60代の離婚で後悔しないためのお金と生活の準備を弁護士が解説

長年我慢してきたものの、夫との生活に限界を感じ、還暦という人生の節目を機に離婚を決意する60代女性は少なくありません。
厚生労働省の令和6年簡易生命表の概況によると、60歳の女性の平均余命は28.92年です。残りの約30年を自分らしく生きるためには、離婚後の生活資金確保が最重要課題となります。
60代の離婚では婚姻期間が20年以上に及ぶケースが多く、財産分与額が600万円を超える夫婦が4割以上を占めています。財産分与と年金分割を組み合わせることで、離婚後の経済的な基盤を整えやすくなります。
この記事では、60代女性が離婚前に知っておくべきお金の相場や、老後の不安を解消するための具体的な手順について解説します。
目次
60代の女性が離婚を決意する理由は定年と金銭メリット
厚生労働省の人口動態統計によると、2024年の60代女性の離婚件数は11,205件で、2023年の10,695件から増加しています。同居期間30年以上の夫婦の離婚が全離婚件数の7.5%を占め、近年上昇傾向にあることも、この統計から読み取れます。
60代での離婚は一定数の女性が選んでいる現実があり、多くの方が人生の後半戦を見据えて新たな一歩を踏み出しています。
では、60代の女性はなぜこのタイミングで離婚を決意するのでしょうか。
主な理由は、定年退職と財産分与・年金分割による金銭的なメリットの2つです。以下、それぞれについて詳しく見ていきましょう。
定年退職で夫が家にいるストレス
60代は、定年退職のタイミングです。定年を迎えると、夫と一日中顔を合わせることになります。
家事を一切せずなんでも妻に頼りきり、気晴らしに一人で出かけようとしてもどこへでも着いてくるタイプの夫もおり、仕事をしていたときよりむしろ妻の負担が大きくなってしまうこともあります。
それに耐えられないと感じて離婚を決意する方は多く、定年離婚という言葉があるほどです。
また、夫が受け取った退職金も財産分与で受け取れる場合があるため、定年退職を待ってから離婚を切り出すこともあります。
多額の財産分与や年金分割が期待できる
60代になると、夫婦の財産はかなり大きくなっているでしょう。したがって、離婚すれば相当な額の財産分与が受け取れます。
また、65歳からは厚生年金・共済年金が受給できます。年金分割の手続きを行うことで、受け取れる年金の額を増やせる可能性があります。
女性は離婚後に金銭的に苦労することが多いですが、財産分与や年金分割は女性の離婚の後押しとなっているのではないでしょうか。
還暦は健康なうちに離婚できる最後の機会
夫や自分が病気になったり、介護が必要になると、離婚したくてもしづらくなってしまいます。
また、離婚後にやりたい趣味や仕事がある方や、再婚を考えている方は、体力があるうちに自由になりたいと感じるでしょう。
余生をのびのび過ごしたいと望む女性にとっては、互いに元気な60代が離婚のチャンスなのかもしれません。
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60代の離婚後の生活で生じる3つの不安
老後資金と年金だけで生活できるか
60代で離婚を望む女性にとって、最も心配なのは、離婚後に自分一人の収入で生活していけるのかという点ではないでしょうか。
専業主婦・主夫として過ごしてきた方やパート・アルバイトで働いていた方が、離婚後すぐに自分の生活を支えられるだけの収入を得るというのは、現実的ではありませんし、いつまで働けるかもわかりません。
また、婚姻中に夫の扶養に入っていた方は、年金分割を受けたとしても夫に比べて少ない年金しか受け取れません。
十分な蓄えがないために、離婚を断念する方も少なくありません。
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自身の介護が必要になった時の頼り先
夫と一緒に住んでいれば、介護が必要になった時に互いに支え合うことができますが、離婚をすれば介護を夫に頼ることはできなくなります。
自分の子どもを頼ろうと思っても、遠方だったり、断られてしまうこともあるでしょう。ヘルパーを頼むにも費用が必要ですし、24時間サポートを受けられるわけではありません。
今は元気でも、いつ怪我や病気をしてしまうか分かりません。介護が必要になった時の見通しが立っていないと、不安に感じてしまいます。
一人暮らしによる孤独感と防犯面
離婚後の一人暮らしを不安に感じる方は少なくありません。
一人で全ての家事を担うことになりますし、力仕事も自分でしなければなりません。体調が悪くなった時でも、気軽に夫を頼ることができなくなります。孤独死のリスクも見過ごせません。
また、一人で生活すると、孤独を感じることも多いでしょう。話し相手がいないというのは、想像以上に心身に影響を与えます。
60代女性の離婚は財産分与が重要!
