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「ばれないだろう」が招いた悲劇、無免許運転過失致傷罪の実態#裁判例解説
「お父さん、免許停止中でしょう?運転しちゃダメよ」
娘の忠告を聞き流し、男性は軽自動車のエンジンをかけた。「ばれないよ」という軽い気持ちが、18歳の青年の人生を大きく変えることになるとは、この時は知る由もなかった。
対向車線から迫る原動機付自転車に気づかず、右折を続ける軽自動車。激しい衝突音とともに、青年は路上に倒れた。歯を失い、足を骨折し、一生残る後遺障害を負った。
「無免許がばれたくない」――この身勝手な思いが、救護義務すら放棄させ、男性を逃走へと駆り立てた。
無免許運転がもたらす代償の重さを、この事件は如実に物語っている。
※福井地判令6・5・1(令和6年(わ)45号)をもとに、構成しています
この裁判例から学べること
- 無免許運転で事故を起こすと通常より重い刑罰が科される
- 免許停止期間中の運転は特に悪質と判断される
- 被害者に後遺障害が残った場合の刑事責任は重大
「無免許運転」と聞くと、単なる行政処分違反と軽く考える人もいるかもしれません。しかし、無免許運転中に交通事故を起こした場合、通常の過失運転致傷罪よりもはるかに重い刑罰が科されることをご存知でしょうか。
今回ご紹介する事案は、交通事故により免許停止処分を受けた男性が、その期間中に無免許運転を続け、18歳の青年に重傷を負わせた事件です。被害者は歯を失い、足を骨折し、後遺障害が残るという深刻な結果となりました。
裁判所は「前科のない被告人に対しても実刑をもって臨むことも十分に考えられる」として、無免許運転過失致傷罪の重大性を強調しました。この判例を通じて、無免許運転のリスクと法的責任について詳しく解説していきます。
目次
📋 事案の概要
今回は、福井地判令6・5・1(令和6年(わ)45号)を取り上げます。 この裁判は、免許停止期間中の無免許運転で交通事故を起こし、被害者に重傷を負わせた男性に対する刑事事件です。
- 被告人:男性(前科なし)
- 事故状況:令和5年11月中旬、信号のある交差点で右折時に対向直進車と衝突
- 被害者:18歳男性(原動機付自転車運転)
- 負傷内容:上顎歯槽骨骨折、右脛骨近位端骨折等、歯牙欠損による咬合・咀嚼機能不全の後遺障害
- 被告人の状況:約7か月前の交通事故により免許停止処分中
- その他の罪:救護義務違反、警察への報告義務違反(ひき逃げ)
- 判決:懲役3年・執行猶予5年
🔍 裁判の経緯
「免許停止になってしまったけれど、仕事もあるし生活もある。まさか事故を起こすなんて思わなかった」
被告人は法廷で、無免許運転に至った経緯を振り返った。
約7か月前の令和5年4月、被告人は交差点で横断歩道上の67歳男性をはね、右大腿骨転子部骨折という重傷を負わせていた。この事故により免許停止処分を受けたが、その後も運転を続けていた。
「ばれないだろうと思って、つい運転してしまいました」
令和5年11月中旬、被告人は再び同じ軽自動車を無免許で運転していた。同乗していた娘からは「お父さん、免許停止中でしょう?運転しちゃダメよ」と忠告を受けていたが、聞き流していた。
信号のある交差点で青信号に従って右折しようとした際、被告人は前方の安全確認を怠った。時速20〜30キロメートルで右折を続けた軽自動車は、対向直進してきた18歳の男性が運転する原動機付自転車を発見できず、正面から衝突した。
「対向車に気づかずに右折してしまいました。18歳の若い男性を巻き込んでしまって…」
被害者は路上に激しく転倒し、上顎歯槽骨骨折、右脛骨近位端骨折等の重傷を負った。さらに深刻なのは、歯牙欠損による咬合及び咀嚼の機能不全という後遺障害が残ったことだった。加療期間は約2か月に及んだ。
そして被告人は、無免許運転がばれることを恐れ、娘の忠告を無視して現場から逃走した。救護義務も警察への報告義務も果たさなかった。
