60代の離婚|不安解消のためのポイントを解説
長年我慢してきたけれど、夫との生活にはもううんざり。そう感じて、60代で夫との離婚を決意する女性は少なくありません。
令和4年現在、60歳の女性の平均余命は28.84年となっています(令和4年簡易生命表の概況より)。60歳の時点でも、まだ30年近く寿命が残っているということです。
約30年という長い時間を、夫に対する不満を我慢しながら過ごすのはもったいないと感じる方も多いでしょう。
しかし、60代の離婚には、家計が苦しくなってしまうのではないか、一人で生活していけるのだろうかといった不安がつきまといます。
この記事では、60代女性の離婚の背景や、不安を解消するためのポイントについて解説します。
目次
60代の女性が離婚を決意する理由
定年退職したから
60代は、定年退職のタイミングです。定年を迎えると、夫と一日中顔を合わせることになります。
家事を一切せずなんでも妻に頼りきり、気晴らしに一人で出かけようとしてもどこへでも着いてくるタイプの夫もおり、仕事をしていたときよりむしろ妻の負担が大きくなってしまうこともあります。
それに耐えられないと感じて離婚を決意する方は多く、定年離婚という言葉があるほどです。
また、夫が受け取った退職金も財産分与で受け取れる場合があるため、定年退職を待ってから離婚を切り出すこともあります。
財産分与・年金分割が受けられるから
60代になると、夫婦の財産はかなり大きくなっているでしょう。したがって、離婚すれば相当な額の金額の財産分与が受け取れます。
また、65歳からは厚生年金・共済年金が受給できます。年金分割の手続きを行うことで、受け取れる年金の額を増やせる可能性があります。
女性は離婚後に金銭的に苦労することが多いですが、財産分与や年金分割は女性の離婚の後押しとなっているのではないでしょうか。
離婚できる最後のチャンスだから
夫や自分が病気になったり、介護が必要になると、離婚したくてもしづらくなってしまいます。
また、離婚後にやりたい趣味や仕事がある方や、再婚を考えている方は、体力があるうちに自由になりたいと感じるでしょう。
余生をのびのび過ごしたいと望む女性にとっては、互いに元気な60代が離婚のチャンスなのかもしれません。
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60代、離婚後の生活で不安なことは?
離婚後のお金が不安
60代で離婚を望む女性にとって、最も心配なのは、離婚後に自分一人の収入で生活していけるのかという点ではないでしょうか。
専業主婦・主夫として過ごしてきた方やパート・アルバイトで働いていた方が、離婚後すぐに自分の生活を支えられるだけの収入を得るというのは、現実的ではありませんし、いつまで働けるかも分かりません。
また、婚姻中に夫の扶養に入っていた方は、年金分割を受けたとしても夫に比べて少ない年金しか受け取れません。
十分な蓄えがないために、離婚を断念する方も少なくありません。
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離婚後の介護が不安
夫と一緒に住んでいれば、介護が必要になった時に互いに支え合うことができますが、離婚をすれば介護を夫に頼ることはできなくなります。
自分の子どもを頼ろうと思っても、遠方だったり、断られてしまうこともあるでしょう。ヘルパーを頼むにも費用が必要ですし、24時間サポートを受けられるわけではありません。
今は元気でも、いつ怪我や病気をしてしまうか分かりません。介護が必要になった時の見通しが立っていないと、不安に感じてしまいます。
離婚後の一人暮らしが不安
離婚後の一人暮らしを不安に感じる方は少なくありません。
一人で全ての家事を担うことになりますし、力仕事も自分でしなければなりません。体調が悪くなった時でも、気軽に夫を頼ることができなくなります。孤独死のリスクも見過ごせません。
また、一人で生活すると、孤独を感じることも多いでしょう。話し相手がいないというのは、想像以上に心身に影響を与えます。
60代女性の離婚は財産分与が重要!
60代女性の離婚後の生活を左右するのが財産分与です。
婚姻期間が長くなるほど、夫婦が協力して築いた財産も大きくなるため、熟年離婚では財産分与の額が大きくなるのが一般的です。
財産分与の額について、家庭裁判所の統計を見てみましょう。
婚姻年数が20年以下の夫婦の財産分与額は、100万円に満たないケースが最も多いのに対して、婚姻期間が20年以上の夫婦では600万〜2000万円が相場となっています。
このように、60代の離婚では多額の財産分与が見込まれるため、しっかりと話し合わなければ、離婚後の経済状況が著しく不公平になってしまう可能性があります。
もちろん、金額が大きい分、財産隠しや分与額をめぐってトラブルも起きやすくなるため、対策が必要です。
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60代の離婚、不安を解消するための3つのポイント
①離婚後の生活設計は万全に
離婚後の不安を解消するには、まず第一に万全な生活設計を考えてから離婚に踏み切ることが重要です。生活が立ち行かなくなることが予想されるならば、離婚以外の選択肢も検討しましょう。
例として、65歳で離婚して一人暮らしをしていく場合について、収支を試算してみます。
令和4年度の家計調査年報によると、65歳以上の女性単身世帯の1か月あたりの支出は148,971円となっています。
一方、年金分割を受けた人が受け取る平均年金月額は87,949円となっており(令和4年度厚生年金保険・国民年金事業の概況より)、年金だけでは生活費が月61,022円不足します。
65歳時点の余命を24年とします。仮に24年間この不足を貯蓄だけで補うとすると、約1,757万円の貯蓄が必要です。
働いて赤字を補うことももちろん可能ですが、いつまで健康で働けるかは分かりません。