60代女性の離婚後の生活を左右するのが財産分与です。婚姻期間が長くなるほど、夫婦が協力して築いた財産も大きくなるため、熟年離婚では財産分与の額が大きくなるのが一般的です。
令和6年度司法統計年報によると、婚姻20年以上の夫婦で財産分与額が確定したケースでは、1000万〜2000万円が相場となっています。以下のグラフをご覧ください。

このように、60代の離婚では多額の財産分与が見込まれるため、しっかりと話し合わなければ、離婚後の経済状況が著しく不公平になってしまう可能性があります。
財産分与を最大限受け取るためには、離婚を切り出す前の準備が重要です。
特に退職金については注意が必要です。既に受け取った退職金は明確に財産分与の対象になりますが、まだ受け取っていない退職金は、支給時期や金額の確実性によって分与対象になるかが変わります。退職金の見込み額は、勤務先の退職金規定で確認できます。
また、財産分与で不利にならないよう、夫が財産を隠すケースもあります。通帳のコピーや不動産の登記情報、保険証券、証券会社からの通知書などは、離婚を切り出す前に確実に入手しておきましょう。
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60代の離婚、不安を解消するための3つのポイント
①離婚後の生活設計と必要な資金を事前に確認する
離婚後の不安を解消するには、万全な生活設計を考えてから離婚に踏み切ることが重要です。経済的な見通しが立たない場合は、離婚以外の選択肢も検討しましょう。
例として、65歳で離婚して一人暮らしをする場合の収支を試算してみます。
総務省統計局の家計調査によると、65歳以上の一人暮らし女性の消費支出は月平均約155,923円です。一方、年金分割を受けた人の平均年金月額は94,509円(厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業の概況(令和6年度)」)であり、年金だけでは月61,414円の赤字となります。
65歳時点の余命を24年とすると、この不足額を貯蓄で補うには約1,768万円が必要です。働いて赤字を補うこともできますが、いつまで健康で働けるかはわかりません。病気や介護施設への入居など、臨時の出費も考慮する必要があります。
離婚時点でいくらの資金があれば安心して生活できるかを、ご自身の状況に合わせて計算してみてください。
離婚時には財産分与や慰謝料など、配偶者から受け取れるお金があります。夫婦の財産をもとに、財産分与の見込み額を試算しておきましょう。
年金分割後の年金見込み額は、50歳以上で老齢年金の受給資格期間を満たしている方であれば、事前に年金事務所で試算してもらえます。「年金分割のための情報提供請求書」に年金見込み額の照会を希望する旨を記入し、戸籍謄本などの必要書類を添えて提出してください。
②年金分割の手続きを忘れない
年金分割とは、離婚した夫婦が婚姻期間中に納めた厚生年金・共済年金を分割して、それぞれに分け合う制度です。夫が納めた分の厚生年金・共済年金の一部を自分が納めたことにして、老後に受け取れる年金の額を増やすことができます。
厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業の概況(令和6年度)」によると、年金分割を行った人は平均で1か月の年金が約3万3千円増額しています。
年金分割の手続きは、離婚届の提出後に年金事務所で行います。請求期限は原則として離婚から2年以内ですが、2026年4月1日以降に離婚した場合は5年以内に延長されました。また、離婚後に夫が亡くなった場合は、死亡から1か月以内でないと手続きができません。
なお、婚姻期間の時期によって、適用される分割制度が異なります。
婚姻期間全体の厚生年金記録は合意分割の対象となり、夫婦の合意に基づき按分割合を決定します(上限50%)。手続きには夫婦の合意を証明する書面が必要です。夫婦間で合意できない場合は、家庭裁判所の調停・審判によって按分割合を定めることもできます。
平成20年4月以降に第3号被保険者(専業主婦など、会社員の配偶者に扶養されていた方)であった期間については、3号分割が適用され、夫の同意がなくても50%の割合で分割を受けられます。
第3号被保険者であった期間が平成20年3月~4月にまたがる方は、合意分割の手続きをすれば同時に3号分割の手続きもしたとみなされます。
60歳になってもまだ働ける、十分な収入があるという方は、60〜65歳までのあいだ国民年金に任意加入したり、年金の受給開始を繰り下げることで、将来受け取る年金の額を増やすこともできます。
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③周りに頼れる人を見つけておく
