しかし、婚氏続称によって名乗ることになった妻の苗字と、夫の苗字とは、別物であるという扱いになっています。
したがって、父親の戸籍から母親の戸籍へ子どもを移す場合は、子の氏の変更許可申立が必要です。
離婚後に子どもを自分の戸籍に入れたい場合の手続きは、以下の通りです。
子どもの戸籍を移す手続き
- 家庭裁判所に「子の氏の変更許可申立」を行う。
- 氏の変更が認められたら、役所で「入籍届」の手続きを行う。
子の氏の変更許可申立書はどこでもらえる?どこに出す?
子どもの苗字を変更する許可を得るには、「子の氏の変更許可申立書」および必要書類を家庭裁判所に提出する必要があります。
子の氏の変更許可申立書は、家庭裁判所に行けばもらえるほか、裁判所のホームページからダウンロードして使うこともできます。
申立書は、必要書類とともに子どもの住所地を管轄する家庭裁判所に提出します。郵送で提出することも可能です。
申立を行うと、特に問題がなければその日のうちに変更許可が下りることが多いようです。
15歳以上の子どもは自分で変更許可を申し立てる
子どもが15歳未満の場合は法定代理人(親)が子の氏の変更許可申立を行いますが、子どもが15歳以上の場合は子ども本人が申立人となります。
もちろん、書類の用意等は親と一緒に行って構いません。
申立書の書き方も異なるため注意してください。
子の氏の変更許可申立の必要書類
- 子の氏の変更許可申立書
- 子ども1人につき800円分の収入印紙
- 切手代(金額は家庭裁判所によって異なる)
- 父母の戸籍謄本
- 子どもの戸籍謄本
子の氏の変更許可申立書の書き方
子の氏の変更許可申立書の書き方は、子どもが15歳未満か、15歳以上かによって異なります。
2パターンの記入例を紹介します。
▼子どもが15歳未満の場合の記入例(1ページ目)
▼子どもが15歳以上の場合の記入例(1ページ目)
①裁判所・日付・申立人の記名押印
左側に、申立先の家庭裁判所の名前と、申立書の作成年月日を記入します。
右側に、申立人が記名・押印します。
申立人となるのは、子どもが15歳未満のときは法定代理人(親)、15歳以上の場合は子ども本人です。
▼子どもが15歳未満の場合(法定代理人が申立人)
▼子どもが15歳以上の場合(子ども本人が申立人)
②申立人(子)
子どもの本籍と住所は、申立てをする時点のものを記入します。
1枚の申立書に、最大で3人分記入することができます。
③法定代理人
子どもが15歳未満の場合は、法定代理人の欄にも記入する必要があります。子どもが15歳以上であれば、この欄は空欄にします。
本籍の欄には、法定代理人(多くの場合母親)の現在の本籍を記入します。
法定代理人の現住所も記入しますが、既に子どもと同居しており住所が同じ場合は、「上記申立人の住所に同じ」と記入すれば、省略可能です。
④申立ての趣旨
2ページ目の書き方は、子どもが15歳未満・15歳以上で共通です。
「申立人の氏」には子どもの現在の苗字(多くの場合父親の苗字)を記入し、誰の苗字に変えるかに〇をつけます(多くの場合母)。右側のかっこの中には、変更後の苗字を記入します。
⑤申立ての理由
「父・母と氏を異にする理由」の欄は、1の父母の離婚に〇をつけます。また、「その他年月日」に離婚した年月日を記入します。
「申立ての動機」の欄は、当てはまるものを選んで〇をつけます。たとえば、既に母と同居していて、戸籍が違うことによって生活上の支障があるという場合には、1を選びます。
子どもが複数人いて申立ての動機がそれぞれ異なる場合には、その旨も記載します。
変更許可が下りたら入籍届を提出する
子どもの苗字の変更許可が下りたら、市区町村役場に入籍届を提出します。その際に、家庭裁判所から受け取った審判書の謄本もあわせて提出します。
また、本籍地以外の役所に届け出る場合は、子どもの入っている戸籍謄本と子どもが入籍する親の戸籍謄本が必要です。
たとえば、母親の本籍地であって子どもの本籍地ではないところに入籍届を提出する場合は、子どもの戸籍謄本のみが必要です。
この手続きを終えると、変更が戸籍に反映されます。
まとめ
婚姻中の苗字を使い続けるためには、離婚届の提出と同時または3か月以内に、婚氏続称届を提出する必要があります。婚氏続称の手続きには、元配偶者の許可も裁判所の許可も必要ありません。
離婚届の提出から3か月を過ぎてしまうと、裁判所の許可がなければ苗字を変更できなくなるため注意してください。
子どもの戸籍を元の戸籍から自分の戸籍に移したい場合は、まず裁判所に子の氏の変更許可申立をして、子どもの苗字を自分と揃えなければなりません。
これは、婚氏続称の手続きを行っていて子どもの苗字が変わらない場合でも必要です。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了