さらに、自分が病気になったら、介護施設に入ることになったらと、臨時の出費についても考えておく必要があります。
こういったことを考慮して、離婚時点でいくらの資金があれば安心して生活できるかを計算してみてください。
また、離婚時には、財産分与や慰謝料など、配偶者から受け取れるお金があります。財産分与の見込み額を、2人の財産をもとに試算してみましょう。
年金分割によって年金がいくらになるかを知りたい場合は、年金事務所で手続きを行えば現時点での見込み額を教えてもらうことができます(50歳以上または障害年金の受給権者のみ)。
具体的な手続きとしては、「年金分割のための情報提供請求書」に年金見込み額の照会を希望する旨を記入して提出するだけです。
②年金分割の手続きを忘れない
年金分割とは、離婚した夫婦が婚姻期間中に納めた厚生年金・共済年金を分割して、それぞれに分け合う制度です。夫が納めた分の厚生年金・共済年金の一部を自分が納めたことにして、老後に受け取れる年金の額を増やすことができます。
厚生労働省の資料によると、年金分割を行った人は、平均で1か月の年金が約3万2千円増額しています。
さほど大きな金額ではないと感じるかもしれませんが、10年、20年と経つとかなりの差になりますので、離婚後は忘れず手続きを行ってください。
年金分割の手続きは、離婚届の提出後に年金事務所で行います。手続きには離婚から2年という期限があります。また、離婚後に夫が亡くなった場合は、死亡から1か月以内でないと手続きができません。
なお、平成20年3月以前と4月以降では年金分割の制度が異なるため注意が必要です。
平成20年3月以前に納めた年金については、合意分割といって夫婦の合意に基づき按分割合を決定します(上限50%)。手続きを行う際には、夫婦の合意を証明する書面が必要です。
平成20年4月以降の分には3号分割という制度が適用され、夫の同意がなくても50%の割合で年金分割が受けられます。
第3号被保険者であった期間が平成20年3月~4月にまたがる方は、合意分割の手続きをすれば、同時に3号分割の手続きもしたとみなされます。ただし、合意分割の手続きをするには夫の協力が必要です。
60歳になってもまだ働ける、十分な収入があるという方は、60〜65歳までのあいだ国民年金に任意加入したり、年金の受給開始を繰り下げることで、将来受け取る年金の額を増やすこともできます。
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③周りに頼れる人を見つけておく
離婚後の生活面での不安や孤独感を解消するためには、周りに頼れる人を見つけておくのがよいでしょう。
離婚をする前に、自分の親や子ども、友人、同僚、近所の人などに相談し、離婚後に困ったことがあったら助けてもらえるようにお願いしておきましょう。
また、家事を一人で行うのが難しいときは、家事代行サービスを頼ることもできますので、どんなサービスが利用できるかあらかじめ調べておくと安心です。
なお、子どもとの関係性には特に注意が必要です。子どもからしてみれば、老後は父母が助け合って生活してくれると思っていたのに、急に離婚すると言われて晴天の霹靂でしょう。
子どもの反対を押し切って離婚すると、子どもとの関係に亀裂が入ってしまう可能性があります。
子どもと疎遠になると、寂しいのはもちろんですが、いざ病気になったり介護が必要になった時に頼れる人がいなくなってしまいます。子どもとは離婚前によく話し合い、納得してもらった上で離婚することをおすすめします。
ただし、子どもからの支援をあてにしすぎるのは、子どもとの関係が悪化する重大な原因になりますので、無理に同居を迫ったり、仕送りを求めるのは避けた方がよいでしょう。
60代の離婚は弁護士に相談!
財産分与は弁護士に相談
60代女性の離婚後の生活を支えるためには、財産分与が非常に重要です。
公平に財産分与をするためには、ひとつひとつ財産をリストアップし、それを計算して分けるという作業が必要です。
財産分与を最大限受け取るためには、すべての財産を明らかにすることが重要であり、これを弁護士に依頼すると大きなメリットがあります。
財産分与で財産が減ってしまうことを恐れた配偶者が、隠し口座を作ったり、黙って不動産を買ったりなどして財産隠しを行っていることがあります。また、へそくりを作っている可能性も考えられます。財産隠しをされると、自分が受け取れる財産分与が減ってしまいます。
こういった隠し財産を証明し、交渉の場で認めさせるために、財産隠しの証拠を集める必要があります。証拠として有効なのは、隠し口座の通帳や銀行からの郵便物、不動産登記簿などです。
しかし、離婚の意思を知られてからでは証拠を消されてしまう可能性が高いため、離婚を切り出す前に証拠を探しましょう。
弁護士は、弁護士会照会といって、弁護士会を通して金融機関や証券会社、不動産会社などの団体に必要事項を照会することができます。確実に証拠を手に入れたいのであれば、弁護士へ依頼することをおすすめします。
弁護士が話し合いをサポート
60代で夫に離婚を切り出すと、「退職金が目当てなんだろう」「誰が家事をやるんだ」となどと言って、強く反発される可能性があります。また、財産分与をめぐって激しい争いになるおそれもあります。
したがって、強い意思をもって話し合いに臨まなければいけません。
しかし、夫と一対一で話し合うのに不安を感じる方も多いでしょう。弁護士は、依頼者の代理人となって相手方と離婚の交渉をすることができます。また、離婚調停や離婚裁判になった場合も、全面的なサポートを提供できます。
夫と一切会わずに手続きを進めてもらうことも可能ですので、ご自身の精神的・身体的負担を減らし、離婚を有利に進めるために、弁護士への依頼を検討してみてはいかがでしょうか。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
財産分与や慰謝料、年金分割の詳しい見通しについては、専門知識を持った弁護士に訊いてみるのもよいでしょう。