離婚後の生活面での不安や孤独感を解消するためには、周りに頼れる人を見つけておくのがよいでしょう。
離婚をする前に、自分の親や子ども、友人、同僚、近所の人などに相談し、離婚後に困ったことがあったら助けてもらえるようにお願いしておきましょう。
また、家事を一人で行うのが難しいときは、家事代行サービスを頼ることもできますので、どんなサービスが利用できるかあらかじめ調べておくと安心です。
なお、子どもとの関係性には特に注意が必要です。子どもからしてみれば、老後は父母が助け合って生活してくれると思っていたのに、急に離婚すると言われて晴天の霹靂でしょう。
子どもの反対を押し切って離婚すると、子どもとの関係に亀裂が入ってしまう可能性があります。
子どもと疎遠になると、寂しいのはもちろんですが、いざ病気になったり介護が必要になった時に頼れる人がいなくなってしまいます。子どもとは離婚前によく話し合い、納得してもらった上で離婚することをおすすめします。
ただし、子どもからの支援をあてにしすぎるのは、子どもとの関係が悪化する重大な原因になりますので、無理に同居を迫ったり、仕送りを求めるのは避けた方がよいでしょう。
60代の離婚に関するよくある質問
Q. 60代の離婚で後悔しないために最も大切なことは
離婚後の生活設計を具体的に立てることです。財産分与の受取額・年金見込額・月々の生活費を事前に試算し、収支の見通しを明確にしましょう。
年金だけでは生活費が不足するケースが多く、財産分与で十分な資金を確保できるかどうかが老後の生活水準を左右します。焦って離婚を進めず、お金の見通しを整えることが後悔しない離婚の第一歩です。
Q. 還暦を過ぎてから離婚するのは遅い?
60歳女性の平均余命は28.92年であり、人生の後半戦を自分らしく生きる時間は十分に残っています。同居期間20年以上の熟年離婚は増加傾向にあり、還暦を節目と捉えて新たなスタートを切る方も少なくありません。
ただし、財産分与・年金・生活費の見通しを事前に具体的に立てることが、後悔しない離婚の前提条件です。
Q. 60代の離婚で年金分割は必要?
専業主婦やパート就労だった方には特に重要です。厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業の概況(令和6年度)」によると、年金分割を受けた人の年金月額は 平均で約3万3千円増額しています。
請求期限は原則として離婚から2年以内です。 ただし、2026年4月1日以降に離婚した場合は5年以内に延長されました。 手続きは離婚後、年金事務所で受け付けています。
60代の離婚は弁護士に相談!
財産分与は弁護士に相談
60代女性の離婚後の生活を支えるうえで、財産分与は重要な柱となります。
公平な財産分与を実現するには、不動産・預貯金・退職金・保険・株式などの財産をひとつひとつリストアップし、金額と証拠を整理する作業が必要です。すべての財産を明らかにすることが財産分与を最大限受け取るための前提であり、弁護士に依頼することで大きなメリットが生まれます。
財産が減ることを恐れた配偶者が、隠し口座を作ったり、黙って不動産を購入したりして財産隠しを行うケースがあります。へそくりを作っている可能性も考えられます。財産隠しをされると、受け取れる財産分与の額が減ってしまいます。
財産隠しの証拠として有効なのは、隠し口座の通帳・銀行からの郵便物・不動産登記事項証明書などです。離婚の意思を知られると証拠を隠滅されるおそれがあるため、離婚を切り出す前に確保しておきましょう。なお、2026年4月施行の民法改正により、裁判所が当事者に財産情報の開示を命じる手続きが新設されました。金融機関や登記所から裁判所が直接情報を取得する手続きも利用できるため、財産隠しへの対応手段は広がっています。
確実に証拠を確保したい場合は、弁護士への依頼を検討してください。弁護士は弁護士法23条の2に基づく弁護士会照会を通じて、金融機関・証券会社・不動産会社などへ必要事項を照会できます。
弁護士が話し合いをサポート
60代で離婚を切り出すと、「退職金が目当てだ」「家事を誰がやるんだ」などと強く反発される可能性があります。財産分与をめぐって争いに発展するおそれもあるため、強い意思をもって話し合いに臨む必要があります。
一対一での交渉に不安を感じる方も少なくありません。弁護士は依頼者の代理人として相手方と交渉でき、離婚調停や離婚裁判になった場合も全面的なサポートを提供できます。夫と直接会わずに手続きを進めることも可能です。精神的・身体的な負担を減らし、離婚を有利に進めるために、弁護士への依頼をご検討ください。

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

弁護士
財産分与や慰謝料、年金分割の詳しい見通しについては、専門知識を持った弁護士に訊いてみるのもよいでしょう。