「無免許がばれたくないという身勝手な考えで逃げてしまいました。取り返しのつかないことをしてしまいました」
検察官は懲役4年を求刑し、弁護人は執行猶予付きの判決を求めた。被告人の母親も法廷に出廷し、監督を約束した。
※福井地判令6・5・1(令和6年(わ)45号)をもとに、構成しています
⚖️ 裁判所の判断
判決の要旨
裁判所は、無免許運転過失致傷罪の重大性について「前記事故により運転免許停止処分を受けたにも関わらず、その停止期間中にばれないだろうなどと安易に考えて運転を繰り返した挙句、またもや事故を招いている」と厳しく批判しました。
そして「交通規範に対する意識を欠いているというほかない」として、「『前科のない被告人に対しても実刑をもって臨むことも十分に考えられる事案』であるものの、『被告人のために斟酌すべき事情も認められる』ため、『今回は長期の猶予期間を定めてその刑の執行を猶予し、社会内で自らの責任と向き合い続けさせながら、その罪を償わせるのが相当』と判断」し、懲役3年・執行猶予5年の判決を下しました。
主な判断ポイント
無免許運転の悪質性と規範意識の欠如
裁判所は無免許運転について、単なる免許不携帯ではなく、免許停止処分を受けた後の確信的な法令違反として重く評価しました。
「ばれないだろうなどと安易に考えて運転を繰り返した」行為は、交通法規に対する軽視の現れであり、「交通規範に対する意識を欠いている」と厳しく指摘されました。
過失運転の基本的注意義務違反
「対向直進車両の有無及びその安全を確認して進行すべき自動車運転者としての基本的な注意義務に違反して、またもや事故を招いている」として、無免許運転に加えて過失運転の責任も重く評価されました。
過去に事故を起こした経験があるにも関わらず、同様の注意義務違反を繰り返した点が特に問題視されました。
被害結果の重大性と被害者感情
被害者が「1か月以上もの入院を余儀なくされた上、後遺障害が残る」という深刻な結果について、裁判所は「その結果も相当重い」と評価しました。
特に18歳という若年での後遺障害については、将来にわたる影響の大きさが考慮され、「被害者が厳罰を望むのも至極当然である」と述べられました。
逃走行為の悪質性
「同乗者である娘の忠告を無視し、無免許であることがばれたくないとのあまりにも身勝手な考えで現場から逃走している」として、救護義務違反・報告義務違反の悪質性が強調されました。
無免許運転の発覚を恐れた身勝手な動機による逃走は、人命軽視の現れとして厳しく評価されました。
👩⚖️ 弁護士コメント
無免許運転過失致傷罪の法定刑と実務上の処罰
無免許運転過失致傷罪の刑罰は、「10年以下の拘禁刑」です(自動車運転処罰法6条4項)。
これは通常の過失運転致傷罪(7年以下の拘禁刑または罰金)よりも明確に重く、実務上も厳しい処罰が下される傾向にあります。特に、無免許であることが悪質と評価され、初犯でも実刑が視野に入ることがあります。
つまり、無免許運転で事故を起こした場合は、法的にも量刑的にも厳しい扱いを受けることになると理解しておく必要があります。
無免許運転の刑事責任に関する近年の動向
近年、無免許運転に対する処罰は厳格化の傾向にあります。特に、(1)過去に交通違反歴がある者の無免許運転、(2)無免許運転中の事故、(3)事故後の逃走行為については、初犯者であっても実刑を検討するケースが増えています。
本判決も「前科のない被告人に対しても実刑をもって臨むことも十分に考えられる」と明示しており、無免許運転過失致傷罪に対する司法の厳格な姿勢を如実に示しています。
📚 関連する法律知識
免許停止と免許取消しの違い
免許停止と免許取消しの違いは以下の通りです。
- 免許停止
一定期間だけ運転が禁止される処分。停止期間が終了すれば免許は自動的に有効に戻り、運転が再開可能 - 免許取消し
免許そのものの効力が失われる処分。再び運転するには、運転免許試験を受け直す必要がある
