離婚後に苗字を変えない理由は?婚氏続称のメリット・デメリット

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離婚後の苗字

結婚するときに苗字を変えた方は、離婚後に何もしなければ結婚前の苗字に戻ります。

離婚後も婚姻中の苗字を使い続けたい場合は、離婚成立から3か月以内に婚氏続称(こんしぞくしょう)の届出が必要です。内閣府の「家族の法制に関する世論調査(令和4年)」によると、結婚時に苗字を変えて離婚を経験した方のうち、婚氏続称の届出をした方は約39%にのぼります。

仕事や子どもの苗字との兼ね合いなど、さまざまな理由から旧姓に戻すことを望まない方もいます。そういった方のために、離婚後も婚姻中の苗字を使い続けられる制度が設けられています。一方で、別れた配偶者の苗字を引き続き名乗ることに抵抗を感じる方もいるでしょう。

この記事では、離婚後の苗字をどうするか迷っている方に向けて、婚氏続称のメリットとデメリットを解説します。

離婚後も夫の苗字を使い続けることができる

婚氏続称とは?

結婚するときに苗字を変えた方は、離婚時に何も手続きをしなければ結婚前の苗字に戻ります。これを復氏(ふくうじ)といいます。

離婚によって苗字が変わると、名義変更の手間や職場・学校での混乱など、さまざまな困りごとが生じることがあります。そのため、婚姻中の苗字をそのまま使い続けられる「婚氏続称」という制度が設けられています。

婚氏続称の手続き

離婚後に苗字を変えたくない場合は、離婚届の提出と同時か、離婚成立から3か月以内に「離婚の際に称していた氏を称する届(婚氏続称届)」を市区町村役場に提出する必要があります。役所に届け出るだけで手続きは完了し、元配偶者の同意は不要です。

ただし、婚氏続称の手続きをした後で、やはり結婚前の苗字(旧姓)に戻したくなった場合は、家庭裁判所の許可が必要です

離婚後に苗字を変えないメリット

離婚後も夫の苗字を使い続けると、このようなメリットがあります。婚氏続称には、社会的なメリットが大きいようです。

  • 職場や取引先で定着した名前を使い続けることができる
  • 子どもが同じ苗字を使い続けることができる
  • 婚姻中の名前で築いた実績を引き継げる
  • 離婚したことが周囲に知られない
  • 名義変更の手間がかからない

職場や取引先で定着した名前を使い続けることができる

職場の人や取引先などで定着した名前で、引き続き仕事をすることができます。苗字が変わってしまうと、名刺を作り直したり、名前を覚えなおしてもらうことになってしまいます。

子どもが同じ苗字を使い続けることができる

自分が旧姓に戻っていると、家庭裁判所で子の氏の変更許可を得て子どもを父親の戸籍から自分の戸籍に移したとき、子どもの苗字も同じく旧姓に変わります。

婚氏続称の手続きをしていれば、同じように子の氏の変更許可を得て戸籍を移しても、日常で名乗る苗字は変わりません。学校でもそれまでと同じ苗字を使い続けることができます。

法務省の「協議離婚に関する実態調査」によると、離婚前に子どもへ苗字変更について話をした割合は、子どもと同居する監護親で41.6%にのぼります。子どもの苗字をどうするかは、多くの親が離婚前から真剣に考えている問題といえます。

婚姻中の名前で築いた実績を引き継げる

婚姻中の名前でメディアやインターネット、学術界などで知名度を築いてきた方は、新しい名前で活動を始めると、過去の事績が失われてしまう可能性があります。しかし、夫の苗字を使い続ければ、婚姻中の名前で築いた実績をそのまま引き継ぐことができます

離婚したことが周囲に知られない

離婚したことが会社や知人に分かってしまう要因のひとつが、苗字の変更です。

離婚したことを周りに知られたくない場合は、婚氏続称の手続きを行えば苗字から離婚がバレる心配はありません

名義変更の手間がかからない

結婚した際にも実感されたかと思いますが、氏名が変わると様々な手続きが必要です。例えば、マイナンバーカード、運転免許証、クレジットカード、銀行、資格の証書の名義変更などがあります。

婚姻中の苗字を使い続ける場合は、こういった名義変更の手間がかかりません

離婚後に苗字を変えないデメリット

一方で、夫の苗字を使い続ける場合は、以下のようなデメリットもあります。

  • 簡単には旧姓に戻れなくなる
  • 元夫とのつながりを感じてしまう
  • 元夫が嫌がる場合もある
  • 自分の親族と違う苗字になってしまう

簡単には旧姓に戻れなくなる

一度婚氏続称を選ぶと、簡単には旧姓に戻れなくなります。旧姓に戻りたくなった場合は、家庭裁判所に「氏の変更許可」を申し立て、許可を得る必要があります

この申し立てには「やむを得ない事由」が必要なため、簡単には認められません。「やむを得ない事由」の判断は個別の事情によって異なります。

裁判例では、離婚後15年以上婚姻中の苗字を使い続けた方が旧姓への変更を申し立てたケースで、子どもの成人・実家との同居・周囲からの認識・子どもの同意といった事情を総合考慮して変更が許可されたことがあります(東京高決平26・10・2)。「そろそろ戻したい」という気持ちだけでは「やむを得ない事由」とは認められないのが実務上の傾向です。

また、再婚や再度離婚をしたタイミングでも、家庭裁判所の許可なしに最初の苗字に直接戻ることはできません。

このように、婚氏続称を選んだ後にもとの苗字に戻るには高いハードルがあります。

元夫とのつながりを感じてしまう

元夫の苗字を使い続けていると、元夫のことを思い出してしまうきっかけになります。また、新しいパートナーができた際には、パートナーの気持ちに影響する可能性もあります。

元夫が嫌がる場合もある

元夫の苗字を使い続けるのに、元夫の許可は必要ありません。しかし、別れた妻が自分の苗字を使い続けていると分かると、元夫やその家族が不快感を示す可能性もあります。

自分の親族と違う苗字になってしまう

婚氏続称を選んだ場合、自分の親兄弟や親戚とは違う苗字になってしまいます。また、親と同じ戸籍に戻ることもできません。これにより、親族との繋がりを感じづらくなってしまう可能性があります。

また、親族と苗字が違うと、亡くなったときに同じお墓に入れない場合があります。宗派や墓地のルールによっては、苗字が異なる人を一緒に埋葬することが認められない可能性があります。

離婚後に旧姓に戻るメリット

離婚後に旧姓に戻ると、このようなメリットがあります。苗字を戻すと、心理的なメリットが大きいようです。

  • 心機一転、新たな人生をスタートできる
  • 元夫への気持ちを断ち切ることができる
  • 自分の親族と同じ苗字に戻れる

心機一転、新たな人生をスタートできる

苗字を変えることで、離婚という過去と決別し、新たな人生をスタートできます。離婚の痛みや苦しみから解放され、前向きに生きていくきっかけになるでしょう。

元夫への気持ちを断ち切ることができる

離婚したとはいえ、長年連れ添った相手への思いはなかなか消えないものです。旧姓に戻ることで縁が切れたことを実感し、新たな一歩を踏み出しやすくなる方もいます。

自分の親族と同じ苗字に戻れる

旧姓に戻れば、自分の親兄弟や親戚と同じ苗字を名乗ることができます。親と同じ戸籍に戻ることもできるため、心理的な繋がりを持つことができるでしょう。

また、親族と苗字が同じであれば、亡くなったときに同じお墓に入ることができます

離婚後に旧姓に戻るデメリット

一方、離婚後に旧姓に戻ると、このようなデメリットがあります。

  • 愛着のある苗字を手放すことになる
  • 名前を覚えなおしてもらう必要がある
  • 子どもの苗字が変わってしまう
  • 婚姻中の名前で築いた実績が失われてしまう
  • 離婚したことが周囲に分かってしまう
  • 名義変更の手間がかかる

愛着のある苗字を手放すことになる

旧姓よりも長い間、夫の苗字を名乗っていた方も多いでしょう。

婚姻期間が長いほど、自分の苗字に愛着が生まれ、アイデンティティを感じます。いきなり旧姓に戻ると、寂しく感じるかもしれません。

名前を覚えなおしてもらう必要がある

苗字が変わると、名刺を作り直したり、職場や取引先に名前を覚えなおしてもらう必要があり、混乱が生じる可能性があります。そういった状況に申し訳なさを感じる方もいるかもしれません。

子どもの苗字が変わってしまう

自分が旧姓に戻っていると、子どもを自分の戸籍に移したとき、子どもの苗字も同じく旧姓に変わります。

内閣府の「家族の法制に関する世論調査(令和4年)」によると、子どもへの好ましくない影響を懸念する人のうち78.6%が、「友人から親と名字が違うことを指摘されるなど、対人関係で心理的負担が生じる」ことを挙げています。

子どもの苗字が変わることに抵抗を感じる親が多いのは、こうした背景があります。

婚姻中の名前で築いた実績が失われてしまう

結婚後、その苗字で活動してきたことで、メディアやインターネットなどで名前が知られるようになった人もいるでしょう。そういった方は、苗字を変えると知名度やブランド力を失ってしまう可能性があります。

また、氏名が変わることで、専門職や学者として築いてきた実績が失われてしまう恐れがあります。

離婚したことが周囲に分かってしまう

苗字が変わると、周りの人からも離婚したことが分かります。自分が置かれた状況を周囲に理解してもらえる一方で、不必要に詮索されたり、言いふらされたりするのを避けたい方もいます。

名義変更の手間がかかる

離婚時に苗字が変わると、あらゆる身分証やサービスの名義変更が必要です。例をあげると、マイナンバーカード、運転免許証、クレジットカード、銀行、資格の証書など多岐にわたり、非常に大きな負担となります。

一方で、夫には名義変更の手続きが必要ないため、不公平にも感じます。

離婚後の苗字についてよくある質問

Q. 婚氏続称を選んだ後で旧姓に戻すことはできる?

婚氏続称を選んだ後でも旧姓に戻すことは可能ですが、家庭裁判所への「氏の変更許可申立」が必要です。裁判所が認めるには「やむを得ない事由」が求められ(戸籍法107条1項)、申し立てれば必ず認められるわけではありません

Q. 離婚後に苗字を変えない場合、子どもの戸籍はどうなる?

離婚後も婚氏続称をしていれば、子どもを自分の戸籍に移しても日常で名乗る苗字は変わりません。ただし子どもの戸籍を移すには、家庭裁判所への「子の氏の変更許可申立」と市区町村への入籍届が別途必要です(民法791条)。

Q. 婚氏続称の届出期限を過ぎたらどうなる?

離婚の日から3か月を過ぎると、婚氏続称の届出はできなくなります。その後に婚姻中の苗字に戻したい場合は、家庭裁判所への「氏の変更許可申立」が必要となり、「やむを得ない事由」を証明しなければなりません(戸籍法107条1項)。

Q. 再婚したとき、婚氏続称で名乗っていた苗字はどうなる?

再婚すると、婚姻の際に定めるところにより夫婦どちらかの苗字を称します(民法750条)。再婚時に配偶者の苗字に変えていた場合、再度離婚すると婚氏続称で使っていた前婚の苗字に戻ります。最初の結婚前の旧姓に戻りたい場合は、別途家庭裁判所の許可が必要です。


岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律税務グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了