なお、今回のように免許停止期間中に運転した場合は、たとえ事故がなくても「無免許運転」として刑事罰の対象になります。すなわち、免許停止中の運転も法律上は完全に免許がない状態と同じ扱いを受ける点に注意が必要です。
道路交通法の救護・報告義務
交通事故を起こした運転者には、負傷者の救護(72条1項前段)と警察への報告(同項後段)が義務付けられています。
救護義務違反
ひき逃げをした場合に適用される法律に、道路交通法があります。道路交通法72条1項に規定されている「救護義務違反」により、運転者は、交通事故を起こして人を死傷させてしまったとき、負傷者(被害者)を救護しなければなりません。
ひき逃げは、この義務に違反する行為であり、救護義務違反に該当すると「10年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金」が科せられます(道路交通法117条2項)。
報告義務違反
道路交通法72条1項には、「報告義務違反」も規定されています。事故を起こした者は、警察に交通事故の詳細を報告しなければなりません。
警察に事故を報告しなかった場合には、報告義務違反として「3か月以下の拘禁刑または5万円以下の罰金」の範囲で処罰される可能性があります(道路交通法119条1項17号)。
簡単にいうと、人との接触事故を起こしてしまった場合は、119番で救急車を呼び(救護義務)、110番で警察を呼ばなければならない(報告義務)ということです。
交通事故は過失によるものですが、事故後にその状況を認識していながら「逃げる」という行為には故意が認められます。特に、目の前の負傷者に適切な処置を行わずにその場を去る行為は悪質であり、重い刑罰が用意されています。
🗨️ よくある質問
Q.無免許運転で事故を起こした場合、通常の交通事故よりどの程度重く処罰されますか?
無免許運転で事故を起こした場合、通常の交通事故よりも処罰は明らかに重くなります。
具体的には、「無免許運転過失致傷罪」(自動車運転処罰法6条4項)は10年以下の拘禁刑のみが科される一方で、通常の「過失運転致傷罪」(同法5条)は7年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金とされています。
つまり、無免許運転による事故は罰金刑の選択肢がなく、必ず実刑に直結する拘禁刑が科される可能性があるため、法律上も実務上も明らかに重い処罰が想定されます。
Q.免許停止期間中に事故を起こさずに運転していた場合の処罰はどうなりますか?
免許停止期間中に事故を起こさず運転していた場合でも、無免許運転にあたります。無免許運転は、道路交通法違反として「3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金」が科される可能性があります。
さらに、行政処分として免許停止期間の延長や免許取消しになる可能性も高いです。
また、こうした違反を繰り返していた場合、たとえ当時は事故がなくても、後に事故を起こした際には「無免許運転の常習性」があるとみなされ、刑事処分が重くなる重要な要素となります。
Q.無免許運転過失致傷罪で執行猶予を獲得するためには何が重要ですか?
無免許運転過失致傷罪で執行猶予を得るためには、次の3点が特に重要です。
- 被害者への誠実な対応と賠償
早期に謝罪し、適切な金額での賠償を行うことが大きな評価要素となります。 - 深い反省と再犯防止への具体的な努力
反省の言葉だけでなく、運転を控える誓約や生活環境の見直しなど、再発防止の姿勢が求められます。 - 家族などによる監督体制の整備
家族や周囲が本人をしっかり支え、再び違反をしないように監督する体制があることも、裁判所の判断材料になります。
ただし、被害が重大だったり、事故後に逃走したりといった悪質な事情がある場合は、これらの努力をしていても実刑判決となる可能性があります。
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